対ありでした。またお願いします。   作:春日野つばき

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第27話 夏島へ

「なァ親父、いい加減にロザのこと名前で呼んでやれよ」

 

 そう言い出すのは、別件で報告に来ていた白ひげの末っ子・エース。天竜人であるドンキホーテ家のご令嬢をそう安易に呼べないとの意思表示なのか頑なに「お嬢さん」「ご令嬢」などと呼んでいたが、それがどうやら末っ子は気に入らないようだ。

 グラララ、と笑いながら撫で付けるようにぐりぐりと髪を乱せば、くすぐったそうな顔をする。

 

「貴いお方をそう易々と呼び捨てられねえよ。お前じゃねェんだ」

「ウソくせ~! ロザはちいせえことでグチグチ言わねえし、気にもしねえよ」

「大人には大人の世界ってモンがあンだよ坊主」

 

 俺も大人だし! とむくれるエースは、白ひげから見ればどう過大評価しても子供の部類だった。

 

「それよりもお前ェ、お嬢さんに告る準備は出来たのか? こういうのは後回しにするほど言い辛くなるぞ」

 

 可愛い末息子の胸を突くとエースがよろめいた。ぽぽぽん、と途端に首まで真っ赤に染め上げ、ぷうとむくれる。

 

「俺には俺のペースってもんがあンの! てか親父、それ体験談かよ」

「一般論だアホンダラ」

 

 バカ言ってねえでさっさと行っちまえ、と追いやるようなジェスチャーと共に言われたエースは「へーい」と気の抜けた返事で船長室を出る。入れ替わりに医療班のナンバー2であるマスクド・デュースがルルンとガロを連れて部屋に入っていった。

 デュースはまだ分かるが、ローゼマリアの侍女をしているはずの2人を連れて入る理由が分からず首を傾げるエース。

 

「まあ、ロザに聞きゃ分かるか」

 

 そう結論付けて背中を向ける。

 

「なァオヤジ、あんま無理しないでくれよ」

 

 渋い顔をするデュースと、血だらけのシーツを抱えたルルンたちが出てきたところを目撃した船員は誰もいない。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 夏島が近付いてきていると航海士が言っていたな、と日々強くなる日差しを甲板で感じていたエースは帽子を被り直して目を細めつつ空を見上げる。

 熱中症にもなりかねないじっとりとした暑さに、「メラメラの実」の能力者であるエースでさえ参ってしまいそうだと思ってしまう。

 

 こんな思いをしてわざわざ甲板を訪れたエースの目的はひとつ。

 

「よお。ネーラ」

 

 邪魔にならないところで日光浴をしているフシギバナ。大股で近付いたエースの気配に、閉じていた目を気怠げに開けた。

 

「バナ」

 

 声をかけてきたのが主人の知己、エースと知ると欠伸をひとつしてのそりと立ち上がる。

 ぶるぶると軽く身体と花を揺らしたフシギバナは「何の用だ」と言わんばかりに見下ろした。

 

「あァ悪い。ロザを探しててな」

「バナ? フシフシ」

 

 エースの言葉に、にゅるんと出た蔓が甲板の出入り口を指す。どうやらひとりでここへ来て日光浴をしていたらしい。

 

「アイツの護衛は?」

「バァナ」

「いるにはいるのか。そりゃそうだ」

 

 正直エースはフシギバナの言っていることを何一つ理解が出来ない。ローゼマリアのように全てを理解するにはまだ努力が足りないようだが、恐らくこうだろうという予測のもと適当に言えば正解だったのか首がこくこく動く。

 

「エース隊長言葉が分かるんだ……」

「すげェなァ……」

 

 甲板にいた隊員たちが尊敬の念でエースを見つめてきた。

 いや分かんねえけど、と口には出さなかったがその視線のむず痒さに頬をぽりぽり掻く。

 

「バアナ?」

 

 今度はフシギバナから何かの問いかけが来た。恐らく今度も「何の用だ」ということなのだろう。

 

「ん。いや、なんだ。……ロザに伝えたいことがあってよ」

 

 聞きたいことはあってるか? という意味を込めて返せば、途端にニマーッと蛙の口が横に伸びた。

 何かに勘付いたようで、蔓が揶揄うようにうねうね動く。

 

「まさか……知ってるとか……ねえよな?」

「フッシ~」

 

 あからさまに顔をそらしてくるフシギバナにエースはギクリと硬直した。

 いやそりゃポケモンの前でも手ェ繋いだりとかイチャつき未満なことはしたけどよ、と百面相をしだすエース。

 

「……ネーラからみたらどうだ? 脈、あると思うか?」

 

 甲板にいる船員には聞かれないよう、声を潜めて耳打ちするように聞いてみれば、凄く微妙な顔をされた。

 あると言えばあるし、無いと言えば無いみたいな。

 

 うだうだしていても時間が勿体ないし仕方が無いので甲板を出て船内へ向かう。後ろをフシギバナが着いてきた。

 

 船長・白ひげの意向により、入りたての見習いや下っ端にも仕事を振り分けるモビー・ディック号において、なにもすることがない、仕事のない者はドンキホーテ家が連れてきた元奴隷たちとローゼマリアだけ。

 用事が無ければ基本は最下層の部屋にいるはずのローゼマリアは、はたして部屋にいた。

 

 ドアの監視窓からこそっと覗いたエースは、全体的に茶色くてフードがついたダボめの服を着た彼女を見つけて握りこぶしを作る。

 気付いていない様子でお腹のポケットをしきりに覗き込むローゼマリアに声をかけようとドアに手をかけようと深呼吸した。

 

「頑張れよ」

 

 本日の監視役、5番隊隊長のビスタが腕を組みながら壁にもたれかかっていて、ニマニマと笑顔を見せながら激励してくる。

 

「るせ」

 

 べっ、と舌を出したエースは深呼吸し直してドアをノックした。

 どうぞ、と部屋の奥から促されて開ける。

 

「あ、エースくん!」

 

 久しぶりに対面するエースを満面の笑みで歓迎するローゼマリア。ドキマギしながらも部屋に進み入っていく。

 ここ最近モビー・ディック号の面々は、エースとローゼマリアを「幼馴染み」ではなく「親友」として扱っているからか、以前浮き彫りとなったローゼマリアが見せる「異常」はなりを潜めていて、輝く瞳はエースのことを純粋に好んでいるようにみえた。

 

「よお。元気そうだな」

「うん元気。エースくんも隊長のお仕事お疲れさま」

 

 ニコニコして隣に座れとベッドの端をぽすぽす叩くローゼマリアに誘われて寄り添うエースは、もぞもぞとポケットが動いていることに気付いて覗き込む。

 

「気になる?」

「ならねえと言ったらウソだな」

「んふふ」

 

 見てみる? とお腹のポケットを広げた。

 広くて深いポケットの中にはロコンが寝そべっていて、今は色素の薄いお腹ががっつり見えている状態になっている。

 

「こいつ……ロコンとかって、ポケモンだろ?」

「そうよ。私の娘になったの」

「……娘ぇッ!?」

 

 ポケットからずるんと出したローゼマリア。脇の下を持たれ、力を抜いているロコンはされるがままでウトウトとしている。

 あんぐりと口を開けていたエースは、顎を何とか戻して「はー……」と感心したように眺めながらロコンへと指を伸ばした。

 

「んん……きゅ~……?」

「ん。掴まれた」

「ふふふ。この子の本当のママが見つかるまでなんだけどね。この子のママ」

「本当の……ってことは、いるのか?」

「分からない」

 

 ぺし、と肉球に包まれるエースの指。されるがままのエースは上目遣いにローゼマリアを見る。

 微笑んだままの彼女はロコンの頭を撫でながら娘にした経緯をかいつまんで話した。

 

「クオンっていう名前にしたの。可愛いでしょ」

「ほお」

「それでエースくん、どうしたの?」

 

 急にお部屋に来るなんて、と不思議そうな目で見つめてくるローゼマリアに、思わず言葉を喉につまらせる。

 「あー……いや」なんてどもって、目が泳ぎだした。首を傾げて待つ彼女と目線を合わせたエースはずいっと距離を縮める。

 

「あの、だな」

 

 顔中が真っ赤に燃えているのが感じられた。心臓の音が耳についてうるさい。カラカラに乾く唇をぺろりと舐める。

 

「ロザ、俺と――」

「く、うぅうっ!」

 

 爆発してしまいそうな熱をその身に宿すエースは海に飛び込むような覚悟でローゼマリアの肩を抱いたその時。

 あまりにも熱がこもり過ぎて近づきすぎたせいなのか、ロコンが悲鳴を上げてもだもだと身を捩る。

 

「エースくん、クオンが!」

「えっ、あ、悪い!」

 

 じたばたと暴れるロコンをあやして落ち着かせ、ポケットの中に戻したローゼマリアは「ごめんね」と眉を下げて謝ってきた。

 

「それで、なぁに?」

「ん!? いや、……あー」

 

 出鼻をくじかれたエースは、目線をあっちこっちに泳がせてから、被っていたテンガロンハットで顔を隠した。

 本当に何か仕出かしたのではと不安そうなローゼマリアは顔を見ようと首を伸ばす。

 

「えっ、なにごめん?」

「いやいいんだ。俺の方のアレだから……」

「うん……?」

 

 きょときょと不安そうに手を伸ばす彼女は、首を振るエースに当惑しつつ空いた距離を詰めた。

 

「あ゙~……その、今度の島がさ!」

 

 顔の赤みが引いたのかハットを外したエースは、ようやく顔を見ることが出来てホッと安心した様子のローゼマリアがどアップで映る。

 心臓がきゅっと締め付けられた。

 

「うん」

「夏島らしいんだ、今度の島。航海士が言ってた」

「夏ってことは暑いの?」

「あァ……もう甲板は帽子がねえときちぃかもな」

 

 ぱたぱたと暑さを逃すように帽子で仰いだエースは「ん゙~」と唸る。

 

「そンで、丁度俺たちが寄るタイミングで祭りがあるらしくてよ……」

「お祭り? 私行ったことない」

「だろ。フーシャ村とかのも行ったことねえもんな」

「行ったことない……」

 

 行きたい、とわくわくした顔をするローゼマリアに、ぐっと下唇に力を入れてからヘソにも力を込めたエースはジッと見据えた。

 

「俺と一緒に……祭り、行かねえ?」

 

 まだ赤みが取れないままだが伏せた目で掠れた低い声がローゼマリアの耳をくすぐる。力の入った顔つきは断られることへの恐怖に耐えようとしているようにも見えた。

 

「いいよ」

 

 エースの想像していた反応と裏腹に、ローゼマリアはあっけらかんとして答えた。

 

「一緒に行こ。1人じゃどこ行っていいか不安だし」

 

 まさか簡単に承諾が得られると思っていなかったエースは、口をぽかんと開いたまま間抜けな顔をする。

 変なの、とクスクス笑うローゼマリアは窓の外を見た。

 

「次の島でエースくんとお祭り、ね。ふふ、楽しみにしてる」

「……おうっ」

 

 嬌笑したローゼマリアに返事をしたエースは、部屋の外で生暖かい目をして見守っていたビスタに「デートを取り付けるとはやるな色男」と揶揄われるまでは全くそうだと気付いていなかった。

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