「とぉりどりのいろたぁちが……」
こぽこぽと空気が押し上げられる音以外は聞こえない部屋の中で、背の低い女性が小さく歌を歌いながら何やら機械を操作している。青白く光る巨大な筒状の機械には様々な人類が収められて眠っていた。
「ふう……特にみんな問題無さそうね」
ギィ、と背もたれにもたれ、その悲鳴を上げさせた女性が浮かべる愁いを帯びた顔を青白い光が照らしている。
「とりどりの、いろたちが……」
その先を小さく口ずさみながら仕舞われている人類の顔をゆっくり眺めながら部屋を出る女性。その足下をちょろちょろと着いていくのは黄色い悪魔と名高き獣。
彼女たちがいるのは「
彼女の名は、ドンキホーテ・ローゼマリア。
世界貴族・天竜人のドンキホーテ・ミョスガルド聖の娘である。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お父上様」
天竜人の中でも異端と言われる奴隷を持たないミョスガルド聖は、同じ屋敷で声をかけられ振り向く。
「おおローゼマリア。おはよう」
「おはようございます」
宇宙服のようなものを纏うミョスガルド聖は、簡素なロング丈の長袖ワンピースを着る娘ににこやかに接した。娘の後ろには侍女服を着た奴隷がいる。ミョスガルド聖は奴隷たちにもにこやかに挨拶を向けた。
「君たちも、おはよう」
「おはようございます旦那様」
「ルルンたちが朝食を作って下さったので、よろしければ席を共に致しませんか?」
娘からの誘いに断る理由も見当たらないミョスガルド聖はにこやかな笑顔を見せる。
ミョスガルド聖は娘ローゼマリアが奴隷を連れている理由を知っているからか、気軽に奴隷にも話しかけた。
「今日の朝食は何かな?」
「本日はお嬢様が食したいと仰っていた、パンケーキにございます。カリカリに焼いたベーコンと、スクランブルエッグ、添え物にポテトをご用意致しました」
「おお聞いているだけで美味そうだ」
ダイニングへと向かったミョスガルド聖とローゼマリアは朝食を取りながらとりとめのない話をする。朝刊には世間の何でも無いことが書かれていた。
聖地マリージョア以外に住む者を「下々民」と呼び蔑む天竜人たちは新聞なんて読まないのだが、ミョスガルド聖は変わり者として有名なので運んできてくれるのだ。
「見てみなさいローゼ。海賊「火拳」のエースとやらが公開処刑をされるそうだ。……痛ましいねえ」
「えー、す?」
海賊で罪人とはいえ公開処刑をされることに胸を痛めるミョスガルド聖は新聞を畳み、傍に控えるルルンへ手渡す。眉を動かしたローゼマリアはルルンから新聞を受け取るとミョスガルド聖が見ていた面を見た。
「知っているのかい」
「……いえ、名前は聞き覚えがあったのですが……」
ローゼマリアには見覚えのない精悍な顔の男が映っている。
「私が愚かであった頃にゴア王国で出会ったというお友達かい」
「はい。……ジャルマック聖が私のお友達を殺して、エースくんたちとは交流を断ちました。でも彼に見覚えは……」
記憶は既に朧気だ。ローゼマリアは、ゴア王国の
「お父上様。何だか嫌な予感がするのです」
「ローゼマリア。愚かだった頃はともかく、今の私に反対の意はないよ。お前の好きなようにしなさい」
ローゼマリアの言わんとすることを察したミョスガルド聖は皆まで言わせず頷いた。
もしこの「火拳のエース」がローゼマリアの知るあのエースなら、という不安感がある。
「それに、確かに海賊行為は大罪だが、何も処刑までと思うのだよ。私が恵まれた環境にいて、海賊に害されていないからこその思いだとは分かっているのだがね」
「……苦しい思いは、苦しい思いをした者にしか分かりません。私もまた、処刑までいかずとも良いのではと思っております」
ミョスガルド聖に微笑み返したローゼマリアはパンケーキを全て平らげると、席を立った。
ルルンたちをその場に残したまま、足早に自室へと戻る。
「
電子機器に向かって名を呼んだローゼマリアに応えて、生き物が飛び出してきた。
「ケテ~! お呼びですかママ!」
「ここからゴア王国までどのくらいかかる?」
「調べるロト!」
ロトムと呼ばれたそれはすぐに電子機器に戻っていき、勝手に画面が動き始める。それを横目に、小型機械を操作するローゼマリア。
手元に赤と白でくっきり分かれたボールが出現する。
「おいで、ピジョット」
モンスターボールから出てきたのは、巨大な鳥、ピジョットだった。母親に甘えるようにくるくると鳴いてすり寄るピジョット。
「お前には少し長旅をしてもらうわ。頑張れる?」
「クルルゥ」
「よしよし良い子。……ゴア王国、山賊のダダン。その元で暮らしているはずのエースくんと弟のルフィくん。人違いであってほしいとこだわ」
「クゥ?」
どうしたの? と顔を覗き込むピジョットを優しく撫でたローゼマリアはロトムの調べが終わるのを待つ。
ドンキホーテ・ローゼマリア。彼女はかつて「ポケモントレーナー」と呼ばれる旅人だった。