【完結】チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた 作:榊 樹
壁に打ち付けられ、座り込むベリルに、剣を向ける妖精騎士ベディヴィエール。
そんな彼女へと、ベリルは意味が分からないと言った様子で首を振った。
「いや、いやいや待て・・・あー、あ? なんで俺は、お前さんに蹴られてんだ?」
「貴様が吐き気を催す糞野郎だからに決まってるだろ。声も聞きたくないからあまり喋るな」
「いや・・・いや、おかしい。それはおか―――ぐぉ!?」
「お前の都合など聞いていない。私が求めるのは貴様の死のみだ。今すぐ死ね、
反論しようとしたベリルの巨体に、モース人間を駆除していた時とは真逆の真っ黒な斬撃が容赦無く襲い掛かる。
呪いの塊のようなソレは、けれども砂埃が晴れると相も変わらず無傷のベリルが姿を現した。
「アァァ―――、ハァァァ―――。あぁ、そうか。忘れてるんだった。そうだ、覚えてねぇんだ。なら、あぁ・・・俺が教えてやらねぇと。お前が、誰よりも輝けるように・・」
「・・・貴様、何を」
「なら、まずは躾けねぇとな。甘やかしてばかりじゃいけねぇ。あぁ、そうだ。自分でやるのは気乗りしねぇが、これも仕方の無いことだ・・・」
「!? エーちゃん後ろ!」
自己完結し、脈絡のないことを言い出したベリルが突如姿を消し、妖精騎士ベディヴィエールの背後に現れる。
完全に背後を取られた。
大きく振りかぶったベリルの腕が、音速を超えて放たれる。
妖精騎士ベディヴィエールは、未だ振り向きすらしていない。このまま攻撃が通れば、如何に妖精騎士と言えど致命傷になりかねない。
立香たちの助けは間に合わない。
叫び、危険を知らせるので精一杯だった。
だが、そんな叫びも虚しく、無慈悲に腕が振り抜かれ、轟音と共に吹き飛んだのは・・・果たして―――。
「ごぁぁ!!?」
―――ベリルの方だった。
「がっ・・・ぐぅ・・・!」
先程の光景と同じ。
今度は回し蹴りの要領で横に蹴り飛ばした妖精騎士ベディヴィエールが足を振り抜いた状態で静止し、吹き飛んだベリルを見ることも無く、ゆっくりと足を下ろす。
「・・・遅い、遅過ぎる」
「ぐっ!?」
だが先程とは違い、告げる言葉も無く剣を振り被る。
飛んで来た斬撃をベリルは寸前で避ける。
「・・・軽い、軽過ぎる」
「がぁ!?」
反撃をしようと一瞬で詰め寄り、振り下ろしたベリルの爪は剣で弾かれ、そのまま剣を返して峰でぶっ叩く。
そして、再び壁面へと激突するベリル。
だが、やはり腐っても排熱大公の力。その身体に目立った傷は無く、大したダメージは入っていない。
けれど、明らかにベリルは動揺していた。
腐っても排熱大公の力、あの亜鈴百種の力だ。
それが、それがこうも簡単にあしらわれるものなのかと。
予想だにしなかった事実に、驚きを隠せずにいる。
ダメージは無い。ダメージは無いが、攻撃を受けた部分からジワジワと痛みが広がって来ている。
攻撃を受けた瞬間は毛程も痛くないというのに、だ。
だが、そんなこと妖精騎士ベディヴィエールからすればどうでもいいこと。
ベリルの都合など、知ったことでは無い。
だって、所詮は偽物。
本物の排熱大公には、勇者ウッドワスには遠く及ばないのだから。
だが、そうと分かっていても、どうしても許せなかった。
奴を、許す訳には・・・いかなかった。
「なんだソレは。なんだその
弱い、あまりにも・・・弱い。
偽物だと分かっている。
本物の劣化版でありながらも、その力は確かに驚異的だ。
こうして優勢ではいるが、少しでも気を抜けばすぐに状況をひっくり返される程の力を有している。
だが、だからこそ、許せないのだ。
その力、その毛並み、その気高さ。
もうホント、舐めてるのかと言いたくなるほどにお粗末な出来栄えに、そして今もこうして醜態を晒し続けるベリル・ガットに怒りが込み上げてくる。
仮にもウッドワスの姿を模しておきながら、この妖精騎士ベディヴィエールに遅れを取るなど、あってはならない事だからだ。
こちらの攻撃に大して何も出来ない・・・いや、
「立て。立って戦え。そのまま殺られる事は許さない。このまま貴様が死ぬなど、許される筈が無い。その身に宿る仮初の力を存分に奮え。死ぬ間際まで抗い続けろ。それが勇者ウッドワスの、亜鈴百種・排熱大公の力を有する責務だ」
立ち上がり、駆ける。
爪を振るい、弾かれる。
蹴りを入れ、躱される。
噛み付こうとして、顎を蹴り上げられる。
怯んだ隙に全身を斬り付けられ、斬撃と共にまた吹き飛ばされる。
「ぐっ、ぁぁ゛・・・くそっ、くそっ、痛てぇ、なんで、なんでだぁ・・・! モースか、モースの呪いかぁ・・・! 」
攻撃を受けた場所とは全く別の胸を掻き毟りながら、ベリルは慣れている筈の痛みとは全く別のナニカに苦しみ悶える。
違う、違う、違う。
こんなの間違ってる。なんだってこんな事になってんだ。
思考すらままならず、こちらへゆっくりと歩み寄る彼女を見るだけで、胸がさらに痛くなる。
その痛みから少しでも逃れようと地面を蹴り、壁を伝い、天蓋から脱出しようとして―――。
「―――逃がす訳が無いでしょう」
「ぐぅッふぅぅ・・・!?」
既に先回りしていた妖精騎士ベディヴィエールに、蹴り落とされた。
何もない筈の空間にまるで足場があるかのように着地し、助走を付けて腹部を蹴り抜かれたベリルが一直線に地に堕ちた。
「へぇ、頑丈さだけは及第点をくれてやります。・・・まぁ、赤点ギリギリですが」
砂煙、そこから現れた四つん這いのベリルの前に降り立ったベディヴィエールが、そう評価する。
実際、抉り込むほどの蹴りであったにも関わらず、その衝撃は内臓を傷付けることまでは叶わなかったのだから。
だがそれでも、痛いものは痛い。
胸の痛みが、さらに酷くなった。
彼女が、自身を本気で殺そうとしていると、骨の髄まで理解してしまったから。
「・・・く、そ・・・くそ、くそッ・・・!」
こんな筈じゃ無かった。
こんな事を望んだ訳では無かった。
なんだってこんな事になっている。
なんで俺が、寄りにもよってコイツに殺されるんだ。
思い通りにならない現実に、どうしようもない現実に、ベリルはただ歯噛みすることしか出来なかった。
◇
何も無い平原。
地平線が広がる草原で。
ベリルは、布団に
マシュと同じ・・・と言うと僅か語弊があるが。
穢れを知らず、何も知らず。
ただ無邪気に見詰める、純新無垢なその瞳に。
ポロリと、言葉が漏れた。
「・・・にしても、本当に綺麗だなぁ」
「え・・・? ぁ、はい、ちょっと待って下さいね」
ぐちゅ・・・。
「・・・・・・は?」
確かに欲しいなぁ、とは思った。
穢れを知らないその透き通った瞳に、心惹かれた。
けれど、まさか、そんな・・・あんなあっさりと自身の片目を抉って差し出されるなんて、思いもしなかった。
「あぐぅ・・・ど、どうぞ、差し上げます」
「ぇ、ぁ・・・あぁ・・・」
呆然としながら、自身の掌に転がる瞳を見る。
光は無い。感情も無い。
丸い眼球から神経が伸びて、ギョロリとこちらを見詰める無機質な瞳と目が合った。
「・・・ぁ、ごめんなさい、もう片方も要りますよね」
「・・・は?」
また、ぐちゅ・・・と。
「ぁぅ・・・・・・ど、どうぞ。えっと、こちらで合ってますかね。すみません、前がよく見えなくて」
無くなった瞳、痛いだろうにそれを必死に我慢して、笑みを浮かべる少女。
目を開き、ポッカリと空いた空洞に、何故だか視線が吸い寄せられる。
ベリルはもう、何がなんだか・・・訳が分からなかった。
自分が今どんな感情を抱いているのかすら分からず、ただ頭と心がグチャグチャに掻き乱されるような、そんな錯覚に陥っていた。
でも、何故か・・・・・・あぁ、そうだ。
惹かれたんだ、どうしようもなく。
ただ善意だけで差し出す君の笑顔に。
痛みを我慢して、無理して笑うその顔に。
俺は―――。
◇◇◇
剣を構え、突っ込んで来る彼女に、ベリルは立ち上がる。
振るった爪は弾かれ、その拍子に数回斬り付けられ、再び腹を蹴られる。
ベリルは立ち上がる。
斬撃が飛んで来て、それを弾き、さらに飛んで来た矢の嵐が全身を襲う。
ベリルは立ち上がる。
矢が足を直撃し、バランスが崩れる。
柄を繋ぎ、手裏剣の如く投げられた剣が、傾くベリルの身体をチェーンソーのように斬り刻む。
ベリルは立ち上がる。
弧を描き、剣から伸びる魔力の糸を伝って妖精騎士ベディヴィエールの手元に戻ったソレを再び分離させ、斬撃を放ちながら突撃してくる。
避ける動作はせず、無抵抗のまま攻撃を受ける。
ベリルは立ち上がる。
ベリルは立ち上がる。
斬られ、体勢を立て直した所を即座に殴られ、転ぼうとした所を無理矢理立ち上がらせるように蹴り上げられ、漸く倒れ込んだ所へ上から剣を振り下ろし、その衝撃で少し浮いたベリルの腹部をサッカーボールのように蹴り抜く。
また壁に激突したベリルは立ち上がり、そこへ無数の矢の嵐が降り注ぐ。
ベリルは立ち上がる。
ベリルは立ち上がる。
ベリルは立ち上がる。
ベリルは、ベリルは、ベリルは、ベリルはベリルはベリルは―――。
ベリル・ガットは―――。
「・・・・・・はぁ、萎えるわ・・・」
立ち上がり、自ら排熱大公の姿を捨て、人間の身で彼女の一撃を受け入れた。
アホに性癖をぐちゃぐちゃにされてた催眠おじさん。
でも二股はダメです。悔い改めて。