対ありでした。またお願いします。   作:春日野つばき

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第7話 発見

「エースくん、エースくん! 見つかったわ!」

 

 そう叫んで部屋に入ってきたローゼマリアをびっくりという言葉が似合う顔で凝視してくるエース。その勢いのまま、エースの胸に飛び込んできたローゼマリアを抱き留める。

 首に腕が回ったおかげかローゼマリアの顔はエースに近く、ぐい、とどアップになり鼻同士が触れ合うくらい。頭のてっぺんからボフンと湯気が出てしまう。

 

「ろ、ロザ、近ェ……」

「ああごめんなさい……嬉しくてつい」

 

 まつげ長かった、肌すべすべ、良い匂いした、色々と邪な考えが頭を巡る。あのね、と書類を手にしたローゼマリアはエースではなくそれに目を落としていて気付いていない。エースがローゼマリアの唇に視線が奪われていることに。

 

 ぷるぷる、うるつや、何もしていなくても赤く色づくそこにエースは釘付けになった。

 急に飢餓感がエースを襲う。はら、へったな。と口の中を涎まみれにしてゆっくり口を開く。

 

「エースくん? 聞いてる?」

 

 ふと目の前で手が振られ我に返った。前屈みにローゼマリアへ覆い被さるような形になっており、思わず仰け反る。右手の甲で口元を押さえて目を泳がせた。

 

「わ、悪ィ……聞いてなかった」

「そうなの? じゃあもっかい言うからちゃんと聞いててね」

 

 興奮しているのか頬を真っ赤に染めた、にっこにこの笑顔がエースに向けられる。エースが抱く感情など全く気付いていない様子だ。

 ローゼマリアは父ミョスガルド聖から上がってきた情報を一字一句間違えないようにと、エースにも見えるようにしながら読み上げ始める。

 

「新世界のこの場所で白ひげ海賊団の船を見つけたんだって。今もこの島に停泊してるみたいだから、すぐにでもゼクロムを向かわせられるよ。もうすぐ、帰れるよ」

 

 その言葉で締めくくられたのを聞いたエースは、どこか寂しそうな声音をしたことにすぐに気付く。ローゼマリアの瞳を見つめれば中に悲愁の念があった。エースが白ひげ海賊団に戻れば別れることになると、そう信じている。

 

「ロザ、あのな、」

「エースくんを助けられて良かった。今度はもう一人で無茶しちゃダメだからね。次も助けてあげられる保証なんてないんだから」

 

 おずおずと話題に出そうとしたエースは、白い歯を見せて笑うローゼマリアを目にして言葉を飲み込んだ。指先を伸ばして頬に触れると、嬉しそうにすり寄ってくる。自分の手よりひとまわりも小さく、細く、白い手がもっと撫でろと言っているかのように重ねられた。

 

「いひ、くすぐったい」

 

 上下にごしごしと擦るように撫でつければ、昔と変わらない笑顔を見せる。思わずぎゅうっと抱きしめるとさみしがり屋と勘違いされて背中をぽふぽふ叩いてきた。

 ロトム、と何かに声をかけているローゼマリアの背中を眺めながら、エースも腹をくくる。

 

「(絶対ェ親父に認めさせる)」

 

 例え無茶な条件を出されたとしても、と決意を固めていると、「やった」という声と衝撃が襲ってきた。顔が圧のある何かに包まれているのを感じ取って身動きすると、謝罪とともにローゼマリアが退く。

 

「ゼクロムもちょうど島に到着したとこだったみたい! 早速フーパのリングで「お出まし」出来るから、支度が済んだらすぐ行こう!」

 

 童貞臭いと言わないでほしい。エースは「圧」の正体を察して鼻血を垂らした。ローゼマリアに気付かれないよう親指で拭う。

 準備があるからと部屋を出て行くローゼマリアと入れ違いにミョスガルド聖が入室してきた。その顔は何かを察しているようで、固い表情を浮かべている。

 

 エースが口を開く前に、静かに話し始めた。

 

「娘は、おてんばなところがある。心を開いていない相手の前では気難しくもある。独りよがりで、自分勝手で、猪突猛進な面もある。だけど優しい子だ。天竜人として産まれたことが間違いだと思うくらいに、人を思いやれる子だ。誰かの悲しみを自分のものにしてしまう子だから、手を焼くこともあるだろう。それでもいいかい」

 

 親に結婚の挨拶をしに来たような、そんな口ぶりのミョスガルド聖にエースは固まる。

 ふふふ、と穏やかな笑みのミョスガルド聖。

 

「あの子が気付いていないのが不思議なくらい、君は分かりやすい。だからこそ君を信じようと思う」

「……いいんですか。アイツを、ロザを、海賊船に乗せて」

「私は娘を信じているし、そんな娘が心を開き委ねる相手を信じようと思っている。狭い鳥かごでは見られない景色もあるだろうし、何より奴隷となってしまった彼らの行く末を見届けることも、元いた場所に戻そうと決めたあの子がするべきことだと私は思う」

 

 元より白ひげの許可をもぎ取ってモビー・ディック号に乗せようとしていたエースが言うべきことではなかったのかもしれないが、本当に乗せてもいいものか尋ねてしまう。その返答に目を瞬かせた。

 まあそんなのは建前だ。とあっけらかんと言い放つミョスガルド聖。そのまま懐から持っていた書簡をエースに手渡した。

 

「これは……」

「白ひげ海賊団船長、エドワード・ニューゲート宛の手紙だ。娘を船に置き、奴隷たちを故郷へと帰して欲しいという頼みが書かれてある。もし取り計らってくれたのなら、海軍の動きを逐一そちらへ教えると書いた。彼らとしても海軍内の人事や詳細な動きは知りたいはずだろうからな」

 

 確かにと思う。エースひとりでローゼマリアのことをプレゼンしても、救ってくれたとはいえ天竜人、という色眼鏡が出てしまうはずだ。

 

「それにあの子には、この世界に存在しないような「ポケモン」という友達が沢山いる。ニューゲートたちに心を開けば必然と彼らの力も借りることだってあるだろう。ポケモントレーナー、という職業のことを寂しそうに語る娘は、旅がしたくてたまらないって顔をしていてね。今回のことは良い機会だと思ったのだよ」

「……分かりました。必ずこれは親父に、船長に渡します」

 

 ふかぶかと一礼したエースを、目元を緩ませながら見つめるミョスガルド聖はふと部屋の外へ目をやった。ローゼマリアの気配を悟ったのだろう。「支度は済んだようだね」と告げる。

 

「あらお父上様」

「ローゼマリア。そんなに軽装ではダメだ。せめて動きやすい服にしなさい」

 

 地下から戻ったローゼマリアは、巨大な筒に入っていた人たちを浮かせながら戻ってきた。緑の頭をした女性型の生き物が「サナサナ」と鳴きながら力を使っていることから、超能力の類いかと推測する。

 胸下で切り替えられているワンピースを着て、ブーツを履くという軽装のローゼマリアはミョスガルド聖の言葉に「え?」とまじまじ見た。

 

「すぐ戻ってくるから別にこれでも……」

「いいや。何があるか分からないから、スカートじゃなくパンツにしなさい」

「……はぁい」

 

 恐らくここに戻るのはいつになるか分からない。モビー・ディック号に乗ることを明かさないまま送り出すつもりのミョスガルド聖に目配せしたエースは、小さな頷きを見て口を噤む。

 着替えるために一度退室した二人。エースの「いいんですか」という口の動きを見たミョスガルド聖はまたも頷いた。

 

「今生の別れになどしないつもりだから、いいんだ」

 

 終わったよ~、と何も知らないローゼマリアの声を聞きながら、エースはぐっと拳を握った。

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