対ありでした。またお願いします。   作:春日野つばき

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※先生……恋愛も、書けないです……!!


第13話 険悪

「何者か、と問われて自らを正確に答えられる者がどれほどいましょう。……天竜人である、ポートガス・D・エースの馴染みである。あなたが望む「何者」かの答えはきっと出せませんが」

「ならばソレらは何処から連れてきた?」

「産まれた時から傍に」

 

 ピリついた気配にギャロップがイゾウを睨み付ける。苛めるなとでも言っているのか、それとも近付くなと叫んでいるのか、ひとこえ吠えた。

 

「イゾウ。ロザは俺の幼馴染みで天竜人、それから沢山の友達が居る。――それだけで済ませちゃくれねェか」

「エース……」

 

 2人の間に流れる空気が悪いことに気が付いたのか、エースもローゼマリアを背に庇う。

 

「今ンとこ、ロザの()()は船の誰も傷つけてねえ。何かしらを傍に置くのも、親父たちが監視を置くことに決めたコトに対する自己防衛みてェなモンだろ。イゾウたちが友達を恐れるように、コイツらだってロザに危害が加わることを恐れてる」

 

 ボウッと背中の炎を滾らせるギャロップはエースの言葉をきちんと理解しているように見えた。

 

「ひと月くれェじゃ互いなんて分かりっこねえだろ。俺はロザに頼まれてお前たちのことを教えてる。頼まれなくても教えた。早く船に馴染めばその後の航海も楽しいだろ」

「エース……、あのな、」

「少なくとも親父が言った「監視」は、今ここでロザを問い詰めろってこっちゃねえだろッてんだ!」

「エースくん!」

 

 パチッ、エースの身体から出た火が何かを爆ぜさせる。「っつう、」怒りで爆ぜた火の粉がローゼマリアに降りかかったのか、呻いた。2人がハッとローゼマリアに視線を移すと、ギャロップがエースを押し退ける。反動で尻餅をついたエース。

 

「ぎゃああっぷ!!!」

 

 母を傷つけたな、と言っているのが聞こえそうな絶叫。ぼあーっとはいた星たちを避けた2人は、それが簡単に太い樹をなぎ倒していくのを目の当たりにした。

 

「ギャロップ止めなさい!!!」

 

 忌々しそうに睨めつけてくるギャロップをどうにかしようと臨戦態勢を取るイゾウと、あくまで無防備でいるエース。じりじりと睨み合うその静寂をローゼマリアが破る。

 

「お前はもうボールにお戻り」

「ぎゃあっぷ!?」

「お戻り!!」

 

 腰元のボールをカチリと押して、戻した。どうしてと反対するギャロップだが、大人しく戻っていく。そのままボールのロックをかけ、自力では出てこられないようにして腰に戻した。

 

「ロザ! すまねえ、火傷してねェか!?」

「大丈夫。火の粉が飛んだのにビックリしただけだから」

 

 慌てて駆け寄り容態を確認するエースはローゼマリアの何処にも火傷痕が無いことを再三確かめてホッとひと息ついたところで再度イゾウを睨み付ける。エースくん、と腕を引かれるが、眉間の皺は深いまま。

 

「……ポケモンたちが怖いというなら、私はエースくん以外のあなた方が怖いです。船長さんの許可を得てみんなを故郷に帰すため、乗船してますが……当然ながら男性ばかりのあの船で、襲われでもしたら誰が責任を取ってくださるのです? お父上様が乗せろと言ったから乗せただけ、責任は無いと仰るおつもりですの?」

「船員たちはそのようなことをしない連中ばかりだ」

「あの船の方だけではありません。船自体が襲われ、敵がなだれ込めば? いつだって警戒してし過ぎることはない。船員さんたちも平時は穏やかでいらっしゃいますが戦闘時には警戒を怠らないでしょう。同じことだとどうして誰も気付いて下さらないのかしら」

 

 凛とイゾウの目を見据えるローゼマリア。「万が一、に備えることはあなた方もしていることです」とダメ押しのように告げられ、二の句が出なくなる。

 気まずい雰囲気のままひたすら歩き続けて、空が赤く燃え上がる頃にようやくモビー・ディック号を見つけた。

 

 船では、エース、イゾウ、ローゼマリアが暴漢に絡まれた後行方が分からなくなったと船員たちが騒ぎ出していた。ケーシィによって戻されたルルンとガロは今にも飛び出して行きそうなところを、3番隊隊長ジョズによって留められているくらいには錯乱気味だ。

 

「お嬢様をお守りするという旦那様とのお約束があるのだ!」

「離せ! お嬢様を探しに行かなければ!」

 

 ケーシィとフーディンもどうしていいのかと困惑している。ケーシィはともかくフーディンならば気配を読んで飛ぶくらい朝飯前である、が、勝手に出歩かないよう言いつけられているその命令との間で板挟み状態となっていた。

 

「その“お嬢様”はエースとイゾウが傍に居るから、今アンタたちに勝手に離れられると困るんだよな」

「並の船員ならまだしも、2番隊と16番隊の隊長がいてお嬢さんが危ない目に遭うこともないだろうよぃ」

「ふざけるな! あの輩どもが絡んできたのはその2番隊隊長がいたからだ! お嬢様がお側に寄ることを許す唯一の方だからと何も言わなかったが、今後も続くようならば我らが牙を剥くぞ!!」

 

 ジョズと、帰ってきていたマルコの言葉に激昂するガロ。ルルンもガロに同意するように引き留めるジョズを睨み付けていた。

 

「確かにそいつはエースが悪ぃな。だが対処はエース自身で出来る。アイツならお嬢さんを庇いながら戦うことだって容易のはずだよぃ。ちょいと小耳に挟んだんだけどな、暴漢の足止めはお嬢さんもしたようだぜぃ。お前さんたちが箱入りにしないでも十分だってことじゃねえか?」

「そうしてお嬢様の信頼するポケモンの凶暴性を指摘し、監視体制を強める手筈になっているのか? 此度のことも、まさかお前たちがお嬢様を罠にはめるため仕組んだことではあるまいな?」

 

 ジョズの両脇に抱えられ直したルルンとガロの前に立つマルコを、ルルンが鋭く睨めつけた。視線だけで人を殺せるなら、マルコはもう数え切れないくらい殺されている。それほど強い眼力だった。

 言いがかりにも近いルルンの主張に3番隊の隊員たちは殺気立つ。一触即発、ビリビリと肌に痛い殺気で満ち満ちた船室は「けぇい!」というケーシィの鳴き声で一点を向いた。

 

「けい! けぇい!」

「ふでぃ」

「ごめんねケーシィ、フーディンも。ただいま」

 

 そこには、ふえええん、と迷子の子供が母を見つけた時のような号泣を見せるケーシィと、心底安堵した顔のフーディン、タラップを上がってきたローゼマリアとエース、イゾウがいた。

 ローゼマリアの豊満な胸に惜しむこと無く顔を埋め泣きじゃくるケーシィ。抱きしめてあやす彼女の姿は、何も知らなければ赤子でも抱えているのかと思ってしまいそうだ。

 

「エース、イゾウ、お前たちどこまで行ってたんだよぃ」

「恐らくだが島の反対側に出た。海岸線からぐるりと遠回りだ」

「そりゃ大冒険だなぃ」

 

 島で手に入れただろう地図の前でああだこうだと指をさすイゾウとマルコ。ルルンとガロはケーシィに負けない大号泣でローゼマリアに縋った。

 船に人が戻り、ことの次第が白ひげにも伝わった後。既に夜間船番になっている2番隊と交代し終わった3番隊の面々が部屋に戻る頃、ローゼマリアの部屋のドアを叩く音がした。

 

「どなたですか」

 

 ボールから出しているフシギバナとウインディが威嚇していることからエースではないと判断したローゼマリアの声は固い。

 

「イゾウだ。……夜分すまない。少々時間を頂きたいのだが」

「……はい」

 

 風呂上がりなのか比較的ラフな格好のイゾウは、ローゼマリアの顔を見るなり「すまなかった」と頭を下げる。

 

「昼間の件で謝りたい。本当にすまなかった」

「え、あの……?」

「さきほど、親父にも諭されてな。少なくともあの場でギャロップ(炎の馬)を刺激するようなことを口にするべきではなかった。ご令嬢にも不快な思いをさせてしまった……謝罪はいらないというなら、頭だけ下げさせてくれ」

 

 真剣な眼差しで見つめてくるイゾウを、まっすぐに見つめ返すローゼマリア。ス、とゆっくり膝を折った。

 

「16番隊隊長さんの謝罪をお受け致します。それと、こちらこそ不快にさせる物言いをしてしまい謝罪を申し入れさせて頂けませんか?」

「当然ながら受け入れます」

 

 和解の申し出を受けたローゼマリアとイゾウはそれから少しだけ話し、夜更けにすまなかったという言葉で締めくくって自室へと戻っていく。見送ったローゼマリアは寝ようとして寝転んだが全く眠れずウインディを連れて甲板に出た。

 

「くう」

 

 心配そうなウインディを撫で、目を瞑り、ちゃぷちゃぷ波に揺られる感覚を感じ取ろうとしているローゼマリア。耳に残る男たちの悲鳴がどうしても眠りを妨げるのだ。

 ハア、と耳をごしごしと擦りつけて悲鳴を消そうとしていると、上から声が降ってきてそちらを向く。

 

「ロザ! 寝れねえのか?」

「エースくん」

 

 こっちに来い、と手招かれ、見張り台まで梯子を使って上がる。もう一人、2番隊隊員と思われる男がいたが、エースが顎をしゃくって下ろしたため見張り台にはエースとローゼマリア以外いなくなった。

 腰に付けていたボールから巨大フクロウ、ヨルノズクを出したローゼマリアは「船が見えたら教えて」と命じる。

 

「さみーだろ、来いよ」

「うん。しつれーしまーす」

 

 あぐらをかいたエースの上に腰を落としたローゼマリアは、ブランケットのようなもので包まれてホッと息を吐く。

 高い体温がじんわりと身体を温めてくれて、それだけで瞼が落ちてきそうだ。

 

「今日は色々あったからな。気が高ぶってンだろ。ここでゆっくりしてきゃいい」

 

 うん、と頷いたローゼマリアはそれからとりとめのない話をした。食事の話。景色の話。船に乗ったことで天竜人という身分や肩書きでは見られなかったものが面白くて仕方ないのだと、頬を赤く染めて話をした。エースはその全てを肯定するように頷く。

 イゾウの謝罪を受けたことも話す。自分が謝罪したことも。

 

「ちょっとは、仲良くなれたかな」

「さあ……どうだかな」

 

 エースに身を委ねて喋るローゼマリアは、耳に心地よい低音で、昼間の男たちの悲鳴がかき消えていくのを感じた。トクトクとエースの心臓が鼓動している音が眠りに誘ってくる。

 

「でね……あのね……」

「ああ」

 

 こっくりこっくり船をこぐローゼマリアが揺らす頭を自身の首元に持ってきてもたれさせたエース。すぐにスウスウと小さな寝息を立てて、ローゼマリアは寝入ってしまった。

 優しく後頭部を撫でていたエースは彼女の身体を抱え込むとジッと寝顔を見つめる。

 

「(睫毛長ェ……ホントに男の傍で無防備なのムカつくな)」

 

 もちろんローゼマリアはエースだから気を許し無防備で居るのだと思う。ウインディは梯子の下で寝転がってあくびしているし、ヨルノズクも眠ってしまった主人が害されることなどないと信じているらしく興味も示さない。

 これが他の船員なら。

 きっとローゼマリアはこんな風に無防備な寝顔など見せないだろうし、眠くなった時点で部屋に引っ込んでしまうだろう。エースだからという優越感と、幼馴染みだからというある種の空しさでせめぎ合いになる。

 

「(お前の特別になりたいって、こんな女々しいこと言えるわけねえ)」

「言えるわけ、ねえよ」

 

 言ったが最後、知らなかった時の関係には二度と戻れない。無事に結ばれれば万々歳。大団円。でももし、そうでなかったら?

 無意識の内にギリッと唇を噛んでいたらしく、食いちぎったところから一筋の血が伝う。

 

 脳裏に浮かぶのはあの日。エースが心を奪われた、ローゼマリアの純粋な目が、浮かんだ。

 鬼の子なんだと突き放すエースに、彼女は髪をわしゃわしゃ撫でてこう言ったのだ。

 

 ――つのがないから、エースくんはおになんかじゃないよ!

 ――もしおにでも、エースくんはエースくんだから、あたし、きらいになんてならないもん。

 ――あたしは、エースくんがすきっ!

 

「サボ。……お前なら、どんな答えを出す……?」

 

 死んだ兄弟に問うても答えが返ってこないと知っていて、聞かずにはいられなかった。

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