クソマゾ提督の逆襲   作:uncle_kappa

2 / 40
春仁には少年の頃より、秘密の決意があった。
幼子の誓い、それは「命の価値を問い続ける」というものである。



春仁

太平洋の嵐作戦

インド洋のサイクロン戦線

 

深海棲艦との戦いの最中に、艦隊指揮官がいなくなる。

そのような事態に喜ぶ異様な男が馬鹿元閣下であった。

 

人類圏に対する真の脅威となることを、閣下は知らなかった。

閣下「はっはっは、これでやり易く成るぞ。」

 

※※※

 

春仁「よし、行くぞ、遠泳だ。」

 

意地で、内火艇(うちびてい)は使わない。

誰が用意されたものに甘んじるか。という偏屈である。

 

褌こそ、武人の誉れ

古式泳法による瀬戸内海の横断である。

尋常ではない。

 

※※※

 

運動は心の基礎である。帝国海軍として叩き込まれている。

春仁はとても良い事だと思うのだ。

 

(ヘコム暇なぞ、ない。俺は『命の価値を問い続ける』)

 

※※※

 

海鳥の鳴く季節、波頭の穏やかな瀬戸内海某所に春仁の実家はある。

かなり、遠い。

 

彼は、思い出す。

線家は旧家である。

 

本家、分家と何かと五月蠅い其れは、高貴なる者の証なのか、虚飾なのか。そんな事は、彼には判らないし、関係なかった。

 

天の采配か偶然にも旧家の長男として産まれたのだった。

 

※※※

 

「うーむ、遠いねぇ、おうちまで。」

 

※※※

 

お家の後継ぎを絶対と定める父の存在は大きく、叱咤しつつも良く躾ける。

 

市井の多くの家とは、気風や家柄が違う。

尋常小学校の童たちには「気持ちの悪いマセガキ」あるいは「風変わりな貴族気取り」と認知されるだろう。

 

「奥の屋敷のぼっちゃま」として、薄っすらと笑われて生きてきた。

大屋敷に対する嫉妬、反感、妬み、嫉み。

 

教師に授業中に的にされたり、年長組から悪戯に柔道の寝技で殺されかけたこともあった。

 

卑怯者のクソ野郎に背後から石を投げられた事もあった。

 

からかいの年少組の毎日に、自己肯定感は薄れた。

 

「父上、俺は、生きててはいけないのかな。」

 

父は応えて言う「何を馬鹿な、死んで良い命などない。」

武術の稽古中に、優しく返事をしてくれた。

 

※※※

 

「命の価値、それは何だ…。俺は知らない。知りたい。」

 

※※※

 

弟が殴られる場面を見るや否や即時介入する事もあった。

心が挫けかけている弟の襟首を掴み、「何をしている、お前も戦え。」と激励する男だった。

 

その為、弟達からは少なからず憎まれていた。

「兄貴は、肝心の時には居ない。」

「くそ兄貴」

 

(もはや喧嘩の収支は不明だが、本人は「馬鹿を正す、これは我が家と我が大日本帝国の利益ではあろうよ。」と言い張っている。)

 

 

線家は、自らを「線ノ」と呼称している。戸籍法にない呼び方であるが、父は一向に構わず抜け抜けと使っている。帝国の佞臣共とは一線を画すという気概が父にはあったのだ。

 

父は中学時代、国史の授業では、教諭に対して曽我氏、藤原氏、足利氏を軽蔑するとして、両親を呼ばれた事もあり、学内ではかなりの問題人物だった。

 

彼の好きな言葉は「ならぬものは、ならぬものです。」

座右の銘は「我に七難八苦を与えよ」というものである。

 

元々は武家だが、今では商売にも手を出していた。

この度の件、春仁の左遷は、父と家族を悲しませていた。

 

※※※

 

 

春仁「父上、只今戻りました。」

 

父上「着替えなさい。見っとも無い真似を。」

 

春仁「はい、済みません。」

 

 

女中が世羅茶を入れている。

 

父上「で、言い訳を聞こうか。」

 

春仁「ありません。父上。」

 

父上「成程。それでは、言い訳以外の『事実』を言いなさい。」

 

※※※

 

春仁「…うむ、旨い。」

 

父上「うむ、旨い、じゃない。」

 

(ポカリ)

 

春仁「何をご無体な。」

 

父上「あぁ? 」

 

春仁「私は何も。」

 

父上「五月蠅いのぅ、何でもええけぇ説明せぇ言うとんじゃ、この銅鑼息子」

 

(ばちん)

 

春仁「…なら、言いますよ。ふんっ。」

 

父上「何が、ふんっ、じゃ、いばるなや。はよう、説明せぇ。」

 

春仁「(ぱたぱたと着衣を整えつつ)…馬鹿元閣下をご存じですな。」

 

父上「知っとる。」

 

春仁「…では、艦娘との醜聞についてはご存じありませんか?」

 

父上「知っとる。ほいじゃが、お前やぁ遣りすぎじゃ、閣下に恥をかかしおってから。閣下も人の子じゃけぇの、ちぃたぁ人の気持ちを考えろや。」

 

春仁「(がたん)艦娘の気持ちはどうなんだっ。艦娘はカフェーの女給じゃないっ!」

 

父上「…るさいのぉ。」

 

春仁「うるさいのは、どっちなら!」

 

父上「親に口応えすなゃ!」

 

ばちーん

 

春仁「なんじゃと。」

 

どかっ

 

父上「お前の正義はわかっとる。じゃが、遣り方を考え云うとんじゃ。」

 

げしっ

 

春仁「閣下に注進した。艦娘の盾になった。それ以外に何ができるんなら、言うのは簡単じゃあ。」

 

父上「わしがおる。家族がおるじゃろ。なんで相談せんかったんなら。」

 

春仁「うるさい。うるさいんじゃ、わしが海軍に行く事に反対したくせに。」

 

ばーーーーん。

 

父上「おい、わしは反対はしたが、母さんの言葉、覚えとるんか。」

 

 

父上「言うてみい。」

 

春仁「…」

 

父上「言えんのか。」

 

春仁「【何かあったら、相談するんよ。】」

 

父上「馬鹿垂れっ!」

 

どかっ、どかっ、どかっ

 

※※※

 

父上「(はぁはぁはぁ。)ワシも年じゃけぇ。早よう楽隠居さしてくれぃや。」

 

春仁「…わかっとる、おやじ。わしがわるかった、すまんかった。わしはいちからやりなおしじゃ。」

 

 

すみっこの女中「(ヤレヤレ)」

 

女中「あの、せっかくの、お茶がぬるくなりましたが。」

 

父上「ああ、澄子さん。すまないね。」

 

春仁「はい、勿体ないのでこのまま頂きます。」

 

澄子「では氷をどうぞ。」

 

父上「よせ。せっかく旨いんが台無しじゃ。」

 

春仁「ええです。旨いもんは旨いけぇ。」

 

父上「あー、コホン。其れなら宜しい。」

 

 

※※※

 

春仁「すまんね。うちのオヤジは美食家気取りなんよ。」

 

澄子「いえ、私の雇用主様は、悪い方では在りませぬ。多分私たちにおすそ分けの意味があったのだと思います。」

 

春仁「…。確かにな、他家とウチは違って内々の仲が良いらしいな。」

 

澄子「御家は良い意味で普通じゃないです。」

 

春仁「うん、よく言われる。」

 

澄子「尊き事です。虐待する家が普通ですので。」

 

春仁「父上も出来たお方なのかなぁ。」

 

澄子「奥様もです。」

 

春仁「…母上は、俺をよく育ててくれたよなぁ。」

 

※※※

 

蒼天をあおぐ二人であった。

 

 




世羅茶は duckduckgo で検索しました。

「ある中国の修行僧が、世羅に伝えたと言われている。」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。