チート主人公がスローライフを送る為にヒロイン達や試練から逃げまわる話   作:あいうえあ

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遭遇

 

 

 今日も夕日が綺麗だな。

 沈む夕日をぼんやりと眺める少年の背後から声が掛かる。 

 

「アル兄!ご飯できたよ!!」

「ああ、今行くよベル」

 

 元気な少女の声に対し気だるげに言葉を返しゆっくりと彼らの家の方へと足を進めた。鼻歌を歌いながら軽やかな足取りで家に向かうベル・クラネルに対し夕日を眺めていた少年はやや重い足取りで対照的になっていた。というのも…

 これからどうしよう…

 夕日を眺めていた少年こと転生者アル・クラネルは途方に暮れていた。

 

 ◆◆◆◆

 

 光に包まれ転生した後、気付けば森の中にポツリと立って居た。辺り一面の森。見たことの無い草と何処からか聞こえる聞いたことの無い鳥の声。コンクリートジャングルと呼ばれている東京に住んでいた身からすれば非常に新鮮で「空気がうめぇ」なんて興奮していた。

 しかしそんな喜びも束の間のことだった。草むらの隙間からこちらを観察する目が見えた。

 

「ッ!!」

 

 一気に寒気を感じた。そのギョロっとした目は複数個あり一人では無い様だった。此処は異世界。恐らく視線の正体は唯の動物ではなくモンスターという奴だろう。僕の不安を感じ取ってか隠れていたそれ(・・)は続々と姿を現した。

 

「ギギギィ」

 

 これはヤバイ

 出て来たのはゴブリンと呼ばれている所謂最下級モンスタだ。緑色の肌に所々血管が浮き出ていた。手にはこん棒を持っており威嚇のつもりだろうか円を描く様に振り回していた。明らかにお友達と言った感じでは無いな。

 転生したばかりで勿論素手。あ、一応服は着ているよ。布で出来た貧弱ないかにも初期装備と言った感じの物だ。そんな僕が太刀打ちできる相手出ない事は火を見るよりも明らかだった。

 となればここは…勇気の逃げだっ!!

 

 スキを付いて一目散に走りだす。後ろから複数の足音と鳴き声が聞こえるが振り向く暇なんてない。唯々走る事に必死だった。

 

 ◆◆◆◆

 

 どれくらい走っただろうか。辺りも暗くなり始め体力も底を尽きていた。とうとうゴブリンに追い込まれてしまった。絶望とはこの事を言うのだろう。

 

「日が沈むまで鬼ごっこ何て君たち相当暇なんだね」

 

 皮肉を言ってみるが反応は無い。当然だが言葉は通じない様だ。

 しかし、どうしてこうなった。僕は唯静かな日常を望んでいるだけなのに…

 どうなってんだ神様と文句を垂れてみるが何も反応は無い。だがここでふとある事を思い出した。

 

 特典とはいったい何だったのだろうか。

 

 【静かな日常を送る力】と言っていたが、状況を鑑みるに運が良くなるみたいな常時発動しているスキルでは無い事は明らかだ。

 その刹那「ピロリン」という機械音と共に目の前にメニューが現れた。メニューにはステータスと思われるものやスキルと思われるものが書かれていた。RPGでよくあるあれだ。

 戦技、魔法、作成etr…と他にも続いていたが、今にも襲い掛からんとするゴブリンを前にして呑気に操作している暇はなかった。

 

「ギギィィィ!!」

 

 得物を追い込み勝利の雄叫びをあげながらじりじりと距離を詰めてくる。無防備な僕に対してゆっくりとこん棒を振り被った。

 ここまでか…

 ゆっくりと目を瞑ったその刹那

 

 ドサドサ

 

 目を開けると崩れ去るゴブリンが見えた。

 

「な!?」

 

 「シュッ!」と風を切る音と共に老人が現れ次々とゴブリンが粉々になって行く。一瞬という言葉が生ぬるい程の時間で全てを片付けてしまった。

 

「もう大丈夫じゃぞ」

 

 老人はニッコリと笑いかけた。僕と似た様な布の服を着ていたがどこかその風貌からは気品や威厳を感じさせ服装とは不釣り合いな神聖な雰囲気をまとっていた不思議な老人だった。

 

「あ、ありが…」

 

 極度の疲労と極限の緊張から解放されたためか、礼を言い終える前に糸が切れる様に意識を失った。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

「むぅ…うう…」

「ああ!!おじいさん!目を覚ましたよ!!」

 

 見慣れない天井と聞き慣れない声。転生して…襲われて…どうやらあの後無事保護された様だ。何だかまだ頭は回らないが状況は何となく理解できた。

 枕元にはがキラキラしな眼差しで僕を見ている深紅の瞳と真っ白な髪。どこか違和感を覚えたがそのうさぎの様な可愛らしい風貌をした少女(・・)に見覚えがあった。

 

「おおそうかベル。看病してくれてありがとうなぁ」

 

 思考を巡らせていると奥の方から助けてくれた老人が現れた。

 

 ベル…ベル…だと!?

 

 ああそうだ。違和感の正体が解った。目の前の人物は【ダンまち】の世界の住人、と言うか主人公。ベル・クラネルにそっくりだ。…TSしてるけど。

 そして見た所ベルの年齢は11から12歳くらい。オラリオに行くのは14の時だから時代は原作開始の数年前と言った感じか。ふと鏡を見るとベルより少し年上…14歳くらいのまだあどけない中性的な少年が写っていた。今回の僕はこんな姿なのか。

 

「ふむ、まだ意識がはっきりとしないようじゃな」

「おなかすいたんじゃない?」

 

 異世界転生と聞いていたがアニメの世界に転生するとは。いや確かに異世界ではあるけどさ。

 アニメ+ネットの記事で得た知識しか無いが確かダンまちの世界はそこまで殺伐とした世界では無かったはずだ。

 しかし、原作に介入するとなると話は別だ。主人公であるベルを成長させるために様々な試練(イベント)が用意されている。

 いやベルがTSしている時点でもう既に原作に介入してしまっているのか?

 

「おーいだいじょうぶ??」

 

 ボーっとしていたがベルの声で我に返る。ベルがTSしている件や神様から貰ったメニューの様な特典について検証したい事は山ほどあるが考え事は後にしよう。

 TSに関してはここが【ダンまち】によく似た異世界である可能性も否めないしね

 

「すみません。先ほどは助けていただいてありがとうございます」

「よいよい。礼ならベルに言うんじゃな。お主が眠っている間、付きっきりで見ておったからのぅ」

 

 ベル君…もといベルちゃん…この子はとても心優しい子なのだろう。目まぐるしく色々な事があり心と体が疲れていたが少し癒された。

 ベルちゃんにも礼を言うと三人でご飯を食べる事になった。

 

 

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