Spica   作:一等星

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 角度を変えて、私があの人へ抱く気持ちを気付かせる第一歩。トレモロみたいに。なんて、その通りかもしれなくて───────。


波打つ思考は

「それで、理事長。やはり、発掘されたあれを利用なさったんですね?」

 

 学園のとある場所。紅茶を片手に、困惑したような顔をしたたづなは幼子にも見える女性に問いかける。女性も神妙な面持ちで頷いて、息をついた。

 

「うむ。正解。そもそもこの話の始まりは、奇妙な夢からであった。そうだろう、たづな」

 

「ええ、そうですね」

 

 カチ、カチ。秒針の音は、狂うことなく時を刻み続ける。対して、二人の前にある空間は、やけに歪んで見えた。

 

「仰天。まさに、あれは我が学園。ひいては、ウマ娘の秘密を解き明かす、一つの糧となるはずであった。その使用方法まで書かれていたが……」

 

 開く度に文字の中身が変わる扇子は、ラノベ好きならどこかで見たと思う逸品。しかし、それにツッコミをするものなどいるはずもなく。ただただ、重苦しく流れは動いていく。

 

「驚天。皆に知り渡れば、世界が変わることになり得るなどと、誰が思うであろうか」

 

 目に入るは、持ち出した小さな三女神の象。改めて、手に取って見つめるが、場に変化など現れる訳もなく。さて、どうした物か。見つめ直す時間を作りつつも、木の洞を一瞥したあと扇子を閉じた。

 

「たづな。改めて調査を命ずる。また、彼と彼の担当のことは手厚く保護せよ。いつ、何が起きてもいいように」

 

「はい、わかりました。……難儀ですね」

 

 たづなの漏らした言葉は、同情か、あるいは。理事長と呼ばれた女性は振り返ることなく、それに答えることにした。さも当然かと言うように。

 

「天命。その難儀こそが、我々が運命と呼ぶ何かなのかもしれないな。でなければ、既に彼が結果を出す理由は考えられん。むしろ……」

 

 それは、慈愛か。はたまた、これから起こる可能性のある事象への、罪の意識か。

 

「三女神の方々は、そうあって欲しいと願って賽を投げた。気まぐれではないと、信じたいものだよ」

 

 

 

■■■

 

 

 

『勝ちました、やりました! サイレンススズカ。青葉賞も駆け抜けた! このウマ娘に、もう敵はいないのでしょうか!?』

 

 弥生賞のライブの後、あれから直ぐに、トレーニングを始めた二人。GⅠレースの勝利を狙うために、スズカの調整を兼ねたレースは、圧勝を極める。全くもって、不安要素のない走りで終えられた。

 

 別段と、トレーニングは特殊なことはしていない。よくあるウマ娘のためのトレーニングを、効率を考えつつ行うだけ。走りに問題ないレベルに到達した理由の中には、もちろん素質が大きいというのもあるのだが。その一方で、麦星はライブのダンスはまだ少し硬いというのは気にしていた。

 

「そういえば、ダンストレーニングやボイストレーニングをしてないんだっけか」

 

 もしかしたら、そこの調整をしていないから動きが硬いのかもしれない。そう思うと、レースに注力ばかりし過ぎたかな。と、多少の反省。だが、次はきっと、大きなものになる。レースに今まで勝てなかった分、とにかく走りたいというスズカの気持ちを尊重することにしたのだ。その後にはなるが、仕込める時に仕込めばいいと決め、今は頭から振り払う。

 

「走ってるレースで言えば、二年目、か」

 

 ここに来るまでに、本来であれば、三冠馬やティアラ三冠などで通る道である、桜花賞に皐月賞が近い時期に開催する。そのどちらも、彼女を走らせることは無かった。いや、もっと端的に言えば、走らせるべきレースはこれじゃない。そう確信して、あえて除外した。

 

「今思えば、本来は走った方がいいんだよな」

 

 どうして走らせる気にならなかったのかと言えば、軽い説明はできる。記憶の中にある、"無茶な走り方"でなく、"生身であるこの世界この世界"に合わせようとしているのだ。

 

 しかし、よく考えると違和感を覚えるし、深く考えれば考える程に、じんわりと滲むような頭痛がする。それに気づけば、彼はそこで思考をとめた。

 

「まぁ、今はそれよりも……」

 

「勝ちました、トレーナーさん!」

 

 そんな状態でも駆け寄ってくるのは、担当する愛バ。サイレンススズカ。麦星は、毎度の如く抱きついてくるスズカに羞恥を覚えそうになりつつも、彼女を優しく抱きとめて、次の目標へと狙いを定めた。

 

「先頭の景色は、楽しいか?」

 

「ええ、もちろん。これなら、次の目標は高く出来そうです」

 

 幸い、取りたいものを取るために、彼は次の未来を決めていた。スズカなら取れない訳が無い。そう信じた重賞のためだけに、この青葉賞を選んだのだから。

 

「いくぞ、スズカ。日本ダービーだ」

 

 同じ場所で開催し、同じ距離を走る。最も早いウマ娘を決めるための戦いに、身を投じる。これは、本来の流れと違うだろう。だが、それでもいいと彼は決めた。これは、かつての夢のひとつでもある。彼女は、"たしか走ることを迷ったはず。"だからこそ。

 

「っ……はい!」

 

 自分の出した提案を、笑顔で受け止めるスズカがいるのだから、やはりこの2ヶ月で持って行ける状態にして、正解だった。なんて、内心で安堵して笑みが漏れてしまうあたり、彼も既にこの世界に毒されてきているのかもしれない。

 

「ッ、おっと……」

 

「あ、だ、大丈夫ですか?」

 

 だが、体に気を使わず、昨日に徹夜をしてしまったせいだろうか。彼は頭痛の振り返しが来て、足から力が抜ければ、軽くよろめいてしまう。仕方ないことではあるが、如何せん無視はし難いな。と苦笑いを浮かべ、「大丈夫だよ」と返した。寝てないことまで、悟られる訳にもいかないと決意してのことだ。

 

「……なら、良いのですが」

 

「平気平気。それより、僕たちが最初に挑むGⅠだ。トレーニングは激しくなる、いいね?」

 

 心配そうなスズカに、軽い雰囲気で返す。それが正解であるように。レースで向上してきた心や調子を、ここで落とすわけにもいかないのだから。

 

「それは、もちろん。お願いします!」

 

 そう、この笑顔を壊すようなことだけは絶対に───────。

 

 

 

■■■

 

 

 

「それで、スズカさんはトレーナーさんと仲を深めたいという事ですね」

 

「ええ、まあ。私のことはよく聞いてくれるけど、自分のことも話してくれませんので」

 

 

 ある日の学食のこと。スズカは、何となく見た目も似ているウマ娘。グラスワンダーとの雑談に興じていた。内容は、トレーナーとの関わり方。特に、親密になる方法に触れていた。

 

「私は、勝つことも出来ている。現状には、とても満足しているはず。なのに、何か足りないんです」

 

 不安か、はたまた。彼女を包む思いは、一人で長く考えはしたものの、未だに答えも出ず、こうしてライバルとも言うべき存在に、素直に聞きに来たのだが。

 

「なるほど、スズカさんにも春が来たのですねぇ」

 

「春? 天皇賞はまだ先ですよ」

 

 こうして、彼女は首を傾げる事態に。思わずグラスワンダーは苦笑いを浮かべるが、めげない。大和撫子は奥ゆかしいとか、そんなことは知ったこっちゃないのだ。ウマ娘の恋は、ダービーに例えられるのだから、仕方ないだろう。

 

「そうですね、スズカさんはトレーナーさんと仲良くなりたいんですよね?」

 

「はい」

 

「それは、一人の女性としても応援すべき案件です。ところで、スズカさんの得意なことは?」

 

「走ることです」

 

「違います。そうじゃないです」

 

「はい?」

 

 矢継ぎ早とも言える速度で、やり取りは繰り返される。スズカが答える度に、グラスワンダーは頭を抱えたくなるのを抑え。

 

「ですから、スズカさん。料理などは、得意では無いのですか?」

 

「はぁ、まぁ。一応人並み程度と言えば」

 

「そこもあてにできませんか……」

 

 この難題を解き明かしてやろう。と、まるで探偵ばりの鋭さを。彼女の得意技と言えば、差しきり。そこまで考えて、ああ、そうか。と納得を得た。

 

「スズカさん」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 それは、ある意味天啓とも取れる言葉。或いは、妄言とも、革新ともとれる内容で。

 

「トレーナーさんと、デートしてはいかがですか?」

 

 スズカの世界に、一つ爆弾が落ちてしまった。

 

「……は?」




 予約投稿を失敗して、挙句投稿時間の変更のことを忘れていました。申し訳ございません。

 お陰で、投稿が約三週間は遅れてしまいましたが、生きていました。

 ところで、水着ゴルシは強いですね。チアネイチャとオペラオーと同時当てしましたが、チャンミをおかげで生き残れた……。
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