チート主人公がスローライフを送る為にヒロイン達や試練から逃げまわる話   作:あいうえあ

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到着

 

 

 虫の鳴き声が聞こえる。

 目が覚めると辺りはすっかりと夜になっていて、川辺に生息している虫たちが楽しげに声を上げている。川の上で蛍たちが生き生きと飛び交っていて、とても幻想的な雰囲気をしている。

 森というのは昼と夜でここまで表情を変えるのか。思い返せばこの世界に来てからこうして黄昏る暇すらなかった気がする。

 

 左手に目を向ける。焼け爛れていた筈の左手はすっかりきれいに元通りになっていて、身体の疲労も完璧に回復している。

 どうやら賭けに勝ったようだ。

 

「生きててよかったぁ~」

 

 ホッと胸をなでおろす。実のところ少し怖かった。ゆっくりと立ち上がる。体力は回復したが、砂利の上で寝ていた為か身体の節々が痛む。

 もうこんな嫌な気持ちで眠るのは二度とごめんだ。寝るのはふかふかのベットが良い。

 

 ピロリン♪ 

 メニューを展開する。

 

「……」

 

 もしかすると時間経過でスキルポイントがたまるのかと思い確認してみたが、前回ととくに変化はなく、ステータスにも変化はなかった。

 そりゃそうか。寝ただけだし。

 

 改めてここはどこだろう?前回も確認したが、かなり流された事は間違いない。まぁ、上流に向かって歩いて行けばいつかは帰れるのだろか。

 

 …あれ?帰る必要なくね?

 

 このままオラリオを目指すというのも一つの手なのでは無いだろうか。

 帰った所で直ぐにオラリオに出発する事になるだろうし。

 それに…

 

「……」

 

 脳裏に浮かぶのはあの超強化されたゴブリンだ。この前は考える余裕なんてなかったが、あれは恐らく強化種と言う奴だろう。恐らくアイツが現れたのは僕という異分子(イレギュラー)の所為。というより僕が所有している【神の特典(呪い)】の所為だろう。

 

 ベルの安全を考えるともう帰らない方が良いのかもしれない…。

 だが心配なのはベルの心だ。ベルは恐らく自分の所為で僕が亡くなったと酷く自身を責めてしまうだろう…。

 

 苦渋の決断だが、時には非情にならなければいけない時もある。

 オラリオへと向かおう。ベルよ。恨むなら僕と転生神を恨でくれ。

 

 魔石商人と情報収集がてらよく話をしていたが、近くの川がオラリオに繋がっていると言っていた。このまま川を下って行けばオラリオにたどり着くだろう。

 

 グゥ…

 

 腹がなる。そう言えば何も口にしていなかった…。【睡眠超回復】では空腹までは回復できない様だ。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 山菜をむしゃむしゃと頬張る。

 サバイバル知識なんて無いが、【鑑定眼】がある。それによって食べられる物と食べられない物を見分け食べてみたが…。

 

「そこまで悪く無いけど…おいしくも無い…」

 

 空腹だから何食べても美味いだろうと期待していたが、そんな事も無かった。だが、空腹で倒れると言うレベルではない位には腹の足しになった。

 食材(草)調達する過程で少し川を下ったら、木々の隙間から草原が見えた。もう少し歩けば森を抜ける事が出来るのかもしれない。

 

 夜の間に移動するのは危険だが、視認性が低い森の中に留まることの方が危険だろう。

 下流の方へと足を進めた。

 

 森を抜ける。

 森は崖の上に位置していた為、草原を一望することができる。広大な草原が広がっていて遠くの方に大きな町が見えた。月明りしかない漆黒の草原の中に沢山の明かりが浮かんでいる。あれは間違いなく迷宮都市オラリオだ。町の中心には大きな塔が見える。恐らくあれがバベルの塔だろう。

 

 でっけぇ…

 

 想像以上の大きさだ。流石この世界で最も栄えている都市と行った所か。

 アニメで見ていたそのままの世界が広がっていて感動を覚える。『ダンまち』の世界に来たのだという実感を改めて感じた。

 

 オラリオへ向けて足を進めると同時に少し考え事をする。

 現在はアニメが始まる少し前。つまり僕が知らない出来事がオラリオでは渦巻いている。まぁ、そこまで重要な事件が起こるとは思わないが警戒はすべきだろう。

 

 以前は原作キャラと一切関わらない事を目標にしていたが、オラリオという都市の中で生活するうえでそれは不可能だという結論に至った。寧ろ変に避けるのは不自然で、警戒されるかもしれない。と言う事で『出来るだけ関わらない』というのが現在の方針だ。

 

 いよいよ関門に到着する。

 見上げると壁はどこまでも高く聳え立っており、その様はまるで何人たりとも侵入を許さないと暗に伝えている様だ。

 しかし、一体なぜここまで高い壁にしたのだろうか?

 明らかに人間を相手にするには大袈裟すぎる防壁に疑問を覚える。

 

「おい!貴様何者だ!!」

 

 門番だ。

 なんか思いっきり警戒されているが、久しぶりに人と話した気がする。ちょっとうれしい。

 

「夜分遅くにすみません。入れてもらえませんか?」

「ふむ…見た所子供の様だな…。こんな時間にどこから来た?」

 

 門番は警戒するような眼差しで僕を見ている。

 手には槍を持っていて、銀色の鎧に身を包んでいる。

 

「川上にある農場からです」

「川上に住人などいたのか?まぁいい。背中を見せろ」

「?ええ」

 

 大人しく背中を見せる。ああ、なるほど。恩恵の有無を確認する為だろう。ステータスが無い子供は脅威になり得ないからだ。

 

「神の恩恵は受けて無い様だな。なら入って良いぞ」

「っ!ありがとうございます」

 

 神の呪いは受けてるけどね。

 …しかしちょっと甘すぎないか?通してもらって助かったが、こんなに簡単だと思っていなかった。

 オラリオに入ろうとすると不意に門番が口を開く。

 

「この時間のオラリオは危険だ。みすぼらしい身なりをしているが、金は持っているか?」

「え?」

 

 みすぼらしいって…本人を目の前にして言うかね普通。

 しかしお金か…。完全に盲点だった。

 当然1ヴァリスも持ち合わせていない。オラリオに着いて直ぐにダンジョンに潜るつもりだった。

 

「持って無いですね…」

「ならこれを持って行け」

 

 そう言って小包を差し出す。中身はヴァリスだった。

 

「1000ヴァリスだ。質を気にしなければ3泊ぐらいはできるだろう」

 

 思わぬ人の優しさに触れる。

 な、なんていい人なんだ…。

 このヴァリスはとても有難い。ダンジョンに潜る前にしっかりと腹ごしらえしたいと思っていた。葉っぱだけじゃ力が出ない…。

 

「本当にありがとうございますっ!!」

 

 しっかりと礼を言い門を後にした。

 ある程度安定して稼げるようになればいつか恩返ししに来よう。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 暫くオラリオの街を歩いてみたが、町はすっかり静まり返っている。人っ子一人おらず、廃村なのかと勘違いする程だ。

 

「……」

 

 現在の時刻は夜中の3時位。そんな時間に開いている飲食店や宿屋なんてなかった。いや、繁華街に行けばあるのかもしれないが、正直ああ言った場所は僕の肌に合わない。と言うかそもそも場所がわからない。迷子だ。ここどこ?

 門番さんの元に戻って場所を聞く、ということも今の状態では叶わない。

 

 あれ?詰んだ?

 

 こうなればバベルの塔を目指してみようか。あの近辺ならまだ営業している店があるかも知れない。

 塔を目指して歩みを進めると不意に声を掛けられる。

 

「あれ?迷子ですか?」

 

 そのおっとりした声に聞き覚えがあった。

 

「あ、安心してください。私は怪しいものではありません。ここの従業員です」

 

 ここと言って指さした飲食店の看板には『豊穣の女主人』と書かれていた。

 

 シ、シルさん?!?!

 

 そう。僕に声を掛けた人物は、薄純色の髪におっとりとした雰囲気をしているが、どこかあざとさを感じる美少女。主要キャラの一人、シル・フローヴァ。その人だった。

 何と言う事だ…よりにもよって『豊穣の女主人』の前に来ていたとは。不運が過ぎる。これもスキルの所為なのか?

 

「あ、いいえ。ま、迷子ではありませんのでご心配なさらず」

 

 動揺を隠すように何とか声を捻りだすが、シルさんの相貌はジッと僕を見つめている。

 

「見ない顔ですね」

「え、ええ。さっき着いたばかりなのですよ」

「…なら、やっぱり迷子なんじゃ?」

 

 しまったぁ!?…でも嘘を付いたとしても全部見透かされるような気がする。勘だが。

 しかし、とんでもなく綺麗だ。月明かりに照らされる彼女はとても神秘的なオーラを纏っていた。どうやらTSはしていない様で安心した。

 

「あては有るのですか?」

「ありません…」

「この時間のオラリオは危険ですよ。今日はここに泊まって下さい」

 

 シルさんがとんでもない提案をしてきた。

 門番さんにも言われたが僕はみすぼらしい格好をしているらしいし、ここで断ると逆に怪しいか…?

 

「しかし本当に良いのでしょうか?なんだか申し訳ないです…」

「もちろん。ここであなたを見過ごしたら寧ろミア母さん…店主に叱られてしまいます」

 

 ああ。ダメだ空腹と疲労で良い言い訳が思いつかない…。

 言い訳する気力も失いつつあった。

 

「なにか泊まれない理由でもあるのでしょうか?」

「……」

 

 どこか悲しげにシルさんが言う。

 くぅ…この状況でこれ以上断り続けるのは不自然だ。

 苦し紛れの抵抗も虚しく散って行った。

 

「い、いいえ。大丈夫です」

「ではお名前は?」

「アル…トです」

 

 咄嗟に偽名を使う。状況にもよるが、ベルにはもう会わないつもりだ。もしベルがここを訪れた時、アルという人物がいたと知れば、僕を探そうとするかもしれない。

 

 

「あ、お金ならあります」

「アルトさん。うちは宿屋ではありませんのでお金は取りません。ですので明日、店の手伝いをしてもらいます」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 

 こうして豊穣の女主人でお世話になる事になった。

 

 

 

 

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