オーディン(ウード)だけが可哀想な目に会う 作:ごめんね
続きです。
短いです。
これ以上は多分続かないです。(三重苦)
「よお、オーディン。こんなところで黄昏てるのか…?」
「ん……ああ、ゼロ……。いや、なんでもない」
暗夜王国の王都ウィンダムの僻地。そう言えば聞こえは悪いが、そこに居を構える俺からすれば都会の喧騒というやつがなくて暮らしやすい場所でもあった。
そんな俺も、やはり
それでも、驚きより喜びが勝った。
でも今は、ここにいない親友たちの姿を思い浮かべては、消えていく。帰ってきてすぐの頃は、アズールとセレナには申し訳なかったが、それでも家族と暮らしたかったっていう俺の意思が勝ったんだろうと、その時自分を納得させていた。
だけど、戻ってきてレオン様の側近として働く傍ら、あの故郷に思うところが無いわけでもなかった。
ハイドラさんの力を借りず自力で暗夜王国に帰ってきてすぐの俺は、あの《別世界の事を話すと泡となって消えてしまう呪い》の存在を確かめるべく、イーリス聖王国の名前やナーガ様の名前、そういったものを、通りすがった白夜王国の旅の薬師と一緒に歩きながら聞かせた。
俺が消えてしまえばそれまで。消えなければ重畳。オフェリアに《勇壮なる、選ばれし光の戦士ウード》の伝説……もとい、かつて戦った十年間の話を聞かせてやれる。
消えていないということはつまり、呪いは恐らく、この世界の力でこの世界にやってきた場合、この世界のルール、つまり呪いが適用される。そういうことだろう。
帰ってきてから数年が経った。
無論イーリスで戦った仲間達が恋しくはある。しかし今はそれ以上に、妻と娘の存在が愛おしく、彼女等を守る為なら命だって投げ捨てれる。二人はそんなことを望まないだろうが。
そして、俺が自宅から少し離れた場所にある丘の頂上で座り込んで物思いに耽っていたところに、かつて同じ主に仕え、今も尚同僚であるゼロが、俺の事を探しに来たらしい。
「レオン様がお前の事を探していた。なんでも、話があるらしいな……」
「レオン様が? じゃあ行かない訳にはいかないな」
立ち上がって服に着いた雑草を払い落とす。ゼロは俺のいない数年間の間に更に研鑽を重ねて、暗夜王国随一のアドベンチャラーとしてシーフクラスの兵士達に弓や杖の使い方も教えているらしい。
対する俺の格好は、
「なぁ、オーディン……」
ゼロが歩きながら話しかけてくる。
「お前、変わったな。あの面白い話し方をしなくなって、もう何年も経つだろう……?」
「話しただろ、聖王国……絶望の未来に飛ばされた話は」
「聞いた。だがその時は、暗夜王国から姿を消してまだ数年の話だったはずだが。よほどショックだったのか?」
確かに、家族を置いていくという決断の先に残ったのが孤独だけだったのは、相当にショックを受けた。しかしそれが俺のあの話し方をあまりしなくなった理由ではないと思う。
「そりゃ、最初は仰々しい話し方をすれば、新兵達からナーガ様の遣わした神の使いだ、いつか邪竜を滅ぼす英雄だ、なんだと褒め称えられて心が踊ったさ」
「だろうな。昔散々《俺は選ばれし闇の戦士》だとか何とかって耳にタコができるくらい聞かされたぐらいだからな」
「あはは……けど、一度邪竜を倒した事のある人間は、俺ともう一人のマークだけ。それ以外はみんな、戦争に従事したこともないような新兵ばかりでさ。マークの天才的な指揮能力と、俺の魔法と剣の技術があればみんな護って生き残れる。そう信じてたんだ。 ……そんな訳無いのにな」
俺は俯いて握りこぶしを作る。
「結果は話した通りだ。ギムレーとの決戦以前に、俺達反ギムレー戦力の数は当初の10分の1。マークが居なきゃとっくに全滅してたか、でなくとも全部負け戦さ」
「だがな、オーディン。お前は残される人々の為に、どれ程の犠牲をも厭わず戦い抜き、ギムレーとやらを封印せしめたんだろう? なら、気に病む必要は無い。諦めて逃げ出さなかっただけで英雄だぜ、お前は」
「……ああ……」
最後の方はもはや空返事になってしまっていた。
異界へ飛ぶ技術、即ち門の事だが、調べていくうちに興味深い事実があった。それは、異世界へ飛ぶ為の魔力の供給元は、辿っていくとその世界の神に準ずる者……つまり、神竜から得ていることがわかった。
正確にはより優秀な力を持つ者であると。その為、神竜ナーガ様が力尽きたあの世界で最も力を持つギムレーがそのポジションの後継者という枠に収まり、門に魔力を常に吸われていた為、弱体化していたと思われる。
だが、取り巻きの屍兵の将とまともに張り合える戦力は俺とマークの二人だけだった。弱体化していたとはいえ、ギムレーの影響下にあった以上屍兵将と事を抑える俺達以外の味方は、アーマーナイトやソシアルナイト、傭兵等のいわゆる下級職と呼ばれる立ち位置の人々だった。
義勇兵である彼らと共に臨んだ最終決戦前日の事だった。
『──以上だ。もうすぐ邪竜ギムレーとの決着も近い。俺達は最後まで信じる道を貫こう』
『おおーっ!!』
『ほ、報告っ!』
『どうしたっ、何かあったか!?』
戻ってきた伝令は、息も絶え絶えだ。
『邪竜ギムレーは現在人間の姿をしています。霧を纏っていて見えにくかったのですが、何かが竜になる事を邪魔しているようです。
それと、邪竜を取り巻く配下の将兵の内訳なのですが……ほぼ全員が圧倒的な実力者かと。特に、ギムレーの直援部隊の十二人は、あの《十二魔将》で間違いないはずです』
場は騒然とする。俺とマークも開いた口が塞がらなかった。十二魔将といえば、父さんたちが文字通り屍兵の中で最強ではないかとすら言っていた、屍兵最大の脅威だ。こちらからしてみれば、死んだはずの敵の英雄が突如生き返ったようなものだ。
十二魔将の存在を知らない者達も、周りの兵から聞いてそれに身を震わせている。
『ここまで来てみんなに更なる犠牲を出したくはない。マーク…何かなさそうか? 出来ることなら俺達で相手をしたい』
しかし、それに対してマークは首を横に振り、否定する。
『十二魔将の強さは僕も知っています。それに、直接の姿を知らない伝令の彼がすぐに分かったということは、彼らは神器を手にしているという事でもあります』
『……そうか……』
『勝ち目が無いわけでは、ありませんが……』
そう言うマークの含みを持たせた言い方は不穏さを醸していた。藁にもすがる思いでそれを聞く。
『…………教えてくれ』
『はい……各将へ対し、相性の良い兵をぶつけ続けます』
『それは……マーク、つまりそれは、体の良い囮……そういう事なんだな』
『っ…………はい……』
俺は目を瞑る。
ここまで来て、それでもなお更なる犠牲を負わせようとするのか、俺は……。
『あ、あの! ウード将軍っ!』
『……どうした』
一人の剣士が手を挙げた。その手は小刻みに震えていたが、俺とマークを見るその目は真っ直ぐだった。
『あの……自分の出身はペレジアの貧しい村でした。自警団のみんなが屍兵に殺されて死んでいって、村は絶望に包まれていました。そんな時、ただの一介の剣士でしかなかった俺と俺達の村を救ってくれたのは、将軍本人です!
将軍ならば、この絶望の世界を終わらせてくれるのかも、と俺は信じてここまで来ました。だからこそ我々は絶望的な戦況の中にあっても、希望の中で生き延び続けられました。そんな将軍を守る為ならば、俺は命など、惜しくはありませんっ!!
軍師どのっ! こんな俺の命で良ければ、なんなりとお役立てくださいっ!!』
傭兵の男が立ち上がり、自分の命は惜しくないと言う。それに釣られたのか、あるいは気合いを入れるためか。それはわからないが、彼に続くように何人も立ち上がる。
『な、なら俺もだっ!! ウード様には命を救われた恩があるんだ、こんな場所で死なせられるかよっ!』
『私も、将軍の剣に家族が救われています。それに報いるためならば、命を捨てたって構いませんっ!!』
兵士達が思い思い胸の中に秘めていたものを告白する。
俺は更に罪悪感に蝕まれてしまう。
『……すまない。俺も一つ、話をさせてくれ。
かつて子供だった俺は、幼少から剣を取って修行をしていた。御伽噺に憧れて格好のつきそうな必殺技を開発したり、決めゼリフなんかを決めたりな。
それは、俺が十八歳になった時の事だ。突如として国を、屍兵が襲いかかった。聖王騎士団も傭兵団も、自警団だって死に物狂いで戦ったが、多勢に無勢、奇襲だったこともあって、徐々に追い詰められていった。
俺や同世代の友人達は、この世界を救うことを諦めて、別の世界線におけるギムレー復活を止めようと、命を懸けて戦い抜き、ナーガ様の力で飛ばしてもらった。その世界では俺達がギムレー教とギムレーを止め、世界を救った。
だが、肝心の俺達の世界……今いる【絶望の未来の世界】は、救えていないんだ。俺は、別の理由でだがこの世界へ戻ってきた。ならば、悔いのないように戦うべきだと、挙兵したんだ。
そして、俺達は今、こうして多大な犠牲の元に立っている。
昔は若かった。若かったが故に、俺は……いや、みんな戦いを知らなかった。戦略だ戦術だと、俺がわかるはずもなく、ただがむしゃらに戦い続けた。俺はカッコつけの目立ちたがり屋だったが、その実ただの脇役だった。
……お前達は違うっ! 俺は脇役だった、不本意に戦争に巻き込まれたが、みんなは今っ! 自らの意思で立ち上がり、武器を手に立っている!
みんな! ……未来の為に、力を貸してくれ!』
ギムレーへの怒りをぶつけるように、野営陣地の中に響き渡る様な大声を張り上げた。
『ウード様、ばんざーい!』
『そうだ、俺達もやってやろうっ!』
『将軍は今まで負けなしだ、今日も生き残る!!』
みんなが武器を掲げたりしている。
俺は体良く焚き付けただけというのに、それが申し訳なかった。ただ、マークだけは俺の言葉の裏に隠れた本心を理解していたらしい。
『ウードさん、後で天幕に。久しぶりに呑みませんか?』
『……そうだな』
酒を嗜んだことは無かったが、ある時配下に渡された葡萄酒を飲んでから、たまに酒を飲むようになっていた。マークはウードさんらしくないですね、と笑っていたが、一緒に付き合ってくれる仲でもあった。
そのまま士気を高めるための宴に繋がっていき、俺達もひっそりと天幕に戻った。
「そこからは、以前話した通りだな。ソードマスターには槍を持たせたソシアルナイト隊を。パラディンにはアーマーナイト隊を。ソーサラーや賢者相手には、シスターや魔法使いの隊をあてがって…………わかるだろ? みんな死んでいった」
「…………」
何人と挑み、倒れていった。中には四肢すら残らなかった者もいる。生き残った者は俺を称え続けたが、俺がもっと早く駆けつけていれば助かった命も大勢あった。
それが悔しくて、戦勝会には参加できなかった。マークも俺を励ましてくれたが、仲間を守れなかった罪悪感は拭えなかった。
だから……。 そう続けようとした俺の言葉を、ゼロは遮る。
「なあ、オーディン」
王都ウィンダムへの門の前で、俺とゼロは向き合った。
「お前の剣と、魔法のチカラだけは、昔から結構信用してるんだが……。 そんな風に自分を卑下しちまったら、俺やレオン様を裏切るんじゃないか?」
「ゼロ…………へへ、そうか?」
「ああそうだ。お前は強い。少なくともここにいるのは、故郷のために戦うことを選んだ英雄だぜ……?」
十年来の相棒の言葉に、俺は救われた気がした。