チート主人公がスローライフを送る為にヒロイン達や試練から逃げまわる話 作:あいうえあ
「おいしい…」
思わず声が出る。
食卓に並んでいたのは木の実と野草と言うとてもヘルシーなメニューだったか疲れた体は久しぶりの食事に歓喜していた。どれも見たことの無い食べ物ばかりだが手が止まることなくどんどん口に食べ物を運んでいく。
やめられない止まらない、と言うやつだ。
「わぁ~すっごい食べっぷり。男の人ってこんなに食べるんだね」
正面に座っているベルが驚きの声を上げる。
うん?男の人?
ベルの言葉に違和感を覚え思わず手が止まる。
「ベルは儂以外の男を見た事が無いんじゃよ。ずっと二人っきりで暮らしておったからのぅ」
なるほどそう言う事か。詳しくは描写されていなかったが僕の知っているアニメのベルもオラリオに行く前はおじいさんと二人暮らししていたっけ?
「男どころかお主の様な同世代の若者と会うのも初めてじゃな」
まじか。それはさぞ寂しかっただろうに
「うん!だからお兄さんとあえてとってもうれしかったんだ!!」
100点満点の笑顔でベルが言う。
守りたい。この笑顔。
「そう言えばお兄さん、何て名前なの?それにどこから来たの?」
ふとベルが尋ねる。
名前…日本での名前を言うか?いやしかしそれでは、敏感に考えすぎかもしれないが後々目立ちすぎる。それに何処から来たか…ヤバイ。何も言い訳を用意していなかった。
目の前のおじいさん…この方はゼウスだと示唆されていた。
転生者だと知られたらどうなるか…
「ふむ…中々思い出せん様じゃな。記憶喪失かの?」
「え、ええ。そんな感じかも知れないです…」
僕の様子を見てかおじいさんが口を開いた。
思わぬ助け舟に咄嗟に肯定してしまう。
し、しまったぁぁ!!!
この方がゼウスだとすると嘘を見抜く事が出来る。僕の嘘も例外なく見抜かれた筈だ。
「ふむ…――――なら仕方ないのぉ。ではベル。彼が名前を思い出すまでの名前を一緒に考えてやらんか?」
「そうだね名前が無いと大変だしね!う~んなにがいいかなぁ?」
とても不穏な間があったが何とも簡単に嘘が通ってしまった。
あ、あれ?僕の嘘は見抜かれた筈…なのにどうして僕の嘘を肯定したのだろう…いや、神様の真意を測るなんて不可能な事か。
それにこの人が神様だと決まった訳じゃない。
『神様は暇を持て余している…』
どこかで聞いたこの言葉に喉に骨がつっかえた様な底知れぬ不安を覚え一気に食欲がなくなった。
◆◆◆◆
こうして僕は【アル・クラネル】という名前を付けられた。
それと同時に目の前の少女がベル・
ま、まぁ原作介入しまくっているが適当なタイミングで故郷と名前を思い出したと言って違和感のない名前に改名して去ろう…そうすれば問題ない。問題ない…。筈だ…。
アルが望む静かな日常が崩れ始めていた。
◆◆◆◆
夕日を眺めていた転生者ことアル・クラネルは途方に暮れていた。
なんやかんやあって3人で住むことになり、衣食住を確保することは出来た。
一か月ほど過ごしたが、ここでの生活は慎ましくも安全で快適であり正しく平穏な日常と言う事が出来るのかもしれない。
しかしそれと同時にこの世界の事についての様々な知識を得て、ここが【ダンまち】の世界だと確信してしまった。
というのもこの世界にはオラリオがありその中心部にはダンジョンも存在している様だ。
モンスターを倒すと魔石が出現する。うちは基本的に自給自足だが魔石を月に一度来る商人に売って生計を立てている様だ。
ダンまちやん…
世界観。キャラ。全てがダンまちだった。
以前は原作介入せずに主要キャラとなるべく関わらない事が最善策だと考えていた。
しかし、どうもそんな理想は言ってられない状況に居る事に気が着いた。
だってもう関わりまくってるし。超主要キャラ…というか主人公に。
そして更に悩ませるのは現在のベルがTSしており更に言うとダンジョンひいては“異性との出会い”に対する憧れが皆無である点だ。全てが原作通りならうまく立ち回れたかもしれない。しかし僕の存在含めイレギュラーが多すぎる。
楽する為に仕事をすると言った現代日本に蔓延る矛盾した考え方に近いが、オラリオに行きこの世界がどうなっているのかを知る事が今の僕に出来る平穏な日常を手に入れる為の最善策だと考えるようになっていた。
原作に関わるリスクがある事が最善策って…もう最悪な状況だよね?
因みに、全てを捨てて遠い町に飛んでしまおうかとも考えたが、オラリオ以外の国は戦争しているらしくその選択肢も綺麗に消え去った。
「どうしたの?アル兄」
「ベル…」
思わずため息をつくとベルが心配そうに僕の顔を覗き込む。
こんな状況だが唯一の救いは目の前のベルがとても可愛いこと。
…いやふざけている訳では無い。まじで可愛いのだ。
神ヘスティアやエイナさんが贔屓にするのも非常に分かる。異性から見るとこんなに魅力的に感じるのか。いや今のベルは同性から見てもかわいいこと間違いなし。
「いいや。何でもないよ。さぁ早く帰ろう」
「…?うん!!」
小首を傾げた後、花の様な笑顔を浮かべる。まだあどけなさの残るその笑顔は僕の心に癒しを与えた。
悩みの種でもあるベルが同時に唯一の癒しでもあるなんて…情緒がおかしくなりそうだがまぁ良いだろう。
「でもおなかすいたね~」
「だね~」
そう言ってベルが手をつないでくる。夕日に照らされている所為かベルの頬が少し赤くなっている様に見える。二人でいるときはいつもてをつないでいる。殆どずっとベルは僕にべったりで、一人の時間は殆どない。
特に遊びも無く同世代が居ない為退屈しているのだろう。可愛いから良いけど。
「ただいま~」
「おお、遅かったなぁ」
元気よくベルが言うと出迎えてくれたのはおじいさんだ。このおじいさん、ゼウスはここにきて味方である説が浮上してきている。
というのも僕のオラリオ行きを支持してくれているのだ。当然のことかもしれない。僕が存在するせいでベルがオラリオに行かないのであれば僕がここを離れればよい。要はベルとゼウス二人きりという原作通りの状況を作り出す事が出来ればそれでよいのだ。
ゼウスとしてはベルをオラリオに旅立たせたいし、僕としては原作通りの展開になる方が何かと都合が良い。win-winな関係なわけだ。
思い返せば初日に命を助けてくれて、僕の嘘を不問にし、更には嘘を付いているままの僕を家に泊めてくれている。
あれ?めっちゃいい人じゃね?神じゃん
やっぱゼウスなだけあるわ
まぁ僕がオラリオに行こうとしている事を2人に伝えるとベルは泣きながら必死で止めていたが…。泣かないでベル…原作通りに事が進めばどうせすぐに会える。
原作改変につながるかもだけどちょっとくらいなら会っても大丈夫だろう。と言うかあの涙を見て会わないという選択肢が無い。
能力(特典)に関してもあれ以降発動できていない。メニューを出す能力と心の中で呼んでいるがあのメニューが僕だけに見えるのかそれとも周りの人にも見えているのか。それが確認できていない以上迂闊に発動することは出来ない。だってあれは僕が転生者である証拠の様な物。目的が一致している為にwin-winな関係ではあるが、素性を知られるのは得策ではない。
あの能力を使いこなす為にも神の目の届かない場所…ダンジョンに行く必要があるのだ。