チート主人公がスローライフを送る為にヒロイン達や試練から逃げまわる話 作:あいうえあ
結界の外から複数の足音が聞こえる。
おい…おいおいおい!!やべぇ……
最悪、普通の冒険者なら「な、なんか急に森が出て来たぁ!!皆さんもお気を付けてっ!!」とか言って適当に切り抜けられるが、そんな嘘がロキファミリアや他の強豪ファミリアに通用するとは思えない。
唯の冒険者である事を静かに願う。
木の間から足音のする方へと目を向ける。
話し声が聞こえる。声を聞くに、足音の主は女の子二人組。楽しそうな声色で雑談をしている。7階層でこんな余裕をかませるのはそれなりの実力者。嫌な予感がする。
奥まった行き止まりに森を生成した為、奇跡的に隠れているがかなり近くに迫って来ている。
直ぐに結界を消せばまだ間に合う。消える様に脳内で念じると徐々に結界が透明化してきた。
一瞬で消える訳では無く、ゆっくりと消えて行くタイプの様だ。
早く消えろ!早く消えろ…!
雑談する声が段々ハッキリと聞こえる様に成って来た。
「ギルドのナイフを使ってた少年?」
「そう。この辺の階層で無双してた」
「私は見た事無いなぁ」
なんと言うか…僕の【
「でも何で探してるの?…もしかして恋?」
「恋?ちがう」
「だよねぇ~アイズ、恋バナとか一切した事無いよね。恋愛した事無いの??」
ア、アイズだと!?やばい…嫌な予感が的中してしまった。どうやらアイズさんは思っていた以上に僕の事を覚えていた様だ。更には目を付けられている。
声の雰囲気から予想するに、話し相手はロキファミリアのアマゾネス姉妹。活発な雰囲気を感じる妹。名前は確かティオネだっけ?
「ティオナは有る?」
「あはは…私も御無沙汰だけど…」
ティオナさんでした!すみませんっ!!
心の中で謝罪しつつ作戦を考える。前回アイズさんと堂々と話せばこの様だ。今回は会う事無くこの場から去りたい。しかし先程も言ったが、この場所は洞窟の行き止まりに位置する。ここから出るにはアイズさんとティオナさんのいる通路を経由しなければいけない。
人目に付かない様に出来るだけ奥で結界を発動したのだが、それが仇となるとは…。ぬかったな。もっと考えるべきだった。
取り敢えず僕を探している理由を知りたい。気が引けるが盗み聞きさせてもらおう。
「じゃあ何で探してるのさ?」
「あの子すごく強かった…」
「え!?アイズより!?」
「違う…物凄い速さで強くなってた」
「え!?アイズより!?」
「……うん」
「そうだよねぇ…って、え、えええ!?!?」
ティオナさんが身を乗り出し、驚愕した様子でアイズさんを問い詰めている。
成長速度か…。そう言えばアニメでベルにもそんな事言ってたな。やはり特典のお陰か、僕は物事全般の上達が早くなっている様だ。
「ほ、ホントにぃ!?」
「う、うん。でもちょっとしか見て無かったから、もう一度会って確認したい」
おや?『確認したい』…ですか。
どうやらアイズさんは、僕の成長速度に関してまだ見定めている最中の様だ。
次回会った時は徹底的に『平凡な冒険者』を演じよう。そうすれば僕に対する印象が変わり興味も無くなるだろう。
兎に角、この結界を見られては怪しさが増してしまう。結界をどうにかしないと…。
結界よ消えるのだ…消えなさい……消えてくださいお願いします!!何でもしますからぁ!!
心の中で念じると結界はゆっくりと透明化していき次第に消えて行った。ダンジョンはまるで何事も無かったかのように元通りだ。
や、やったぁ!意外と何とかなった。このまま息を潜め災い(失礼)が去るのを待とう…。
ふと通路の方に目を向けると、さっき遭遇したゴブリンと目が合った。
忘れてた…
ゴブリンは驚きが冷めないのか暫く放心していたが、やがて牙を向きながら襲い掛かろうとこちらに向かってくる。
ゴブリンと戦闘なんかすれば流石に見つかってしまうだろう。
「……」
思わずため息を付いてしまったが、ある事を思いつく。ゴブリンとの戦闘の中で僕が平凡であると演出する事が出来れば、目を付けられることは無くなるのではないだろうか?要するに超普通の動きで戦いアイズさんの興味を無くさせるのだ!
そうなると問題は手元の弓。一見普通の弓だし隠す程では無いと思い、今に至るまで堂々と見せびらかしていたが今は隠すべきだろう。『珍しい弓だから』と言うより、『弓を扱う冒険者は珍しい』からだ。印象は少ない方が良い。
弓を岩の奥にそっと隠す。直ぐに取りに来るからね。ペットに言いつける様にそっと撫でる。
立ち上がりその場を離れようとすると何かに手を引かれる。
「…?」
手先を見るとさっき隠した筈の弓が指に吸い付く様にして付いて来ていた。
指先に引っ掛かったのかな?
だとすれば、今の僕は手先の感覚がなくなる程焦っているのだろう。一度落ち着こう。
もう一度岩陰に隠す。
「……」
おかしい…
弓が手から離れない。
…いや、何を言っているか訳が分からないと思うが、弓が指に吸い付く様にしてくっ付き離れようとしないのだ。まるで弓が「離れたくない」と駄々を言う子供の様に僕から離れない。離れないと言っても、ボンドである個所が引っ付いて固定されている様な感じではない。反対の手に持ち変える事は出来るが、手放す事が出来ないのだ。
「おっと、危ない」
危機感のない声と共に両側に刃の付いた大剣によっていとも容易くゴブリンは薙ぎ倒された。ゴブリンは直ぐ後ろまで迫って来ていた様で、ティオナさんに間一髪のところで助けられたみたいだ。
「きみ!大丈夫?」
「ええ、なんとか。ありがとうございます」
ティオナさんは少し焦った表情で僕の顔を覗き込む。
「あれ?君はあの時の…」
そう言ったのはアイズさんだ。やはり僕を覚えていた様で少し驚いた様子で僕を見ている。
「もぉ~ダメじゃん!ダンジョンでよそ見しちゃ!」
「あはは、すみません。ありがとうございます」
ティオナさんは僕を見ると直ぐに説教を始めた。アニメだと無邪気で能天気なイメージが有ったが、しっかりと駆け出しの冒険者の事を気に掛けてくれている様だ。
「ティオナ、その子、強いから大丈夫」
「え?アイズ知り合いなの?」
ティオナさんの問いにアイズさんはこくりと頷く。
「も、もしかしてアイズが言ってたのって」
「そう。この子」
「そうなのぉ!?じゃあごめんね余計な事して」
「いやいや、凄く助かりました!アブナカッター」
やはり探していたのは僕だった。しかし面倒だ。ティオナさんに顔が割れてしまった。これ以上変な関りを増やしたくない。早急に平凡だと思わせないと。
ここでアイズさんに僕の名前を聞かれる。そう言えば教えて無かったな。
「え?アイズ知らなかったの!?」
「うん…」
正直知られたくなかったが、隠しても仕方が無い。
「アルトです」
「アルト…覚えた」
まぁ偽名なんですけどね。小さな声で何度か「アルト」「アルト」と一生懸命名前を覚えようと復唱しているアイズさんを見ていると少し心が痛くなる。「アル」と言う名前はベルが付けてくれた一応仮の名前だが、「アルト」と名乗る機会が多いせいでぶっちゃけ今はこちらの名前の方がしっくり来ている。
「何か隠してる?」
「へ?」
アイズさんからの唐突な問いに思わず背筋が凍るような感覚に襲われる。真っ直ぐ此方を見詰める大きな目は、まるで全てを見透かされている様な感覚に陥る。ティオナさんが口を開く。
「岩の奥に手突っ込んでなにしてるの?」
「あ、ああ。そっちですか」
弓の事ね…名前の事や転生した事がばれたのかと。いや流石にそこまで鋭く無いか。弓に関してもバレたくは無かったがここで隠す方が変だよな。諦めよう。
「戦闘するには邪魔なのでちょっと置こうと思ったんですけど、岩に引っ掛かっちゃって手から離れてくれなかったんですよ」
「弓かぁ~珍しい得物だね~。でも、どんなけ焦ってたんだよ」
そう言ってティオナさんはケラケラ笑っている。弓自体の希少性には触れられなかった。やはり高位の冒険者でもぱっと見では
「そんなに焦ってなかったんですけどね」
「じゃあ呪いでもかかってたりして~」
「あはは…怖い事言わないでくださいよ~…」
「なに本気でビビってんのさ、アルトっちは可愛いな~」
からかう様に言っているが…呪いか…あり得る…
そう思わざるを得ない程不自然な代物だ。値段に見合わない強さと希少さ。それにこの挙動…。どうにかして確認する方法は無いだろうか。
「は!?」
「どうした!?」
「い、いえなんでも…」
鑑定眼だ!!
どうして忘れていたのだろうか。そろそろ鑑定眼で確認する癖を付けるべきだな。
【弓:‘*+{‘++*!】
付与されているスキル
・
・吸愛の呪い
ほぅ…。