「どうだい、ローゼマリア」
「お父上様」
ピジョットの「コトちゃん」をゴア王国・コボル山に向かわせたローゼマリアは、ミョスガルド聖の声かけに小さく首を振る。
「コトちゃんに調べて貰ったのですが、山にはダダン一味以外の男がいませんでした。サボくんのお墓はあったけど、エースくんとルフィくんがいなくて……」
「ではやはり……「火拳のエース」とは」
ぼろぼろと大粒の涙を零すローゼマリア。慰めようとするミョスガルド聖は、自然とボールから出てきた巨大な蛙のようなものを呆然と凝視する。
ローゼマリアから幾度となく説明を受け、実際に目にしたことも何度となくあるが自ら出てくるのは初めてだった。
「ぎゅう」
「ネーラ……」
しゅるりと蔓を身体から出すそれの名はフシギバナ。ローゼマリアの最初のポケモンで、長い間苦楽をともにしたパートナーである。
「お父上様、もう処刑は止められないのですか」
「……難しいであろうな。マリンフォードをそれとなく見てはいるが」
「では……」
ううう、と蹲るローゼマリアはフシギバナの頭を撫でた。
「お父上様……泥を、被ることになりますが」
「ほっほっほ。可愛い娘の大切な友達であれば泥など平気で被るよ」
頭を上げなさい、と膝を付いたミョスガルド聖はゆっくり近付いてくるフシギバナにウインクをしてみせる。ぎゅああ、と鳴いたフシギバナも慰めるようにすり寄った。
「お父上様、ありがとう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マリンフォードで動きがあったとミョスガルド聖から聞かされたのは、ルルンたちと相談をしていた時だった。エースの処刑場となったマリンフォードの広場は、海軍本部も含めて壊滅状態に陥っているそう。
「ほぼ戦争だ、あれは。白ひげ海賊団と海軍のぶつかり合いでめちゃくちゃになっているぞ」
「そんな……エースくんは?」
「それらしき者がいたが……今なら間に合うだろう。行きなさいローゼマリア」
ミョスガルド聖に促され、頷いたローゼマリアはボールを放り投げた。白い巨体のポケモンに「ルギア」と呼びかける。
「お願い、この人を助けたいの。あの場所にいるから先へ行ってくれる?」
「ぎゅああっ!」
指し示した「火拳のエース」の手配書と、マリンフォード。それだけで理解したらしく、大きく羽ばたいたルギアは雄々しく飛んでいく。
「おいで、ミュウ」
次いでもう1つのボールを放り、中から出てきたピンク色の生き物を抱きしめる。
「支度をするから、それが終わったらルギアのところまで移動してくれる?」
「みゅ~」
じゃらりと音を立てるのは天竜人が使う奴隷の鎖。ルルンたちにも外出の時には装着しているものだ。海楼石を使用しているので「悪魔の実」の能力者であっても逆らえない代物になっている。
「ネーラ。戻ったら彼に「しびれごな」をお願い」
「ぐぁあ」
鳴いたフシギバナに力強く頷いた後、ローゼマリアはミュウを抱きしめた。ぴゅん、と瞬間移動でルギアの背中に飛ぶ。
「何だオメエはああああ!!!」
誰かの大声が聞こえるが聞こえないふりをし、ルギアがその足で押し潰しているエース目掛けて首輪を投げた。
「わたくしの子に、あなたは何をなさっているの?」
麦わらを被った男はルギアに何十発も拳をあてている。鍛えているルギアにはそこまでのダメージではないが鬱陶しげな顔だ。
ミュウの力を借りて首輪を付けたエースをルギアの背中に乗せたローゼマリアは、ピンヒールで脇腹を踏みつける。
「ぐっ」
呻くエース。一瞬びくりと足を退かそうとしたが、そんなことをすれば意味が無いと下唇を噛みしめてから周囲を見渡す。急に現れた見慣れない白い怪物と天竜人に、海軍、海賊問わず全員が動きを止めていた。
「そこな者」
ローゼマリアが目を付けたのは海軍の服を着ている髭を長く編み込んだ大柄な男。差し向けられた指が確実に自分を向いていると気付いたセンゴクが片膝をつく。
「わらわはドンキホーテ・ミョスガルドを父に持つ、ローゼマリアでアマス。このような場所にて騒ぎ立てるのはわらわの癪に障る。早々に幕を引くでアマス」
「ローゼマリア宮。なぜこちらに出向かれたのでしょうか」
「なぜと? それはわらわに問うたか?」
この口調苦手だから早く帰りたいんだけどな、と内心渋い顔をしつつもルギアの上から海軍の男を見下ろす。
「まあよい、今のわらわは気分が良いからのぅ。とはいったが、ただの気紛れでアマス。わらわは騒がしいことが大嫌いなのでのぅ」
しゃがみこんでエースの髪を掴み、持ち上げる。
「わらわのコレクションに海賊がおらんからな。剥製にしがいのある身体でアマス」
顔を顰めながら抵抗しようとするエースの耳元に分からないように口を寄せた。
「すぐに解放するから少し大人しくしていて」
それを信じたのかは分からなかったが、エースは抵抗を止める。ローゼマリアは立ち上がって首元にいるミュウの頭を撫で小さく囁いた。
「ルギア、「ぼうふう」よ」
大きく腕を広げたルギアが思い切り羽ばたく。次いでミュウの目が淡く光る。
「海軍、海賊ども。わらわは疲れたから帰るでアマス。さっさとこのバカ騒ぎを仕舞いにするアマス!!」
ルギアが羽ばたき暴風を起こす。海軍は何故か身体が硬直して暴風にも吹き飛ばされない。そのままルギアは空高く飛んでいく。
「おい……っ」
「ごめんなさいね、一応、こっちにも繕わなきゃいけないことがあるから」
飛んでいく先にあった巨大なリングを潜ると、そこはフシギバナの待つ屋敷の一室だった。「バァナァ」ゆったり近付いてくるフシギバナは背中の花をゆらゆらっと揺らして花粉をエースに撒く。
「ぐ、うっ……」
「ただの「しびれごな」よ。安心して。騒がれても困るから」
「て……めえ……っ!」
「ルルン。天竜人なら背中のマークを消すように焼き印するのよね」
「そうですお嬢様」
唸るようなエースの「やめろ」を聞き流し、ローゼマリアは先に宇宙服のような服を脱いで簡素なワンピースに着替えた。
エースを地下室へと連れて行き、身体が痺れて動けない彼をうつぶせにした後、白ひげ海賊団のマークの上から「天駆ける竜の蹄」の紋章を記す。
「ルルン、他の子たち連れてきて彼の手当を。疲れているみたいだから少し休んだ方が良いわ」
「ふざ、けるな……」
「説明はあなたが起きた後。……おやすみなさい、エースくん」
うつぶせから仰向けに変えたローゼマリアを睨み付けるエースだったが、疲れたのか次第に瞼が落ちてきた。微笑んだローゼマリアが優しく髪を梳く。「おまえ」と掠れて言葉にならない言葉を紡いだかと思えばふうっと全身の力が抜けていた。