「ロコンをあれだけ身を呈して助けようと……もしかして記憶が……」
「あの時失ったと思っていたのに、なんてこと」
「でも、もしかすると覚えているのはあの町から始まったことだけ……処置したことはまだ……だってウインディに接する態度が普通すぎる」
物陰から気配と息を消して様子を伺っていたルルンとガロは、命を削ってプテラからロコンを守ったローゼマリアを見てそう囁きあった。
「×××と×××のことは……恐らく覚えてる」
「じゃあやっぱり、××××××」
「ええ。あの2人が心配したとおり……」
「どうする?」
「いざという時は……」
ガロの手から何かがこぼれ落ちる。重力に逆らい途中で停止し左右に揺れるそれを見てルルンとガロは互いに頷きあった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「母親を殺されてるって……どういうことだよ」
エースが震える声でローゼマリアに問う。泣きじゃくるローゼマリアは「そのままよ」と答えた。
「××××××でこっちに来たプテラたちが、悪い人たちに捕まって……従わせるために、見せしめで……」
あああ、と、とうとう言葉にならなくなったローゼマリアを抱きしめたエースは、白ひげを見る。渋い顔をして唸っていた。
船に乗る人たちがそのまま自分の家族だと自負している者たちが多い白ひげ海賊団。性別が違えど親を殺されて無理矢理従わされていると聞けば同情こそすれ憎み敵だと思う者などいない。
「まだ兄弟が捕まってるって……兄弟を殺されたくなかったら、ロコンを連れて帰ってこいって……言われたらしいわ」
「ンな……ンなこと……」
「一体誰に言われたか、分かるか」
白ひげがゆったりとした口調でローゼマリアに尋ねる。誰もが返答を待った。だがローゼマリアは、ぶるぶると首を横に振る。
「わからない」
「……それは、名前が分からねえのか? それともお嬢さんが知らねえだけか」
「私が、名を知らないだけ。海賊だと思うけど……マリンフォードの時くらいしか海賊を見たことがないから、分からない」
白ひげが深く息を吐いた。ローゼマリアはプテラを優しく撫でていて、「大丈夫」と声をかけていた。
「あなたの身体、時を戻せばもしかしたら戻るかもしれない。苦しい思いをまたさせてしまうかもしれないけれど、……それでもいい?」
「ぎゃ」
「……戻せるのか」
潤んだ瞳で涙を流しながらも、プテラにそう提案しているのを聞いてエースは驚く。微笑んだ拍子にぽろりとまたひと筋零れた。
「時を司るポケモン、ディアルガ。シンオウ地方に根ざす伝説のポケモンで、時間を操ることが出来るの。――まだ、本当に戻れるのか分からないけど」
でもこのままには出来ない。手段がひとかけらでもあるなら、プテラがいいって言ってくれるなら、どんなことでもする。
そう言ったローゼマリアは急にガクッと全身から力が抜けてエースにもたれかかった。すぐにマルコが飛んできて、脈拍を確認すると小さく首を振る。これ以上は無理だ、という合図だ。
「ロザ。それは、俺がネーラとやる。お前は休め」
ローゼマリアの支えがエースからマルコに変わり、視線が高くなる。「待って」初めて、ローゼマリアがエースの命令に逆らうようにマルコを留めようとした。
「オヤジ、悪いがコイツを寝かせてくるよぃ」
「ああ」
ロコンも、と手を伸ばすローゼマリア。マルコの見立てでは、もうすでに体力を使い切っているはずなのだ。動こうとするローゼマリアは気力しかないはずで、彼女がロコンを連れて行くと聞かない。
もうすぐ起きてしまうから混乱する、とマルコの腕の中で暴れようとする彼女を何とか宥め、ハルタに抱えて連れてこさせた。
「ネーラ……みんなをしまって……ディアルガと、それからゼルネアスを……」
「バナ!」
「う……」
息も絶え絶えになりながらフシギバナに指示を出すローゼマリアは、ついにカクンと力尽き、気を失う。眉を潜めしかめ面をしながら眠りに就く彼女のお腹にはロコンが丸まっていた。
部屋へ連れて行かれたローゼマリアの指示に従いフシギバナは蔦を器用に使ってボールにポケモンをしまいこむ。ミュウツーだけは出したままにしておき、続いてひとつの機械をエースの前に出した。
「<これを操作してディアルガとゼルネアスを出すんだ>」
「これは……」
「<こいつはポケモンボックス。本来ならポケモンを入れ替えるのはパソコンを使うが最近の科学は進んでな。原理は分からんのだけどもこいつは今でも使えるし、彼女のパソコンで眠るポケモンたちを呼び出すことが出来る。彼女は音声登録をしてあるから使わんのだが>」
どすん、とそこそこの重量感を醸し出しながら置かれた機械を前に、エースは「うっし」としゃがみ込んだ。
電源を付けるのはフシギバナ。ピーピー、と音を立てて画面が付くとドット絵が横6列の縦5列に並んで表示される。ひとつのボックスにつき30体までが表示されるらしい。
「<私たちポケモン専門の病院に配置されているパソコン、その彼女専用のページといったところか。今表示されているのは全て彼女が旅をして仲間にしたポケモンたちだ>」
「こんなに……」
「エース、見せろ」
白ひげに言われて、エースはスペースを開けた。「<ボックス名がシンオウとなっているものを選べ>」と言われたが、名前など見えない。
付いているらしいがエースたちには、文字化けしているようなぐちゃぐちゃしているものに見えて、読めない。
「親父分かるか?」
「いいや、読めん。誰か読めるやついるかァ!」
白ひげの号令に次々覗き込んでくるが誰も「読めねえ」ばかり。
「ほんとはさっき、ロザが言ったプテラたちが来た方法も聞き取れなかったんだ。親父もか?」
「ああ。ざらざらして聞き取れなかった」
ミュウツーとフシギバナは彼らの話を聞いて顔を見合わせる。ロケット団やフレア団は通じていた。なのに、通じない言葉があるとはどういうことか。
「ロザがプテラに何か言ってるのも聞こえた。でも、内容はやっぱザラザラ聞こえるだけで……なあネーラ、シンオウってどれだか教えてくれよ」
ポケモンボックスを指さすエースに、とりあえずはディアルガだとスワイプ操作を教えた。すっすっと滑らせるようにページをめくっていって、フシギバナが反応したところでピタリと止める。
「<シンオウとは
「そうなのか……おっ?」
これを押せ、と蔦がある箇所を指した。そこを押せばシュッと6つのドット絵が別で現れる。
フシギバナがスワイプでウインディとディアルガを入れ替え、また下にスワイプし直して仕舞った。
「<次はカロスだな。ネーラ、教えてやってくれ>」
「バナ」
またスクロールしろと蔦を動かすフシギバナに従い、エースはめくっていく。ディアルガの時と同じように教えて貰いながらゼルネアスを手持ちに加え、フシギバナがボックスの電源を落としてバッグに仕舞った。
これ持て、とボールをひとつ手渡す。まだ手のひらに余るくらいの本当に小さなボール。カチリと中央のボタンを押せばひゅるっと倍以上に大きくなった。
「ここ押すんだな……」
「バナナ。バナフシ」
「投げるのか」
ひゅっと真上に向かって投げるそれを目で追うと、中から青色で四つ足の厳つい体をしたポケモン、ディアルガが出てきた。
フシギバナの真似をして投げると、左右に4本ずつ巨大な角がある鹿のようなポケモン、ゼルネアスが不思議そうな顔でエースを覗き込む。
フシギバナとミュウツーが何やら2体と話しているのを見守っていると、ずずい、とディアルガたちがエースを――白ひげたちをじろじろと見てきた。
最後にプテラを穴が空くほど見ると「グギャグバァ」とディアルガが鳴く。「イクシャァ」とゼルネアスも続いた。
「<やはりお前たちも、彼女を愛しているんだな>」
「どういうことだ?」
「<素晴らしい隣人として自分たちを尊び愛す彼女が望むことを、出来うる限り叶えてやりたい。それもまたひとつの「愛」ということだ>」
白ひげのじろりとした視線に笑ったミュウツーは、そら見ていろと顎をしゃくった。