対ありでした。またお願いします。   作:春日野つばき

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第6話 出航

 よく晴れた日になった。赤い土の大陸(レッドライン)にある赤い港(レッドポート)には、ドンキホーテ家の豪華絢爛な船が停泊していた。ガープ率いる軍艦十数隻が周囲を堅牢に固めている。

 よく言えば厳重な、ガープにしてみれば余計なことを仕出かさないようにとの監視を意味しているのだろう。

 

 既に船の中にはエースが隠れており、ルルン、ガロを連れたローゼマリアが乗船すると同時にガープも一人で乗った。

 

 ガタン、と音がして出航していく。波に揺られる感覚を楽しみながらしばらくの間は様子を見た。ガープは船首で前のみを見据えていて、軍艦はほぼ周囲を取り囲んでいるようなもの。さてどうするか、と思っているとガロが進み出てきた。

 

「わたくしめが中将をお呼び致します」

 

 ふむ、と頬杖を突いているローゼマリアはルルンと隠れているエースに視線を送ってから頷く。同時に見えている窓全てをカーテンで覆い隠し始めるルルン。海軍たちが泡を食ったようなのが薄ら見えたが、それもすぐに見えなくなる。

 ガープはその異様な光景に一瞬だけ眉をしかめてから空咳をした。

 

「何のご用件でしょう。ローゼマリア宮」

 

 どうせ大したことじゃないのに呼びつけるな、という意思が透けて見える。ローゼマリアは薄く微笑んでから「ああ」と足を組み替えた。

 

「そなたに尋ねたいことがあるアマス」

 

 強く刺し殺されそうな視線を受け流したローゼマリア。もぞ、と隠れているエースが動いたが、ガープは全く気付く気配がない。ルルンが上手く気配を覆い隠しているようだ。

 

「そなたは、海賊をどう思っているアマス? サカズキやボルサリーノは殲滅すべしという思想であるが、ガープ、そなたの思想を尋ねたいアマス」

「……海賊どもは犯罪者。『赤犬』らと変わりゃしません」

 

 嘘だな、と眉根を寄せる。威厳ある顔をしようとしているのだろうが、ローゼマリアから見たガープは明らかに動揺している。エースの件、孫のルフィのこともそうだろう。まあそれはいいとしましょうか、と再度口を開く。

 

「白ひげ海賊団について……知っていることを話すアマス」

「白ひげ……? なぜそのような些末なことをお気になさるのですか」

 

 天竜人が気にするようなことではないから黙っていろ、とでも言いたげな顔のガープ。他の天竜人が相手なら不敬罪で即刻奴隷落ちということをこの男は理解しているのだろうかとローゼマリアは不思議に思った。彼女がエースを奴隷としてマリージョアへ連れて行ったことへの憎しみもあるのかもしれないが。

 白ひげ海賊団の名前を出したことで、他にも奴隷にしたい者がいるのかと思われていてもおかしくはない。

 

「質問に質問で返すことがどれほど不敬なのか、分かって言っているアマス?」

「……ご無礼を」

 

 ふかぶかと頭を下げるガープに目を細めたローゼマリアは質問に答えるように促す。渋っている様子だったが、天竜人にこれ以上逆らえばマズいと思ったのか重たい口を開いた。

 

 曰く白ひげは大罪人ロジャーと肩を並べる大海賊であり討伐対象だということ。

 曰くこれまでの所業を憎む者が多いこと。

 曰く、エースが海賊として名を挙げたのは白ひげのせいだということ。

 

 エースの隠れているところは狭い衣装箱の中だ。そこが最後の言葉を聞いた途端にガタリと音を立てる。

 目敏くガープが「オホン」とわざとらしく咳をした。

 

「失礼と存じていますがお尋ねしても?」

「建前で聞くでない、鬱陶しい」

「では。……その箱の中身を改めてもよろしいでしょうか」

 

 慇懃無礼な物言いだと感じたローゼマリアは鼻を鳴らす。

 

「それには及ばないでアマス。ルルン」

 

 開けてやれ、と顎をしゃくると、ひとつ頷いてルルンが衣装箱の蓋を開けた。無造作に布があり、その山がごそごそ動く。

 ぬっと立ち上がる彼を見たガープは幽霊でも見たかのようなそんな青い顔をした。

 

「え、え、エース!」

「ようジジイ」

 

 そんなに吃驚した顔すんなよ、と髪をかき乱すエース。ちらりと視線でローゼマリアを見れば、ガープも自然にそちらへ向く。

 

「もう戻していい?」

「ああ」

「ああ~……! もうあの口調疲れるからイヤなのよ~」

「悪ィなロザ。ジジイ、話がある」

 

 ガープは、天竜人にタメ口を使っているエースに肝を冷やせばいいのかそれとも仲が良さそうなことに目を瞬かせればいいのか分からない顔をしている。

 

「エース、お前、たしか奴隷に……」

「ああ。奴隷としてマリージョアに連れて行かれたが、俺はどちらかといえばロザに助けられた感じだな」

「ロザ……お前ローゼマリア宮をそのように……」

「い~んだよ。ジジイも知ってるはずだ、ダダンとこでルフィとサボと暮らしてた頃にいた女の子」

 

 目を白黒させたガープは、しかしエースが言ったことを頭で反芻し記憶の中を引っかき回した。

 ふと思い当たることが。サボやエースたちのところに神出鬼没で現れていた少女。

 

 ガープはゴア王国に住む娘だと思っていたが、フーシャ村や不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)に住んでいるにしては身綺麗だとは思っていた。

 

「ロザは随分早くから俺たちに天竜人だと明かしてくれていた。ま、俺たちは気にしなかったが」

「気にしなかった?!」

「ガキに殿上人だなんだって言ったとこで流すだろ。それにロザも威張ることは無かったしな」

 

 まあ色々ありはしたけど、とぼそりと呟くエースのそれは誰にも聞き取られず立ち消える。

 気を取り直したエースはガープに、白ひげ海賊団の現在地を教えてくれと頼み込んだ。それを聞いたガープの顔は苦虫を噛み潰したもので、相当に嫌なのだろう。

 

「俺は白ひげを親父だと思ってる。今回の件で親父にひでえ迷惑をかけた。ちゃんと謝りてェし、また親父たちと海に出ていたい。なあ、頼む」

「……既にお前は賞金首じゃ。いまさら海軍に入れと言って入れるもんじゃなし。じゃがな、エース。海賊に戻るということは再びワシらと敵対するということじゃぞ」

「二度と同じヘマはしねえ。敵対したって構うもんかよ。アンタも確かに俺を受け入れてくれていたけどな……」

 

 目の前でぎゃいぎゃい騒ぎ始める二人。ヒートアップして声が大きくなっているのを、両手を打ち付けることで知らせる。防音はしっかりしているはずだし、船のエンジン音である程度はかき消されているだろうとは思うが、流石に声が大きくて他の海兵に聞こえてしまう可能性も否めない。

 

「エースくん、ガープおじいちゃん。一応この船はドンキホーテ家のものだからここでドンパチはやめてほしいし、騒いで他の海兵に勘ぐられるのも面倒だから避けたいの。シッ」

「あァ、悪い」

「さらに言えば私は全面的にエースくんの味方でいたいから、あんまりおじいちゃんが渋るとセンゴクに命令が行くよ。天竜人の命令には逆らえないし、サカズキたちも理由なんか問えないだろうから彼らのフラストレーション溜まりまくりになるね」

「そりゃァ脅しか?」

「事実の通達ってやつよ」

 

 頬杖をついたローゼマリアを渋い顔で睨んだガープは、同じく怖い顔で睨んでくるエースとを見比べる。葛藤しているのだろう唸り始めたガープを、肩を竦めて「頑固ねえ」とでも言いたげな顔になったローゼマリアが下唇を突き出しながら見ていた。

 

「……公には捜索できんぞ。すぐに見つかる保証もない。それに、発見したら連絡はするが捕縛を優先する。条件が飲めんのならこの話は無しじゃ」

 

 たっぷり1時間は唸り続けていたガープはそろそろ赤い港(レッドポート)に戻らなければいけない時間になった頃、呻くように条件を出してくる。

 エースはそれに眉間の皺を深くしたが、ローゼマリアは「いいわよ」と告げた。

 

「ロザ!」

「居場所さえ分かれば話は早いわ。それに、一般海兵どもに遅れを取るほど白ひげ海賊団は弱くないはずよ。将クラスが辿り着くまでに十分時間はある」

「何か方法があンだな? 捕縛に向かったジジイたちより早く親父たちのところに行ける方法が」

「ええ。だから発見した情報さえあればいいの。ガープ中将、その条件承るわ」

 

 にんまりと笑うローゼマリアを不思議そうなエースと不審そうなガープが視線を送るその時。ガタンと音がして船は港へと舵を切っていた。

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