Step14 美しき劣等
真由美との出会いから数ヶ月後、ウェイトリーは見事合格ラインギリギリで国立魔法大学付属第一高校で魔法を学ぶ権利を得た。
ちなみに筆記試験は驚異の7教科中5教科満点を叩き出し、実技試験は全合格者中最低点を獲得した。無論、同時期に試験を受けた涼は今期最高得点タイで合格した。
ウェイトリーが使える現代魔法は全て初級魔法に分類されるものだ。魔法師を目指す学生なら出来て当たり前以前に、扱える前提のものだ。なんなら同世代が息を吐くように出来ることをウェイトリーはそこそこの駆け足程度の労力を必要とする時点で、合格できたことが奇跡──涼と、何故かウェイトリーの知らぬ内に学校に推薦した二十八家である七草家の働きかけのおかげもあっての──だ。
まあしかし当然ながら、ウェイトリーの魔法力に応じて補欠枠となる二科生での入学となった。これに対して涼は不満気であったが、ウェイトリーがさして気にした様子でもなかったのでその不満を飲み込んだ。
そしてバスに揺られること15分、第一高校に到着した。涼は所用があるとウェイトリーと別れ、ウェイトリーは入学式には余裕があるため、近くのベンチへと座った。
ここから何もしないで待つのも暇だと思い携帯端末を取り出す。展開された画面に浮かび上がるのは、膨大な量の魔法式。そしてその全てはウェイトリーのオリジナルのものだ。
まだ構築途中のものがあったはずだとスクロールをし続けていると聞き覚えのある女性の声がかけられた。
「もし、そこの御方。何かお探し?」
「──おや、これは助かる。貴女も探してくれないか? ……真由美さん」
美しくふわりとした巻き毛の黒髪に整った顔立ち、同年代と比べれば低身長であるにしては、平均以上に発育の良い起伏に富んだ肢体を此度は肩に八枚花弁のエンブレムをつけた制服を身につけている。
ウェイトリーと真由美。久しぶりの再会は、約束通りここ第一高校で行われた。
「あれからどうだい? 体調に異変は? 精神状態のほうは……問題なさそうだね」
ぐい、と顔を近づけ真由美の瞳を覗き込む。そこには侵食された狂気の
「ち、ちょっと、近いわよウェイトリー君……。貴方も相変わらずそうで何より。また魔法のお勉強?」
「あぁ失礼。──そうなんだよ真由美さん。今回は古き北欧の地にあった魔法を再現しようとしてね、これがいいところまで来てるんだが難解で」
「はいストップ。貴方止まらなくなるでしょ? ……また時間を作るから、ゆっくり聞かせてね?」
自身の口許に人差し指を当て制止させる真由美。実際に過去ウェイトリーの部屋に邪魔をした際、彼の古今東西の魔法系統の書物を紹介された後、半日に渡って魔法談義に付き合わせれている。──まあ尤も、彼女の中での問題は今は入学式前だということだけであり、話を聞く彼女は実に楽しげだが。
「あぁ、そういえばそうだ。じゃあまた別の機会に」
「ふふ、そうね。……じゃ、そろそろ講堂に行ったほうがいいわよ」
「ありがとう。ではまた」
「えぇ」
◇
真由美と別れ講堂へと足を運ぶ。既に席は粗方埋まっており、ちょうど空いていた列の席へと腰を下ろした。
(……ふむ、高校など何年ぶりだ? 前世のころはこことは比べ物にならない辺境の高校ではあったか……懐かしい)
前世への思いを馳せながら緊張した様子の生徒や、隣とヒソヒソ話している生徒を微笑ましげに見る。ウェイトリーの精神年齢からすれば孫ぐらいの子供たちを眺め、やはり歳をとったものだと内心笑っていると。
『すみません、隣に座ってもよろしいでしょうか?』
ふと横から流暢な英語で声を掛けられた。その低く落ち着いた声の主はそこそこに整った容姿で、表情はやや薄い。だが瞳は冷たくなく優しげで、落ち着いた雰囲気と相まって15歳よりは大人びた青年だ。
「もちろんいいとも。ちょうど話し相手が欲しくてね」
「……! あぁ、ありがとう」
予想外に流暢な日本語で喋ったウェイトリーの了承を得て、目を丸くし隣の席に座った青年がちらりとこちらを見やる。その目はウェイトリーを値踏みするような……観察してるような目だ。
「すまない。日本語が随分堪能だな」
「いいや、よく言われるがこの見た目だが産まれも育ちもここ日本でね。このかた私に向けられる挨拶は『Excuse me?』だ」
その目を気にすることなく軽口を叩くウェイトリー。そもそも彼もよく人を観察する質だ。人のことは言えない。
「……まだ名乗ってなかったな。俺は司波達也、貴方のことは涼に聞いているよ」
「ほう、君が涼の…!!いやはやご丁寧にありがとう。私はウェイトリー・アルハズラット。気軽にウェイトと呼んでくれ。弟共々よろしく頼むよ」
涼が言っていた『職場での親しい友達』との出会いに喜色満面の笑みを浮かべるウェイトリー。ちなみにウェイトリーは涼の仕事内容は知らない。正確には弟への過度な干渉は目障りだろうという彼の気遣いであり、彼は涼が今の職場にスカウトされたと聞くのみだ。
両者大人びた──片方は精神年齢的に──振る舞いの、片や金髪碧眼の絶世の美男子。片や彼には劣るもそこそこに整った精悍な顔立ちの青年。イケメン2人の馴れ初めの握手に近くに座っていた女子生徒の小さな歓声が聞こえた。
「中々モテるじゃないか、君」
「いや、間違いなく俺じゃなくてウェイトだと思うが……」
「あの……」
今度は達也に声をかけるものが現れる。たった今声をかけてきたのは女子生徒だった。視力矯正技術の進歩により今時珍しい眼鏡をかけた少女と、快活そうな印象の栗色髪の少女だ。
「お隣空いてますか?」
「あぁ、どうぞ。ウェイトも大丈夫か」
「無論いいとも。話し相手は多ければ多いほどいい。それが可憐なレディならばなおさら……」
「良かったー! いっしょに座れるね!」
期せずしてウェイトリーの言葉を遮るように、雰囲気に違わず明朗快活な様子の女子生徒が眼鏡の女子生徒に抱き着く。達也はやや面食らっているが、ウェイトリーは変わらず微笑ましそうにそれを眺めている。
「わっ! えっとありがとう。私、柴田美月って言います。よろしくお願いします」
「司波達也です。こちらこそ……」
「ウェイトリー・アルハズラットだ。長いからウェイトでいい。ちなみにこの見てくれだが日本産まれ日本育ちだ」
「あたし、千葉エリカ! よろしくね司波くん、ウェイトくん!」
実にいい、溌剌とした少女だ。美月も大人しそうだがこれがまたウェイトリーの爺心に刺さる。後で2人に飴菓子をあげたくなる。無論達也にも。
「しっかしウェイトくんホントにイケメンだね!」
「おやありがとう。あまり面と向かって言われたことはないが……」
「いやいや、さっきから皆噂してたんだよ! 明らかに外国人のイケメンがいるって。なんか皆隣に座っていいか声かけるの悩んでたし!」
なるほど、空いていたウェイトリーの列の席に誰も来なかったのはそれが理由か。1人納得し少し寂しくなるも、容姿を褒められて嬉しくないものはそういない。特に己の顔に母を浮かべるウェイトリーなら尚更だ。
「……そうか。私は母似でね、母は確かにこの上なく美しい女性だった」
「へー……だった?」
妙に含みのある言い方にエリカが疑問を呈したとき、講堂に『静粛に』と老齢の男性の声が響き、ウェイトリーがそちらに意識を向けたことで答えは結局得ず終いとなるのだった。