チート主人公がスローライフを送る為にヒロイン達や試練から逃げまわる話   作:あいうえあ

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武器

 

 

 目が覚める。

 ゆっくりと起き上がると身体の疲労感はすっかりと消え去り、正に絶好調と言った感じだ。これも【睡眠超回復】の効果だろう。体力が回復するお陰で、目覚めも良くなる様だ。本来なら、もう少しベッドの上でうだうだしていたいが、今日はやりたい事が沢山あった。

 

 新しい武器の調達、魔法、結界…。昨日の習得したスキルを思い浮かべわくわくせざるを得なかった。

 

 宿で朝食を取る。

 ソーセージ付きの目玉焼きに、少し焦げの付いたパン。シンプルなメニューだが、腹と心を満たすには十分すぎた。

 

 朝食は1階の小さな食堂で頂いている。聞いた話によるとここの最大宿泊人数は4人と言う事だ。しかし現在、他の客は居らず僕の貸し切り状態。店員もエルフの店主一人のみなので静かで非常に落ち着く。

 店主もこの雰囲気が好きなのか、変に話を振る事無く受付のカウンターで静かに読書を嗜んでいる。

 

 食べ終え、食器を返却すると本を片手に店主が口を開く。

 

「今日も泊まって行くのかしら?」

「はい!お願いします」

 

 ここは非常に気に入った。雰囲気と言いご飯と言い、なぜ客が僕だけなのが疑問に思う程、居心地が良いのだ。

 

「分かったわ。今晩は即席ではなくちゃんと作るから楽しみにして頂戴」

 

 昨晩もかなりおいしいご飯を頂いたのだが、あれで即席だったのか…。

 

「楽しみにしておきます!では行ってきます!」

 

 弓を買う為、武器屋に向かった。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 冒険者通りを暫く歩いてみたが、オラリオでは主にヘファイストスなどの鍛冶系統のファミリアが武具の市場を牛耳っている。

 

 商人が営業している武器屋も有るのだが、修理や手入れなど購入後も手厚くサービスしてくれるのが鍛冶系統ファミリアの大きな特徴で有り利点だ。腕利きの冒険者だと専属の職人が付く様で、両者のファミリア同士の繋がりも非常に頑強なものとなっている。

 

 強い繋がりを持つと後々ややこしい事になりそうだし、何より色々な武具を試してみたいので今回は手頃な価格で展開している商人の武器屋で購入を検討してみる事にした。

 

 スキルが発現したからと言う理由も有るのだが、個人的に弓と言う物に興味があった。遠距離から安全にチクチク攻撃する様は地味だが、僕の性格には非常にマッチしていたのだ。

 

 冒険者通りの端まで歩いてみたが、サポーター向けの火力が少ない弓、高すぎる弓、反対に安すぎて不安になる弓など…、好みに合うような弓を見つける事が出来なかった。

 

 そもそも弓を置いている武器屋が少なかった。思い返せば、アニメの主要キャラで弓を使っている人は居なかったな。この世界で弓の使い手が全くいないと言う事は無いのだが、少数派ではあった。ダンジョンと言う閉鎖的な空間では弓は扱い辛いのだろう。

 

 どうせ今回はお試しだ。安いので我慢するか…

 妥協して、来た道を引き返そうとしたその時、ふと横を見ると、昨日バックを購入した老舗の道具屋が有った。

 

 最後にここだけ見てみるか。老舗だし、良い弓の情報を得られるかもしれない。少ない期待を胸にドアを叩く。

 

「いらっしゃい。あら?昨日の今日ですが、いかがなさいましたか」

 

 昨日と同様、年老いた小人族(パルゥム)の店主が迎え入れる。相変わらず壁には様々な道具が所狭しと並べられている。よく見ればバック以外にも古びた防具や風格を感じる剣なども並べられていた。

 ここなら良い物が見つかるかもしれない。少し期待が高まる。

 僕が欲しい弓はメインで運用できる程に攻撃力が高く、それなりに耐久力が高い物。ギルドのナイフの様に大事な時に使えなくなっては困るからな。

 

「ほほぅ…弓ですか…少々お待ちください」

 

 僕の望む条件を聞くと何かを思い立ったように、ゆっくりと立ち上がり店の裏へと消えていった。

 店の奥からは大きな物を運ぶ音が聞こえる。

 まさか弓が有るのだろうか。正直諦めかけていたのだが更に期待が高まる。

 

「お手伝いしましょうか」

 

 問いかけに対して奥から大丈夫だと返事が帰って来る。

 姿を現した店主は、その丈と同じくらい有る弓を両手で抱えていた。と言っても店主は小柄な為、弓自体はそこまで大きくは無い。見た所、その弓は木で出来ていて、その大きさにそぐわず店主が一人で運べるほど軽量となっている様だ。

 

「こちらの弓の型はロングボウと呼ばれている物ですが、その中でも極めて威力が高く、巨龍すらも打ち砕くと言われております」

 

 きょ、巨龍を打ち砕く!?

 まるでこの弓が『伝説の弓』であるかのような言い回しだ。僕は軽い気持ちでお試しの弓を買いに来たんだけどな。

 思わぬ代物を提示され少し困惑する。

 

 驚きと疑いを孕んだ目を弓に向ける。通常よりも大きいのだがとても扱えない程では無いし、特に変哲の無い形状をしている。この弓のどこにそんな力が隠されているのだろう。

 店主が強さの理由を話してくれる。

 

「コイツの弦は非常に特殊でして…不壊属性(デュランダル)が付与されているのです」

 

 不壊属性(デュランダル)とは読んで字のごとく、壊れないと言う属性だ。その属性が付与される事で、弦は鋼よりも強靭だが柔軟性も兼ね備えている。それにより理論上、非常に強力な矢を放つ事が出来るのだが、矢を引くには強力な力と繊細な力加減が必要になる…と説明してくれた。

 

 剣に付与されると剣が壊れなくなるのだが、弦に付与されるとそんな効果が有るのか。不壊属性(デュランダル)の原理は良く判らないがかなり貴重な物なんじゃないか?

 

「商人仲間に譲ってもらったのですが、長い事蔵で眠らせていたのですよ。まさか使い手が現れるとは…コイツも喜んでいますよ」

 

 いや、何か僕が使うみたいな流れになっているが、そんな事一言も言っていない。

 

「よろしいのですか?お望み通り攻撃力が極めて高く、決して壊れる事の無い。正に理想の弓ですぞ」

「いや興味は有るのですが、不壊属性(デュランダル)って貴重なんですよね?お高いんじゃないですか…?」

「本来なら高値で取引されるのでしょうが、特別価格でお譲りします。商品を大切にしてくれる持ち主に巡り合わせる事が私の喜びなのです。その為、多少実りが少なくとも構いません。私は利益よりも物の幸せを優先しているのです」

 

 なんと言うか素敵な考えだな。そこまで言われては買わないといけない気がしてきた。これも商人の商売術と言うやつなのだろうか。いや、邪な考えは止そう。

 まぁ正直こんな事を言われなくても、お金が足りるのであれば買おうと思っていたのだが。

 

 支払いを済ませ、店を出ようとすると呼び止められる。

 

「他は良いのですか?私のコレクションの中には呪われた刀や、血塗られたお面なんかありますが…」

「そんな物騒なモノ押し付けないでください!!」

 

 勢いよくドアを開ける。正直、見てみたくは有るがお財布的にまた今度の機会だ。

 しかし、ここは結構レアな物を置いている様だ。また財布に余裕が出来たら来てみようかな。思わぬ出会いが有るかも知れない。

 

 矢と短剣は余ったお金で適当に購入した。安物の短剣だが、ギルドのナイフよりは長持ちするだろう。

 …今更だが、短剣とナイフの違いって何なのだろう。鑑定眼で見た所、今手に持っている物は短剣であると確認できたが正直違いは良く分からない。

 因みに鑑定眼でモンスターを見ると、名前のみ把握する事が出来る。人間に向けるとどうなるのだろう。今度試してみよう。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 ダンジョンの7階層。前回蟻の大群に押しつぶされそうになり、死闘を繰り広げLvアップを成し遂げた階層だ。

 手には短剣と不壊属性(デュランダル)付きの弓。そして数々のスキルや魔法。前回とは心の余裕が違う。もちろん慢心している訳では無いが。

 

 さて何から試そうか。

 弓、魔法、結界…。

 

 そうこうしていると壁が割れモンスターが産み出される。ウォーシャドウだ。

 弓を構える。矢を弦に掛け、ゆっくりと引き絞るが店主の言っていた通り弦が非常に固い。狂化を使用して漸く少し絞る事が出来た。

 しかし、白色では力不足な様で半分も引き絞る事が出来なかった。

 

 構えるのに時間をかけ過ぎた。敵はもう目と鼻の先だ。

 狙いも力も中途半端な状態だが、弦に込めたパワーを開放する。手から伝染する様に白き稲妻を纏った矢は、敵の腕を掠める様に飛んで行く。その威力は尋常ではなく、掠めただけの腕を巻き込み吹き飛ばしてしまった。

 余りの威力に僕も敵も驚き、一瞬その場が硬直するが、直ぐに二射目を構える。今度は威力を抑え精度を上げる。

 放たれた矢はウォーシャドウの顔に吸い込まれる様に命中し、無事仕留める事が出来た。

 

 初心者の僕が適当に打ったのにも拘らず、この精度。これが弓適性の恩恵だろうか。

 そしてこの弓、強すぎる。RPGで裏技を使い、ラスボス討伐後の武器を序盤で手に入れた気分だ。…使いこなせる様になるにはまだまだ時間が掛かりそうだが。

 

 とても心強い武器を手に入れた。これからはこの弓をメインに練習していこう。

 

 続いて試すのは魔法だ。

 【蒼火(ソウエン)】…僕にとっては初めての魔法。鑑定眼によると氷属性の火を放つ魔法だっけ?

 それ以上の情報は記載されていなかった。無詠唱と言う事だろうか。

 

 もう一度、周りに誰も居ない事を確認し、壁に向け手を翳し念じてみる。

 すると手から青白い火が放たれ、壁の一部が凍り付いた。その瞬間、感じた事の無いタイプの脱力感と共に、身体の中のナニカが抜き取られる様な感覚を覚える。

 これが魔力を消費する感覚なのだろうか。余り魔法を連射しすぎると良く無いと直感的に判った。

 

 この世界に来てから色々な事が有ったが、手から放たれる冷たい火を見てファンタジーの世界に来たのだと改めて実感する。

 何度か放って見て判ったが、威力は自由に調節可能で、当たり前だが威力に比例して消費する魔力は多く成る様だ。

 

 魔法に慣れそろそろ実戦で試したいなと感じた瞬間、珍しく丁度良いタイミングでモンスターが産み出される。

 今度は6匹のキラーアント…僕が巨大な蟻と呼んでいた奴だ。

 

 手を翳し6匹全てを覆い隠すほどの蒼火を放出する。

 放たれた火は一瞬にして6匹を覆い隠し、青白い火が分散した後に残されたのは冷気と凍り付いた魔石だった。

 

 つ、強い…。対多数においてこの魔法は非常に有効だと分った。しかし、直感で判ったが、魔力量的に今の火力を出すのは後3回が限度…燃費は悪そうだ。

 

 さて、最後は最も楽しみにしていた結界だ。

 【隠者の森(フォレスト)】発動すると結界内の者は発動者を見失う、と言った効果だ。弓や魔法に関してもそうだが、この結界は敵が居ないと効果を確認し難そうだ。モンスターが産み出されるのを待とう。

 

 暫く待って産み出されたのはゴブリン。

 毎度の事だがモンスターとは言え、実験体の様に扱っては申し訳ないと言う気持ちが芽生える。モンスターがこんな扱いになっているのも、既にこの階層が僕にとってはレベルが低いと言う事の裏付け。実験が終わったらもっと深層に挑もう。

 

 蒼火の時と同様に結界を生成する様に念じてみる。すると直ぐに結界が生成されるわけでは無く、僕を中心に円を描く様に線が生成された。ゴブリンの反応を見るにこの線は発動者にしか見えないのだろう。恐らくこの線は結界の範囲を決める為の下書き。ゴブリンも入る様に念じ円を拡大する。丁度良い大きさになった。

 

 結界が発動すれば一体どんな感じになるのだろう。イメージでは結界内に薄っすら霧が掛かり、僕が透明化すると言った感じだ。もしくは視覚的には何も変化は無いが、相手は僕を見失う感じになるのではないだろうか。

 

 様々な予想を立て、いよいよ結界を展開する。

 

 展開すると円内に沢山の木や草、苔が生成された。非常に背の高い木で、ダンジョンの天井や壁に突き刺さる様にぐんぐんと物凄いスピードで成長する様に生成される。同時に薄っすらと霧が掛かり、木が周りの明かりを遮断し結界の中が視界の悪い薄暗い森となった。

 

 森の中心に立って居るとある事に気が着いた。僕が何度もゴブリンに追われた、あの森そのまんまだ。

 ある作品では結界とは心象世界を具現化する能力と言っていたが、正に僕の心や記憶に残っている森が生成された。

 

 と言うかこの結界…中に居る者からは身を隠す事は出来るが、外からは滅茶苦茶目立つやん…。

 

 何が隠密だよ!?今ロキファミリアが来たら確実に目を付けられるじゃん!?

 

 

 結界の外から複数の足音が聞こえた。

 

 

 

 

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