入学式が始まり、恒例の校長のややありがたく長ったらしい話終えて新入生代表の答辞に壇上に立ったのは司波深雪という女子生徒だった。さらりと流れるような美しいロングストレートの黒髪、可憐さを前面に出しながらも見たものを虜にするような整った顔立ち。APPは17~18、ウェイトリーに並ぶ人類最高峰の美貌だ。
優し気ながらも壇上での立ち姿には一本筋が通っている強さも感じる。まさに"大和撫子"という言葉が似合う少女だ。彼女のスピーチの内容はこの実力主義かつ、差別意識の強いこの学校でのものとは思えないほどで、感心を通り越して冷や冷やしたが。
ちらりとウェイトリーが横にいる達也の顔を見れば、最初こそぎょっ、としていたものの優しく微笑んでいる。
(ふむ、彼女は妹か……)
達也と深雪の顔立ちは全くと言っていいほど似ていない。だがウェイトリーは2人の雰囲気に、達也の目に自身と同じ"兄"を見た。これは話が合いそうだと微笑み視線を戻す。
入学式は順当に幕を下ろした。
◇
「アタシE組! みんなは?」
「E組です」
「俺もE組だ」
「おや、奇縁だね。私もE組だ」
ウェイトリーとこの学校にて最初に出会った3人は全員E組だった。ちなみに、何の巡り合わせかと愉快そうに笑うウェイトリーを見て小さな歓声を上げる女子生徒が複数発見された。
「やった、同じクラス! ねぇ今からHR覗いていかない?」
実に嬉しそうな様子で問うエリカ。しかしウェイトリーと達也は少し申し訳なさそうにその誘いを断った。
「悪いが妹と待ち合わせをしているんだ」
「私も弟を待っていてね。また誘ってくれたまえ」
ウェイトリーは何かの用で入学式に出席しなかった涼を待っている。それは達也も同じようで、立派に答辞を務めあげた深雪との先約があった。
「妹ってもしかして、新入生代表の司波深雪さん?」
「だろうね。優秀そうないい妹くんじゃないか達也くん?」
「あぁ。俺が四月生まれで深雪が三月生まれ。だから同じ学年なんだ」
しかし彼らを兄妹であることを見抜くとは。達也と深雪ははっきり言ってしまえば全く似ていない。ウェイトリーは自身が同じ兄であることと、長年の人生における勘のようなもので分かっただけだ。まあそれは親どころか人種から違うウェイトリーと涼が言えたことではないが。
「……ぶっちゃけさ、兄妹で一科生と二科生に分かれるのって複雑?」
「ちょっとエリカちゃん……」
どうやらエリカは自分の言いたいことをはっきりと言うタイプらしい。単刀直入かつあまりにも核心を突き過ぎる彼女の問いに達也は少し困ったように微笑んだ後、話題を変えるように美月に話を振った。
「それよりよく分かったね柴田さん、ウェイト。俺と深雪は全然似てないだろう?」
「いえ……お二人はオーラがよく似ていたので」
「……ほう」
「……!」
興味深そうに相槌を打つウェイトリー。しかし達也の反応は、疑るような警戒心を感じさせる表情と声色だった。
「──本当に【目が良い】んだね?」
「……ッ」
達也が警戒するのもそのはず、彼女の目は霊子放射光過敏症と呼ばれるものだ。魔法などの超心理現象で観測される粒子であるプシオン。その活動によって生じる魔法師にしか知覚できない光を彼女は過剰
に知覚する。特殊レンズすら必要な彼女の目からすれば、本来目に見えない精霊などの動きも感知が可能な程。
「コラ、達也くん。よしてやりなさい」
"年長者"としての行動に移った。
「君にどんな事情があるかは分らないが、そんなに威圧するものじゃない。彼女も君を探ろうとしているわけじゃないんだ。そうだろう?」
「……あぁ、そうだな。ごめんね柴田さん」
「い、いや大丈夫だから……。それよりウェイトさん、もしかしてあなたも私の……」
美月が何か言おうとする前に、ウェイトリーはすっと人差し指を口許に当て制止させる。
「皆まで言う必要はないとも。もし気にしているのなら猶更だ。君が話したいと思ったときで十分だ」
「──はい、ありがとうございます」
「いいともいいとも。……さてエリカくん。君は兄弟で一科生と二科生に分かれているのはどんなものかと聞いたね」
「えっ? うん」
「私も実は弟と同い年でね。しかも彼も一科生なんだ」
達也とウェイトリーが思い浮かべるのは涼の姿。達也からすれば唯我独尊、己が意思を押し通しそれを許される実力を持った全力全霊の自身に匹敵、或いは上回る友にして怪物。
ウェイトリーからすれば這い寄る混沌に見つかり4種の旧支配者の因子を埋め込まれたことにより、ヒトの皮を被った化け物になった哀れな子供にして最愛の弟。
「まぁ私個人の意見にはなるがね。自分の弟や妹の実力が評価されたこと、ましてやそれが新入生代表にまで選ばれるなどね……はち切れんばかりに嬉しいものさ! だろう達也」
「……フ、あぁ全くもってその通りだよ」
ケラケラと笑いながら言うウェイトリーに釣られて微笑む達也。互いが互いに複雑な家族関係ながらも、共通して彼らは家族を愛している。それこそ両者とも兄弟の為ならば『世界すら敵に回す』程には。
「お兄様!」
そんな彼らについさっき聞いたばかりの柔和ながらはきはきてした女性の声がかかる。その方向を見れば、話題にも上がっていた新入生総代の深雪と──真由美の姿があった。
「みゆ──」
「お兄様? そちらの方たちは……?」
何か話し始めた達也たちを尻目に、ウェイトリーは真由美に話しかける。
「おや真由美さん、如何なさったかな?」
「ちょっと生徒会について色々ね。……刈谷くんにもお誘いしたんだけど『兄上が入るか次第だ』って言って聞いてもらえなくて……愛されてるわね?」
「……ふむ。二科生は生徒会に入れないはずなのだがね。ルールだから仕方ないと私から言っておこう」
「ありがとうございます。……ルールねぇ。
「──否定はしないがちょっと危険な考えだぞ真由美さん」
直感的に涼が彼女の見たナグとイェブと本質的に同じなことを見抜いたのか真理にしてやや危なげな価値観を言う真由美。
どうやら狂気の残骸はこうしたところに影響しているようだ。まあ探索者らしいといえばらしいのだが。
「おい、そこの新入生」
「ん? 何用ですかな?」
真由美の近くにいた男子生徒が威圧的にウェイトリーを呼ぶ。肩には八枚弁の花か咲いている。その目は忌々しそうに敵意を顕にウェイトリーを見ている。
「1年が……それも
「ちょっとはんぞーくん……」
見れば周りの一科生たちもウェイトリーを苛立たしげに睨んでおり、嫌悪を滲ませている。
「いいのよ、ウェイトリーくんは私の個人的な友人……」
「だとしてもここは校内です。然るべき格差というものをハッキリさせておかなければ」
「いや……」
詰める男子生徒と真由美の間に割って入り深く謝礼をするウェイトリー。その所作は洗練されており、思わずそれを見ていた複数の生徒が息を漏らした。
「私が失礼だった。確かにここは学び舎でありしっかりとした上下関係は存在するでしょう。生徒会長に対する言葉遣いとしては些か以上に不適切でした」
「……ウェイトリーくん」
「……チッ、分かればいいんだ」
今度の言葉はしっかりとした敬語だった。それは先輩、生徒会長に対しては満点の対応であり……
「申し訳ありませんでした。七草会長」
「ッ……!」
親しき友人に対しては余りにも他人行儀かつ隔たりを感じさせるものだった。
「……そろそろ行きましょうか、はんぞーくん」
「会長? それではこちらの予定が……」
「いいのよ。じゃあまたゆっくりとね、深雪さん」
一瞬だけ浮かんだ悲しげな顔をすぐさま引っ込め微笑んだ後、男子生徒を引き連れて去っていた。
「……どうする兄上。あのはんぞーなる不届き者、この手で葬るが」
「来てたのかい涼? あとやめたまえ、ただの殺人だからねそれ」
いつの間にやら来て一部始終を見ていた涼が物騒なことを言い始める。ちなみにウェイトリーの"お願い"さえあれば涼は星すら滅ぼすのも辞さない。残念ながら彼にはそうするだけの実力がある。
「後で真由美さんにも謝っておかねばな……。まあそれはいい。涼、君から聞いていた達也くんを初めとした新しい学友たちに君を紹介したい。いいかね?」
「兄上が望むなら」
そしてウェイトリーは涼を達也たちに紹介し、深雪と涼の間で
「初めまして刈谷さん。お兄様からお話は常々……」
「こちらこそ司波深雪。俺も達也からおまえのことは聞いているよ。あのシスコンが……」
などという1人にブーメランが突き刺さりながらのお見合いみたいな会話に内心テンションを上げるウェイトリー。
ちなみに、ウェイトリーに涼を紹介されたときのエリカの第一声は、『家族関係複雑すぎない?』だった。