春仁駆逐隊司令が最も重要視したのが、科学的な考え方と、艦娘との信頼関係の構築である。
士官学校時代に、人類大戦の犯した罪、先達の過ちと、その招いた結果を痛感したからである。
彼は物知りであるため、知識は沢山仕入れている。
徴兵された市井の人々の尊い命の上に今があった事を知っていた。
陸軍の特殊兵器訓練。ベニヤ板ボートに適当な名前を付けてれば戦いに勝てるかもしれないとは。
これは愚かな過ちだった。
特殊潜航艇は、まだ有効であろう。
だが、ベニヤ板ボートや人間魚雷は狂気の賜物だろう。
科学的に云うと「戦闘収支の見積もり」が出来ていない。
必定、命の貸借では大赤字となる。
※※※
彼はまた、沢山の民間人犠牲者。学徒の踏ん張り、その辺にいる名もなき少年の少女の頑張りを見てきた。金属の供出、積立金の供出、森に赤松油を求める児童たちの指導もした。
そして食糧配給制度、税制の強化、ありとあらゆる戦時体制の実際を注意深く見て育った。
「市井をよく観よ」との、父親の教育信念であった。
そして、さらに、半島の人々との遺恨ある関係。
元々兄弟国であった半島人を雇用した迄は良かった。
次第に、優等意識に溺れ、互いに助け合う間から、憂さ晴らしに蔑みをぶつける間柄に変化していった経緯も厭と云うほど見てきたのだ。
「命の価値を問うな。」
先の人類大戦における原子爆弾の犠牲。
命の価値とは何だろうか。
「これでは、わが国も俺も、救われない。」
間も無くの、深海からの宣戦布告。
人類史の阿鼻叫喚、地獄の炎で育ったエリート教育の成果物。
悪く言えば、「坊や」が彼だった。
※※※
教育と訓練。
訓練では基本技術の反復を重要視する。
応用技術の追及は各自に任を置いて来た。
そのため、本営からの評判は良くなかった。
本営には本営の野望があったのである。
応用技術に特化した新型兵器を製造販売することにより、軍需財閥を復興する狙いがあったのだ。
しかし、彼は自らの考察で改善することを良しとし、財閥の新型兵器を使わない。
「なんじゃこの糞兵器は、これじゃあ現場が死ぬで。」と。
確かに現場は助かるが。
これでは納入実績が上がらないのである。
そこで彼は駆逐隊司令のまま据え置かれていた。
しかし乍ら、彼のお眼鏡に叶った兵器は、即大量導入する気立ての良さもあったのである。
が、しかし。
財閥の支配する兵器工廠には伝わらなかったのである。
※※※
立身出世
それを全く気にしていない当り、流石の彼ではあった。
※※※
「各艦、新型電探ノ具合ハ如何ナリヤ」
「吹雪ヨリ、キハメテ有効ナリ」
「初雪、オナジ」
「深雪、オナジ」
「白雪、不調ナリ」
「白雪ハ帰投セヨ、コレ以外各艦ハ、単縦陣用意」
「白雪、了解、ワレ帰投ス」
「吹雪艦隊、了解、単縦陣用意」
「たーんじゅーうじーんよーうい」
※※※
機関最大にて索敵を行いつつ目的港まで前進。
接敵に際しては、細心の用心を持って事に当たれ。
吹雪了解
機関最大。
※※※
本日の輸送作戦は成功に終わった。
しかし、接敵の無い日は、次第に減っていった。