ミミナナと姉妹になりました、頑張って生きてます 作:興味本位
1、
簡潔に
生きてました
ヤッピーです
目を開ける
上体を起こす
感動してきょろきょろして
お腹の減り具合に絶望した
それから深呼吸をして笑う
結局どうすることも出来なかったわけだけど
最終的には間違ってなかったと
周囲を確認して安心する
だって最愛の二人が横にいる
ベッドに寄りかかるように寝ているのだから
ちゃんとベッドで寝なさいとお小言も言いたくなるけど
寝顔が最強なので許すことにした
おもむろに左手を上げてみる
何もなかった
あの時も痛みもあの時の痕も
何も残ってなかった
異常なんてなかったようにあるのでそれもそれで驚き
反転術式すごいな~と単純に感動していると
扉が開く
「あれ起きてる」
怪しさと美しさ両方を兼ね備えた美人さんが
煙草を携帯灰皿で潰しながら現れた
「おはよ、寧々子ちゃんでいいんだよね?」
私は小さくうなずく
美人さんはまっすぐ私のところまできて
頭を撫でてくれた
安心させるかのように
「なら、よかった」
この一連の動作に自然と目頭があつくなる
まだまだ泣くのは早いだろう私
「ようこそ高専へ、私は家入硝子よろしく」
これは勝ち判定でいいよね
ダムが決壊して
私は家入さんの前で泣いてしまった
2、
「夏油あの子の意識戻ったよ~」
「……そうか、ありがとう硝子」
「なにそれ?」
「感謝の言葉を言って、なにそれとはなんだい」
「そんな言葉より、現物だろうがほれ」
「わかったよ、いつものでいいのかな」
「カートンでよろ」
夏油と家入は教室の中で会話をしていた
本来であれば膨大な量の任務が夏油を待っているのだが
一級呪術師かつ二人の担当の先生である夜蛾正道から休日を与えられた
『傑、今週いっぱいお前は休め』
夏油自身そんなことを言われるのは初めてだったし
急にそんなことを言われれば
喜ぶか問題ないと返答する場面なのだが
『わかりました』
出てきた言葉は休暇を受け入れた自分であり
いつもどおりでない心配される自分を認めていた
その件について夏油は意識的に難しく考えないようにしていた
「で、どうすんの?」
「どうするとは?」
「あの子たちのこと」
家入がいつものように夏油へと話しかける
会話の内容は先日保護した3人の子どもたち
枷場寧々子、菜々子、美々子の3人である
治療のために3人の体を見てしまった家入は理解できた
あの村でどんなことがあって
この男が似合わない面をひっさげてる理由も少しはわかってしまう
そんなことなど知ったことじゃない、というのも本心であるが
無理しているクズを無視したらもっとクズではないか
私クズじゃないからなと考え家入は夏油への質問を続ける
「高専で面倒みてもらうの?」
「それしか方法はだろうし、そうなるかな」
「いっそのことパパになれば」
「彼女たちのかい?」
「いいんじゃないの傑パパ~」
「勘弁してくれ、まだそんな歳じゃない」
口元を押さえながら夏油は笑う
家入も久方ぶりの会話に小さく笑うが
違和感は消えないし、不器用な人形を見ている様だった
我慢が出来ない子供が、忍耐を覚えたような感覚
家入は詳しく話を聞こうとしたがやめた
カウンセリングとか専門外だと放棄したのだ
そもそも私がやる義理はないし
この役回りは私じゃない
キャッチボールの相手なら相応しいクズがいる
「そんなわけだから早く会いに行ってきな」
「……そうだね」
夏油はいってくると言葉を残し廊下へと消えていった
その背中はなにかを語っているのだろうか
読み取ってやってもいいが
「めんどくさ」
新しい煙草に火を点け
副流煙のわっかを作って遊ぶ
「てか、なんで教室いんだよ」
いつも3人でいた教室も気が付けば
揃う機会が少なくなっていた
3、
「「「ありがとうございました!!」」」
第一声はそれだった
夏油は下心も何も含まれていない感謝の言葉を前にたじろぐ
たじろぐ必要などどこにもないはずなのに
足元がくらりと揺れた気分がした
今日は深い話をしに来たわけでもなく
元気かどうかを確認しに来ただけだ
簡単な自己紹介を終えて会話に入ると
「夏油様」「夏油様」
何故か様付けが確定されてしまった
夏油が数回訂正しようとしても
「「夏油様は夏油様です」」
勘弁してほしい所だったが悪意は含まれてなかったので諦めることにした
3人の姿は健康そのものだった
硝子のおかげかあれだけ腫れあがっていた傷も
完全とはいかないが綺麗になくなってくれている
他の理由もありそうだったが
夏油は追及することをしなかったし
上に報告することもしなかった
特に意味はなくやる必要を感じなかったから
やらなかったまでだ
2人と会話をしていると
最初の第一声以降声を出していなかった子も参加し始めた
「夏油……さま」
「なにかな」
「……あとでお話ししたいことがあるんですが」
その口調と言葉で
この子たちには聞かせたくないことだとわかる
夏油はそのへんの空気が読める男のため
「うん、いいよ」
と軽快に返答するが
「で、出来れば二人で!」
相手が挙動不審だったので空気の読み損だった
実際夏油のほうも彼女には聞きたいことがあったため
渡りに船であった
密談の約束を他の二人がいる前でやっていたため
「寧々子、夏油様と何話すの!」
「アタシたちも一緒に聞く!」
「ちょっとね、ちょっと内緒話をね」
「「なにそれ~~」」
3人は仲良く言いあいながら
仲良く笑い合っていた
夏油はその姿を漠然と見ながら思う
私は何を思っているのか
私は何をしているのかと
その回答はきっと出さなければならない
感情はいまだに体の中を暴れまわっているのだから
4、
デートの時間です
5歳児と高校生だから事件ですね
嘘です
デートじゃなくて
話し合いの時間です
夏油さまと私の話し合い
する理由は単純に自分のためだ
結果だけ見ると私たちは勝負に勝って
運命を少し捻じ曲げてしまったわけだ
私たちじゃなくて私か
夏油傑が離反してない世界線へと移行させた
物語の根幹を否定した
許される許されないではなく
不明で未明な状態へと進めてしまったわけなのだ
これが吉と出るか凶と出るかはわからないが
わたし自身は最低な状況からは脱却したのは確かだ
他の視点はわからない
なのでここからはお話合いの時間
私がやらかした問題だからこその
訂正であり提案であり贖罪で自己満足
夏油傑という人物と向き合い
どうするか考える時間が開始するわけだ
オチは今のところ考えてない
校内から灯りが消えて
私と夏油さまは教室にいた
教壇一つに机が三つ
殺風景なホームルームが想像出来るが
人数が多いだけの教室よりも暖かいモノを勝手に感じた
「寧々子ちゃん話って何かな」
それじゃあ
ゆっくりと会話をしようぜ
夏油さま
「本当にありがとうございました、夏油さまのおかげで助かりました」
「……当然のことをしたまでだよ」
「それでもです、私たちの命の恩人であることは変わりません夏油さま」
私は平に頭を下げる
ああだこうだと要らぬことを考えてはいるが
第一のこととして感謝するのを忘れてはいけない
人間として当たり前だよここ重要ね!!
「もう十分感謝は受け取ったよ寧々子ちゃん、二人からもね」
さては夏油さま女性の扱いに慣れ切っているな
「でも、あれです、あれ……ありがとうございます」
「ふふ、もういいよ寧々子ちゃん」
と半笑いでお許しももらったので本題に入りましょう
その前に気になることも聞いておこう
「あの後ってどうなりました」
「3人を助けた後ってことかな」
「はい」
「補助監督に……私たちの仲間に後処理をお願いして、3人を連れてすぐにここに来たよ。治療が出来るのは硝子だけだからね」
「ならあの村は……」
「そうだね、あのままだよ」
「そうなんですね」
「寧々子ちゃんはあの村をどうにかして欲しかったのかな」
「あ、いえそういうことではなくて。あんなゴミのために夏油さまが何かしたらもったいないと思っただけで」
「もったいない?」
「あ、ああっと、違くてなんだろうえっと」
自分から始めた問答なのに何をしているのだ私
そうじゃなくてもっと有意義な対談をしたいのだが
私の能力では出来ないのかもしれない
だって今までの恨みでゴミとか言っているわけだからさ
私がおろおろしてると夏油さまがフォローしてくれた
「寧々子ちゃん、落ち着いて」
「そうですよね、はい落ち着きました」
呼吸をしっかりしてハフハフする
そうじゃなくてそこも大事だけで私はとりあえず訂正したいのだ
訂正であり余分な情報の削除を行いたいわけだ
「夏油さまにお伝えしたいことは、感謝の言葉しかないんです本当に」
「だから無意識に私が言った言葉は気にしないでくださいってそれだけで」
「大したことじゃないです、本当すいません」
『あなたの理由に』
『わたしたちをつかわないでください』
あの時に言ったことだ
意味はそれ以上でもそれ以下でもない
私たちのために村人を殺してほしくなかった
そんな殊勝な心掛けとかではないのだけど
最後の一手を私たちにして欲しくなかった
自分勝手なわがままだ
「寧々子ちゃんが、あの時言ったことを気にしないでってことかな」
「はい、そうです。小さいことですいません」
「そんなことないよ、でもあの時どうしてそんな言葉を言ったのかは気になるかな」
どうして、どうしてか
私たちを理由に殺さないでも本心ではあるけど
あの場面でそこまで考えこめていなかったし
言ってしまえばなんだろう
あの時見た夏油さまが
夏油さまがな
「夏油さまがすっごくかっこよくて頑張ってて」
「幸せになって欲しいなって思って」
「あと、ゴミにそこまでやる価値がないと思ったからですかね」
全然まとまってないな、うん
でも頑張ってる人が頑張って全てのゴミを片付ける必要はない
かっこいい人が進んで真っ黒に汚れる必要はない
そんな感じかな
極論だと思うけど
夏油さんの様子を見ると
私が強い表現をしたからか
ちょっと驚いた顔をしてクスッと笑った
「寧々子ちゃんはあの村が嫌いだった?」
「もちろんです!今だって腹が立ってます」
「そうだよね、じゃああの村をどうにかしたいと思う?」
「ん~、どうですかね、思いはしますけど別にいいかなって思います」
「それは、どうして?」
「私の世界は美々子と菜々子がいれば完璧ですから」
「そして夏油さまもいてくれれば最高です」
「……どうして?」
「だって私たちの正義の味方だから!!」
あれ、間違ってるかもコレ
5、
『正義の味方』だから
彼女が笑っていられる理由がわからなかった
――に殺されかけておいて
何が彼女の力となっているのか私には不明解だった
そして先ほどの会話でわかった
彼女は私があの後しようとしたことがわかっていた
何故分かったのか気になったがそれ以上に
どうして止めようとしたのか
その理由が私にはわからなかった
「――が」
「――が」
「――が」
水と共に言葉を流す
誰にも言えない誰にも聞かせられない言葉
自分の心を的確に表しているから
その言葉を誰かに聞かれればそれが答えになる
――限界か?
どうですかね――のことですか―
自室に戻る途中で声が聞こえてしまった
おそらく硝子と夜蛾先生だなんとなく聞き耳を立てる
「硝子悪いが、様子を見てやってくれ」
「無理ですよそんなの」
「だとしてもだ」
「……先生も大変そうだね」
「お前らの担任なんだから当たり前だろ」
「言えてる」
自分のことだとわかる
他人に心配されるというのは思いの他くるものがある
選びきったはずなのに選びきれない自分がいる
彼女の言葉が反射する
私は自分で決定した意義を見つけた理由に色を付けた
なのに
『あなたの理由に』
『わたしたちをつかわないでください』
彼女は弁明していたがその意味はもっと単純だ
そんなつもりはないそんなつもりはない
理子ちゃんのことを
黒井さんのことを
灰原のことを
きっかけになったなんて考えたくないだけだ
私は私で理由をつける
私は私で嫌いになった
弱者生存
その根底は最初から腐り切っていたのだ
「私は……」
6、
「で、こいつら誰?」
「傑パパの娘」
「マジで!!!」
最強来たわ
……評価してもらってる、お気に入り登録いっぱい来てる、感想いただけてる、誤字報告も指摘いただいた
びくびくしながら嬉しがってます
一旦の終わりまでは予約投稿終わってますので
のんびり楽しんでいただけたら幸いです
あとクソ村の様子を少しだけ
――――――
腕が腕が!!
あぁあああああああ
なんでどうして
痛い痛い痛い痛い
血が溢れてくるはは溢れてるぞ溢れてる
助けてお願いします助けてください
なんだってなんだってするから!!
助けてください!!!
夏油傑が枷場三姉妹を助けてから数日後
違う表現をすれば枷場寧々子の意識が戻った日
ある村は地獄と化した
村の住人全員が左腕に異常を覚えたのだ
7割くらいの村民は軽度の症状
左腕がなんとなく痛む
左腕に切り傷のような痛みが走る
左腕に一本の線が浮かび上がってくる
日常生活に支障が出ない程度の症状が現れた
2割の村民は明確な異常が出ていた
左腕に激痛が走る
左腕が切られたような痛みが走る
左腕に一本線が浮かび上がりそこから血が溢れる
日常生活に支障が出てしまう症状が現れた
そして
残りの1割の村民は叫んだ
左腕がぽとり落ちたのだ
なんの前触れも
なんの異常も
なんの変化もなく
当たり前のようにぽとりと
左ひじの少し下の位置から綺麗に
ぽとりと落ちた
その瞬間村は地獄となった
叫び泣いて助けを求める
誰の仕業だ誰の仕業だと
少し前なら犯人はわかっていたが
その犯人はすでにいない
だから別の犯人がいるはずだ
確定的な痛みを覚えている村人は
軽い症状の村人を見ながら探す
誰が次の呪いなのかと