対ありでした。またお願いします。   作:春日野つばき

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第25話 判断

「親父! やっぱりあの野郎を野放しにはしておけねェ!!」

 

 ドンッと机が壊れる勢いで殴りつけ、怒りを爆発させて叫ぶエース。身体がメラメラと炎に変わるほどの怒りがその身に渦巻いているらしい。

 

「……むう」

「サッチだけじゃねえ。ロザにまで、ロザが愛してるポケモンにまであのクソ野郎の魔の手が伸びてる! 七武海だか何だか知らねえがこのままになんかしておけるかよ!!!」

「落ち着けよいエース」

「なんでマルコは落ち着いてられんだよ!」

 

 顎を擦って唸る白ひげに詰め寄るエースは、マルコに物理的に抑え込まれた。しかし抵抗し鋭い目をして逆にマルコにも噛み付くエース。

 4番隊隊長サッチの命を奪っただけに留まらず、天竜人という身分のローゼマリアが命を脅かされた。全ての元凶はマーシャル・D・ティーチ。元とはいえ、白ひげ海賊団の船員(クルー)が手を出したということにされかねない事態だ。

 

「こりゃァ本格的にどうにかしねえと、いけねえかもな」

 

 白ひげ海賊団「鉄の掟」を破り逃げたマーシャル・D・ティーチを白ひげ海賊団は仲間であると、白ひげの息子だとは認めていない。認めるような者はもういない。だがマリンフォードで、漁夫の利でもしにきたか会敵した際に海軍には関わりがあることを知られているはずだ。海軍が七武海に引き入れたのも白ひげの動向を手にしたい思惑があったからかもしれない。

 

 ローゼマリアは白ひげ海賊団がマーシャル・D・ティーチを野放しにしているとは思っていないし、悪はティーチであって白ひげ海賊団自体に罪はないと考えているだろう。

 だが父親である天竜人、ミョスガルド聖はどうだろうか。

 嫁入り前の娘が生死の境を彷徨ったと聞けば心配しない親はまずいない。その元凶が白ひげ海賊団の元船員だ、なんて知られたら。

 

「だが奴は、力が未知数だ。下手に手ェ出しゃァ返り討ちに遭いかねねえ。息子たちを死地に送る親はいねえよ」

「それに今現在、世界政府の御旗を背負った王下七武海だ。海軍と連携なんか取りゃしねえだろうが奴らの巣窟に行ったところでバスターコールでもされてみろい。目も当てられねェぞ」

 

 エースの熱気に包まれかけていた食堂は白ひげとマルコが氷水を浴びせたことで冷静さを取り戻す。

 世界政府の御旗がある、という海賊の中では最高の紋所を持つ「黒ひげ(マーシャル・D・ティーチ)」を、傘下も含めた大船団を率いるとは言え仕留められるかどうか。

 

 更に言えば捕らえ、インペルダウンに入れられるかどうか。

 

「それなら問題ありません」

 

 難問に直面した、と雁首揃えて鼻の頭に皺を作る隊長たちの沈黙をローゼマリアが割り破った。

 

「問題ねえって……」

「うん。だいじょぶだよ」

 

 にこーっと笑ったローゼマリアに、何か手があるのかと白ひげが尋ねる。ええ、と不気味なほど綺麗な笑顔を保っていた。

 

「その方の居場所を海軍から聞き出せば手出し無用と伝えておきます。居場所が分からなくったって、海軍に探させればいい。以前この船を探した時は使いませんでしたが……相手が七武海なら、海軍が接触しても何ら問題はないはずですし」

「だとしても、その後が問題だってんだよい」

「何故です? 居場所が分かればその場所ごと空間をねじ曲げて逃げられない鳥かごを作ればいいのです。その後は煮るなり焼くなり……自由ですわ」

 

 空間をねじ曲げる。そんな馬鹿げた芸当が出来るのはこの船には一人しかいない。

 うふふ。とまるで輝くケーキを前にしたレディのような無邪気な笑みで、残酷で無慈悲なことを紡ぐ。

 

「空間をねじ曲げなくとも、大日照りで海に出られないように干上げてしまえばいいのだし、逆に大津波を起こしてその場所を水没させてしまうことも出来るわ。それか、その方を石に変えて壊してしまえばよいかもしれませんね」

 

 パンと両手を打ち付けて、名案だと言わんばかりに顔を輝かせた。相当な怒りを湛えているのだと、まざまざと思い知らされる。どれもこれも全て死んでしまいそうなものばかりを挙げていくのが深窓の令嬢らしくない。

 

「……あのねエースくん。私、ポケモンを兵器として使うの嫌。そうやって使われてた子たちが苦しんでるのを知ってるから」

 

 ニコニコしながら言っているローゼマリアに険しい顔を向けるエース。そんな彼に向けた表情(かお)は眉を下げ、悲しそうにしていた。

 

「でもエースくんを酷い目に遭わせたって聞いたら、きっとみんな手伝ってくれるわ。ディアナはあなたのことを気に入ってるし、ネーラが動けばみんな手を貸してくれる」

「……俺のために、やるのか」

「後はゴーストタイプのポケモンたちが一番好きな「ご飯」をあげようとしてるだけ、かな?」

 

 ご飯? とちょっと不思議そうなハルタ。うう〜ん、と困った顔をし続けるローゼマリアは「はい」と頷く。

 

「ネーラたちが食ってるやつじゃねえのか?」

「うん。ゴーストポケモンたちが本当に好きなご飯、人の魂だから」

 

 ローゼマリアが発した言葉の意味を理解した瞬間食堂内の気温がマイナスにまで下がった気がした。

 人の魂を食べる、それはつまりそういうことで。

 

「さっきもヨノワールが口開けてたでしょ。あの子たち、生息地域では「黄泉への導き手」とか「1つ目の導き者」とか言われてるの。ヨノワールが向こうの世界に連れて行くと信じられてるから。それと同時に悪い子の魂を食べてしまうとも言われてる」

「……食べると、どうなる」

「さあ? 一応だけどヨノワールに関する論文はあるけど、まだ未解明が多いから。判明してるのは人の魂を主食にしてることだけ。ポケモンフーズも食べるしカレーも、ポフィンとかのおやつも食べるけど……昔はよく墓場とかにも行ってたのよ、シルフスコープ持って」

 

 ポケモンの魂は食べないみたいだけど何故か人間は食べるのよ、それも研究が進んでるはずだわ。と何でもないことのように言ってのけるローゼマリアを、そんな恐ろしいものを影に潜ませるご令嬢を取り囲むのが怖くてエース以外が数歩下がる。

 ティン、とエースがイヤなことに思い当たった。

 

「まさか……ここに「いる」って、ことか? ヨノワールが口、開けてたんだろ」

 

 ひゅっ、と誰かが息を飲む音がやけに大きく響く。「う~ん」と首を捻るローゼマリアにホッと胸を撫で下ろした直後。

 

「多分? だけどいると思う。それも船長さんの近くにいると思うよ。ヨノワールがしきりに気にしてた」

「ひえっ」

 

 指し示された白ひげの近くにいたブラメンコが思わず悲鳴を上げる。先程からヨノワールが白ひげの方を見て食べたいと訴えてきていたのだ。

 

「シャンデラならともかくとしても、ヨノワールは死んだ人の魂にしか興味ないから船長さんの近くに魂いると思うよ? シルフスコープで見えるかな……」

「しゃんでらならともかく?」

「ゴーストタイプにも色々いてね、生きてる人間の生気を吸う子もいるのよ。死にかけの人ならそれだけで連れてかれる……あっバッグない」

 

 腰に手を当ててバッグを探すローゼマリアに、甲板のネーラが持ってると伝えるエース。

 コホン、とマルコが場の空気を入れ換えるため空咳をした。

 

「とにかく、生かすの殺すだのは置いとくとしてもお嬢さんは何かテがあるんだない」

「ええ」

「お嬢さんが従えているあの連中が強大な力を持っていることは分かった。だが、ティーチの野郎は闇に紛れることが出来る闇人間。奴だけ逃がしゃあ意味がねえ」

 

 白ひげがじろりと睨み付けると、ローゼマリアは目をぱちくりと瞬かせる。ニイッと恐ろしいほどの笑みで彩られた口元と、うっとり蕩けた目元がアンバランスで恐怖を覚えた。

 

「まあ。闇に紛れる? ならギラティナの「はんてんせかい」にお招きしたいわ。ゴーストポケモンたちと闇の中で鬼ごっこも素敵。ちょうどマーシャドーが退屈しているところだったの。ミミッキュも遊び相手を探しているからきっと仲良くなれるわ」

 

 ギラティナ、マーシャドー、ミミッキュ。ポケモンの名前だけではどんな奴なのか彼らは知るよしも無かったが、口ぶりからしてゴーストなのは分かる。

 確実にティーチを仕留めると言わんばかりの提案に隊長格は全員背筋を凍らせた。幼少期はともかくとしてもマリンフォードの件まではマリージョアから出ること無かった生粋の箱入り娘が出せる提案ではないのだから。

 

 逃がさない。逃がすわけがない。

 

 下手をすればティーチを奴隷にしてしまえばいいと言いかねない(エースだけが絶対言わないと言い切れるが)。それほどティーチへの怒りが強いのだろう。

 エースはローゼマリアのそんな言動を聞いて、誰かに似てるとずっと思っていた。その人物が思い浮かんで思わず喉で笑ってしまう。

 

「なんだいエース」

「いやァ……ロザ、そうやって静かにブチ切れんのサボに似てんなァって思ってよ……アイツも怒らせたら怖かった」

 

 マルコがエースの場違いな笑いに不審そうな目を向けると、懐かしそうな視線とぶつかった。

 

「ふふふ、怒ってないよぉ。プテラがお世話になったお礼もしなくちゃいけないし、どっちにしろこの人にはお目にかからないといけなかったしね。色々聞きたいことがあるから簡単には殺さないし……。人を殺すの嫌いだから楽しいお喋りがしたいわ」

「馬鹿なことしたルフィを問い詰めるサボに似てるっての」

 

 おーコエ、とぶるりと身を震わせるエース。

 ダダンの酒を盗み、盃を交わし義兄弟の契りを結んだ時。ローゼマリアは立会人のような形で傍にいた。彼女とは盃を交わしていないが、契りの場にいたことやルフィがエースたち同様に慕っていることから、エースやサボと同じ長子でルフィを弟にする「きょうだい」だと思っている。

 

 血の繋がりはないはずなんだけどな、と首を傾げながらも落ち着かせるために頭を撫でた。

 

「……今すぐには、ティーチの野郎ンとこ殴り込みに行くだのと判断は下せねえ。傘下ども引き連れなきゃ勝ち筋が見えねェと思えば奴らと連絡を取らにゃならねえし、お嬢さん一人野郎の巣に放り込むことも出来ねえ。慎重を期す必要があることだけは知っといてくれぃ」

 

 そう白ひげが締めくくると、ちらりとエースを見てから睨んでくるローゼマリア。明らかに不満ですと語っている。

 

「ガキぃ殺されかけて腸煮えくり返ってンのは俺も同じだ。ティーチが食ったヤミヤミの実はそれだけでも強大だし奴自身の能力の高さもあって闇雲に突撃しても難しいモンなんだ」

「……私が天竜人だからと、そういう理由も含まれているのでは?」

「どっちかってとお嬢さんのお父上に対する配慮だ。大事な娘が海賊船に乗って心配しねえ親なんかいねえよ。死に急ぐのは勝手だがな、同じ子を持つ親としては娘を死地にむざむざ送るマネしたかねえンだ。大切に育てた娘が変わり果てた姿で無言の帰宅をするところを想像させてやるな。それに「勝手に死にましたが知りません」って免罪符は親にはねェし、通用しねェモンなんだよ」

 

 どっこらしょと腰を上げた白ひげは去り際にエースの頭をぐりぐり撫でた。

 「お父上様……」そう呟いたローゼマリアは少しだけ寂しそうに見えてエースはわしゃわしゃと撫で繰り回す。

 

 びっくりした顔のローゼマリアが同い年のはずなのに幼く見えて「へへ」と笑った。

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