本当に不定期だと思いますが細々書いていきます。
_____その時、まだぼくは12歳の子供だった。
力も無く、富もなく、身体さえ未成熟な子供。
まだ両親が健在で、不自由は多いが幸せに暮らしていた。
だが_____
「〜〜〜〜!?〜〜〜〜!!」
声が聞こえる。聞きなれない声だ。
顔を見上げると、そこには見慣れない男の人が居て____
直後。辺り一帯に爆音が響いた。
「〜〜い!!おい!!聞こえてるなら返事をしろ!!」
ぼやけていた聴覚がハッキリと戻り、男の叫ぶ声が脳内を駆け巡る。
「あ…ぅっ!ゲホっゲホッ!!」
身体を強く打ったようで、うまく声が出せずに咽せ込んだ。
「よし!生きてるな?」
男の
声が出ない代わりにコクコクと頭を縦に振る。
「起き抜けに悪いが、今はちんたら喋ってる暇はない!」
____ふと、辺りを見渡す。
瓦礫。炎。煙。そして____
「お、とうさん…おかあ、さん…??」
見慣れた2人のカオ。しかし、見慣れているはずのその表情は、
夥しい量の血液で汚れ切っていた。
「あ、ああぁ、あ…?」
体から力が抜け、絶望と焦燥感が全身を貫いていく。
一体、ここで何があったのか。何が原因でこうなったのか____
「おい!!」
____強い衝撃が右の頬で爆ぜる。
「しっかりしろ!!死にたいのか!?」
「い、やだ…!」
理由はよくわからないが、叩かれたことで不思議と体に力が戻ってきた。
まだふらつくが、なんとか力を振り絞り立ち上がる。
「よし、立ち上がったな?」
再び安堵の表情。
そして、知らない男は自分の真後ろを指差しこう言った。
「あっちに、走れるか?」
指差す方向を見やると、比較的炎や瓦礫の少ない抜け道があるようだった。
____こくりと頷く。
「絶対に振り返るな。真っ直ぐ走り続ければ、俺の神機兵がある。」
そう言うと男は、ぼくの手に何かカードのようなものを握らせる。
「こいつは、その
男は優しく微笑む。
「こいつがあれば、俺の神機兵がお前を安全なところまで連れて行ってくれる。____だから、走れ。」
男は自らの巨大な剣____『神機』を手に、自分が向かう方向と逆に駆けて行った。
背後で鳴り響く
そしてぼくは…走る。走った。痛む脚を無視して、無理を押して走り続けた。
そして炎と瓦礫、
待てという命令を受けたであろう一騎の神機兵が、頭を垂れた状態でそこに鎮座していた。
○○○○○○
「う…」
窓…もっと正しく言うと朝焼け風の画像を映すディスプレイだが…から差し込む光が顔に当たり、強制的に目が覚まされる。
無骨なグレイプニル製のデジタル時計を見やると、0600ちょうどに目が覚めたことがわかった。
「またあの夢か…」
上半身を起こすと、ふと顔の火傷痕が熱を帯びているのに気付く。
いつも、昔の夢(悪夢と言った方がいいか?)を見るとこうなる。
燃える集落。血まみれの両親。傷だらけの、快活そうなゴッドイーター。
そして____神機兵。
いつもそこで目が覚める。正確に言えば、その後のことは覚えていないのだ。
話によると、どうにも神機兵が俺を守るように抱きかかえ、当時の極東支部に運び込まれたとのことだった。
「腹減ったな…」
あれから10年ほどが過ぎた。
世界は変わり、正体不明の灰の嵐があらゆる建造物や生き物、アラガミさえをも喰らう終末の時代。
紆余曲折ありつつも、俺…『水上 アスマ』は旧極東地域、かつて福の島と呼ばれていた地域に存在するミナト『ロードデンドロン』に在籍している。
「レーション、また量が減ったか…?」
日々少しずつ小さくなっている気がするレーションを頬張ると水で流し込む。
これでもまだこのミナトの現状では良い方だ。
かつての極東支部が灰嵐に襲われてから数年。
その余波から周りとの通信がほぼ断絶され、物資の補給もままならず、しかし人員の多さからこの場所から動くこともままならない現状。
現在は元々の食糧プラントなどを活用してなんとか保ってはいるが、設備の修繕も殆ど出来ていない状況であとどのくらい持つのか。
今しがた雑に胃に流し込んだレーションのサイズがそれを物語っている。
旧フェンリルの制服を羽織ると、俺は神機保管庫に向かって歩き出した。
○○○○○○
「調子はどうだ?」
神機を整備している男、『大文字 ゴウ』に声をかける。
「調子もどうも、相変わらず酷ェ状態だよ。」
175センチの自分をして、頭二つ分は飛び抜けた筋骨隆々の大柄な男。
白髪混じりの長い髪を後ろで束ね、口元には意外にも整った髭。
ちらりと作業している様子を見る。
どうやら旧式で使い手のいない神機を分解して流用するところだったらしい。
「…いくら神機ばっかりあっても、使い手がいなきゃただの素材…か。」
「まったく、嫌になッちまうぜ。リッカ嬢が手がけた神機もいくつかバラしたが、ありゃァ気分の良いもんじゃァねえや。」
懐かしい名前が飛び出した。
今は何をしているかもわからない極東の面々に思いを馳せる。
「まァ、それはそれとしてだァ。」
「ああ。出来てるか?」
出来てるか、と言う質問は、もちろん自分の神機と、命の恩人の形見であり相棒についての事だ。
と雑なペンキ文字で描かれた元13番倉庫の前に立つ。
「開けるぞォ。」
こくり、と頷く。
重苦しい旧式油圧ポンプの動作音が鳴る。
軋むような音と共に扉が開くと、中に隠れていたその存在が露わになる。
鎧を着込んだ騎士のような風貌、その肢体は人間のものより遥かに巨大で、傍には身の丈ほどの巨大な神機が鎮座している。
そしてわずかな呼吸音。生物と機械の
【ハッチオープン 確認 システム 起動】
女性的な合成音声が流れると、その双眸に青い光が灯る。
「おはよう、‘’ムスヒ‘’」
【はい おはようございます アスマ。 今日も 良い天気 ですね。】
あの時、俺を庇ったまま極東支部に運び込んでくれたのが、このムスヒだ。
純粋な神機兵ではなく中身がアラガミ化しているらしいが、極東に居たとあるゴッドイーターの能力で意志を得たらしい。
現在ではこの空き倉庫の中に住んでおり、高性能AIを模倣したことで高い知能を得たのか非常に理知的ではあるが、自分のことを機械だと思い込んでいるので基本的にミナト内では大人しくしている。
「ああ。本日も晴天なり、だな。…早速だが、これから哨戒に行くぞ。」
【はい 本日の ワタクシの調子も絶好調。 張り切って 参りましょう。】
これで自分の事を機械だと思い込んでいるのだから変な話である。
適当に返事を返すと、倉庫内に隣接している出撃ゲートに向かうのだった。