対ありでした。またお願いします。   作:春日野つばき

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第14話 カレー

「カレーが食いたい」

 

 島を出航し、再び海上を進むモビー・ディック号の食堂にて、エースはそう言ってローゼマリアに頭を下げた。

 海上では新鮮で腐りやすいものから消費していくため、必然的に補給をしてから10日も過ぎれば干し肉や乾き物を工夫した料理になる。料理人でもあった故4番隊隊長、サッチは創意工夫して飽きさせないものだった。ここ最近は適当にかけておいた網に魚が大量にかかったため魚料理がメインだったのだが、エースはもう飽きたらしい。

 

「あの、コルボ山で食った辛いやつがいい!」

「辛いの? まあそれはいいけど……」

 

 本当に私が立ち入っても構わないの? と念押ししてくる。

 

「まあみんな、魚にはそろそろ飽きてる頃だからな。他の料理人には悪いが、たまには人を変えて見るのも悪くはねえってオヤジとも相談した結果だよぃ。カレー、作ってくれるかぃ」

 

 人手がいるなら言ってくれ、とマルコからもお墨付きを得たローゼマリアは早速キッチンに入った。下働きの船員がジャガ芋や人参、玉葱などの皮むきをしていることと、ギャラリーが多いことを除けばいいキッチンだ。広いし、当然ながら大量作りに向いている大釜もある。干し肉も決められてはいるが相当量を使って良いとお達しが出た。乾き物とはいえ早く使い切ってしまわないと新しいやつが使えないのだという。

 

 さぁて、と既に皮が剥かれたジャガ芋や人参などの具材を全て刻んでいく。同時進行でフーディンには大釜に油を引いてもらう。カレー粉を軽く炒めてもらいつつ、具材を流し込んだ。

 

「俺やろうか?」

「ううん。みんな忙しいだろうし、大丈夫」

 

 手伝いを断られたエースはしょぼんとした顔で出入り口まで戻っていく。

 よく火を通した後、ラプラスの「ハイドロポンプ」をフーディンが上手く「サイコキネシス」で操って鍋の中に入れ、グツグツ煮込み始めた。ローゼマリアはきのみを取り出すと刻む。

 

 オレン、オボン、フィラとマゴを少し。鍋に入れてまた煮込んだ。炒めたカレー粉がぷわんと香る。

 ぐぐぐ~っと誰かのお腹が盛大に鳴る音を聞きながら、カレールウをこまかーく刻んで鍋に入れ、溶かしていく。

 

 大きく切った干し肉を入れてくつくつ煮込む。

 

「主食なくない?」

「ふでぃ?」

 

 はたと気づく。米がない。

 元々備蓄には米はそんなにないが、カレーには米が合う。男たちが食べているのをそんなに見ないので気にしていなかったが、米は大事だ。

 

「パンも合うだろ?」

「ええ。まあ」

「米はワノ国とか、特定の場所にしかねえからな。パンで十分だ」

 

 いそいそとパンを切り始めるのは8番隊隊長ナミュール。バゲットが厚めに切られていく。

 カレーのいい匂いがぷわんとキッチンのみならず食堂全体に広がった。

 

「ふーでぃ。ふでぃん」

「味見ね」

 

 フーディンは「サイコキネシス」で少しだけ取り分け、味を見ろと言ってきた。辛すぎず甘すぎず、まあ万人受けするだろうと予測できる味。

 よし、とおたまを置くと「完成か!」と男たちが沸き立つ。

 

「まだ最後の仕上げがあるの」

 

 おもむろに人差し指と中指でハートマークを作ったローゼマリアは、パチンっとウインクした。

 指からは黄色い球体に包まれたハートマークが現れ、ぽーんとカレーの中に入ったかと思えばボフンと音を立てる。

 

「はい完成」

「最後のは何だよぃ……」

「まごころ」

 

 なんて事ないように言ったローゼマリアは、皿によそったカレーの上に刻んだマトマをのせる。

 

「はいエースくん、お待たせ」

 

 ことんと置かれたスプーンを手に「いただきます!」と威勢のいい声が食堂に響き渡った。かきこむようにして頬張るエースはむぐむぐと噛んで飲み込むや「うめぇ!」と叫ぶ。

 

「かれぇしうめぇ! ロザおかわり!」

「はや。……はい」

 

 マトマ入れて美味しいが出るのエースくんくらいだわ、と苦笑するローゼマリア。

 エースの様子を窺っていた船員たちは、ばくばくと食べる姿を見て我先にと皿によそい始める。切ったパンもあっという間に無くなった。

 

「ふでぃ」

「ああそうね。1番隊隊長さん、カレー、少し頂いてよろしいかしら」

 

 確かにこりゃ美味い、と舌鼓を打っていたマルコは、その声にローゼマリアを見る。

 

「構わねえよぃ。つかお嬢さんが作ったんだから好きなだけ持ってっていいぜ。……あ、オヤジの分はよけといてくれ」

「ありがとうございます。フーディン、ラプラス、2人で相談してトッピング決めていいよ」

 

 わーい、とバッグの中を覗くフーディンとラプラス。トッピングと聞いて船員たちの耳がぴくぴく動く。

 これがいい、と出してきたのは「フサパック」。切り分けて盛りつければ。

 

「はいみんな、トロピカルカレーだよ〜」

 

 出ておいで〜、とボールから出したローゼマリアは、ポケモンたちの分をよそって手渡す。

 バナナに似た「フサパック」と程よいカレーがマッチしたトロピカルカレー。しぶくち、からくち、すっぱくち、そのどれでもないカレーはポケモンたちに大好評だ。

 

「ロザ、俺にもひとくち」

「えっこれ辛くないよ」

「くーれ」

 

 あ、と雛鳥のように口を開けて待つエースの口に放り込むローゼマリア。

 もぐむぐと食べたエースがポツリと漏らした「うめえ」に、船員たちは群がったのだった。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

「オヤジ。飯だよぃ」

 

 船長室に向かったマルコは、パンとカレー皿を入れたトレーをサイドデスクに置く。

 食堂で食べたいと言った白ひげだったが、ナースたちによって「今日は検査がある」と部屋に押し込められていて、ようやく解放されたところだった。

 

「おう。……今日だったか?」

「ああ。意外に美味い。辛すぎず甘すぎず、後味はさっぱりしてるからオヤジも完食できるはずだよぃ」

「カレーで後味さっぱりか?」

 

 柑橘みてえな後味なんだ、と勧めるマルコ。パンに付けてひとくちで食べた白ひげは「ふうむ」と唸ったかと思えば何も言わずに食べ進める。それが、白ひげの口に合った時の癖だと知っているからこそ口元を緩ませた。

 

「ポケモンとかいう生物たちも同じカレー食ってたよぃ」

「そうか。……どんな様子だ?」

「俺からすれば、なら良好だと思うぜ。今のとこな」

 

 近くの椅子に腰掛けたマルコは事もなげにそう告げる。

 

「害意はなし。敵意があるが、ありゃ俺たちが監視してるからだろうな。現にエースにはほぼ無関心なところがあるよぃ」

「天竜人に仇なす存在ではないとエースを認識しているのか」

「どちらかといえば、お嬢さんが心を開き信頼しているから、ってのが正しそうだ。俺たちには徹頭徹尾貼り付けた微笑みだけ。喜怒哀楽をコロコロ変えんのはエースの前でだけだよぃ」

「それ以外にはあるか」

「……エースの言うことはよく聞いてるってことかぃ。オヤジ」

 

 マルコの指示だけではない。誰かから指示されたことでも、エースと食い違いがあればエースを優先するきらいがあった。「エースの指示はこうだから」「エースはわたくしにこう言ったから」と背を向ける。

 薄く微笑むその姿が不気味に感じられた。

 

「なるほどな……」

 

 かちゃ、と完食しスプーンを置いた白ひげは突然「げほごほっ」と噎せた。焦った様子で立ち上がり、ナースを呼ぼうとするマルコを押しとどめた白ひげは深く息を吐いてベッドに身を沈める。

 

「マルコ。……俺が死んだら、お前、船長やれ」

「!? ……縁起でもねぇこと言うなぃ。オヤジが船長だからこそ付いてきてる連中も多いんだぜ」

「バカヤロウ。言いてェことを言いてェウチに言っとかねえと後悔すンだろ」

「だからそれが縁起でもねえってんだ」

 

 ドカッと苛立ったように椅子に腰掛け直したマルコ。「グラララ」と力なく笑う白ひげはそれ以上何も語らなかった。

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