Spica   作:一等星

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 ───────星と同時に、あなたの事を映していたの。


Protostar
貴方と眺めていたその窓で。


 ───────コツ、コツ。……コツ、コツ。

 

 季節は春。時は、草木も眠る夜。舗装路を蹴る音が、世界に小さく木霊する。道を歩くは一人の少女。彼女はとても見目麗しく、シャツにスカート。長めのソックスにブーツ。清楚な服装が良く似合う。

 ただし、こんな時間に出歩くからには、普通の女性という訳ではなく。頭の上には"ウマ耳。腰元には、"尻尾"がそれぞれ主張していた。風になびくほど、美しくもしなやかな長髪は、世にも珍しい栗毛色。とどのつまり、彼女が"ウマ娘"であることを示していた。

 

 そんな彼女は、桜並木をただ歩む。手には花束を持つのだが、アングレカムにイカリソウ。アスターの三種が散りばめられている。美しき花達は、時折ケープによって見え隠れしながら、風と共に揺れていた。

 

「トレーナーさんは、待っているでしょうか。私、今すぐ行きますから」

 

 呆れたように呟けば、"全く、手間がかかる。"とでも言いたげに、飲み込んだ言葉のかわりに、静かに溜息をひとつ。

 

 嘗て、何度も歩いた桜並木を、ただひたすら進み続ける。歩みを進める度に、風に吹かれた花吹雪は、ひらひらと宙に舞う。一つ一つが視界に入る度、ひとつ、またひとつと想いが溢れた。本来、この地域の桜は四月に咲くことが多い。だが、何の因果か、今年は早く咲いてしまった。本来なら、視界を埋めつくしてしまうほど。それでも、今の彼女にとっては心地よく、花びらを身に受ける位が丁度良かった。

 

 "この場所だけは、変わらない。そう思えますから───────。"

 

 

 

 

 

 

 暫くすると、小高い丘にたどり着く。あれだけの花弁を浴びながら、髪にいくつか付く程度におさまってしまった。

 

 "変わりませんね、何もかも。"

 

 心の中で、一言発する。こつ、こつ。と靴音を鳴らし、階段を昇った先にある公園にたどり着けば、回想なんかにも耽ってみる。"ここで遊ぶウマ娘と幼児は沢山いたし、自身も、幾度となく、夢を語らってきた場所でもあった。"なんて、昔であれば、こんな表現もできなかったのだろう。

 

「……」

 

 ふと、辺りを見回すと、どこへ行っても数年前と何一つ変わらないことが理解出来た。"嗚呼、思い出のとおり、綺麗なままだ。"なんて微笑むと、過去へと浸ることにした。

 

「ねえ、"月は綺麗"ですね。あの頃、貴方が言ってくれたことですよ」

 

 有名な一文に、よく似ている。文豪である、夏目漱石から借りた言葉だろうか。一言一句とて、記憶の中と変わらない。違うとすれば、今隣には、その彼がいるかいないか。

 

 間違い探しの答えなんて、進行形で明白だというのに。世界は、あの時と同じく、雲ひとつの無い綺麗な夜空だったことを思い出す。"なんて、残酷なんでしょう。"呟く彼女は、ベンチに腰かけて苦笑いを浮かべてしまった。

 

「本来だったら、私が先に、あなたよりも前にいってしまうはずでした。それは、先頭の景色を見るためですから。あなたにですら、それは譲りたくなかったのに」

 

 苦情だって、投げてやる。私は文句を言いたいんだ。そんな意識すら感じ取れる言葉の節々にあるのは、愛か。或いは悲しみか。

 

「ねぇ。私、今なら"死んでもいい"ですよ。大逃げするのは、私の役目です。それなのに、貴方が私から逃げてしまってはだめでしょう?」 

 

 その言の葉は、深く重く。自分で発してなお、心の底に突き刺さる。ベンチの隣を小さくなでると、そこには温もりがあった気がして。彼女は、この日初めて笑顔を歪ませた。

 

 それでも、彼女が空を見上げると、彼も自身も大好きな、一等星が輝いているのだ。だから、再び笑みを見せれば、その瞳から涙を流し、胸の前で手を組んだ。

 

「……だから、私に追いつかさせてくれないかしら。ねえ、トレーナーさん。貴方が置いた、デネボラの壁でも飛び越えて、私が言った、ワガママな歳差ですら乗り越えて、あなたの元に行きたいのっ」

 

 その祈りで声を張る度に、彼女は光を欲するように天を見る。星は、相も変わらず光っていて、少女の眼を釘付けにした。まるで、"そうしなければ行けない"と、彼女に錯覚させるかのように。

 

「お願いします。星に願うなんて、初めてだけど……私を照らしてください。"私のアークトゥルス"に会わせてくださいッ!」

 

 少女は切に願う。そうして、再び立ち上がると、もう迷うことは出来なかった。レースのように、お行儀のいいスタートなんかじゃなく、ただガムシャラに走り出す。そして、彼女は銀河の星々へと向かって、堂々と翔び───────。

 

 

 

 




 この小説は、ボーカロイドの楽曲により、インスピレーションを受けて執筆しております。サブタイや会話に、歌の内容を意識したセリフがあります。
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