チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた   作:榊 樹

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登場人物多過ぎ・・・。
そんな大人数を上手く捌く技量など、作者には無い(キリッ)。


それが俺の忍・・・信念だから

妖精騎士ベディヴィエールが降りて来る。

そこに先程までの覇気は欠片も無く、血塗れなのも相俟って、まるで屍人のように意気消沈していた。

 

残酷なようではあるが、それでもこれはチャンスだ。相手を絆すという点においては、立香の方が上手(うわて)だが、今回ばかりは何かと酷だろうからと、ダ・ヴィンチちゃんが心を鬼にして説得に掛かる。

 

 

「妖精騎士ベディヴィエール・・・いや、エールちゃん。これがモルガンのやり方だ。あの女王はこの國を救う気なんて無い。誰一人として、助ける気なんて無いんだ」

「ベリル・ガットが裏で手を引いていた、という訳でも無いのでしょうね・・・。それにあの徹底的なまでの焼き方は、恐らく妖精騎士ガウェインですね・・・・・・はぁぁ」

「ご名答。そして、あの森に居た妖精は(みな)、殺されてしまった。君からの大切な贈り物を、最期まで守ろうとして・・・」

「そう、ですか・・・。彼らが、そんな事を・・・」

「これでもまだ、君は女王モルガンの(もと)に着くのかい?」

 

「・・・・・・ん? そりゃそうでしょ?」

 

「・・・・・・え?」

 

 

あまりにもあっさりと、当たり前のように返されて、二の句が継げないダ・ヴィンチちゃん。

 

そんな彼女を妖精騎士ベディヴィエールは、まるでダ・ヴィンチちゃんが突拍子も無いことを言い出したかのように、なんでその話に繋がるの? とでも言いだけな表情で見詰めていた。

 

 

「え・・・え? ちょ、ちょっと待ってくれ。森を焼かれたんだよ? 君の大切な物も、友達も、皆みんな壊されて、殺されたんだよ?」

「そうですね、とても悲しいことです。まぁ、そういうのは慣れっこですが」

「い、いや、あの・・・その、私が言うのもなんだけど、もっとこう・・・ないの? ほら、理不尽に殺した者たちへの怒りとか、女王への憎悪とか、そういう・・・」

 

 

「――――なぜ?」

 

 

 

背筋が、一気に冷たくなった。

 

いや、分かってはいたつもりだった。ここまでの旅を経験して、妖精というものが人間とは異なる精神構造を有していることなど。

だがそれでも、彼らには人間らしい感情があった。

理不尽だったり、まるで子供のような癇癪を起こすものも居たが、それでもまだ理解する事が出来た。

 

だが、これは違う。

上手く覆い隠している訳でも、冷酷非道な妖精という訳でも無い。

 

無いんだ、感情が。

 

心の底から不思議そうに首を傾げる彼女は。

何を驚かれているのか、まるで見当も付かない様子の妖精騎士ベディヴィエールは、恐らく・・・いくつかの感情が、抜け落ちている。

 

 

「そういう、事か・・・」

 

 

もし、ダ・ヴィンチちゃんが辿り着いた答えが事実であれば、妖精騎士ベディヴィエールをこちら側に付かせることは不可能。

だって、結局の所ダ・ヴィンチちゃんがやろうとした事は感情論でのゴリ押しなのだから。それが全く通用しないのであれば、どうしようも無い。

 

だが、それでも、全ての感情が無いという訳では無い筈だ。であれば、その残っている感情を揺さぶる方向で行けば、まだ勝機はある。

 

 

「ふむ・・・なにか、やってしまいましたかね。もう話す事が無いのであれば、私はこれで・・・」

「い、いや・・・! 待ってくれ・・・! ま、まだだ、まだ聞きたいことはある!」

「ん・・・そうですか。では、どうぞ。どれだけ言葉を紡いだ所で、貴女方の思惑通りに行くとは思いませんが」

 

 

頭を回転させる。

恐らくこれが最後のチャンス。ここを逃せば、自分達はあの超長距離狙撃を真正面で相手取ることになってしまう。

 

今ある情報を急ピッチで纏め上げ、最前の説得方法を慎重に選んでいく。

 

 

「君は、君は・・・それで、いいのかい? 君達妖精騎士の役目はこのブリテンを守護すること。だけど、女王モルガンはこの國を守るどころか、滅ぼそうとさえしている」

「・・・それ、さっきから気になってたんですけど、モルガン様がこの國を滅ぼす根拠ってなんなんです? あの方は二千年もの間この國を守護してきました。それは貴女方も知っている筈。その上で、そんな世迷言を言っているのだとしたら、お前達は陛下の悪評を吹聴し、あの方の信頼を堕とそうと画策している侵略者も同じ。・・・いや、そうだ、侵略者だ。お前達は異邦からの侵略者の筈だ。なのになんだ、その如何にも自分達はこの國を救いに来た救世主だ、とでも言わんばかりの傲慢な態度は。どう考えても矛盾して―――」

 

「違う、まずそこが間違ってるんだ。私達カルデアは、何も妖精國を滅ぼそうとこの國へ来た訳じゃない」

 

 

今日はよく話を遮られるな、と。

陛下を侮辱されてちょっと口数が多くなっていた妖精騎士ベディヴィエールは、ダ・ヴィンチちゃんを睨み付けるが、それでも黙って聞きに徹した。

 

 

「まず、私達は今まで自分達の歴史と未来を取り戻すために異聞帯を攻略してきた。だけどこの異聞帯は攻略対象ではない。最終的に切除しなくちゃならないけど、だからと言って異聞帯に住む人類を、この異聞帯の歴史を否定しない」

「・・・切除するなら、どちらにしろ敵に回るという事では?」

「いや、それは汎人類史と異聞帯という、世界と世界の話であって、住民と住民の話ではないんだ。生存競争を行うのはあくまでも世界だけ。我々人類までもが争う必要は厳密には無いんだ」

「・・・だが貴女たちは予言の子に、英雄様の次代に手を貸している。しかも、陛下と戦争状態にある陣営の軍門に下っている。二千年、二千年だぞ。世界そのものとも言えるこの島を、二千年も守ってきた陛下に刃を向けるのは、それこそ、この世界の否定に繋がるのでは無いのですか」

 

「違う、違うんだ・・・エール。私達が予言の子に手を貸しているのはこのブリテンを救うため。侵略者はモルガンの方なんだ」

 

 

さっきから思ってたけど、なんで愛称で呼ばれてるんだ。そんなに距離縮まったっけ? と喉に小骨が刺さったような違和感を感じる妖精騎士ベディヴィエールだが、何やら非常に不愉快な(興味深い)話を始めるようなので、そちらの疑問は後回しにした。

 

 

「彼女の目的は異聞帯ブリテン、この國の拡大だ。その為なら大厄災でいくら妖精が死のうが、或いは全滅しようがあの女王はそれを見逃すだろう。何故なら、この世界を拡大し、我々汎人類史に侵略するために大厄災を利用するつもりだからだ」

「・・・・・・」

「何も、女王を裏切れなんて言わない。ただ、己の私利私欲に走り、民を蔑ろにする王を正し、間違った道を歩ませないのもまた臣下の務めじゃないのかい。少なくとも、君の着名()の元になった彼は、命を賭してそれを成し遂げたよ」

「・・・・・・いくつか、聞きたいことがあります」

「・・・何かな」

 

 

これで無理なら、諦めるしかない。

それでも、俯き、顔が隠れる妖精騎士ベディヴィエールの疑問に、ダ・ヴィンチちゃんは真摯に答えようと思った。

 

 

「・・・モルガン様が、外の世界を侵略すると言いましたが・・・貴女たちは元々それを知っていたから、この國へ来たのですか?」

「そうだよ。未来予知、とでも言えばいいかな。そういう事が出来る魔術があってね。ソレが近い未来、この異聞帯ブリテンから発生する崩落を検知した」

「・・・なるほど、未来予知。高確率で崩落とやらが起きるのであれば、あの方が大厄災を見逃したと判断するのもおかしくは無いですね」

「・・・信じて、くれるかい?」

「・・・我々は敵同士。その情報が、こちらを欺くための嘘だと断じるのは簡単です」

 

 

やはり駄目か、とダ・ヴィンチちゃんが諦めそうになった時、彼女の耳に「だが・・・」と続ける声が聞こえた。

 

 

「・・・我が王の道を正す、それもまた臣下の務めか」

「!? な、ならっ・・・!」

 

「待て、こちらの話はまだ終わっていません」

 

 

えー、今のってこっち側に付く流れじゃないの・・・? と少しばかり心に余裕が出て来たダ・ヴィンチちゃんは、ふと妖精騎士ベディヴィエールがやたらと血に塗れていることに気付いた。

 

肩に担いでいるベリルの血、というにはあまりに多い。

口元から流れる血なんて、まるで吐血したかのような・・・。

 

 

「世界の崩落、とやらを検知して、この世界に来たと言いましたね。ならば、その崩落を検知しなければ、カルデアはこの世界には来なかったのですか?」

「・・・私達に残された時間は、そう多くはない。それにこの異聞帯の世界樹は既に停止しているから・・・」

「だから、()()()()()()()()()だったと?」

「・・・・・・どういう、意味かな・・・」

 

 

空気が、変わった。

 

先までの友好的な雰囲気は消え、再び妖精騎士ベディヴィエールに殺気が纏わりつく。

 

 

「貴女はこの國を、そこに住まう民を救いに来たと言った。なるほど、確かに。圧政を敷き、民を苦しめる王の姿はさぞかし悪に映ったことでしょう。そんな魔王を打ち倒す勇者のような存在がそちら側に付くと言うのであれば、自分達が救世主と勘違いするのも頷けます」

「君は、そうでは無い、と? モルガンの行いは全て、妖精を想っての事だと、そう言いたいのかい?」

「いや、あー・・・そうですね。少なくとも、我らが女王が、妖精を嫌っていることは知っています。だって普通に公言してますし。それと、予言の子が救世主だと言うことも、それと敵対する我らが悪であることも承知しています」

「・・・・・・なら」

「俺が納得いかないのは、貴女たちカルデアの立場だ」

 

 

チラリと、肩に担いだ死体と、静観しているペペロンチーノへと視線を向ける。

 

 

「まずもって、ベリル(これ)の所為で外の世界の人類に対する印象は、最悪の一言だ。しかも、それと同類の奴がそちら側に居るのであれば尚のこと。どれだけ正しいことを言った所で、信用は出来ても信頼は出来ない」

「そ、それは・・・!」

「それから、世界の戦い云々の話だが、聞く所によるとそちらの世界は既に滅んでいるとのこと。何かしらの復活させる目処が立ってはいるのだろうが、そんな賭けみたいな事をせずとも、もっと画期的な方法があるじゃないですか」

「画期的な、方法・・・?」

 

「貴女たちカルデアが、こちら側に移住すればよいのです」

「・・・・・・は?」

 

 

要は、こういう事だ。

 

自分たちの歴史と未来を取り戻す為とは言え、汎人類史は文字通り真っ新な大地へと成り果てている。

そんな世界を、他の異聞帯を全て滅ぼしたら元通りになる、なんて言われても信じられる訳が無いし、その保証が何処にも無いことをカルデア側も薄々勘づいている。

 

ならば、そんな一枚の宝くじで1等を当てるが如き無謀な賭けに縋らずとも、女王が何も無い外の世界を侵略し、異聞帯ブリテンに染め上げた新たな世界で生きていく方が、いくらか現実的では無いだろうか、と。

 

女王は大厄災を見逃す? 妖精は全て死に絶える?

ならば俺が守ってやる。全てではなくとも、お前達カルデアぐらいであれば、城の中の自室に匿うなり、生かすことは出来る。

例えバレたとしても、殺されないように拝み倒してやる。

 

それに、妖精はどれだけ死んでもどうせその辺から生えてくる。そういう生き物だ。一々、個々の死を悼んでいてはキリがない。

陛下はそれを分かっているから、妖精を救おうとはしないのだ。

 

だがそれでも陛下がカルデアの存在を許されないのであれば、その時は抗うしか無いのだろうが・・・。

 

 

「そ、それ、は・・・」

「何を悩むことがある? このまま貴女たちが突き進んだ所で、待っているのは破滅の道。なにより、汎人類史はすでに滅んでいる。終わったものをまた続けるなんて、そんな事のために何万、何億という命を奪わずに済む」

 

 

いつものダ・ヴィンチちゃんなら反論の一つや二つは出来たかもしれない。

託されてきたモノがある、多くの者を見捨てて来た。今更、こんな所で挫ける訳にはいかない。

最後までやり遂げて、そして元の世界を救う。それがこれまで切り捨ててきた者たちへのせめてもの贖罪となる。

 

だが、そもそも元の世界を救う可能性が僅か足りとも無かったとしたら?

そう出来ると信じてるだけで、本当はもう何もかも終わった後であれば、自分達がしているこの旅は一体・・・。

 

 

「――――まぁ、それらは全部建前ですが」

 

「・・・え?」

 

 

あ、いや、半分くらいは本気かな、と呟く妖精騎士ベディヴィエールに、ダ・ヴィンチちゃんが目を丸くした。

 

 

「分かってますよ、そちらにも守りたい(譲れない)モノがある事くらい。けれど、それと同じように俺にもあるんですよ、信念ってやつが」

 

 

殺気はある。

でも、そこに浮かぶ笑みは好戦的とは程遠い。内に秘める感情が盛れ出したかのように、優しげな笑みだった。

 

 

「俺は英雄様に憧れた。何千年も尊敬してやまない、素晴らしいお方に少しでも力になりたいと、多くのことをしてきた」

「・・・なら、君が言うその次代であるアルトリアが居るこちら側に付くというのは・・・」

「・・・そうだな。英雄様の次代と共に戦う。それはとても魅力的な提案だし、拒否するにはあまりに惜しい」

 

 

けれど・・・、と妖精騎士ベディヴィエールは続ける。

 

 

「それは出来ない。それだけは決して、やってはいけない事なんだ」

「・・・それは、なぜ?」

「俺が憧れた英雄トネリコが、裏切りを何よりも嫌うからだ。いくらそちらが正しくとも、例え英雄様の次代(むすめ)がそちらに居たとしても、あの方はきっとお許しになられない。民を苦しめてるからとか、主を正す為だとか、そんな建前を用意したとしても、結局の所、やってる事はただの裏切り。英雄様が最も忌み嫌う禁忌のひとつだ」

 

 

言ってしまえば、それだけのこと。

 

モルガンがどういう思惑で今まで王として君臨して来たのか、そしてこれからどのような道を歩んでいくつもりなのか、正直に言うと妖精騎士ベディヴィエールには全く興味が無い。

 

殺せと言われれば、この手で國中の妖精を根絶やしにしてみせる。守れと言われれば、己の持つ全ての力を持って厄災から妖精を護り抜いてみせる。

 

まぁ、どちらも一度として言われた事は無いので、実現出来る保証など、何処にもないのだけど・・・。

 

 

「それに―――そちらには、英雄様の次代がいる。であれば、迷うことなど何も無い。陛下がどれだけ強大な力を持っていた所で、最後に勝つのはきっとそちら側だ。多くの困難が待ち受けているだろう。多大な犠牲を払うかもしれない。残っている者なんて僅かしか居ないかもしれない。だが決してめげてはいけない。戦うと決めた、抗うと決めたのなら、最後まで貫き通せ。後ろめたい気持ちになる必要は無い。滅ぼした者たちへ、罪悪感を感じる必要も無い。ただ己の信じるもののために、前へ進み続けろ。そうすれば・・・まぁ、後悔だけは、しないだろうからさ」

 

 

そう言って、妖精騎士ベディヴィエールはベリル・ガットを担ぎ直し、背を向ける。

 

 

「・・・私達を、殺さなくていいのかい?」

「私はそもそも近距離での戦闘を禁じられている。今回は特例だ。いくらか罰は受けるだろうが・・・なに、案ずることは無い。私は私のやりたいようにやった、ただそれだけだ。それ以上でもそれ以下でも無いし、お前達を見逃すことにも後悔はない」

 

 

空高く跳び上がり、空間を跳ねるように瞬く間に地平線の彼方へと移動していく。

 

立つ鳥跡を濁さず、なんて言うけれど。

彼女が飛び立った跡には、致命傷もかくやと言わんばかりの血溜まりが、これでもかと大地を濁していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

その後、円卓軍と合流した立香たち。もう数日後には行われるであろう戦に備え、テントで思い思いに寛いでいた彼らのもとへ、伝令役が慌てた様子で駆け込んできた。

 

 

曰く、妖精騎士ベディヴィエールが、女王の夫ベリル・ガットの殺害容疑およびその義娘バーヴァン・シーの殺害未遂容疑で拘束された、と。

 

 

そんな戦況をひっくり返してしまいそうなビッグニュースが届き、マシュが持っていた妖精國の歴史書とも言える英雄様の伝記(作:アホ)を興奮気味で読み込んでいたダ・ヴィンチちゃんは、あまりの情報量の多さに思わず白目を剥いた。

 

 




アホ「後悔はない・・・これから起こる事柄に、僕は後悔はない・・・」
女王「いや・・・え、なに・・・なんでそうなってるの?」

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