「海軍のガープって知ってるか?」
マリンフォード頂上戦争と呼ばれ始めたぶつかり合いから十数日が経過したある日。白ひげ海賊団の行方が依然として知れない中、エースはふとそう尋ねてみた。
今日はルルンではなくガロという女性を傍に置いているローゼマリアはちょっと考える素振りを見せる。
「中将、かしら」
「そう! ルフィのじいさんで、俺も昔は世話になった」
「……ああ! もしかしておじいちゃん? コボル山に時々来てた」
覚えがあるわ、と手を打ち付けた。そうそう、と頷くエース。
「あのジジイに海賊団のことを聞くってのはどうだ?」
「えー……海軍でしょう……」
「まあそうだが」
私も海軍そんな好きじゃないのよね、と頬杖をつく。
ガープ中将といえば、天竜人を陰でゴミクズと呼び人間扱いしていないと噂で耳にしたことがある。それはセンゴクによって無かったことにされているためこれまで天竜人に怒りを買ってはいないようだが。
「白ひげ海賊団が見つかり次第、デッドオアアライブされない?」
「あのジジイならやりかねねェが……ロザが言ってくれりゃあちっとはマシかもな」
「うーん……確かにこれまで何の手がかりも無いからなぁ」
ローゼマリアはエースを保護してすぐに、雷雲を作りながら移動するというゼクロムをボールから出して捜索に行かせていた。見つかればすぐに戻れるようフーパのリングを持たせているので、使おうとすればフーパが反応するはずだ。
だが新世界も広い。手傷を負った白ひげ海賊団が潜伏している可能性は十二分にある。
「足いーれて」
「おう。……ジジイは海軍だけどよ、まあ俺の祖父代わりみてェなもんだしな」
のそのそとエースの足の間に入り込んだローゼマリアは腕をストッパー代わりで腹に巻いた。
暑いから、と上を着ていないエースは胸でサラサラとした髪の感触を感じ取り、さらにぷるんとした胸が腕に押しつけられて赤面し目線が泳ぐ。
エースがローゼマリアに抱く感情は、親愛から劣情へと既に変わっている。それは誰にも気付かれていないし、気付かせていない。ドクドクと痛いほど高鳴る心臓は幸いにもローゼマリアには聞こえていないようだ。
「じゃあとりあえず、ガープ中将にも聞いてみようか……光が見えないからなぁ。使える者は親でも使え、だ」
「おう」
ミョスガルド聖にも尋ねたところ、「まあ使えるなら存分に使いなさい」と許可も出たので早速善は急げと手紙を出した。
マリンフォードが壊滅なのだがまあ天竜人は傍若無人なものだからいいだろうと、全てを気にしないことにする。
「船はどうする?」
「ドンキホーテ家所有のがあるわ。軽く周遊したいと言えば直属の部下であるサカズキたちはもちろんのこと、センゴクやガープも動かざるを得なくなる」
「さすが世界貴族」
しばらくして海軍本部から返信が届いた。ガープを指名しての外海周遊を天竜人が望んでいるということから快く――本心はどうかは知らないが――承諾するという旨が書かれている。
船は生き残ったものを警備に付け、ガープ本人をドンキホーテ家所有のものに乗せたい。そう言えば彼らは了承するしかないので、周遊する日時を教えろと急かしてきた。
「なるべく早めの方がいいよね」
「ああ」
「多分、シャルリア宮なら今すぐとか言うんだろうけど……明日かなぁ」
「それもそれでヤベエけどな」
アハハ、とから笑いしながら更に重ねて海軍へ送る。羽根ペンをペン立てに差し、エースに寄りかかった。
壊れ物を扱うように優しく抱きしめたエース。くすぐったそうに身をよじるローゼマリアは上半身を捻ってエースの鼻をつまむ。
「エースくんってさあ、たまに甘えん坊だよねえ」
「あ~?」
だぁってさあ、と不思議そうな顔をしているエースがもぞもぞ動かす不埒な手をぱしんとはたいた。
「いてえ」
「オープンスケベ。こういう悪いことするお手々はあるけど、ぎゅうする時に優しい顔するじゃん」
「あれば揉むだろ~が、胸くれェよ」
「ほっぺた引っ張り倒すわよ」
減るもんじゃないし、と唇を尖らせるエースに「脂肪を燃焼してるようなモンだから萎むのよ」と耳たぶを軽く引っ張った。
「ロザす~ぐ手ぇ出る……。身体のサイズが丁度良いから抱き枕代わりだぜ」
「だから寝てる時に引っ付いてくるの……」
耳いてえ、と軽く擦りながらも腕の力を強めてローゼマリアを離さないとアピールする。それが彼女には、昔なじみゆえの甘えだと思っているらしい。
「エースくん、ルフィくんの前でも甘えん坊になるの?」
「弟の前でまではしねェよ。お前だけだ」
「ふふふ、口説かれちゃった」
なッ、と自分で言ったことにボフンと赤面するエースだったがクスクス笑うローゼマリアに面白く無さそうな顔をする。
エースがあぐらをかいたその間に座っているローゼマリアは膝を立てた。
「そういえばよ、ロザ」
ずる、と滑り落ちたローゼマリアを元の場所に戻したエース。肩に顎を乗せて頬を寄せる。
「なぁに?」
「お前、モビー・ディック号に奴隷だった奴らを乗せるのは親父も許すだろうけどな。お前はどうするんだ?」
「……私?」
なんで? と目を瞬かせたローゼマリア。
「いやだってよぉ? お前の侍女してる奴ら、多分お前が船乗らねえなら乗船しねェと思うぜ」
「えぇ? だって前から、タイミング合えば元の場所に返すからねって言ってあるのに」
「俺から見れば多分、いや絶対ェそうだと思う」
ローゼマリアの頭を撫で撫でするエースは確信を持ってそう言った。子供扱いして、と膨れる彼女の頬を突く。ローゼマリアにとっては全てが親愛の証だと信じて疑わない。
その目に思いを隠し、エースは明日へと馳せるのだった。