チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた 作:榊 樹
女王の訃報がキャメロット中に届き、敵味方関係なく、訪れるであろう幸せな未来を夢見て誰もが女王の死を喜んでいると、城外に近い者達から悲鳴のような声が聞こえた。
「モースだ! モースが出たぞ!」
あまりに切羽詰まった声に最初は警戒していた者達も、敵の正体を知ると肩の力を抜いた。
いや、妖精にとってモースは今も変わらぬ脅威ではあるが、そんなもの女王という巨悪に比べれば赤子に等しい。
油断は出来ないがそこまで気張る必要も無い。
無事な者、回復した者から随時戦闘を行えばすぐに終わるだろうと、再び歓喜が戻ろうとして・・・未だに悲鳴が止まぬ城外付近に、不自然さを感じた。
「なんだこの数は!?」
「倒しても倒しても出てくるぞ!」
「ち、ちくしょう!折角、女王を倒したってのに、こんな、こんな所で・・・ぎゃぁぁ!!」
モース如きに何を手こずっているのかと、疲労の残る身体に鞭を打って
果たして城の外に居たのは、やはり見慣れたモースだった。
確かに少し数が多い気もするが、モースが群れでいることなどそう珍しいことでもない。
鉄の武器で武装した人間中心に、妖精は後方からの支援を。
先程まで敵同士だったもの達が手を取り合い、妖精國の歴史的瞬間に水を差す不届き者の始末に取り掛かかり・・・漸く、違和感に気付く。
「・・・・・・待て、なんだ・・・この数は・・・」
モース。
モース、モース、モース、モースモースモースモースモースモースモースモースモースモースモースモースモースモースモースモースモースモース。
右を見ても、左を見ても、大地を埋め尽くさんばかりのモースの大群。
これ程の数が一体何処から来たのかと、城壁から偵察を行っていた者へと、事態の異様さを理解したバーゲストが声を上げる。
「偵察! 敵は何処だ! 何処から来ている!! 数は! 方角は!」
その声に、偵察は言葉を失ったのか返ってくる言葉は無い。
だが、焦れたバーゲストが再度声を荒らげると、偵察は声を振り絞り、震えながらに答えた。
「も、モース・・・です・・・島に、島中に・・・モースが・・・。何処からなんて、分かりません・・・。島中から、モースが湧いて・・・・・・や、厄災・・・厄災、です・・・妖精騎士ガウェイン様! 厄災が、始まりました!!」
「なんだと・・・!?」
起こるにしても、もっとタイミングってものがあるだろうと。
最悪な状況で始まった厄災・・・否、大厄災にバーゲストは思わず悪態を吐きながらも、民を守るために再び
◇◇◇
全部、思い出した。
「・・・・・・」
何処までも続く、何も無い真っ白な空間で毛布に身を包み、一人蹲る。
思い出した。あぁ、思い出したとも。
己の本当の役割も、生まれてきた理由も、これが二度目の世界であることも。
全部、全部・・・思い出した。
「・・・・・・」
声が聞こえる。
役目を果たせと、幾重にも重なる声が頭に響く。
泣いているようだった。
怒っているようだった。
縋っているようだった。
死にたくないと、叫ぶ声が聞こえる。
役立たずだと、俺を罵る声が聞こえる。
助けてくれと、消え行く声が聞こえる。
・・・・・・はは、ざまぁみろ。
「・・・・・・」
何が死にたくないだ。何が役目だ。
そんなもの知ったことか。
この島が終わりを迎えるのも、こうして滅び消え行くのも。
全部、全部・・・お前らの自業自得だろうに。
「・・・・・・死ね」
お前達なんか守ってやるものか。
島の脅威なんか、倒してやるものか。
厄災なんて、寧ろ俺が起こしてやる。
今までにない大規模の・・・文字通り、島が消える大厄災を。
モルガン様の痛みを思い知れ。
好き放題し続けて来た罪をその身で償え。
滅んで詫びろ。死して尚死ね。
それでも己の罪を自覚しないというのなら、跡形もなく消え果てろ。
「・・・・・・死ね、死ね」
・・・ホント、ざまぁないよね。
自分達を守るために創った存在に、反逆されるなんてさ。
健気に幾重にも鎖で縛ってた癖に、全部無駄になった。
ただの傀儡だと思ってた奴に、全部台無しにされた。
無駄無駄無駄、何もかも無駄になったんだ。
あの方の命懸けの時間跳躍も、何千年も苦しみ続け、それでも歩み続けてきた英雄様の人生も・・・。
ただ、
「・・・・・・・・・・・・・・・死ね」
・・・はは、何それ。
・・・そんな下らない理由で、モルガン様は死んじゃったの?
俺達が今ここに在るのも、この二千年間繁栄してこれたのも・・・全部全部、モルガン様のお陰だってのに。
そんな偉大な存在が、敬愛すべき尊いお方が俺たちの頂点に君臨することなんて、当たり前だろうに。
お前達はそこまでされても、自分達の主だとは認めないのか。そこまでされても、尚も身勝手に生きられるのか。
一体、どれだけの恩があると思っている。
一体、何度救われたと思っているんだ。
たまたま予言の子が生まれた時代に、たまたま異邦の魔術師が来て、たまたま円卓軍が結成され、たまたま女王軍と対等に渡り合える群れになって。
自分達を守るために背を向けて戦うモルガン様の、その袖を少し引っ張るだけで、
だから、魔が差してやったってのか。
そんなクソみたいな理由だけで、モルガン様を裏切ったのか。たったそれだけの為に、必死こいて俺を誘導してたってのか。
お前らホント・・・マジで巫山戯んなよ。
大切な人の人生を滅茶苦茶にさせられて、知らぬ内に俺まで加担させておいて。
散々人の尊厳を踏み躙るような真似して、大人しく従う訳ねぇだろ。そっちの都合なんか、聞いてやる訳ねぇだろ。バッカじゃねぇの。
一人残らず殺してやる。
誰一人として、楽な死に方なんてさせてやるものか。
許しなんていらない。救いなんかいるものか。
地獄の底で苦しみ続けろ。
生まれてきたことを後悔しろ。
モルガン様が・・・お前達があの方に与えた苦痛は、こんな物では―――!
――――――本当に、それで良いのですか?
「・・・・・・っ!?」
背後から声が聞こえた。
自分勝手で耳障りな不協和音じゃない。
理性的で、静かな声だった。
道を踏み外そうとしている者を、諭すような声だった。
それが堪らなく、不愉快だった。
「良いに決まってんじゃん。これで良いに決まってんじゃん。ロクでなしの外道共には、お似合いの末路さ 」
振り返ることはしない。
声の主が誰かなんて、どうでもいい。
ここに居る時点で、きっとロクな存在じゃないだろうから。
そんな奴の言葉なんて、聞くに値しない。
――――――今ならまだ、間に合いますよ。
「・・・間に合うって何? 止める気なんてサラサラ無いよ。アイツらだって
大体、あんな奴らを救って
守って
どうせまた繰り返す。
何百、何千回と、アイツらはそうして英雄様を裏切った。幾度となく助けられ、その度に自分都合であの方の信頼を裏切り続けた。
――――――・・・・・・。
・・・・・・もう、どうしろってのさ。
裏切られることが分かってて、理不尽に責任を押し付けられるのを知ってて・・・それでも立ち上がれってのか。
役目だから、そのための守護者だから。
だから、守らなきゃいけないってか。
そんなこと知ったこっちゃないんだよ。
一万年以上も成長せず、感謝のひとつも出来ないような、そんなどうしようも無い根っからの屑共を守ることが・・・俺の使命だって言うのか・・・。
――――――そう、ですね。彼らのことは少ししか知りませんが、そんな私でも・・・ちょっとどうかと思う所はあります。
ほらね。
結局、そうさ。
同情の余地なんか無い。
助けてやる義理も無い。
死んで当然。生きる価値無し。
分かったでしょ。分かってたでしょ。
俺の意思が変わる事なんて無いことくらい。
あの屑共に救いようなんて無いことくらい。
分かったなら、さっさと消え―――。
――――――ですが、そんな彼らは・・・貴女が主と慕うお方が、人生を賭けて守ろうとしたものでは無いのですか?
「・・・・・・」
――――――諦めることは簡単です。ですが、そうして諦めた先で、もしまた主君と出会えた時、自分が貴女の一番の騎士だと胸を張って言えますか。
「・・・・・・会えないよ。会える訳ないよ。死んだんだ、モルガン様は死んだんだ。愛したモノに裏切られて、最期はあんな惨たらしく・・・。それこそ、奇跡でも起こらない限り、また会うことなんて不可能に決まってる」
――――――えぇ、そうですね。奇跡、奇跡です。起こる確率なんて万に一つでは足りない。有り得ない筈の現実を・・・・・・けれど、貴女は一度その奇跡に立ち会ったではありませんか。
「・・・・・・え?」
――――――何もかもが終わり、ただ静かな滅びを迎えるだけだったあのブリテンの大地で。二千年もの間、一人孤独に島を守り続けた貴女は、出会ったではありませんか。
「・・・・・・ぁ」
――――――それでもまだ、奇跡を信じることは出来ませんか?
・・・・・・。
「・・・・・・モルガン様を、殺したんだ」
――――――えぇ。
「・・・・・・何度も何度も、裏切ったんだ」
――――――そうですね。
「・・・・・・殺したい、殺したい。許せないんだ」
――――――・・・・・・。
「・・・・・・・・・でも」
「・・・・・・それでも」
「・・・・・・モルガン様が、愛した國なんだ」
「・・・・・・だったら、俺が守らないと」
「だって、俺はモルガン様一の騎士だから」
「また胸を張って、あの方と会いたいから」
「だから、もう少しだけ・・・頑張ってみるよ」
――――――・・・そうですか。
「ありがとう、声の人。また何処かで出会えたら、その時は・・・もっともっとお話をしようね。モルガン様も交えて色んな事をさ。貴方の主の事とか、共に歩んで来た仲間の話とか、旅のお話なんかも」
――――――えぇ、またいつか・・・きっと。
薄れ行く意識の中、何処か悲しげにそう返す声がなんだかおかしくて。
ついつい笑みを漏らして、俺は俺の使命を果たすために光となって消えて行った。
◇◇◇
シロが居なくなった空間で、男は一人佇む。
きっと今頃、外の世界では島中に溢れ返ったモース達が、彼女に呼応して自然に消滅している事だろう。
これで良かった、これで良かったのだ。
孤独な守護者は前を向いて歩き始め、もう決して後ろを振り返らない。
その先に待つのが、例え先の見えぬ地獄だったとしても。
少女は決して、立ち止まる事は無い。
「・・・・・・あぁ」
こうするしかなかった。
そうしなければ、何もかも終わってしまっただろうから。
「・・・あぁ、あぁ」
誰もが救われぬバッドエンドより。
一人の少女だけが救われぬハッピーエンドの方が、マシな筈なんだ。
だからこれは仕方の無いこと。仕方の無いことだと自分を騙し、甘い言葉を並べ立て・・・そして・・・。
そして・・・あの子はきっと、全てを承知の上で尚、前を向いて歩き始めた。
「あぁ・・・どうか・・・」
だから、だからせめて・・・。
「・・・我が名を冠する、あの少女の旅路に・・・僅かな安らぎがありますように」
そんなものある訳が無いと知りながらも、男はそう願わずにはいられなかった。
大地の厄災
島(妖精の死骸)が次第にモース化していき、最終的に島全てがモースとなって消えて無くなる大厄災。
発動条件の難易度が高過ぎる代わりに、元凶兼唯一厄災を止められる存在(シロ)が"座"的な場所に引き篭るため、発動してしまえば事実上の滅亡不可避となる。
また、モース化するのは飽く迄も大地(妖精の死骸)なので、罪都キャメロットなどの街の内部に発生することはない。