チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた   作:榊 樹

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もうちょっと待って。


あの日見たその背中

まだ俺が妖精騎士になりたての頃、初めてウッドワスさんと出会った時の話だ。

 

当時の俺はモルガン様から貰った新しい力が楽しくて仕方が無く、同時に自分が最強だと思ってたから随分と舐め腐った態度を取っていた。あ、モルガン様は除く。

 

そんなブイブイ言わせてた俺の噂を聞き付けてやって来たのが、他でもないウッドワスさんだった。

 

当時は亜鈴百種とか、そういうのも全然分からなくて、彼の第一印象は、なんだこのやたらと身綺麗な野良犬は、とかそんな感じだった。

なんせ、彼がまだ礼節とやらを身に付ける前の時代だから、それはまぁ荒れてたと言うか、野性味溢れてたと言うか。

出会い頭に、実力を確かめてやるとか訳の分からん理由で喧嘩を吹っ掛けられ、俺も売り言葉に買い言葉でその勝負に乗った。

 

まぁ、結果は語るまでもなく、コテンパンにやられた訳ですけども。いやー、ホント・・・容赦無かったなー。

 

戦う直前になって近接戦闘が初めてだったことを思い出して。でも、それに気付いた時は全てが手遅れ。

無様に逃げることすら許されず、何もさせてもらえないまま、意識が途切れる寸前まで嵌め技をされまくった。唯一放てた矢も、彼の移動による風圧で消し飛ばされたし・・・。

 

そんな訳でニョキニョキ伸びてた鼻が物の見事にへし折られ、しょんぼりしてた所をモルガン様に見付かっていつものお膝スタイルで尋問され、自分がボコボコにされたという小っ恥ずかしい話を赤裸々に語らさせられた。

 

それに対し、モルガン様は怒るでもなく、いつものように楽しそうに話を聞くでもなく、初めてご自身の心の内を話して下さった。

ウッドワスさんについて知ることが出来たのも、ちょうどこの時だ。

 

彼の勇敢さ、彼の忠誠心、彼の功績、彼の立場。

それらを何処か誇らしそうに語るモルガン様に、あの方がどれほどウッドワスさんのことを信頼し、大切にしているかを知った。

 

だからこそ、これはチャンスだと思った。

いつの日か、民を苦しめる王を打倒するために立ち上がるであろう英雄様。そんな彼女の素晴らしさを彼も知ることが出来たのなら、モルガン様への布教を一緒に手伝ってもらい、もし成功すれば、英雄様と敵対する未来は回避出来るのでは、と。

 

無論、モルガン様の実力を疑っている訳では無い。

我ら女王軍が敗北するとも思っていない。

 

けれど、これが英雄様が相手となると話が変わってくる。

正義は必ず勝つ、というより、勝つまで何度でも立ち上がるから絶対に負けない、とでも言うべきか。

 

モルガン様のやっている事は正しくても、民を苦しめているのは事実。

あの方が妖精を心底嫌っていて、けれど大事な国の住民だから仕方無しに守ってやってる、そんな慈悲深きお方であったとしても、それが民衆から悪と映り、救いを求めたら英雄様は立ち上がる。

 

どんなに不利な状況でも、どれほど絶望的な戦力差であろうとも、英雄様だけが負けるなんて、そんなことは有り得ない。

モルガン様が倒される可能性は低いが、それでも文字通り命を賭して一矢報いて、無視出来ない痛手を食らわされることとなる。

 

そして、仮に一度目が駄目だったとしても、また次の英雄様が。それが失敗すれば、次の次の英雄様が必ず現れる。

 

そうやって、あの方はこの島を守って来た。

あらゆる脅威を跳ね除け、女王歴になるその時まで、厄災からこの島を守り続けて来た。

 

今日(こんにち)に至るまであの方が姿を表さないのは、きっとモルガン様が厄災に対処していたから。だから二千年もの間見逃されていた。

けれど、遂に民衆の不満が爆発して英雄様の次代が目を覚ました・・・・・・のだと思う。

 

だから、えっと・・・・・・あー・・・うん。

ちょっと話が脱線し過ぎた。

 

俺が言いたいのはそんな事じゃなくて、あの・・・ほら、あれだ。

要は、ウッドワスさんって滅茶苦茶強いよねって話だ。

 

狂気に呑まれた彼を止めようと頑張ってはみたものの・・・やっぱり歯が立たなくて、前にベリル・ガットにやったように今度は俺が壁に打ち付けられた訳ですけども。

 

いやー、アレ本当に心臓無くなってんの?

威力はともかく、凶暴さは昔以上なんですけど。生命力が溢れ過ぎてて意味不明だわ。

 

こっちも本調子じゃないとは言え、流石にこれは予想外だったな。

なんと言うか、思った以上に身体が言うこと効かねぇんだわ。

 

 

「・・・・・・あのー、少しくらい休ませてもらったりとかは・・・」

「グルルルゥ・・・ッ!」

「ですよねー・・・」

 

 

あー、本当にどうしようか。

こんな姿のウッドワスさんを見たらモルガン様は悲しむだろうし、何より地上では今ドンパチやってる頃の筈。

バーヴァン・シーは無理だとしても、残った二人の妖精騎士が遅れを取るとは思えないけど、相手には英雄様の次代が居る。油断は出来ない。

 

謹慎を言い渡された身ではあるが、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろうし、ここで活躍したら俺への不名誉極まる冤罪も少しは晴れるだろう。

だから、さっさとこの狂犬を鎮めて助太刀に行きたいのだけど・・・・・・・・・・・・あ。

やっべ。そう言えば俺今、謹慎中じゃん。

 

 

「・・・・・・」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・や、やべー。

また言いつけ破ったから、モルガン様に怒られるのかな。

い、いやでも、今回はウッドワスさんを止める為っていう大義名分がある訳だし。きっと許してくれる筈。

そもそもベリル・ガットの時も、妖精國を貶めようとした外道畜生の駆除の為にやった事で・・・よくよく考えてみれば、俺って別に悪いことしてなくね? つまり俺は悪くないので怒られない。よし。

 

 

「グルルァッ!!」

「ぐっ・・・!?」

 

 

・・・っとと、そんなこと言ってる場合じゃなかった。

まずはこっちを何とかしないと。

 

「・・・ふっ!」

 

 

壁に激突したウッドワスさんは、避けた俺へとゆっくり振り向く。そのまま血走った目で再び突っ込んで来た所で、剣を収め、手元の魔力糸を手繰り寄せる。

 

すると、周囲に張り巡らしていた糸がウッドワスさんへ一斉に襲い掛かり、さながら繭のように雁字搦めに拘束した。

 

 

「グルルッ・・・!?」

「今の私に、貴方を正気に戻す方法はありません。ですので、そのまま大人しく・・・」

「ガァッ!!!」

「知ってた」

 

 

所詮はかの騎士の見様見真似。

拘束出来たのは一瞬だけで、一息で俺の魔力糸はブチブチに千切られた。

 

モース退治ばかりして来て、拘束とかまるでやって来なかったのがここに来て仇になるとは。モルガン様に正しい縛り方とか聞いとけば良かった。

 

 

「グルル・・・(ぬる)い・・・(ぬる)過ぎる・・・」

「・・・?」

「何やら小細工をしていたから、どんな物かと期待したが・・・所詮こんなもの。妖精騎士なんぞこの程度。弱い、弱過ぎる。話にならん」

「・・・・・・」

「やはり、貴様らなんぞ必要無い。この私が、この私こそが、王に相応しい・・・!」

「ッ!?」

 

 

ここに来て初めてのビーム。

それを紙一重で回避した先で、もふもふな足が迫る。

 

ギリギリで刀を差し込み、直撃は避けるが・・・モースの呪いに蝕まれたこの身体は、衝撃だけで全身に痛みが広がる。

 

全身の細胞が(ことごと)く破壊されるような感覚。常に全身を電流が通っているかのような、そんな激痛に我ながらよく耐えられてるなと自分を褒めつつ、再び剣を構えようとして・・・・・・視界がふらつき、足を踏み出してしまった。

 

その隙を見逃すウッドワスさんではなく、彼の姿が消えたかと思うと、直後に眼前へと迫る鋭爪(えいそう)。それに気付いた時、もう全てが手遅れだった。

 

 

「あっ・・・」

「ガァルァッ!!」

 

 

避けられぬことを悟った俺へ、容赦なく衝撃波を纏った爪が左目の死角に振るわれ、いとも容易く眼帯を斬り裂いた。

 

 

「がはっ・・・!」

 

 

洞窟内に鮮血が舞い、仰向けに倒れ伏す。

 

限界だった。

最早、指先一つ動かすことが出来ない。

 

あー、これは死んだな、と。何処か他人事のように考えていると、倒れている俺を見下ろすようにしてウッドワスさんが視界の端に現れた。

 

 

「グルルルッ・・・!」

 

 

遺言を聞いてくることも無く、振り上げられる腕。

そのまま俺の首を断つか、それとも胸を貫くか。

どちらにせよ、彼にとっては容易いこと。

 

結局、俺に出来たことは精々が時間稼ぎ。

彼を止めることは出来なかった。

 

終わる時は随分アッサリと、ここまで呆気なく死んでしまうものなのかと、ちょっと驚き。

でも・・・うん、悔しいな。負けると分かってはいたけど、思ったより悔しいわ。

 

このまま行けば、ウッドワスさんは俺を殺して、モルガン様の下へと向かうだろう。そして俺の返り血を浴びた彼が、モルガン様と対面するのだ。

 

それは、なんと言うか・・・凄く、嫌だ。

自惚れになるだろうが、それはきっと何よりもあの方を悲しませてしまう。だから、何がなんでも阻止したい。

 

でも最早、今の俺に出来ることは何も無くて。こんな場所に助けが来る筈もなくて。

だから、命尽きるその瞬間を、寝転んで待っていることしか出来ない。

 

 

「・・・あぁ、ごめんなさい・・・モルガン様・・・」

 

「グルゥアッ!!!」

 

 

最後の力を振り絞って、なんとか口に出せた言葉。

届かぬ言葉に一体どれほどの意味があるのかは分からないが、それでも言えただけでも良かった。

 

なんかまかり間違ってウッドワスさんが最後の言葉を伝えたりしてくれないかな、なんて最後まで下らないことを考えて目を瞑る。

 

身体に襲って来るであろう衝撃に身構えることも出来ず、ただ自然体のまま彼の一撃を受け入れる。

せめて、一撃で楽にして欲しいと願って・・・目を瞑っても尚、瞳を照らす輝きが洞窟内を包んだ。

 

 

「ガァッ・・・!?」

 

 

そして聞こえる、ウッドワスの悲鳴。

吹き飛ばされたような音がして、恐る恐る目を開いていくと、そこには狂気に染まったもふもふではなく、俺の大好きな人の後ろ姿。

 

暗闇に輝く銀色の髪が優雅に靡いていた。

 

 

「全く、少し目を離しただけですぐにこれとは。もう少し、己の身を労わって欲しいものだ」

 

 

あぁ・・・あぁ・・・・・・助けに、来てくれた・・・。

 

まるで、あの時の英雄様のように・・・モルガン様が、俺を・・・。

 

 

「言いたいこと、聞きたいことは山のようにあるが・・・一先ずそれは後回しですね。取り敢えず、今は・・・」

「グルルルッ・・・!!」

 

「躾のなっていない駄犬に、罰を与えるとしますか」




妖精騎士ベディヴィエールの豆知識。
各種装備が破損すると自動でラスボス(分身)が召喚されます。
だから一撃で殺す必要があったんですね。まぁ、ガッツ(加護)持ちですが。

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