対ありでした。またお願いします。   作:春日野つばき

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第9話 暴風の如く

 ほのぼのした会話をしていたローゼマリアはふと自己紹介をしていなかったことに気が付いて居住まいを正す。

 

「あ、ご挨拶もなしにご無礼を! わたくしはドンキホーテ・ローゼマリア。ドンキホーテ家ミョスガルドの娘でございます。この度は我が家の使用人たちをこの船に乗せることをご了承下さりまことに感謝しております」

「使用人?」

「だって奴隷じゃないもの。奴隷印は押されてしまったけど……眠っている人たちは、起きているままだと精神的に耐えられないと自己判断した人たちです。ドンキホーテ家以前に、他の屋敷で奴隷相応の扱いを受けてきた人たち。睡眠装置に入れたのですが、じきに目を覚ますでしょう」

 

 ローゼマリアの口上に眉をぴくりと動かした白ひげはエースに目を落とす。伝えていないのかという明らかな非難を込めた視線だった。

 ああそうだ、とエースが口を開こうとした瞬間、敵襲、の言葉が叫ばれる。瞬時に全員が監視役の指さす方向へとギラつく目で睨み付けた。

 

「海軍だ!」

 

 誰が叫んだか、全員が殺気立つ。落ち着いた冷静そのものなのはごく少数。ローゼマリアは冷静の部類に入っていた。

 

「船長さん」

 

 すすす、と控えめに前に出たローゼマリアは腰元に付いているモンスターボールを3つ手にしている。鋭く見下されても気にせずにっこりと笑みを湛えた。

 

「我が家の者たちを乗せて頂くことへの礼をせねばなりません。金銭面ではお父上様からお話があるでしょうから、わたくしは海軍を追い払いたいと思いますわ」

「……何だと?」

 

 エースやマルコなど、ローゼマリアの近くに居た隊長格は振り返って線の細い令嬢をしげしげと眺める。武力で応戦すればあっという間に彼女が壊れてしまいそうだ。

 ローゼマリアがボールを天高く放り投げる。白い光とともに中から現れたのはゼクロムと、通常色と色違いのルギア二体であった。

 

「この子はマリンフォードの時に見たかと思います。ルギアのギールちゃんと申しますわ。こっちの赤いのはルアーちゃん」

「ぎゅあ」

「ぎゃおおおおおっ」

 

 あとこの子はゼクロムといいます、と紹介すれば「バリバリダー!」と鳴いた。

 

「この子たちは「自然」です。自然に人が刃向かえる道理はないのですから、力を貸して貰い、追い払います」

「自然、だと?」

「ええ。ゼクロムは世界中を焼き尽くすほどの稲妻を発生させることが出来ます。ルギアは「海の神」ですから、海でこの子に敵う者は何人たりともいないのです」

 

 それが魚人族だとしても、海にいる以上ルギアには敵わない。そう言い放つ笑顔のローゼマリアはおもむろに片手を高くあげた。その頃にはほぼ全員がローゼマリアに注目していて、一挙一動をつぶさに見つめていた。

 

「ゼクロム、軽く揉んであげましょう。「クロスサンダー」で蹴散らして」

「ババリバリッシュ!」

「フーパ。砲弾が来たら全てあの船たちの上に「お出まし」してちょうだい」

「わかった!」

「ギールちゃんは「エアロブラスト」を、ルアーちゃんは「ドラゴンダイブ」を」

「ぎゃああああっ!!」

 

 トレーナーの指示を聞き届けた各々が動き出す。バリバリと周囲に雷を迸らせ天へと向かったゼクロムは巨大な雷となって海軍の船に落ちた。

 それだけで既に相手は消沈していると思われるのに、ルギア二体が情け容赦なく牙を剥く。

 

 砲弾は生き残った船が発射するが、フーパのリングによって自分たちの船が砕かれた。

 

 白ひげ海賊団の面々はそれをただ呆然と見つめるしか出来ない。ものの数分で数十隻はあるかと思われた海軍の軍艦は壊滅し、残骸が空しく海面を漂うだけになった。

 

「うふふ。さすが、私の子たち」

 

 畏怖を込めて、恐怖を込めて、船員たちはローゼマリアを振り返り見る。あの力があればモビー・ディック号など木くず同然だろう。

 もしも彼女の機嫌を損ねてアレらが牙を剥けば――想像に難くないのは実際に今、目にしたから。

 

「ふーぱすごぉい! つよぉい!」

「ええフーパ」

 

 無邪気な声で喜ぶフーパも、白ひげと同じくらいの大巨漢。ただ暴れただけでもモビー・ディック号に大損傷を与えることは必至。

 

「オヤジ」

「ほんとにいいんですか」

 

 使用人とはいえ関係者を乗せることを、本当に許可していいんですか。という船員たちの問いかけには答えなかった。

 のそりとローゼマリアの前に出る。

 

「ひとつ、約束をしてくれ。――その力を息子やこの船に乗る者へ向けないと、そう約束をしてほしい」

 

 むすこですか……とキョトンとした顔をするローゼマリアはにっこり微笑んだ。

 

「わたくしはポケモンたちを兵器などに使うつもりは毛頭ございません。もしポケモンたちに危害を加える、ということでなければこの子たちが牙を剥くことも、それを命じることもないですが」

 

 戻ってきたゼクロムやルギアたちを撫でながら告げるローゼマリアに、白ひげは一度だけ頷く。

 「でもわたくし」と、続けようとしたところでサーナイトがローゼマリアの袖をくいくい引っ張った。そのままエースを指さしている。

 

「どうしたの?」

「さぁな」

「エースくん? と、私?」

「さな」

 

 エースとローゼマリアを交互に指したサーナイトは鳴きながら何かを訴えている。ふうん、と考え込んでからピンときたのか「ああ」と手を打ち付けた。

 

「エースくんに付けたインクのこと? そうね、それ消さないといけないわね」

「さな、さなさなぁ」

 

 違うんだと言っているようだが、既にボールに手をかけているローゼマリアは気付いていない。きょろきょろと辺りを見渡して、船の欄干から若干身を乗り出して何かを確認している。

 あぶねえよ、とエースが近付くが「うん」とあまり聞いていないようだ。

 

「ここじゃ狭くて出せない。ロトム、ボックス開いて。ホエルオーからシードラに」

「ケテ!」

 

 何処からか声がしてマルコたちが四方八方に目を走らせている中、ローゼマリアの手に合ったボールの柄が瞬間変わったことに気付いたのはエースのみ。

 軽く放れば、中からタツノオトシゴに似たポケモン、シードラが出てきた。

 

「こっち来て……ここ立っててちょうだい」

「ここか?」

「ん。抑えてるから頑張ってね。――シードラ、「しおみず」!」

 

 え、とローゼマリアの言った意味を考える間もなく、背中に強い衝撃を受ける。ローゼマリアが抑えていなければ踏ん張れずに吹っ飛んでいたことだろう。

 

「エース!」

 

 イゾウの声が聞こえたが、エースは口を開けられなかった。体感にして十数分経った頃――実際は一分も経っていないのだろう――ようやく背中に感じていた衝撃はなくなる。

 ローゼマリアがタオルで背中を拭いてくれ、はい終わり、と海賊団の面々に向けて見せた。

 

 くっきりと残っていた禍々しい紋章は消えて、見慣れた背中になっている。

 

「ありがとうシードラ。戻って」

 

 しーど、と嬉しそうに鳴いたシードラはボールに戻っていく。ゼクロムやルギアたちも戻していったローゼマリアは、名残惜しそうで寂しそうに微笑んだ。

 

「じゃあ……エースくん」

「あ~……悪いんだがロザ、話がある」

 

 切り出してきたローゼマリアに、エースはとてもすまなそうにしながらも、口を開いた。

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