荒川軍曹は問題児として評判である。
その嗜虐指向は、酒保で遺憾なく発揮されており、毎日のように癇癪を爆発させていた。特に艦娘が応対する場合に於いて。
男性主計が居る場合は、比較的大人しいのであるが、艦娘に対しては、態とではないかと疑われる行為を繰り返していた。
齢は50位であるが、タバコと酒の飲み過ぎにより、見た目は60代に見えていた。日焼けした容貌で、よく通るダミ声で、威張る。
例えば、伝票(Receiptの事)一つ取っても、艦娘が手渡しすると「いらん。ゴミなんか渡すな」といい、またある時は「伝票なんか、だれが呉れといった、阿呆が。」という。
兎に角、艦娘に文句が言いたいだけの輩なのである。
暴言だけでなく、暴力も伴うので性質が悪いのだ。
が、しかし艦娘は人では無い。なので、法では裁け無かったため、船舶輸送司令部でも規律が整備出来ていなかった。
荒川「伝票、くれんのか、わりゃ。殴られんとわからんのか」と言いつつグーで艦娘を殴るのである。
※※※
そんな荒川軍曹が、春仁と同じ飛行連隊に配属になった。
元の配属、「船舶工兵隊」が、軍曹を嫌った為である。
ひばり隊、通称「カモ番隊」と呼ばれる職場であった。
荒川「ふん、つまらんボロ機体じゃのう。」
春仁「…」
大佐「貴様は文句ばかりだな。」
荒川「文句ではありません大佐殿、鐘馗の評判は、良しくありません、むしろ悪いのであります。」
大佐「そうか。」
荒川「だいたい、このカモ番隊に来たのは、司令部のインチキ人事であるので、私は、そく原職に復帰願いを提出したのであります。」
大佐「ひょっこがよくしゃべるな。カモ番隊とか。」
荒川「事実、司令部ではそう呼ばれております。」
春仁「大佐殿、飛行小隊は彼と編成でありますか?」
大佐「そうだ。貴様と荒川、そして、戦闘妖精と組んでもらう。」
二人「戦闘妖精?!」
大佐「彼がそうだ。名前は、そうだな、シルフとでも。」
春仁「シルフどの、よろしく。」
シルフ「よろしくであります。」
荒川「知るか」
驚いたことに、荒川の耳には妖精の声も聞こえず、姿は朧気であった。
彼は特に耳が遠いとか、目が悪いとかの類として気にしていなかったが…。
荒川「馬鹿バカしい。」
春仁「おいっ。さっきから何を、大佐殿の前だぞ荒川っ!」
荒川「特務少尉がなにいってやがる。」
喧嘩は大佐のドデカイ声で制された。
大佐「せいれーつッ!」
ザザッ
大佐「番号ッ!」
春仁「いちっ」
荒川「にっ」
シルフ「さんっ」
大佐「荒川の失言を連帯責任として罰する。全員、歯を食いしばれッ。」
ばちーん。
ばちーん。
ばちーん。
春仁「…(父上を思い出すな)。」
荒川「(いたいのぅ、クソが偉そうにしゃがって)」
シルフ「怨」
大佐「現時刻をもって、ひばり小隊を結成する。」
荒川「大佐殿、小隊長は階級順で、私に願うものであります。」
大佐「貴様では無理だ。」
荒川「では、この若造に?」
大佐「若造ではない、海軍さんの春仁特務少尉殿だ。」
荒川「ちっ」
大佐「春仁特務少尉、規律訓練を開始せよ。本日はそれ以外の行為を禁ずる。」
春仁「はっ!」
その日は規律訓練だけで終了した。