チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた   作:榊 樹

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日間1位ありがとうございます。
超嬉しい。


優しい王様

最速の妖精と名高い妖精騎士ランスロット、その次に早く仕事を終わらせている俺こと妖精騎士ベディヴィエール様だが、それでも尚忙しいのがこのお仕事である。

とは言え、ブラック企業顔負けの労働環境と言われたら別にそういう訳ではなく、俺は遅くとも午前中に終わるので昼からは思いっ切り趣味の時間に当てたりしている。

では何が忙しいのかと言うと、妖精騎士には纏まった休みが無いのである。

 

なんせ、俺達の主な仕事は妖精の天敵であるモースの退治。

倒しても倒しても、モグラ叩きの如く無限に湧いてくるので、一日でも放置していたら大変なことになるのだ。

 

しかし、ここ最近(百年くらい)は妖精騎士の数も増え、中でも俺とメリュジーヌは馬鹿みたいな速度で殲滅して行っているので、割と休みの融通が効くようになって来た。

 

そんな訳で、妖精騎士となって以来初めての連休を利用し、やって来ました虫妖精さん達の森。

第二の故郷とも呼べるこの森だが、そう言えば第一の故郷にはもう二千年以上も帰ってなかった。

二千年・・・二千年かぁ・・・、もうそんな昔になるのか・・・。

 

え、俺そんなに帰ってなかったの?

 

マジかよ。

流石にそろそろ一回帰った方がいいかな。今の妖精騎士となった俺なら、他のみんなも「え、旅に出たんじゃないんすかww」 みたいな反応もしないだろ。

二千年ぶりだが、みんな覚えててくれるかな?

 

それはそれとして、本当に変わりなく歓迎してくれた森のみんなに早速、新しい英雄譚と言うか・・・もうほとんど自作小説みたいになって来た英雄様のお話を聞かせてあげようとして、なんだかいつもと違う様子の彼らに森の中を案内された。

 

そうして案内された先に居たのは、全身を覆い尽くす程の虫妖精さん達に群がられた全裸の妖精だった。

 

彼らに悪意がある訳ではないのだろうが、流石にそれは可哀想だったので離れるように言って、全裸妖精さんの容態を確認する。

死んではいないが極度の昏睡状態にあり、かなりの長期間この状態だったのか、身体も細くて筋肉も殆ど衰えていた。

・・・確認しといてなんだけど、本当に生きてるよね、これ。

 

取り敢えず、虫妖精さん達に上げていた布団を敷いて軽過ぎる身体を抱えてそこへ寝かせる。そして、それから・・・・・・どうするんだ?

 

むむ・・・病人の介護ならまだしも、ただ弱ってる人ってどういう処置をするのが正解なんだ?

何か食べさせるにしても、寝ている状態ではどうにも出来ないし、試しに水を飲ませてみたが、口の中に溜まるだけで飲み込もうとはしなかった。

 

・・・てか、これ普通に窒息するんじゃね?

 

そう気付いて慌てて顔を横に倒し、水を吐き出させたものの、呼吸の確認をすると息をしていなかった。

急いで心臓マッサージをしようとして、あまりにも薄い胸板にマジでトドメを刺しかねないと判断し、人工呼吸をする事にした。

 

やるのは初めてだが、名探偵コ〇ンでやり方は学んでいるのでバッチグーである。気道確保のために顎クイをして口を付け―――直前で、死にかけていた全裸妖精さんの瞳に光が宿り、横へ飛び起きた。

 

 

「いやー、はははありがとう。君のお陰で永い眠りから醒めることが出来たよー、本当にありがとねー」

 

 

なるほど、眠れる森の王子様と言うやつか。口付けで起きるとはまたベタな展開だ。いや、しておりませんけども。

 

しかし、一瞬元気そうに笑っていた妖精はフラリと倒れて辛そうにしていた。

どうやら、いきなり動いた反動で身体に負荷が掛かったらしい。

 

もう一度布団に寝かせ、どうしても群がりたがる虫妖精さん達を制したら何故か俺に群がってきたものの、まぁ慣れてるので彼らはそのままに、全裸妖精さんの看病をする事になった。

 

とは言え、別に病気でもなんでもないので特にすることも無いのだが。

 

強いて言えば、暇な時間に自作の英雄譚(絵本もあるよ)の読み聞かせをしたり、英雄様の抱き枕を懐に入れてあげたり、英雄様の勇姿を描いた一枚絵を何枚も見せてあげたりするくらいだった。あと偶に生存確認。

 

お仕事で時々しか来れなかったが、俺に代わって一生懸命、看病と布教をしてくれた虫妖精さん達のお陰で、全裸妖精さんはすこぶる元気になった。

 

そして漸く名前やら事情やらを聞けたのだが、全裸妖精さんことオベロンさんは、なんと異国の王様だったのだ。

しかし、王様は王様でも、今は領地を持たない文字通り裸一貫の王様なんだとか。

 

であれば、いつまでも裸という訳にはいかない。

俺が作った英雄様グッズのTシャツとズボンはやんわりと断られてしまったので、なんかそれっぽいマントに、それっぽい王冠、そしてそれっぽい一張羅を作ってあげた。

 

自分で言うのもなんだが、それらを着たオベロンさんは本当に何処かの王様みたいで、思った以上に似合ってて見惚れてしまった。最初は疑っていたが、王様だったという話も本当かもしれない。それも飛びっきり優しい王様。

 

なんせ、本当に良い人なのだ。

虫妖精さん達と一緒に俺の話を凄い熱心に聞いてくれるし、彼は彼で独自に得た外の情報を面白おかしく伝えてくれて、俺や虫妖精さん達を楽しませてくれる。

グッズに関してはいつもやんわりと断られてしまうが、それでもその出来に関しては普通に褒めてくれる。

 

そう、彼はオタクに優しい王様なのだ。

 

いやホント、フィギュアはフィギュアであって小人でもなければ、誰かが石化した訳でも無いし、ブロマイドも絵だって言ってんのに、誰も信じようとしない。

どうして頑なに裏側を暴こうとするのか。どうして綴じ袋感覚で裂いてしまうのか。二千年経っても未だに理解されないことに俺は悲しみを覚えるよ、トホホ。

 

芸術では無いが、物作りという点に於いては土の氏族のドワーフなんかが居たりするが、彼らはその・・・方向性が違うから、ちょっと苦手。

鍛冶師ガチ勢と言うか、なんと言うか・・・英雄様ではなく、作った物に対して評価してくるもんだから、結局、俺の話は聞いてくれないんだよな。

アニメのキャラの話をしてたのに、映像技術の凄さで盛り上がられた感じ。ヘコむわ。

 

しかし、今日は違う。

同志とまではいかなくとも、新しい理解者を得られた、そんな素晴らしい日なのだ。

と言うか、モルガン様から布教活動は控えるように言われてたし、モルガン様ラブ勢な女王軍には無意味だったりと、布教自体が結構久しぶりだったりする。

 

そこで虫妖精さん達以来の大チャンスにやる気が爆発した俺は、英雄様グッズのフルコースと秘蔵のお宝であるコスプレ衣装までも持って来て、全力で推しに推した。

 

しかし、結果は芳しくなく、英雄様の素晴らしさを理解されはしても沼ることはなかった。

くそぅ、彼の宣伝力があれば、今頃妖精國は話題の"予言の子"と英雄様を同一人物だと勘違いして、英雄様ブーム到来間違い無しだったのだが。

 

・・・いや待て。そうなると "予言の子" である英雄様がモルガン様を打倒する存在になる訳で、その情報がモルガン様の耳に入れば、益々布教活動を禁止されてしまうし、なんなら反乱分子として要らぬ容疑を掛けられてしまうかもしれない。

・・・・・・くっ、仕方ない。このプランは諦めるしかないか。

大人しく、いつも通りの布教活動に勤しむとしよう。勘違いされないように、予言の子と英雄様は別人だと、きちんと明言しながらな。

 

 

 

 

 

ある日、虫妖精さん達の森へ行くと、あちこち飛び回っているらしく、中々顔を合わせられないオベロンさんに魔術について何か知らないか、とそう聞かれた。

 

確かに、妖精國唯一の魔術師であるモルガン様(バーヴァン・シーは見習い)と長らくを共にしたので分からなくはないが、理解しているかと言われると話は別である。

 

しかし、この俺、妖精騎士ベディヴィエール様はモルガン女王陛下一番の騎士なので、魔術について分かりませんと答えるのはちょっと癪である。

癪ではあるが、事実として魔術はさっぱりなので苦肉の策として、魔術では無く科学を教えてみた。いやそんな大層なものではなく、どちらかと言えば理科の実験に近いものだが。

 

だが、どうやらそれで十分だったらしく、何に使うのか用途を聞く前に再び飛び去ってしまった。

領地が無かろうと王様ってのは本当に忙しいんだなぁ、と感じながらも、小さくなっていく背中に・・・え、待って。なんか物理的に小さくなってない?

 

すご、王様ってそんな事も出来るのか。

 

 

・・・・・・つまり同じ王様であるモルガン様も小さくなれるってこと?

 

ミニマムモルガン様・・・今度、バーヴァン・シーに作ってあげよ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

それは突然の知らせだった。

 

いつもの様に仕事に追われ、どうでもいい妖精共との一部を除き、相変わらず策略も無ければ思惑も無い、保身ばかりに走るつまらない会議を終え、考え玉座で一息()いていた時のことだった。

 

 

「ご報告致します! 妖精騎士ベディヴィエール様が行方不明との知らせが!」

 

「・・・なんだと?」

 

 

その報告を聞いた瞬間、モルガンの脳裏にあらゆる可能性が駆け巡る。

裏切り、罠、未知の敵、あるいは厄災関連・・・。

 

だが、どれも可能性は低いものばかりで、何故そんな事になったのか、何故そのような事をしたのか、理由の特定までは至らなかった。

 

 

「他に情報は?」

「そ、それが・・・ソールズベリーの住民に"名なしの森"の方へ行くのを見たとの証言が・・・」

「・・・ッ!?」

 

 

モルガンは、己の行いを悔いていた。

あの子のプライベートを優先せず、常に把握しておくべきだった、と。

何処にも行かないように、首輪を付けておくべきだった、と。

そうすれば、こんな事にはならなかった。

 

まさか、自身が知らぬ間にそこまで追い詰められていたなんて、気付きもしなかった。

 

だが、後悔の先に立つものは何も無い。

無意味な思考だと切り捨て、素早くこれからの計画を立て直していく。

 

 

(何故、何故ですか・・・)

 

 

しかし、今回ばかりは向かった場所が悪く、その事実が二千年もの間、国を治めてきた規格外の頭脳を曇らせる。

 

"名なしの森"

 

そこは嘗て、コーンウォールという村があり、今では妖精であることの意味を見失った者達が辿り着く最後の楽園。

死んだ領主が残した呪いによって霧に覆われた森に入れば、次第に多くのことを忘れていき、最後は妖精としての名を、役割を、そして過去すらも失ってしまう。

 

 

(約束したでしょう、ずっと傍に居ると・・・!)

 

 

モルガンは明らかに冷静さを欠いていた。

 

平時であれば、少々面倒ではあるがそれでも命より大事な者のために全力で"名なしの森"の霧を剥がしに掛かり、そして素早く確保する筈だった。

 

だがモルガンは、あのちょっとお馬鹿で心優しい妖精を縛り付け、自分の手元に置いておきたい訳では無い。いや、出来ることならずっと傍にいて欲しいし、現にそう約束したのだが、それは飽く迄も口約束。魔女にしては珍しい、なんの対価も、保証も無い、ただの口約束だった。

 

傀儡にしたい訳では無いのだ。愛玩動物として愛でたい訳でも無い。

求めるのは彼女の幸福。やりたい様にやって、ずっと笑顔でいてくれれば、それで十分だった。

 

その結果、本当に最悪の場合だが、自身の下を離れる事になったとしても、モルガンは許すつもりでいた。それが彼女の望むことであれば、大人しく引き下がるつもりでいた。・・・凄い寂しいけど。

 

 

だからこそ、自分の意思で "名なしの森"へ向かったともなれば、軽率に連れ戻すことは出来ない。

 

なんせ妖精騎士である彼女に敵う者など、この島には数える程しか居らず、その少なくない強者すらも殆どがモルガンの勢力下。

であれば、誰かに無理矢理連れて行かれたのではなく、彼女自らがあの森へ行ったと考えるのが自然な訳で・・・。

 

 

「・・・・・・うぅ」

 

 

結局、心優しき女王様は、いつか自分の下に帰って来ることを信じて、ただ待つことしか出来なかった。




敗因
女王様:考え過ぎ
どアホ:考え無さ過ぎ

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