いや、仕方がないんです。思いついちゃったんです。
許してください、何でもしますから(何でもするとは言ってない)
それは、ただのありふれた日常だった。
ありふれていて、それでいて決して一つ身近ではないはずだった。
「………」
ダイワスカーレットは、この事実を受け入れられずにいた。…否、分かっていても、受け入れたくはなかったのだ。
トレーナーが、癌によって此世を去ったことなど、到底受け入れたくないのだ。受け入れてしまったが最後、彼は本当の意味でいなくなってしまう。
「……なんで、なんでよ…っ!!」
ダイワスカーレットは、その事実を
「なんで、教えてくれなかったのよ……!!バカッ!バカバカバカ!!」
……だが、それはダイワスカーレットにとって、何よりの苦痛だった。打ち明けてくれなかったことを、信用していないからと思ったわけではない。
――自分が、それを知ることによって
「…スカーレット。ここに居たのか」
「……」
ダイワスカーレットのルームメイト、ウオッカ。彼女もまた、ダイワスカーレットのトレーナーの死に、心を痛めている一人だった。
「…戻ろうぜ。今は10月だ、ずっと外にいたら風引いちまうぞ」
「……」
ダイワスカーレットは、応えない。
「……スカーレット、お前がそんなにも落ち込む理由は分かる。だがな、お前のトレーナーは、お前がそうしていることを良しとする人間だったのか?」
「………」
ダイワスカーレットは、応えない。
「……おい、スカーレット」
「うっさいわね!!アンタに何がわかんのよ!!」
「何が理由は分かる、よ!!トレーナーを失くしたわけでもないのに何が!!」
「スカーレット、落ち着け!」
「うるさいのよ!!放っといてよ!!アタシに関わらないで!!!」
「そうはいかねぇ!オレは、お前のトレーナーから憑まれてんだ!!」
ウオッカがそういった途端、ダイワスカーレットがメヲミヒライて驚愕した。
「……なんで、アンタが。アイツから…!?」
「…チッ。本当は、御前を部屋に戻してから渡すつもりだったんだが……、ほらよ」
そう言ってウオッカが差し出してきたのは一通の封筒だった。
「…何よ、これ」
「お前のトレーナーが、自分にもしものことがあったら渡してくれっつってオレに渡してきた手紙だ。中身は読んでねぇ」
「…てが……み…?」
「…オレが頼まれたのは此処までだ。……あとは好きにしろ、オレは部屋に戻るからな」
そう言ってウオッカは寮へと戻ろうと脚を進めるが、すぐに振り返り、ダイワスカーレットにこう告げた。
「……頼むぜ」
それを最後の言葉として、ウオッカが振り向くことはなかった。
あとに残されたダイワスカーレットは、おそるおそる封筒の封を開け、手紙を取り出し、読み始めた。
『スカーレットへ。今これを読んでいるということは、おそらく、僕は死んでしまったんだろうね。それをまずは謝罪させてほしい』
「…何よ、謝るくらいならっ、最初から居なくならないでよ…っ!」
『もう既に伝えられてるとは思うから言うね。僕は癌、それもステージⅣの末期。助かる見込みは、どの道なかった。だとしても、きっと君を悲しませることは良くなかっただろうね』
『だけど、伝えなかったのには、訳がある。これは、僕の独善的な思いでしかないから、きっと君には一蹴されちゃうかな?そうなったほうが、きっと幸せだったんだろう』
『僕はね、ダイワスカーレット。君が好きだった。ああ、どうしようもないくらいに、君に恋をしてしまったんだよ』
『レースで走る君、練習に打ち込む君、優等生として学園生活を営んでいた君、今まで僕が見てきた君の全てが、愛おしくてたまらなかったんだ』
『…同時に、僕はえも言われぬ恐怖を感じてしまった。君が一着に拘るあまり、あの世へ一番に行ってしまうのではないか、とね』
『ふふ、これはきっと、僕の考えすぎだね。…いや、考えすぎだと信じたいのかもしれない。そのくらい、僕は臆病で弱い人間だったんだ』
『愛しい君の死に目なんか見たくない。ああ、そんな未来を迎えてたまるかと、ありもしない未来を妄想して一人で怯えていたんだよ、僕は』
『死という人生におけるゴールを、君に一番に取らせたくはなかったんだよ。…だから、僕は独善的だって思う』
『だから、僕の体に、癌が見つかったと聞いたとき、ショックもあったけど、不謹慎ながら喜んでしまった自分がいるんだ。はは、笑えるだろ?』
『…これで、君を一番に死なせずに済む。こう考えたら、なんだか僕の今までの人生問題意味のあったものになったんじゃないかと考えることができたんだよ』
『……だけど、だけどね。今、これを書いている今まさに、手の震えが、止まらないんだ。悲しくて、怖くて、今にも泣いてしまいたい衝動に駆られているんだよ』
『…ああ、死にたく、ないなぁ……』
『だけど、もう、どうにもできない。どうすることもできない。あとはただ、決められた運命の日を待つだけ』
『…けど、未練があるんだ。僕にとって、この世に残したくない、特大の未練が残ってる』
『君をもっと、見ていたかった』
『だけど、きっとそれも叶わない。僕の勝手なエゴが、叶えさせてくれないんだ』
『だから、せめて、僕が喜味とともにあったという印を残しておこうと思って、これを書き始めたんだ』
『僕に残された時間はもうない。きっとこれを書き終わる頃には、もう既にいないかもしれない。その他避けようのない事実が、どうしようもなく強いんだ』
『今、君は怒ってるかな?泣いてるかな?…僕の死を、悲しんでくれているだろうか。それすら、きっとわからないだろうな』
『だけど僕は、知っている。君というウマ娘の強さを、僕は全部知っている。だから、君なら大丈夫』
『君が君の人生を精一杯生き抜いて、生き抜いて、生き抜くことができたら……』
『……そのときは、僕に【一番】に、報告してほしい。君が悔いの無いような人生というレースを終えた時、僕は君のことをゴールで待っていたい。だから、どうか、この世界で、生きてほしい』
『僕の、トレーナーとして、そして、僕個人としての最後の最後お願いだ。頼んだよ』
『さようなら、僕の愛しいダイワスカーレット。願わくば、君の行く先に多くの幸あらんことを願っている』
「………ふぐ、うぅぅぅ……!!」
ダイワスカーレットにとって、美しくも残酷な手紙。
彼の思いの丈が、文を通して思いっきり、ダイワスカーレットに流れ込んできた。
恋心、恐怖、悲哀、焦燥……。これを書いていたとき、どんな気持ちであったかは想像に難くない。
「…バカ…ッ!ホンッットにバカッ……!!!」
彼が、ダイワスカーレットを想う気持ち。
それは図らずしも、ダイワスカーレットが彼を思う気持ちにそっくりであった。
「…なんでっ!なんでなのよっ!!なんでアタシに思いを伝えさせてくれなかったのよ!!!」
ダイワスカーレットは、許せなかった。
自分の思いを分からないフリをして、勝手に先立ったトレーナーを、許せなかったのだ。
これは、あくまでも自分の気持ちでしかないから、と。ダイワスカーレットが、一体どんな気持ちを抱いていたのか、最後まで気付かないフリをして。
「ホンッットに大バカよアンタ!勝手に死ぬんじゃないわよ!!蹴飛ばすわよ!!!」
…だけど、想いは分かった。
ダイワスカーレットにとって、その想いが如何程の力になるから、それはきっとダイワスカーレットにしかわからない。
……だが、今この瞬間、紛れもなく【緋色の女王】は燃え上がった。
「…グスっ…、…分かったわよ。アンタがその気なら、こっちにだって考えがあるんだからね!!アタシが天国に行ったら、その生意気なアンタを思いっきり蹴飛ばしてやるわ!!アタシを最期まで見なかったことを後悔させてやるんだから!!覚悟してなさいよね!!!!」
その後、ダイワスカーレットがトレーナーと再会を果たせたか、それは神のみぞ知るだろう。
キーボードの調子がおかしいのか予測変換がバグりにバグり散らかしてて何回書き直したことか
多分まだ誤字脱字あると思うんでしょご報告お願いします。
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