チート主人公がスローライフを送る為にヒロイン達や試練から逃げまわる話   作:あいうえあ

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攻略

 

 

 今回の稼ぎは2020ヴァリス。換金を終えバベルの塔を後にする。これで現在の所持金は2520ヴァリス。塔の中にも買い物をする場所は有るには有るのだが…あそこは軒並み高過ぎる。チラッと見たが一番安い財布で20万ヴァリス。

 いや~目を疑ったよね…

 この世界の金銭感覚がまだ曖昧ではあるが、明らかにこの塔の中の物価はオラリオ内でも最も高価だろう。

 

 塔の周辺には冒険者をターゲットとしたお店が立ち並んでいる。屈強なドワーフが店主の武器屋、エルフが営業する魔道具専門店、影が掛かっている薄暗い裏路地には怪しげな道具屋があった。

 ここは所謂、冒険者通りと言うやつだ。

 

 今必要なのは魔石を入れる用のバックと小銭を入れる財布。余裕があれば武器も見ておきたい。

 

 塔から少し歩くと、通りの端の方でひっそりと営業している道具屋を見つけた。

 いかにも老舗と言った年季の入った店に入ると、年老いた小人族(パルゥム)の店主が迎え入れてくれた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 正面にカウンターがあり、その周りには様々なサイズのバックやクロスボウと言ったサポータ向けの装備がひしめき合っていた。

 

 かなり大きなバックを手に取る。

 やっぱり大きい方が何かと便利だしな。沢山魔石も稼ぎたいし。

 

「おや?貴方はサポーターでは無いようですが、駆け出しの冒険者ですかな?」

 

 長年の経験で僕がサポーターでは無いと解るのか、店主が問いかけてくる。

 どうやら手に取ったバックはサポーター用の物だった様だ。

 

「はい。駆け出しですが、魔石を入れるバックが欲しくて」

「ふむ。であれば些か大きすぎる。こちらはいかかでしょうか」

 

 そう言って差し出されたのは少し小ぶりなバック。

 

「しかしそれでは小さすぎませんか?」

「魔石は案外重い。そのバックが満杯になる頃にはまともに戦えなくなってしまうでしょう」

 

 …確かにその通りだ。

 まぁ僕の場合はスキルの【異次元インベントリ】を取得すれば何とかなりそうだが。

 

「ではお勧めして頂いた物を購入します」

「ありがとうございます。2500ヴァリスになります」

 

 げ…2500…現在の所持金は2520ヴァリス。

 

「……」

「おや?足りませんかな」

「いいえ、ただ財布が買えなくなってしまします…」

「幾らお持ちで?」

「バックを購入すれば残り20ヴァリスです」

「なら、こちらの財布でよろしければ20ヴァリスでお譲りします」

 

 そう言って差し出されたのは普通の革財布。

 

「い、いいのですか?」

「ええ。その代わりと言っては何ですが、これからも御贔屓にお願いします」

「はい!もちろんです!」

 

 気前のいい店主に財布まで頂き店を後にした。

 …折角手に入れた財布だが中身はすっからかんだ。まぁいい。これからたっぷり稼げばいいのだ。

 

 シルさんから貰った弁当はさっきダンジョンで頂いた。まだ夕方だがシルさんにお弁当箱を返しに行こう。夜は冒険者で賑わうだろうからな。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 豊穣の女主人に到着する。チラッと中を覗くと、まだ夕方だがかなり賑わっている様だった。従業員が慌ただしく厨房を行き来している。

 またシルさんに変に絡まれるとややこしいしな…。

 バレない様に厨房まで侵入し、台所に置手紙と共にお弁当箱を返却しておいた。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 今更だが、隠密をする機会が増えた。そのお陰か隠密行動が上手になっている気がする。まぁ目を付けられない様にする為に、隠密は必須スキルと言えるから上達するのは喜ばしい事なのだが。

 

 隠密に限らず、料理も何だか以前より上達するのが早くなっている気がする。ステイタスには何も表示されていないが、呑み込みが早くなる才能的なのを転生神が付けてくれたのだろうか。

  

 しかし、する事が無くなってしまった。

 …もう一度ダンジョンに行くか。

 

 今夜の宿や食事を得る為にはお金が必要なのだが、今は一文無し。何をするにもお金が必要と言うのはどの世界も変わらない様だ。

 

 日は沈みかけている。他の冒険者がダンジョンから帰還する時間。つまり、ロキファミリアの面々や他の強豪ファミリアのメンバーに遭遇する確率は格段に上昇している。以前の僕ならダンジョンに行かないだろうが、今日潜ってみて分かった事がある。それは案外、誰も僕に注目していないと言う事だ。そりゃそうだ。他の人から見れば僕はモブ。逆に言えば僕も今日すれ違った冒険者の顔を殆ど思えていない。

 

 僕はモブ…。

 そう。モブだっ!

 ダンジョンに潜る時はモブに徹するのだ…!!さすれば何も怖くないっ!

 誰に会おうが、目を付けられるなんて事は無い!!

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

「キミ…強いね…」

 

 目の前にいるのは金髪に金眼の美少女、アイズ・ヴァレンシュタイン。攻略を終えた後なのか少し衣服が乱れていて、綺麗な金色の髪には煤の様な汚れがついている。

 ウォーミングアップに上層の雑魚敵を片っ端から狩りまくっていたのだが、いつの間にか見られていた様だ。

 

 は、話が違うじゃないかっ!モブに徹すれば大丈夫だって誰か言ってたじゃないか!

 

 過去の自分に文句を言ってみるが当然届く筈もない。

 狂化を使用していなかったので、目立たないだろうと完全に気を抜いていた。ゴブリンやコボルトなどを、さながらソシャゲのイベント周回のように無心で狩りまくっていた。

 しかし、ランク2くらいの実力が有れば僕よりもっと早く片付ける事も出来るのではないだろうか。…目を付けられるほどの事か?

 

「いや、相手はゴブリンですからね。誰でも無双出来ますよ」

「違う。ナイフの扱いが上手。暫く見てたけど、どんどん上達していってる」

 

 成長速度が凄いと言う事だろうか…?

 しかし、そんなに長い間見られてたのか…隠密には自信が有ったが隠密を見破る技術はまだまだらしい。

 

 不幸中の幸いと言うか、僕を見ていたのはアイズさん一人だった。ロキファミリアの他のメンバーはもう帰還したのだろうか。見ていたのが彼女だけで良かった。この子なら「なんか上層に強いやつがいたなー」くらいの印象で済ませてくれるだろう。多分。

 

「なんでそんなに直ぐに強くなれるの?」

「へ?」

 

 直ぐって…。アイズさんと言えば、たった一年でランク2になった人じゃなかったっけ?十分直ぐ強くなってるじゃん。一般的に公開されている情報だが、余り知り過ぎていると変かな?当たり障りのない事を言っておこう。

 

「あはは。何ででしょう?新人だからですかね、伸びしろが沢山あるんですよ」

「新人…そうか。頑張ってね」

 

 そう言い残すと回復薬を渡し去って行った。

 

「……」

 

 い、意外と何とかなった。今までの事を考えると、もう少ししつこく絡まれると思ったがあっさり解放された。フィン・ディムナなどの幹部となると話は別だけど、アイズさん相手なら変に逃げるよりモブAの顔をして嵐が過ぎ去るのを待った方が良いかもな。

 

 色々な意味で気を引き締め、深層へと歩みを進めた。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 ここは第6階層。ミィシャさんによると、初めて出現するモンスターはウォーシャドウ。別名親米殺し。

 

「……」

 

 噂をすれば影が差す。壁が割れ、ウォーシャドウが3体産み出される。

 影…正にこのウォーシャドウとは影の様な見た目をしていて、ダンジョンでも珍しく人型のモンスターだ。

 

「中々闘い甲斐がありそうだ」

 

 …平穏を望んでおきながら、意外と戦闘狂いなのかもしれない。自らの思わぬ一面に驚愕しつつナイフを構える。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

「…案外呆気なかったな」

 

 残された魔石を拾いさっき買ったばかりのバックに詰め込む。長く鋭利な爪の様な指が厄介だったが、狂化のスピードで翻弄し仕留める事が出来た。

 

 7階層に行ってみるか。

 因みにだが、ミィシャさんから教えて貰ったモンスターの情報はこの6階層までだ。7階層以降は未知の領域。ミィシャさんもまさかこんな新人が初日に7階層に踏み入れる事になるとは思いもしなかっただろう。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 7階層に降りて初めに戦った相手は大きな蟻の様なモンスターだった。こいつもアニメで見た事がある。確か瀕死になると仲間を呼び寄せるんだっけ?

 

 予想通り、蟻はピンチになると嫌な鳴き声を上げる。すると、ぞろぞろと壁を伝って蟻の大群が現れた。壁の岩肌が見えない程に壁一面が蟻で埋め尽くされ非常に気持ちが悪い。

 

 白い稲妻が身体に纏う。

 蟻が助けを呼ぶ間も無く一瞬にして10匹ほどが魔石へと姿を変えた。

 

 この調子なら直ぐに終わるな。

 

 そう思った時だった。

 

「ゴホッ…何だ!?」

 

 口から何か熱い液体が吹き出す。足元を見ると地面が真っ赤に染まっていた。

 

 突然の吐血に頭が混乱する。直ぐに激しい脱力感に襲われ、気付けば狂化が解除されていた。

 まさか、狂化の代償…?

 思い返せば昼まで狂化を使いダンジョンを攻略し、殆ど休憩なしで再び狂化を使用していた。小さな負担が蓄積していたのだろう。

 

 モンスターにこちらの状況など関係ない。蟻の大群は一斉に襲い掛かって来た。

 攻撃を躱し甲羅の間を正確に切り裂く。

 身体は疲弊しているが、狂化無しでも勝てる。問題は数だ。目の前には壁を全て埋め尽くすほどの蟻の大群。そして、その全てを仲間を呼ばれる事無く一撃で倒さなければいけない。

 

「やばいかもな」

 

 生ぬるい汗が頬を伝い落ちる。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

「はぁはぁ…」

 

 目の前には壁一面の蟻…ではなく今度を地面を覆い尽くす程の魔石で溢れていた。

 支給されたナイフは切れ味を失い、後半はメリケンサックの様に扱い蟻を撲殺していた。

 かなり危なかった。アイズさんに貰った回復薬を飲んでみたが、狂化によって失った体力を回復する事は出来ない様だった。

 

「つっかれたぁ~」

 

 その場で寝転がる。

 冷たく堅い岩のベットだが身体が火照っている今は非常に心地良い。

 

 魔石を回収して今直ぐにでも帰ろう。

 この疲弊しきった身体では魔石を拾うとだけでも一苦労。腰を曲げるだけで身体の節々が悲鳴を上げる。…おじいちゃんになったらこんな感じなのかな。

 

 ピロリン♪

 メニューを確認するが、所々ステイタスが上昇している以外に変化はなかった。

 Lvは何時上がるのだろうか。結構頑張ったんだけどなぁ。

 相変わらずLvは4のままだ。

 

 その時だった。

 壁がビキビキと音を立てる。モンスターが産まれる様だ。

 おかしい…

 今日一日攻略してみて判ったが、ダンジョンには生き物の様に体力が存在し、無限にモンスターを生み出せるわけでは無い。予想だと後20分はモンスターを産み出す事が出来ない筈…。

 

『冒険者が疲弊し体力を消耗した時に初めて本来の牙をむくのです』

 

 何時ぞやのリューさんの言葉に背中に氷が差し込まれた様な不安を覚える。

 

「まじかよ…」

 

 壁から生み出されたのは馴染みのある面子ばかりだったが、特筆すべきはその数と種類だ。ウォーシャドウに巨大蟻…今まで戦ったモンスターがまるで同族の恨みを晴らすかのように大量に産み落とされた。これが、怪物の宴(モンスター・パレード)と言うやつだろうか。

 

「……」

 

 正直ダンジョンを舐めていた。この追い込まれたタイミングでピンポイントに怪物の宴に見舞われるとは。

 手には切れ味を失ったナイフ。そして身体はボロボロ。戦う力など残されていなかった。

 仕方が無い。こうなれば最終奥義…。

 

 逃亡だっ!!

 

 くるりと180°回転し、脱兎の様に逃げる。

 後ろを振り返ると物凄い勢いでモンスターが追いかけて来る。地獄絵図だ。

 

 暫くダンジョン内で鬼ごっこをしていると、モンスター同士でも足の速いのと遅いので差が出始めた。そう。これを待っていたのだ。全て相手にするのは骨が折れるが、少しずつならまだ戦える。蟻よりも足の早いウォーシャドウに切り掛かった。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 全てを倒し終えた瞬間、脳内に某RPGでレベルが上がった時の音が鳴った。メニューを確認するとLvが6になっていた。

 

 

 

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