チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた   作:榊 樹

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感想にて、アホから貰った本を読んでいる時にウッドワスがオーロラの所に訪れたため、時系列的にメリュジーヌとアホのやり取りはおかしいのでは、とのご指摘をいただきました。

えー、はい。この件に関してまして、矛盾している理由の詳細を長々と返信させて頂きましたが、白状します。
返信した内容は全て嘘です。時系列の矛盾は単に作者のミスであり、見栄を張りました、はい。

ミスを認めたくなくて馬鹿みたいなことをしたな、と反省しており、今後このようなことは・・・まぁ、極力無いように努めたいと思います。

けど、いくらなんでも頭オーロラは言い過ぎじゃないですかねぇ!?


末路

時は少し遡り、円卓軍との開戦が間近に迫り、緊張感に包まれた罪都キャメロット。

各騎士や兵士の配備が完了し、あとは迎え撃つだけとなった城内では、女王モルガンや妖精騎士が居るというのに誰もが敗戦ムードになっていた。

 

と言うのも・・・。

 

 

「へ、陛下! 妖精騎士ランスロット様が謀反を起こしたとは本当ですか!?」

 

 

今朝届いた知らせ。

妖精國で最強とまで謳わられた妖精騎士ランスロットが参上を拒否したのだ。

 

いや、正確には連絡が取れなかった、であるが・・・。

どちらにせよ、かの騎士が来ないことに変わりは無い。この状況下で援軍に駆けつけない者など裏切ったも同然。

 

さらに、魔力が三流程度のバーヴァン・シーはともかく、こと防衛戦に於いては右に出る者が居ないあの妖精騎士ベディヴィエールまでもが、先日の事件の重要参考人として拘束され、亜鈴返りのウッドワスに至っては表向きは戦死とされている。

 

結局、女王軍側に残った主だった戦力は女王であるモルガンと、それからただ一人の妖精騎士ガウェインだけだった。

 

対して、円卓軍にはウッドワスを討ち取ったという人域の限界者に、モルガンと同等の魔力を持っているとまで言われる予言の子、そして奇怪な魔術を扱う異邦の魔術師と妖精騎士並の魔力を持つ盾の妖精と来て、駄目押しとばかりに王の氏族まで居る始末。

 

楽観的な者が多い妖精と言えど、流石にこの状況で勝ち目があると考えるものは誰も居なかった。

 

 

そして案の定、開戦と同時に円卓軍が怒涛の勢いで各地の騎士を鎮圧。続々と投降者が出る中で、それでも女王への忠誠あるいは恐怖で抵抗を続ける者もいたが、それも妖精騎士ガウェインが寝返ったとの情報が広がることで完全に戦場は円卓軍の物となった。

 

最早、残るのは城内にいる僅かな騎士と上級妖精、それから女王であるモルガンだけ。

逃げ出そうにも逃げ場などどこにも無く、ただ助かりたいがために玉座に集まった上級妖精達は、女王へと詰め寄り、各々が好き放題捲し立てていた。

 

 

「へ、陛下! どうかお考え直しを!」

「し、死にたくない! 私はこんな所で死にたくない!」

「貴女さえ投降してくれれば私たちは助かります!」

「そ、そうだ! アイツらの狙いはお前だ! 全部全部お前のせいだ! 責任を取れ!」

「私たちのためにさっさと身を差し出せ!」

 

 

敗戦濃厚。妖精騎士ガウェインまでもが敗れたどころか寝返ったとなれば、いくら女王とてどうしようも無い。

 

玉座に座り、いかなる厄災(一部を除く)が来ようとも常に余裕の表情だった女王の顔。それが僅かに焦ったものに変わっていたのも、それを助長させた。

 

あぁ、負ける。あの女王が負ける。

ずっと自分たちを苦しめていた憎き女が、無様に殺されるのだ。

 

表面上は死にたくないと慌てふためいても、誰も自分が本当に死ぬなんて思ってはいない。

泣きそうな顔の裏で、悪辣に笑う彼らにこの國を二千年守り抜いて来た女王を心配する者など、一人として居ない。

 

 

だが彼らは知らない。

誰もが当たり前のように謳歌するこの妖精國を、誰が作ったのかを。

二千年前、バラバラだった氏族をたった一人で屈服させ、力のみでまとめ上げた者が誰だったのかを。

 

彼らはこれから、知る事となる。

 

 

「・・・・・・」

 

 

見るも哀れな馬鹿共を一瞥し、小さな溜め息をひとつ。

 

こんなのに構っている時間すら惜しいが、かと言ってそれで円卓軍にキャメロットを堕とされるのでは本末転倒である。

 

 

「━━━━そうだな。貴様らの不安も、保身も正しい。バーゲストは離反し、ランスロットは登城拒否、ベディヴィエールは先の事件の容疑者として拘束。正門も破られ、奴らが城まで攻め込んでくるのも時間の問題・・・」

 

 

目を伏せ、一拍置く。

 

次に目を開いた時、そこに先までの焦燥は欠片とて存在せず、あるのはただ無慈悲な独裁者の姿のみ。

 

 

「妖精騎士による遊びはここまでだ。望み通り、方針を切り替えてやろう」

 

 

なんのことは無い。

孤立無援の戦など、今に始まった事では無いのだから。

 

この程度、これまでくぐって来た修羅場に比べれば児戯にも等しい。

 

 

「━━━━控えよ官司ども。壁に下がり平伏せよ。涙して礼賛せよ。女王陛下の出陣である。これより、女王陛下の戦場である」

 

 

傍らに控える書記官の合図も久方ぶりである。

 

 

 

「さて、本気を出すのは二千年ぶりか。手心を加えてやろうと思ったが状況が変わった。遊びは無しだ。後悔する間もなく、滅ぶがいい」

 

 

女王が持つ杖が光を放ち、勝利ムードだった戦場に━━━━━絶望が舞い降りた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

各地で何人ものモルガンが舞い降り、一切の慈悲なく次々と制圧していく地獄のような戦場。

手も足も出ず、逃げる者から即座に殺され、立ち向かう者は見せしめとばかりに残虐に殺されていく。

 

許しはなく、救いもなく。これまでの鬱憤を晴らすが如く迅速に、けれど念入りに死体が出来上がっていく地上とは打って変わって、地下では静かな睨み合いが続いていた。

 

 

「お前にこの道を教えたのはモース戦役の時か。昔のことをよく覚えていたものだ。・・・だが、それはそれだ。ウッドワスよ、此度(こたび)の件について何か弁解はあるか」

 

 

顔に痛々しい傷を負い、血塗れで仰向けに倒れる妖精騎士ベディヴィエールを庇うようにして立つモルガンの分身と、それに対峙するウッドワス。

 

分身が召喚されたと同時に瞬時に止血はされたものの、真っ赤な血が滴るウッドワスの腕が、その傷の深さを物語っていた。

 

 

「弁解、弁解だと・・・? 陛下、それはこちらのセリフです・・・。貴女の方こそ、この私に何か言うべきことがある筈だ・・・!」

「・・・どういう意味だ」

「惚けるな・・・! 知っていた筈だ! そこの裏切り者が、予言の子に(くみ)していたことを! 貴女は知っていた、知っていた上でそれを野放しにしていた!」

「・・・・・・」

「何故だモルガン! そんなにもこの俺が疎ましかったか!? そんなにもこの俺が恐ろしかったか!? 己の手を汚さず、他者を騙し蹴落として、それで満足か!? それが貴様のやり方か!!? 答えろモルガン!!」

 

「・・・聞くに耐えんな」

 

 

魔力の波が、ウッドワスに襲い掛かる。

平時であればなんてことの無い攻撃を、しかし瀕死の彼には避ける力すら残っていない。

 

波に飲まれ、吹き飛ばされる。

這い蹲るウッドワスは、けれども憎しみが籠った瞳で女王を睨み付けるが・・・モルガンはそれを、冷めた眼差しで見下していた。

 

 

「任された仕事も満足に出来ず、生きていたかと思えば、己の失態を他者に(なす)り付けるか。見苦しい事この上無いな」

「モルガンッ・・・!!」

「この子は、お前たち役立たずの尻拭いをしただけだ。例え裏切っていようといなかろうと、それは事実だ。だと言うのになんだ、この様は」

「グルルッ・・・!」

「やるべき事を成さず、他所の女に(うつつ)を抜かし、あまつさえ我が騎士に牙を向けるなど、果たして裏切り者はどちらの方だ」

「グルァッ!!」

「少し頭を冷やせ」

 

 

飛び掛かるウッドワスが、上から魔力の塊に押し潰される。

起き上がることも、藻掻くことすらも許されず、地面に縫い付けられた哀れな駄犬は、それでも己を信じ、救いを求めてくれた美しき人へ報いるために、牙を剥き出しにする。

 

 

「許すものかッ・・・! 殺してやる、殺してやる! 我ら二千年の忠誠を、俺の千年の忠誠を! よくも、よくも笑いものにしてくれたな・・・! 貴様を信じた俺が愚かだった! そこの糞ガキを友と認めた俺が愚かだった! 」

「ウッドワス・・・」

 

 

吠える。嘆く。

けれど、立ち上がることは出来ず、地面に這い蹲る。

 

 

「魔女め! 貴様はブリテンの王に相応しくない! 亜鈴である俺が頂点に立つべきだった!! 許さぬ! この屈辱、この侮辱! 貴様だけは、貴様らだけはァァァアアァァ!!」

 

「━━━━━━━え」

 

 

妖精騎士ベディヴィエールのか細い声が僅かに漏れる。

 

また、大事な誰かが目の前から消え去った。

 

呪いとして、怒りと憎しみに満ちた表情のまま、この世から居なくなった。

最早、目の前にいるのはウッドワスに非ず。妖精を脅かすだけの外敵に他ならない。

 

そんな、妖精國を千年も守り続けてくれた、かの排熱大公の末路を前にして、モルガンは・・・僅かに悲しそうな目をしていた。

 

 

「・・・苦労して手に入れた礼節も、変わらぬ美しき毛並みも、自ら捨て去るか。この愚か者め」

 

 

杖が弾け、幾本もの刃がモルガンの周囲に現れる。

 

それらが一切の躊躇なくモルガンへと襲い掛かるが、血の一滴足りとも出ることはなく青い光に飲み込まれると、こちらを見詰めるモースの体内から無数の刃が飛び出した。

 

 

「━━━━━━━━」

 

 

悲鳴を上げることも無く、何かを残すことも無く、串刺しになったモースは跡形もなく消えてなくなった。

残るものは何もない。モースが消え、モースを貫いていた刃が消えたそこに、残るものなど何も無かった。

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

静かな、静かな時間が場を支配した。

何をするでもなく、ただモースが居た場所を暫く見詰めたモルガンは振り返り、妖精騎士ベディヴィエールへと歩み寄る。

 

 

「ぁ・・・お怪我は、ありませんか・・・モルガン様・・・」

「戯け、人の心配をしている場合か。いいから、楽にしていろ」

 

 

無理に立ち上がろうとして、ふらついてモルガンへと倒れ込む。

それを胸で抱き留めて寝かせようとしたモルガンだったが、震える小さな手が彼女の服を掴んだ。

 

 

「ごめ、ごめん、なさい・・・俺、ウッドワス、さんを・・・止め、られ・・・なかった。・・・陛下に、辛いこと・・・させちゃった・・・!」

「・・・いい、いいのです。貴女が無事なら、私はそれだけで満足ですから。だから━━━━━━━」

 

 

突然、自身を支えるものがなくなって、バランスを崩す。

なんとか踏み留まれたものの、辺りを見渡してもモルガンの姿は何処にもない。

 

 

 

「モルガン・・・様・・・? ・・・ッ!? ゴホッ!」

 

 

何が起こったのか理解出来ぬまま、咄嗟に口を抑えた手にはどす黒い血の塊。

 

 

「・・・え、なに・・・これ・・・・・・ごふっ」

 

 

次の瞬間には顔中の穴から血を噴き出すと、そのまま妖精騎士ベディヴィエールは崩れるように倒れ伏した。

 

 




作者は嘘付きです。
見栄っ張りなだけなのです。

でもそれでいいじゃない。人間だもの。


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