【完結】チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた 作:榊 樹
バーゲストの残骸。地面に突き立ったままの足が、周囲で漂っていた触手が、主人を無くし、塵となって消えて行く。
第一の関門たる獣の厄災の討伐。
それに喜びを分かち合う暇もなく、別れはやってくる。
「・・・どうやら、ここまでのようです」
元より汎人類史の英雄は存在出来ない異界の世界。
現界出来る時間はそう長くはなく、宝具まで使ったとあれば、寧ろここまでよく保ったもの。
徐々に身体が光の粒子となっていくガウェインに、シロは声をかけた。
「最後に一つ、尋ねたいことがある」
「・・・なんでしょう?」
ガウェインを見て、そして空を飛ぶアルビオンへと目を向ける。いや、正確には、遠目から見てもわかるほどに、明らかに黒色の面積がジワジワと大きくなっているアルビオンの背中の辺りへと。
「湖の騎士と謳われた、かの騎士は・・・。そちらのランスロット卿は、元よりあのような姿なのか」
「・・・いえ、違います。本来の彼は誰よりも気高く、そして誰よりも騎士であらんとした最優の騎士。彼があのような姿になってしまったのは・・・」
「いや、それだけ聞ければ十分だ。貴方たち円卓の騎士の助太刀に、心からの感謝を」
「・・・えぇ、ご期待に添えたのなら何よりです。ご武運を」
頭を下げるシロを、何処か寂し気に見詰めるガウェインだったが。
その胸の内が語られることはなく、太陽の騎士は光の粒子となって消え去った。
◇
ソレに、理性など無かった。あるのはただ、生まれながらの殺戮兵器として、地上の妖精たちを愛憎で持って、焼き払うという使命のみ。
そして、もう一つ。
胸の奥で、今も炉として物理的に燃え続けている愛の結晶が、それを忘れずに居させてくれる。
許スナ、許スナ。全テノ元凶、醜キ悪魔ノ化身。
殺セ、殺セ、殺セ。
奴ダケハ必ズ、何ガアッテモ死ヌマデ殺シ続ケロ。
何処までも純粋で、混じりっけ無しの殺意。
気に入らないから。何もかもが気に入らないから。
だから殺す、だから許さない。
死ね死ね死ね死ね。
最早、どうして怒っているのか、どうして殺してるのかすらも分からぬまま。
とても悲しいことがあった気がするけど。それすらも思い出せぬまま、ただ誰かは分からないけれど、何処かの、きっと大切だったヒトと一緒になれたことが嬉しくて。
そんな幸せをくれた世界に恩返しがたくて、島の空を飛び続け、死の涙を振り撒いて、世界を血に染めていく。
アァ、アァ、アハ、アハハハ。
良イ気味ダ、トテモ良イ気分ダ。死ネ、死ネ、死ネ。
全部殺シテヤル。コンナ世界、全テ焼キ尽クシテヤル。
ハハ、ハハッ、ァハハハハ―――は?
だが、突如として、そんな彼女の中に、入り込んで来る者が居た。
黒く、粘っこく、途轍も無く気色悪い感覚が、背中を襲った。
「■■■■■■!!?」
悲鳴を上げて、生理的に無理とでも言いたげな様子で暴れ狂う。
今まで抱いていた怒りを一瞬忘れてしまうほどの悪寒。こんな様になってしまった
自分の中の大切な何かが、ジワジワと犯されていく悍ましい感触に、アルビオンの意識は完全に悪寒の正体、背中に張り付き、宝具"
オ前モカ、オ前モ、僕カラ奪ウノカ!?
人間であれば風圧だけで身体が弾け飛ぶような速度で、それでもランスロットは張り付き続ける。
粘っこく、ねちっこく、徐々に、徐々に、純白のアルビオンが黒に染められていく。
ヤメロ、ヤメロ、何ダ、オ前ハ、誰ダ、オ前ハ。
嫌ダ、嫌ダ。入ッテクルナ。僕ノ中二。僕ト、彼女ダケノ世界二、割リ込ンデ来ルナァーッ!!
「■■■■■■ッー!!」
「Aaaa!? Arrrrrrrrthurrrrrrrr!!」
全身から解き放たれた魔力の波動がランスロットを吹き飛ばす。
上空にて宙へ投げ出されたランスロットは、今までのスピードに耐えていた代償か。全身を包む漆黒の鎧はどこもかしこも罅だらけであり、為す術なく、黒い粒子となって空の中へと溶けて行った。
「■■■■■■ッ!!!」
居なくなった。漸く、邪魔者は居なくなった。
そうなるとアルビオンが次に取る行動はただ一つ。
大きく空へと舞い上がり、大気圏直前で旋回し、地上に目掛けて急降下。数秒で地面へと到達すると同時に直角に曲がり、地面と平行に飛んだまま、突っ立っている可憐な妖精の皮を被った醜悪な悪魔へと一直線にすっ飛び、そして―――。
「―――」
こちらへ突き出した片手を、顔の横から逆の方へ。
軽くスライドさせただけの僅かな動作。
おおよそ攻撃とは程遠い、なんてことの無いシロの動き一つ。たったそれだけで、決着は着いてしまった。
「■■・・・」
焼け野原でも、隆起し、荒れた大地でも無い。
アルビオンの脳裏には現在のブリテンとは、全く違う暖かな景色が映し出されていた。
『あら、私の王子様。今日はどんなお話を聞かせてくれるのかしら』
陽だまりのように笑う姿が、そこにはあった。
自分の来訪を心待ちにして、いつも笑顔で出迎えてくれていた。
『ダンスですって。面白そうだわ、一緒に踊りましょ!』
パーティに連れ添った時、流行りだからと、そう言われて重ねた騎士の手を、彼女は愛おしそうに握って、そっと抱き寄せた。
ダンスなんて互いに踊ったことは無かったけれど。それでも楽しそうに舞う彼女の姿は・・・。
『最近、街で新しいお店がオープンしたみたいなのよ。一緒に遊びに行ってみない?』
何気ない日常。なんて事のない穏やかな日々。
嘗ての記憶。これまでの軌跡が、再生された瞬間に、砕け散る。
僅かな時間、けども永遠にも感じる時の中で、彼女との思い出が巻き戻されていく。
アァ、ソウダ・・・。ソウだっタ・・・。
僕ハ、僕は・・・。
『まぁ、なんて綺麗なのかしら! 決めたわ、貴女の名前は、メリュジーヌ。これからよろしくね、湖の妖精さん』
―――アァ、オーロラ・・・僕は・・・君を・・・。
◇
飛翔し、頭上を通過して空へと飛び立つ残骸を、シロは物儚げに見詰める。
愛に狂った者が、愛によってその道を正される。
話だけ聞けば王道の物語だけれど、実際はなんて皮肉な話だろうか、と。
シロは、この島由来の妖精では無いメリュジーヌの記憶までは知らない。彼女がブリテン島の守護者として記憶を辿れるのは飽くまでもブリテン島由来の妖精のみ。
オーロラの記憶から得た知識だけで大体の事情を把握したと思い込んだまま、散っていく同僚の背中を見ながら同情の念を送る。
実際は、テメェが書いた本が諸悪の根源ではあるのだが、生憎とその真実を知る者は、光に焼かれて空の彼方。志半ばで、脳を焼かれてしまった純白の竜は、最後の灯火を揺蕩わせるかのように、弱々しく空を旋回していた。
「まぁ、その、なんだ。・・・別にお前には恨みとか無かったし、今度また、もし会える機会があれば。その時は、心温まる純愛ストーリーとか、書いてあげるよ」
なーんて、もう会うことも無いだろうけどなー、などと呑気なことを考えながらも、アレにはもう手を下す必要は無いと背を向け、抉った筈の頭部が急速に再生していくケルヌンノスの方へと矢を向けた。
◇
罪都キャメロット。かつて栄華を極めたその城は、見るも無惨な廃墟と化していた。
城の正面に面した大穴から呪いの神が這い出て鎮座するその姿。
頭部を抉られ、パックリと割れようとも、滅びる気配の無い神の成れの果てを背に、それでも尚、存在感を現す玉座。
ブリテン中の妖精から集めた魔力を貯蔵し、聖槍を制御する、女王ともう一人の小さき
1万4千年もの間、死して尚、ただ怒り、ただ呪い続けた神を撃ち倒すために作られた神創兵装。
「あなたの怒りは正しいけれど。それでも━━━━」
玉座に意識を繋げ、12基の聖槍と一つになる。
本物の天才が作り上げたその霊装に。神域の中でも最高位に位置する彼女の傑作に。
感嘆の声を上げながらも、問題はその使用者にあった。
誰にも及ばぬ天才か、或いはたった一人で大厄災と渡り合える者のために作られたソレらは、今のアルトリアには荷が重すぎた。
「っ・・・、っあ━━━━!」
全身に走る過剰魔力。
凡人の域を出られなかった彼女では十分な資格は無く、玉座から流れ込む魔力が火花となってアルトリアの身体を内側からこじ開けていく。
意識が弾けそうだ、眼球が破裂するのではないか。
呼吸しているかも分からない、立っているのかすらも分からなくなる。
でも。
「
そうして放たれた12基の聖槍は、横に広がるように展開され、一発も漏らすことなく直撃した。
しかし、神を傷付けることは叶わず。破損していた筈の頭部すら、ほぼ完治しかけていた。
「ご、ぁ・・・!」
ドス黒い血を吐き出す。
だからこそ、失敗した。
神代の天才が、その才能を全て注ぎ込んで漸く完成するような代物だ。
なんて事のない、平凡な魔術師であるアルトリアでは、文字通り全てを懸け無ければ、その真価が発揮されることはない。
「なにが、もう少しだけ、居たい、だ・・・! その少しは、もう、十分に貰った・・・!」
聖槍は、モルガンたちの為の兵装だ。
聖槍は、アルトリアには扱えない。
だが、その構造は利用できる。
聖槍が砲塔になるならば、違う弾を詰めればいい。
今のアルトリアは、『聖剣の概念』。であれば、新たに詰める術式は・・・。
「回路を玉座から、この心臓に。
直後、頭部が完治したケルヌンノスの呪いの手が大穴から這い出る。
それをさせてなるものか、と。稲妻染みた速度で、急速にキャメロットの城壁を覆い、遂には玉座の間まで到達するが、アルトリアに恐怖はなかった。
何故なら・・・。
━━━━━━━━!!
空より降り注ぐ天の光。
この島を、この国を、そしてこの城を護り続けた守護の光が、その呪いを撃ち抜いてくれるのだから。
思わず上がりそうになる口角が、なぜだか心地よい。
あぁ、貴女はやはり私も護ってくれるのかと、場違いな感傷に浸りながらも。
「聖剣、抜刀━━━━!」
展開された12基の砲弾が、今度は一点集中で、ケルヌンノスに向かって放たれた。
「・・・・・・」
役目を終えた妖精は、儚く砕け散る。
だが残されたヤドリギの杖は、どうだ凄いだろ、と子供が親へ自慢するかのように、堂々とその場に突き立っていた。
◇
神が、消えていく。
アルトリアに皮を剥がされ、カルデアに神格を撃ち抜かれ、心優しい神は、今度こそ本当に消えていく。
「・・・・・・」
それを遠い丘の上から、眺める影が一つ。
役目を終えた妖精は、消えいく神の最後を。そして神殺しを成し遂げたカルデアを静かに見守る。
「・・・感動的なお別れ。涙なしでは見れないメリバなんて糞食らえです」
そう言って、その妖精は視線を下に向ける。
小さな糸紡ぎの妖精が気を失い、穏やかな寝息を立てて眠る自身の腕の中へと。
怒りはない、憎しみもない。何も感じられない虚無の瞳で、妖精は言葉を紡ぐ。
「
本来であれば、この世界線には存在してはならない糸紡ぎの妖精は。けれども、そうなってしまった要因。前の世界での黒騎士との記憶、どれだけ苦しもうと、どれだけ辛いことが待っていようと、それでも尚失いたくないと願ったその記憶。
それを消すことで、彼女は存続できる。生きることを許される。
だから消した。
そこに当人の感情なんて欠片も配慮されていない。
ただ、一匹の妖精が
「さて、時間ももう残ってませんし、そろそろこの妖精をカルデアへ届けに・・・━━━━!?」
大地が、揺れた。
まるで、島の底からひっくり返されたかのように、土地が、島が、空間が、空へと
空を見上げれば、そこには黒く、悍ましい一匹の蟲が、大きな口を開けて、島を、この星を飲み込もうとしていた。
「━━━━っ! オベロンッ!!」
明らかな怒りの感情を持って、空に浮かぶ巨大な蟲に向かってシロはそう叫び、抱えていた妖精を糸で括って、弓を構える。
放つ、放つ、放つ。
地上から舞い上がる無数の流星は、けれどもその一切を容易く飲み込まれる。
しかし、漸く大切な人の宝物を護り切ったかと思えば、全てを台無しにしてするかの如き所業に怒り狂うシロの矢も、徐々にその力が失われていく。
彼女の力の源はこの島そのもの。
それを飲み込まれ、消されていくというのは、それ即ち守護者の存在意義の喪失に他ならない。
完膚無きまでの敗北。やはり変えられない運命を前に、急激に力を失ったシロは、その場に崩れ落ちた。
正規の攻略法だと、まずアルビオンを光堕ちさせ、次に光の矢で残りの厄災の動きを封じてロンゴミでバーゲストにトドメを刺し、残ったケルヌンノスとは、決め手が無いケルヌンノスと神格を撃ち抜けないシロ同士で千日手となります。
これで異聞帯ブリテン島は存続し続け、余波で島上の妖精は転生と消滅を繰り返し、モフモフに見守られながらバー・ヴァンシーとシロが永遠にキャッキャウフフするモルガンだけの理想郷となる予定でしたが、カルデアが滅ぼしたので島ごと消えてしまいました。あーあ。