「というわけで、しばらくエースくんをウチに置きます」
「お世話になります」
朝食の場にてそう言った娘ローゼマリアを、ミョスガルド聖はにこにこ笑顔を浮かべながら頷いてみせた。事前に聞いていたおかげか、エースもローゼマリア以外の天竜人を前にして敵意をむき出しにすることはなく、比較的穏やかな表情を浮かべている。
ミョスガルド聖は普段と変わらない宇宙服のようなものを着ていたが、ローゼマリアはパステルカラーで腰紐を結ぶタイプのワンピースを、エースは大きめのシャツを着て前を閉じていた。
「白ひげ海賊団がマリンフォードから撤退して今はどこに居るのかを探し、エースくんを無事に帰すまでとなります」
「そうかいそうかい。いいんだよ、私は。「火拳のエース」くん、いつまでもウチにおりなさい」
娘の大切な友人なら私の大事な客人だからね、とゆったりとした口調で告げるミョスガルド聖に、再度頭を下げたエース。
「海賊団の所在地は恐らく海軍が握っているとは思いますが、傍若無人な天竜人が知りたいと言っても……」
「今はあの場所も荒れているから下手に探るのもな。我々天竜人のことを毛嫌いしている連中の方が多いということもあるが」
ううーん、と父子揃って唸る様子を見たエースが「何処も似たようなもんだな」とぽつり。
朝食を終えたローゼマリアたちは自室へと――戻らずにエースを地下室へ誘った。怪しい光に溢れたそこを見たエースは息を飲む。
「実はね、エースくんを海賊団に戻す時条件を出そうと思っているの」
「じょう、けん?」
「うん。それがこれ」
そうして指し示した巨大な筒には、眠る人。胸元や色々なところに奴隷の証が刻まれていて、買われたのだと一目で分かった。
「他の天竜人から私が買い取った奴隷たち。……彼らを全員、元いた場所に返してあげたいの」
コポコポと立ち上る空気の泡は眠り人がまだ生きている証拠。触れようとしてびくりと手を硬直させ、恐る恐ると指を伸ばす。つとり、と触れる先から伝わるのはただ冷たい硝子の感触だった。
「勿論、ルルンたちを含めて」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
自室に戻ったローゼマリアたちだったが、天竜人の客人が来ているとかで席を外したためエースだけが残される。
髪をがしがし掻き毟ったエースは、さきほど見た光景を脳内で思い起こした。ざっと数えたが眠り人のいる筒が10は下らないはずだ。それにローゼマリアが従えている奴隷という名目の侍女たちもそれなりにいる。
「親父がどう言うか、だな」
義理人情に溢れたあの“白ひげ”が奴隷だという者たちを受け入れないはずはない。それが天竜人の願いだとしても、だ。
「俺の頼みも聞いてくんねえかなァ~~」
難しいよなァ、と立てた膝の間に顔を埋めるエース。
ビブルカードもない今は海賊団の所在を探すこともローゼマリア頼り。はぁ、と深く溜息を吐いた。
「ロザは上手く言いくるめるとしても、親父はな~……」
「誰を言いくるめるって言ってるの」
「うおおおおああああ!?」
煩い、と頭をはたかれ後頭部を擦るエース。天竜人の服装のままでいるローゼマリアが戻ってきていた。
「奴隷の立場だってこと忘れないでね。他の奴ら、海賊を奴隷にすることが悦楽だってのもいるんだから」
「わ、悪い」
「今ロズワード聖一家が来てたんだけど、どうやらルフィくんたちと一悶着あったみたい。海賊を奴隷にしたって聞きつけて顔見せて欲しいって」
肩を竦めたローゼマリアの発した「ルフィ」にエースが反応する。私も驚いたんだけどね、と窓の外を確認するように一度目をやった。
「シャボンディ諸島で開催されたオークションにルフィくんたちが来てたみたいで、チャルロス聖が殴られたからシャルリア宮が頭にきてる様子だったわ。海賊がルフィくんたちだったら言い値で買い取るって」
丁重にお断りしたけどね、と鼻で笑ったローゼマリア。エースの目をはちまきで覆い隠してからいつもの服装に着替え、立て膝の間に腰を下ろしてからはちまきを解く。
「おっ……」
「エースくんあったかぁい。ルルン、ホットミルクちょうだい。エースくんは?」
「うえっ、あっ……俺も欲しい」
途端に顔中を真っ赤にしたエースを気にも止めず、ローゼマリアはルルンにホットミルクを頼んだ。
おずおずと彼女の腹に腕を回すと、エースの手の甲をぽむぽむと叩きながらギュッと引き寄せる。
「うふふ、サボくんがいた時にたまぁにしてたよね。ルフィくんとサボくんも一緒に来て団子になってたけど」
「ああ。最後には転がってそのまま寝てたりな」
エースがローゼマリアをバックハグしながら座り、ローゼマリアの膝の間にルフィが、エースの後ろにサボが座ってわちゃわちゃとしていた。それは忘れられない懐かしい記憶。
目を細めたエースはそのまま少し強めに抱きしめてつむじに顔を埋める。くすぐったそうにケラケラ笑うローゼマリアのことを、頬を染めて見つめていた。