「ぴじょっ、とぅーるる!!」
高く鳴いたピジョットが雄々しく羽ばたいて白ひげに向かって鋼に変わった翼を差し向ける。
「オヤジ!」
「オヤジ避けろ!」
口々に白ひげを心配し命じたローゼマリアへの悪意や憎しみ、全ての負の感情をない交ぜにした視線を送る船員たち。
白ひげは拳を振り上げようとしてピジョットの目が自分を見ていないことに気付き、動きを止める。
「ぴじょっとぅー!」
「ガアアッ!」
白ひげの向こうにいたのは、新たな怪物だった。
ガキィンと翼が弾かれる音で、狙ったのは白ひげでないことに気付く。
「ぷて、ら、なんで」
「ぴじょっ!」
「はっ……ことちゃ、うっ……」
「ぴじょっ! ぴじょっとぅーる!」
たたらを踏んで仰向けに倒れ込むローゼマリア。よほど出血が酷いらしく、顔までも白く変わっていた。
「ことちゃ……っ、「エア」、「スラッシュ」!」
「ぴじょー、っとぅるる!」
通常より大きいプテラがなぜか執拗にローゼマリアを狙ってきている。ピジョットで応戦するも、汗が視界を奪っていて前が見えない。血が失われていくにつれて、思考能力も鈍ってくる。
「ロザ! ……そうだ、この間のすげえ奴らを……どのボールだ!?」
「バナ、バナバナ!」
「寝るなよロザ! 寝たらたたき起こすからな!」
激しい空中戦が行われている中、船で動いているのはエースだけ。腰に付けているボールで残っていたのは、ラプラスとギャロップだけ。「ネーラ! どうやって他の奴出すんだ!?」と縋るエース。
チッと舌打ちをして、マルコがローゼマリアの手首付近に腰を下ろす。その指から青い炎が出た。ボウッと勢いよく燃え出す手首。
「マルコ!」
「勘違いするなエース。ご令嬢に話を聞かなきゃならねえ」
ガレリアに攻撃を仕掛けたこと。結果として怪物だったが白ひげにもけしかけたこと。それから――
意識を失わないようにとローゼマリアに声をかけ続けるエースに気付かれないよう見つめるマルコ。脂汗も引き、出血も止まる頃ローゼマリアの目が開く。
「まだ起きるな」
「……ネーラ、コトちゃんは?」
「バナバナ」
「そう……あのプテラ、なんかおかしいわ。ネーラ、捕まえて。調べてみる」
「バナ」
エースに止められ起きかけていた上半身を寝かせたローゼマリアは、フシギバナから「ピジョットはまだ戦っている」と聞かされ指示を出した。
「ご令嬢、アンタに話がある。何も言い訳は聞かねえぞ」
「……分かってるわ。攻撃したことは事実だしね……でもあの子は、ヌイコグマは悪くない。あの子を責めるのはお門違いよ」
「仲間内の切った張ったごと、ウチは御法度なんでな」
まだ息が荒く落ち着かない状態のローゼマリアに、無理に喋らせることないとエースが庇おうとするがラクヨウに口を塞がれビスタと2人がかりで船尾側へ引き離される。
「なぜガレリアを襲わせた」
「……ロコンを、ぼろぼろに傷つけたと、勘違いしたからよ」
「ロコン?」
「そこで眠ってる、六尾の子狐。……私の子じゃないのは分かってたけど、昔から、酷い目に遭わされたポケモンばかり見てたから……頭に血がのぼったのね……ふふふ」
「それは言い訳か?」
マルコの厳しい目に「咄嗟のこと」と呟くローゼマリア。
「おかしなことになってる。……ロコンも、今捕まえようとしてるプテラも。……私の子じゃない」
「アンタが過去に逃がしたとか、そんなことじゃねえのか?」
「私はね、力を貸してくれている子たちをみんな愛してる。ボールに縛られていたって、元は優しい子たち。野生にいたって力を貸してくれた子もいるし……バトルしてゲットした子も、旅に着いてくると決めた子も、みんな私の家族よ。産まれてから逃がした子はひとりもいない」
目を閉じたローゼマリアはむくりと起き上がる。貧血で頭がくらくらするが、強く目を瞑ってやり過ごした。
「コトちゃん「ゴッドバード」で叩き落として! ネーラは落ちてきたところを蔓で捕獲!」
戦況を確認すると、ピジョットの体力が半分くらい持って行かれているところだった。指示が聞こえたピジョットは体勢を立て直すとぐるりと旋回して勢いよく巨大プテラに向かって行く。フシギバナも、何十本も蔓を出して迎え撃つ。
巨大プテラはきりもみ回転しながら落下してくるが最後とばかりに口に光線を溜める。それを見たローゼマリアの顔が悪くなった。
「ヌイコグマ戻って! っつう……ロトム、ボックスチェンジ! デオキシス!」
まだ治らない手首が痛むのかボールを取り落としそうになる。それでも手の中のモンスターボールがプレシャスボールに変わったのを確認して放り投げた。バッグの中からひとつの隕石を取り出すとプレシャスボールに当てる。
「フォルムチェンジ、ディフェンス! デオキシス、「ミラーコート」でプテラの「はかいこうせん」を跳ね返せ!!」
ボールから出てきたデオキシスはディフェンスフォルムにチェンジして球状に「ミラーコート」を展開する。それはだんだん大きくなって、モビー・ディック号を包み込んだ。
しかし耐えられたのは始めだけ。徐々にプテラが近付くにつれて押され……バリンと割れる。
「ロコン!!」
体勢を立て直しかけたプテラが狙うのは、ロコン。ポケモントレーナーだからこそ分かった標的に、ローゼマリアは自然と身体が動いた。
走ってくるウインディ、蔓を伸ばすフシギバナ、トレーナーを守ろうと身を滑り込ませてこようとするピジョット。そのどれもがローゼマリアにはスローモーションに見えた。
「がっ」
ドガシャン
勢いよくロコンを狙ってきたプテラの軌道上に割り込んだローゼマリアはそのまま吹き飛ばされ、壁にぶつかる。巨大な口で食いちぎろうとしたプテラはフシギバナの蔓に絡め取られ身動きが取れなくなった。
「ロザ!」
エースがビスタたちを振り払ってローゼマリアに駆け寄る。ひゅー、ひゅー、としてはいけない息をしている。頭から出血もしており、流石のマルコもすぐさま駆けつけ「再生の炎」でローゼマリアを燃やした。
「ロザ! おい、寝るなよ!」
「揺らすなぃエース!」
ナースたちを呼んでくれ、とにわかに甲板が騒がしくなる。
プテラはフシギバナにぎちぎちに締め上げられ、ウインディやラプラス、ピジョットやギャロップたちに睨み付けられ尚も暴れている。
「っ、て……」
「ロザ! マルコ、ロザが!」
「おい起きるんじゃねえ! お前骨折れてンだぞ!」
「ぷ……て、ら……」
ずる、ずる、と身体を引きずってでもプテラに近付こうとするローゼマリア。その目からは涙が溢れていた。見かねたエースが抱えてプテラの近くまで連れて行く。
「ロザ来たぞ」
「……ぷ、……ら……ごめ、なさ……」
無事な右手をゆっくりとプテラに向けた。
「ひ、とが、……ごめん、なさい……。あなた、そんな、ふうにし、……ゆるし、」
ガクン
崩れ落ちるように気を失ったローゼマリアの手がプテラの鼻先を撫でる。どれほどエースが喉をからして叫んでも、ローゼマリアは目覚めなかった。