【完結】チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた 作:榊 樹
モチのロン引きましたが・・・。
えぇ、マジか。
正直、"トネリコ"として来るとは思わんかった。
普通に水着モルガン様かと思ってた。
・・・よし、書くか。多分。
生まれた時から掃き溜めの底のような世界に居て、背けるその視界に映る全てが、どうしようも無い現実だった。
「■■■■■♪ ■■■■■♪」
身体を這い回る虫けら共。
耳障りな羽音を掻き鳴らす羽虫共。
払いたくても身体が動かない。
目を背けたくても、瞼が無いから閉じることも出来ない。
生まれた時から、視界を埋め尽くし、身体を埋め尽くす蟲の大群に、吐き気がして仕方が無かった。
あぁ、おぞましい。穢らわしい。なんて醜いんだ。
誰にも見向きされなかった爪弾き者。
誰からも必要とされなかった無能共。
そんな敗者に
惨めで仕方無かった。
いっその事、何もかも投げ捨てて死んでしまえば、どれだけ楽なのだろうとすら思った。
でも身体が動かないから、死ぬ自由すら無かった。
助けて欲しいと願った。
誰でもいいから、この地獄のような状況をぶち壊して欲しいと祈った。
でも、その声が届く事は無かったし、周りに居るのは、誰かに縋らねば生きていけぬ蟲ばかり。
届いた所で叶わぬ願いだと悟ってからは、もうそんな願いも抱かなくなった。
どうせ誰も助けてはくれない。
彼らも、自分へ縋ることをやめない。
この地獄のような世界から、逃れる術は無い。
何もかも諦めて、ただ時間が過ぎるのを待つばかり。
「・・・大丈夫?」
そんな時。
地獄の底のような掃き溜めにやって来たのが、あの阿呆だった。
◇
天から差す一筋の星の光。
近いようで、遥か遠くにあるその光だけが照らす、何処までも堕ちていく暗闇の中。
オベロンは一人、静寂に包まれる船の中を暇潰しに歩いていた。
「・・・・・・」
カルデアの乗組員に。あの阿呆に助けられた、本来なら死んで消えるはずだった者たち。
すでに意識は無く、常闇の底で永劫に眠り続ける彼らを。
オベロンはトドメを刺そうとして、どうせ起きることは無いのだからと、面倒くさくなってやめた。
「・・・・・・あー」
視線を宙に彷徨わせ、気の抜けた声が出る。
終わった。
あぁ、終わった。
漸く、終わったんだ。
長い旅路だった。気の遠くなるような時間だった。
でも、終わって振り返ってみれば、そんなに長くなかったような気もする。
散々振り回されてばかりの人生だから、あのド阿呆をぶん殴れないのが心残りだったけど・・・。
・・・もう、いいんだ。
だって、終わったんだから。何もかも。
全ては自身が望んだ通りに、望んだ結末に。
全て、終わらせることが出来た。
「・・・・・・はぁー」
なのに、こんなにも虚しいのは何故だろうか。
胸の真ん中に、ぽっかりと大きな穴が出来たような・・・。
「・・・ま、どうでもいっか」
一通り見て回って、戻って来た船の甲板に、眠っている人類史最後のマスターが居た。
近くに寄って、しゃがみ、髪を払って寝顔を覗き込む。
安らかな寝顔で、死んだように深い眠りに付いていた。
憐れだなぁ、と思った。
良くここまで頑張ったなぁ、と思った。
元はただの一般人で、成り行きで大役を押し付けられて、その末路がこれかと思うと、鼻から嘲笑が漏れた。
すると、立香が目を覚まし、視線を上げた彼女の寝起きのアホ面と目が合った。
「は? なんで起きてんの、キモ」
呑気にキモがるオベロンとは対象的に、立香は咄嗟に立ち上がり、距離を取る。
素人とは思えぬ機敏さも、その判断力も、これまでの旅で培って来たものかと思うと、一層憐れに思えた。
「奈落の虫の胴体は無限なんだ。呑まれた者はどこまでも落ちていく。
面倒ながらも立ち上がり、対面してやる。
失意の庭を乗り越えていたことは予想外だったけど、だからなんだって話。どうせもう結末は決まった。
こんな状況で、一人になっても殴りかかってくる無謀さには驚いたが、今更、ちっぽけな人間がどうこうした所で、何も変わりはしない。
「負けさ。君の、お前達の負けだ。だからもう、諦めたらどうなの?」
訓練を積み、人理修復を成し遂げた英雄とは言え、所詮はただの人間。
終末装置の化身であるオベロンとの差は歴然で、軽くあしらわれるも、それでも立香は諦めず、拳を握り締めて立ち向かう。
酷い面だった。
恐怖に脅え、怒りに染まり、涙を堪えながら、歯を食いしばる。
見るに堪えない。
良い加減諦めたらいいのに、みっともない事この上なかった。
「勝ち目は、あるッ!」
けれど━━━━━━。
「来い、キャスタァァ゛ッァ―――!!」
けれど、空に光る一等星は、確かに立香に微笑んだ。
◇
天より舞い降りた星の欠片。
聖剣の守護者と成ったアルトリアが、立香の声に応じて、今ここに降臨した。
「妖精王オベロン。ブリテンの結末を望んだ者よ。死した者が生き続ける世界は確かに見苦しく、貴方の行動は正しいものです。しかし・・・」
かつての村娘としての姿はもう無い。
まるで、汎人類史の彼女のように威風堂々とした姿で、オベロンへ鋭い言葉を突き付ける。
「しかし、他の未来ある者たちの現在まで奪う行為は、間違っている。貴方の行いは、多少どころか本気でみっともない」
「そーだそーだ、みっともないぞーオベロン。恥を知れーオベロン。あと島返せーオベロン」
「「「ん?」」」
「おん?」
これまでになく決まったセリフに、ドヤ顔のアルトリア。
かと思えば、隣から聞こえる聞き覚えのありすぎた呑気な声に、全員が振り返る。
そこには、"横暴を許すな"と印字された法被を着て、"島を取り戻せ"と書かれたタスキを掛け、"呑み込み反対"と書かれたハチマキをし、"モルガン様バンザーイ"という旗を背中に差し、"恥を知れ"というやたらと達筆な字で書かれた看板を掲げた、一人デモ活動を行っているシロの姿があった。
お前が恥を知れ。
「・・・なんで居んの。ここまで来るとマジでキショいんだけど。君、ゴキブリの妖精かなんかだったけ?」
「ブリテン島の妖精ですが何か?」
「じゃあ合ってんじゃん」
過去一で顔を歪め、本気で嫌悪しているオベロンに、どういう意味だコラー、と威嚇するシロの下へ、アルトリアが歩み寄る。
すると、手にしていた杖と何処からか取り出したサインペンを差し出した。
「あの、こちらにサイン貰えますか」
二度見するオベロン。
あ、私も欲しい、と混ざる立香。
両手が塞がってオロオロとするシロ。
「え、いや、気持ちは嬉しいけど、今ちょっと手が離せなくて・・・」
「なら口で書いて下さい」
「んごっ」
ペンを咥えさせられ、"さ、早く"と催促されるシロは、アルトリアの奇行に目を白黒させる。
しかし、それでもアルトリアは引くことはなく、寧ろ笑顔を浮かべ、圧を増やしていく。
「まさか、私に書かせておいて、自分は書かないなんて言いませんよね?」
"あ、これ許してくれないヤツや"と察したシロ、大人しく咥えたペンで字を書く。
手にした看板に書かれた字と、負けず劣らずの達筆な字で書かれたサインに満足したのか、アルトリアは礼を言うと、ペンを懐に仕舞った。
「エーちゃん、なんで書けるの?」
「いざと言う時のために練習してた」
「きッッッしょッ」
オベロンの罵声で、我に返る。
そうだ、今最終決戦中だった。
気を引き締める立香に、デモ活動を再開するシロ。場の混乱に一役買ったアルトリアは、何食わぬ顔で普通にオベロンと向き合っていた。
「いや何普通に始めようとしてんの。まだそこのソレが居る理由聞いてないんだけど」
「そうじゃん。エーちゃんなんで居るの?」
「ずっと船の底で
「そういう事聞きたい訳じゃないんだよ」
良い加減ムカついて来たオベロンは、しかし一旦怒りを抑え、冷静に思案する。
そして気付く。シロの力が、明らかに激減していることに。
「あぁ、そういう・・・。お前今、あんまり力無いだろ」
「ギクッ」
そして、その予想は大当たりだった。
シロの、守護者としての力の源。ブリテン島そのものが粉々に砕かれ、呑み込まれた今、最早かつての厄災と渡り合った程の力はもう無い。
例え、奈落に呑み込まれるという、ブリテン島の
大元である島の機能がほとんど死んでいる今、奈落の蟲の中に居ることで辛うじて繋がっている僅かなパスから、魔力を供給しているに過ぎない。
島からのバックアップはほとんど無いが、代わりに記憶も消されることはない。しかし、守護者としての機能がほとんど停止しているため、その存在は、通常時の力を持たない妖精の時と変わらない。
端的に言うと、今のシロは想定外の状態。システムにバグが起きてエラーを吐き出しまくってる状況ではあるが、元よりバグの多いシステム。今更一つや二つ増えた所で、さしたる問題は無かった。
「はー、島が無くなったのに生きてるとかホントなんなの。ゴミ溜めの残りカス。死骸から搾り取った
「な、なんだとー!」
「大体さ、なんで無事なの? そこの汎人類史最後のマスター様は失意を乗り越えたらしいから分かるけどさ、お前、守護者とは言え、もうほとんど機能してないだろ。ここ奈落なんだけど。永遠に眠っとけよ二度と目を覚ますな」
「失意・・・? あぁ、あの不出来な英雄様擬きのこと。それなら解釈違いだったからぶん殴った」
「意味不明過ぎてウケるんですけど」
理解することを放棄したオベロンに、しかしシロも言われてばかりでは無い。腐っても守護者。阿呆でも守護者。しょぼくなっても守護者なシロは、掲げていた看板を床に突き立て、ズビシッとオベロンに指を差した。
「へーんだ! そう言うオベロンこそ、そんな大した事ないでしょ! 所詮は排水溝の擬人化! そんなペラッペラな羽根でどうやって飛ぶってのさ! それにその左腕も、どうせ見掛け倒しのハッタリでしょ! なに、疼いちゃってる系? 疼いちゃってる系男子な訳? 暗黒竜でも呼び出しちゃう感じですかぁ!?」
「エーちゃん、エーちゃん。私達、今その暗黒竜の腹の中だよ」
「第一、こっちは三人、そっちはぼっち! 戦力差は火を見るより明らか! 神妙にお縄に着けこのやろー!」
「いえ、ここは私一人で十分です。貴女はそこで応援していてください」
「そうだそうだ! 俺なんて応援してるだけで十分・・・え、応援?」
応援・・・応援って、あの応援?
え、なんで? と本気で困惑しているシロに、しかし譲るつもりは微塵も無いのか、アルトリアはシロの前を遮る。
「応援、え、応援・・・?」
「はい、応援です」
「いや、でも、ほら。俺も一応は、その、最終決戦に臨みに来た戦士というか、そういうアレな立場な訳で。えっと、だから、ただ応援してるだけってのは、そのー・・・」
「問題ありません。いえ、寧ろ貴女は応援をするべきです。応援こそ、貴女の本懐、貴女の生きる意味。ですので、さぁ、ほら。私を奮い立たせて」
「ぇ、ぇ、い、いや、だから、その・・・」
「さぁ早く」
「あうあう・・・」
「さぁ!」
「ふ、ふぁい、とー・・・?」
「違う! もっと日本語で!」
「"もっと日本語で"!!?」
どういうツッコミだと、目を右往左往させるシロを、しかしアルトリアは許さない。
ガシッと顔を掴み、無理矢理視線を合わせる。
「さぁ!」
「え、えっとぉ・・・」
「さぁッ!!」
「が、頑張、れ・・・?」
「違うもっと舌足らずな感じで!」
「が、がんばれー・・・?」
「一度じゃない繰り返し!」
「が、がんばれ、がんばれ・・・?」
「疑問形じゃない愛情深く!」
「が、がーんばれ♡ がーんばれ♡」
「そうそれ! ふふん、そこまで言うなら仕方ありません。お姉ちゃん頑張っちゃいますから、よく見ておきなさい!」
「り、立香ぁ〜゛ッ・・・!」
「おーよしよし、怖かったねぇ」
鼻息荒く戦闘態勢に入るアルトリアに、立香に泣き付くシロ。
緊張感なんてまるで無いカルデア陣営を前に、オベロンは。
「なんだこれ」
やる気が地の底に堕ちていた。
◇
この虫けらたちほど、それに集られる自分たちほど、醜悪な存在は居ないだろうと思った。
生きる者全てが気持ち悪い。
視界に写る何もかもが心底穢らわしい。
でも、ソレが目の前にやって来た時。
汚いもの達が集まる、この掃き溜めの隅っこが、まだマシだったと。
もうこれ以上、汚いモノはないだろうと思い上がっていた事を、思い知らされた。
「大丈夫?」
あぁ、なんておぞましいんだ。
死者の成れの果て。生き汚い畜生共の結晶。この世で最も醜いものをこれでもかと混ぜ込み、煮込み、何千何万年も熟成して出来上がった神話級の汚物が、そこには居た。
(すんませんマジで調子
吐き出したくても吐き出すものなんて無いし、嫌悪感が凄まじ過ぎて耐性なんて付く暇すら無かった。
この後、まだシロに見られているだけ、視界の中に居るだけの方が、
(チェンジで)
割と切実に祈ったオベロンの
マシュ「( ˘ω˘ ) スヤァ…」
生理的にマジ無理な奴が傍に居たお陰で、相対的に蟲妖精への好感度が上がっていたオベロン。
あと、マシュ達は、単にテンション上がりまくってたアルトリアが起こすの忘れてただけ。全部終わったらちゃんと起こす。