0930 憲兵の偽物を取り逃がしてしまった俺は始末書を提出していた。
つかれた。そういえば本物の憲兵には今日は会っていなかったな。
9月の調印式をもって我が大日本帝国の無条件降伏が確定したのだが。
うーむしかし。最近、日誌を書くのが億劫になっている。これでは私の上官殿に叱られるな。そういえばまだ墓参りにも行っていない。
え、今何月何日だっけ。
いつから俺はこんなポンコツになったんだろう。
初雪が生きてたら滅茶苦茶からかわれるだろうな。
※※
よし、お墓参りだ。
お花にお水に、お祈りだ。
上官殿、わたくしは罪を一生懸命償おうとしていますが、いまだかなっていません。上官殿に合わせる顔がないのです。
せめて、この新鎮守府で一人だけの任務を全うした給金を元手に、全国の被災者に行脚をしたく思っています。それまではあの世でお待ちください。私もすぐにまいりますので。お待ちください。
さて、初雪の墓もつくらなければな。
あれは俺が水雷戦隊分艦隊の司令として着任仕立ての時だったな。
なんだこいつくせぇ。って強烈な印象しかなかったもんな。
大日本帝国軍人としてどうかって説教しても、全然応えてない。
制裁をしようとして、吹雪に止められたんだよな。
吹雪に説教されたっけな。司令の心得がなーんたるかを。
おれは士官学校出のボンボンだった。
駆逐隊と飲みにいったとき、坊ちゃんにしては見込みがあるぞってからかわれたっけなぁ。海軍は飲み会がよかったな。
あいつらってバカだけど、強かったな。俺の作戦以上の頑張りをいつもみせてくれたっけなぁ。ほんと特型駆逐艦は強い奴が多かった。あの時も、この時も。そのとき、、も、、、、
、、、
、、、
ふぶき、、、は、つ、ゆ、、、きぃ、、、み、ん、な、ぁ、、、
ごめんなぁ、、、、おれがよわくて、、、おれのせいでぇえ。
俺はまた気を失った。
※※
明石「入電、ワレマニアワズ、シジヲコウ」
長門「返信、サクセンニヘンコウナシ、ビンタシテ、ツヅケヨ」
明石「了解、サクセンニヘンコウナシ、ビンタシテ、ツヅケヨ」
長門「大淀さん、お水を。あと、応援お願いします。」
大淀「はい。」
※※
長門に命令された私は、急いで水筒を用意して初雪の援護任務についた。
長門に命令されたのは最後の海戦の時だっけな、、、。
長門「いそいでください。」
大淀「いまいそいでますっ。」
たったったったっ
※※
長門「大淀さんの可愛さ指数が回復したようです。」
明石「なにわけのわからないこといってるんですか。」
いかん、私もおかしくなっている。
※※
あれ、ここはどこだ。
初雪「はつゆきだよー。しれーい。」
大淀「お久しぶりです、大淀です。まずはお水をどうぞ。」
初雪「あい、おみずー」
え、はい。
「ごくごく」うーむ熱中症対策もできない提督があるか、俺のばかたれ。
でも、うまい。
ウーン。ナーイス。
ってオイ。
提督「初雪、初雪なのか。」
おまえはあの時に沈んだだろう。幻覚じゃないのか。
初雪「痛い痛い、痛いよー。しれーい。」
大淀「提督、その、初雪ちゃんのほっぺが、、、。」
びよよよーん。←ほっぺがのびた
提督「初雪ー、はつゆきー」
大淀「ただでさえ、その、芋、じゃなかった、まるいのに」
提督「はーづーゆーぎぃーーーーー」
びよよーん。←ほっぺがさらにのびた。
初雪「どかっ」
大淀「痛い痛い、なんですか初雪さん」
初雪「初雪は芋じゃありません。特型駆逐艦です。」
三人「あははははは。」
※※※
初雪「はじめまして、特型駆逐艦初雪、本日をもって着任しました。」
大淀「軽巡大淀、本日をもって入渠から復任しました。」
提督「ようこそ新鎮守府へ、私が提督です。」
(工作艦明石の判断で少しの嘘は許可されています。)
※※※
長門は、大声で泣いた。
提督がはじめて自分たちを認知してくれたことに泣いた。
今日この日、この時刻まで、大声を我慢していたのだった。
帝国海軍の誇りが許さなかったのと、妹、陸奥との約束だったからだ。
陸奥のお別れの言葉が「私は先に逝きます。提督をお願いね。」
それから、「もう負けたんだから、大声は要らないわよね。おねえちゃん。」だったのだ。
長門「陸奥、すまん。」
吹雪「いいんですよ、いいことがあったんですから。」
長門「あいかわらずだな吹雪。」
吹雪「はいっ、長門さんっ。」
休めを実行していた艦娘達に伝令が行われたのは、五分後のことだった。
鎮守府の裏でセミの音が鳴いている。
鎮守府の表で海がさざめいている。
提督は初めて海の色とセミの音を認知した。
科学的に言うと、あの日から失われた彼の脳機能が回復したことを意味していた。
科学的に言わなければ、「おかえりなさい。私たちの提督さん。」を意味していた。
初雪のほっぺはのびたままだったけど、まもなく回復する見込みである。