対ありでした。またお願いします。   作:春日野つばき

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第3話 再会

 ハッと目を覚ましたエースは見慣れない天井で飛び起きた。寝起きで血の巡りが悪くフラフラとするが、身体の痺れが取れていることを確認してベッドから下りようとする。

 

「ダメよ。まだ寝てた方が良い」

 

 静かな空間を切り裂くような女の声がする方へ顔を向けると、ローゼマリアがマグカップを両手に1つずつ持って丁度部屋に入ってきた時らしく片足がドアにかかっていた。

 おい、と声をかける前にパタンと足で閉じてしまう。

 

「足癖悪くてごめんなさい。両手が塞がってたものだから、つい」

「そりゃあ俺もよくやっから構わねえけどよ……」

「それは良かった。ホットミルクお好きかしら?」

 

 蜂蜜を入れたのだけど、と差し出されるそれを受け取り、まじまじと水面を見る。ローゼマリアは意に介さず冷ましながら口を付けた。それを見て恐る恐る唇をカップに付けるエース。

 

「……うめえ」

「まあ献上品のミルクだから品質はいいと思うわ。蜂蜜もね」

 

 入っているスプーンをくるくる回すエースはごくごくとあっという間に飲み干した。空になったカップをどこに置けば良いのか辺りを見渡していると、しゅるりと緑色の蔦が伸びてきてエースの手から受け取る。

 

「あァこりゃどうも」

 

 思わず礼を言えばそこにいたのはエースを粉で痺れさせた大ガエル、フシギバナ。吃驚した顔をしたエースを気に止めず「バァナ」と嬉しそうに一声鳴いてのしのし何処かへ歩いて行った。そこで思い出す。自分は処刑されそうになっていて、天竜人に奴隷として連れてこられて――ふと背中が気になる。

 

「おい。なぁ、ここって鏡ねえか」

「鏡? あるわよ、そこ」

 

 着替えたローゼマリアが天竜人(そう)だとはまだ気付いていないのか、フランクに話しかけるエース。カップを傾けていたローゼマリアはすぐ傍の姿見を指さした。

 鏡越しに背中を見て、エースは訳の分からない悲鳴を上げる。ミルクを飲んでいたローゼマリアはその声に驚いてげほごほと噎せた。

 

「何よ驚いたなぁ」

「天竜人の紋章……俺の誇りの上に付けやがった……!!!」

 

 あー、と頬をかくローゼマリア。エースの背中に刻まれている白ひげ海賊団の旗印の上にくっきりと色濃い奴隷の証。

 

「うん……その……ごめんねエースくん」

 

 かつてないほどに顰められた顔と、人ひとり殺していそうな凶悪な目つきがローゼマリアを貫く。

 

「それ、しおみずで取れる特殊インクだから安心して」

「あ゛ぁ!?」

「エースくんの背中にあるそれ、焼き印じゃなくって特殊インクで押してるだけだから取ろうと思えば取れるの」

「早く取れ!」

「その前に、話をしてもいい?」

 

 手負いの獣のような威嚇でローゼマリアに詰め寄るエースをなだめ、ベッドの縁に座るよう促した。

 興奮した様子のエースだったが冷静なローゼマリアに荒々しく舌打ちをしてドカッと腰を下ろす。

 

「ここが何処かは分かる?」

「……天竜人の住んでる、マリージョアだ」

「うん」

 

 顰め面のエースはカップの中身を飲み干すローゼマリアを睨み付け続けている。

 

「あなたは処刑されそうになってるところを私が奴隷という名目で保護しました。一応は奴隷という建前があるので焼き印のふりをして紋章を押しています」

「……保護?」

 

 言葉が引っかかったのかピクリと眉を動かす。そしてジロジロと無遠慮にローゼマリアを上から下まで眺め回した後に「お前」と息を飲み、ガッと肩を掴んだ。

 

「どうして俺のことを「エースくん」って呼ぶ? テメエにそんな呼び方される筋合いねえぞ。それを呼んで良いのは……一人だけだ」

「ごめん、なさい。そうよね、……サボくんのことがあってから会うのは久しぶりだったからつい嬉しくて……火拳のエース」

「……!?」

 

 エースはついに混乱しきったのかふらふらと数歩後ろに下がって尻餅をつく。ローゼマリアは意に介した様子なく話を続けた。

 

「エース、あなたを白ひげ海賊団へ帰そうと思っています。処刑されそうになっていたあなたを助けたのは……罪滅ぼしだから」

 

 泣きそうな顔で薄く微笑んだローゼマリア。

 

「ろ、ざ」

 

 呻くように絞り出された懐かしい名前に、嬉しそうに目を細めるローゼマリアは涙を一筋流した。

 

「少し時間がかかります。マリンフォードの状態があまりよろしくないので、今は世界に散った海兵が何名かずつ招集されているようですから。再建の見通しが立てば工事関係者が集められ往来は激しくなるでしょう」

「待て! ……本当に、本当にロザなのか?」

 

 立ち上がったエースは、今度は壊れ物を扱うかのように優しく肩を握る。親指で流れた涙の路を拭い、顔を覗き込んだ。

 

「ああ……っ! ああ、そうだ……ロザだ……見間違えじゃねえ! ロザ!」

 

 穴が空くくらい見つめられて、恥ずかしそうに顔をそらすローゼマリア。気に止めた様子のないエースはガバッとその胸に抱く。

 ぼろぼろとエースの目から涙が溢れて止まらない。

 

「ロザ……俺を助けてくれて、ありがとう……あの時は悪かった。すまなかった。ごめん。ずっと謝りたくて、また会いたかった」

「エー、ス」

「お前のせいじゃなかったのに。分かってたのに、八つ当たりした。あんなに酷いこと言って、ごめん」

 

 ぎゅう、と強く抱きしめられ小さく「痛い」と漏らした。瞬時に拘束が解ける。叱られた犬のようにしょげた顔のエースが下から覗き込んだ。

 

「エース」

「昔みたいに呼んでくれ、ロザ。……美人になっていて、気付かなかった。俺をエースくんって呼んで良いのはお前だけなんだ」

 

 ぼろっぼろに泣くエースの涙を拭うローゼマリアは「エースくん」と囁く。

 会えて良かった、助けてくれてありがとうと繰り返すエースが落ち着くまで背中を撫で続けた。

 

「それでねエースくん。一応私の奴隷っていう建前があるから、その印は海賊団に戻るまで消せないの。ごめん」

「消えるならいいんだ。さっきは、焼き付けられたと思って取り乱した」

「ううん。……今、白ひげ海賊団がどこに居るか分かる?」

 

 きょとんと目を瞬かせるエース。ビブルカードを持っていればエースが生きていることは明白だろうが、奴隷として連れて行かれたという事実を覆せるわけじゃない。

 せめて連絡が取れれば、奴隷ではなく保護しているということが伝わり向こうの緊張も解けるはずだとローゼマリアは考えた。

 

「あの場所から逃げ切れてたら新世界の方に行ってるはずだぜ。船がいくつか壊されたが、まだ幾つもあるからな」

 

 ただ詳細は分からない、とエースも首を振った。持たされていたという白ひげのビブルカードも、黒ひげに敗北した後で奪われないように飲み込んだという。

 

「じゃあ海賊団を探すところからだから、まだしばらくマリージョアにいなくちゃいけないわね」

「そう、なるな……」

 

 肩を落としたエースを慰めようとするローゼマリアはとりあえず自分の胸に顔を埋めさせた。

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