魔法科高校の〝ガチ〟劣等生   作:使命

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Step19 薮

 

 

 何度も言うが、ウェイトリー・アルハズラットに魔法の才能はない。元USNA政府公認戦略級魔法師だった母フレンと、アラビア政府直属の魔法師アブドゥルの血を継いだにも関わらず彼には一切の魔法の才はない。

 

 しかしそれはあくまで現代魔法においての話──()()()()。確かにウェイトリーには全ての外宇宙魔法を使う権利がある。しかしそれは才能ではなく、そうする権利を持ってるから使うというもの。要はそれは権能に近しいものであり、才覚ではない。──実は彼には卓越した魔法の才能が宿るはずだったのだが、外神の干渉によりその才能の容量の殆どは権能に塗りつぶされた。

 

 再三だが最後にもう一度。彼、ウェイトリー・アルハズラットに魔法の才能はないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりはね、起動式と魔法式の展開を同時に兼ねることでルーンの特徴である文字を書いて発動することを再現するのさ。そのために古式魔法における第二理論の応用である……」

 

「待て、干渉力や演算領域との関係はどうなる? それなら無系統魔法においての現代論理から……」

 

「そこは参考にしたこの魔法式から……」

 

「……改変が多いが確かにそうか。いや、この量の改変、構築をおまえ1人で?」

 

「まあそこはね」

 

 

 そんな凡夫たるウェイトリーは現在、待ち合わせしていたメンバーと1-A側にいてあの後こちらに謝罪をしてきた雫と閃光魔法を放とうとしていたほのかを交え、近くのカフェにて談笑もとい達也とウェイトリーの魔法講談が行われていた。

 

 

「……なぁ、あいつらが何言ってるか分かるか?」

 

「全っ然。ほのかは」

 

「わ、私も……雫は?」

 

「……あまりにもハイレベルすぎる。多少は分かるけど私じゃ着いていけない」

 

「マジか。それでも凄ぇよ。……涼、深雪、おまえら分かるか?」

 

 

 講談とはいうものの2人の話についていけるものはおらず、ならばと比較的自身らよりは知識深そうな入試首席と次席に話を振ってみれば

 

 

「あぁ、やはりお兄様の知識は素晴らしいわ! 貴方もそう思うでしょう? 涼さん」

 

「まあそうだな。流石だと言っておこう。……我が兄には到底及ばぬがな」

 

「あら? お兄様の知識の深さはエンジニアとしてのものも含まれます。確かに新型の魔法を創り出し、起動式の暗記すら可能なのは尊敬に値しますがお兄様は完璧に解析が可能ですし、一概にお兄様が劣っているとは言い難いのでは?」

 

「フッ、兄上は魔法工学にも精通しておられるのだ。なんなら俺のCADの調整も兄上が行っている。というか達也のそれは半ばインチキだろう。純粋な認識能力で起動式の一部暗記を行える兄上の方が勝ってる」

 

「CADの調整に関してはお兄様より上はいないかと。それにお兄様の眼は純粋な能力です、インチキ呼ばわりは止めなさい。実技だって本当は誰にも負けないはずなんですから。どこかの本当に実技の出来ない誰かさんのお兄さんと違って」

 

「ハッ、本性が出てきたぞ司波深雪。淑女的に振舞ってはいるが存外性悪じゃないか。兄上は研究畑だ、実技で比べるなどおかしい話だろう」

 

「はい?」

 

「あ?」

 

 

 これである。ブラコンここに極まれり、感情の昂りによって深雪と涼の規格外の干渉力により周囲の温度が急激に下がり、手元の茶が凍りかけている。あわや喧嘩か……という一歩手前でそれは未然に防がれた。

 

 

「──落ち着け深雪」

 

「涼。少し静かにしなさい」

 

 

 ヒートアップしていた2人は冷水をかけられたかのように一気に鎮静化し言葉を止めた。申し訳ありません。と2人揃って謝罪した後、睨み合いながら魔法で茶を温め直した。

 

 

「深雪、その言い方はウェイトに失礼だ」

 

「はい……ウェイトさん、申し訳ありません」

 

「いやいいとも。私が実技がからっきしなのは事実だしね。……しかし感情の変化のみでサイオンの活性化、魔法擬きのエイドスの改変による温度変化か。見事な才能だ、まさか涼と干渉力で張り合おう者がいるとは」

 

「あぁ、本当に深雪は凄いよ。それに俺も涼と初めて出会ったときは度肝を抜かれたさ。深雪クラスの干渉力がそう現れるとは思ってもいなかったからな」

 

 

 対して当の兄たちは穏やかに互いの愛する家族を称え合っている。ちなみにお互い心の底では『自分の妹/弟の方が凄い』と考えているのでそれが分かった瞬間に先ほどの2人など目じゃないレベルの論争が始まったりする。

 

 

「でもさー……実技が苦手って言っても、何か特別な……試験じゃ計れないような得意な魔法はあんじゃないの?」

 

「ほう? エリカ君、何故そう思ったのかな」

 

「んー……勘」

 

 

 勘かよ、と苦笑いする西城を無視しそのまま何処か悩ましそうに言葉を続ける。千葉家は自己加速・加重術式を用いた白兵戦のエキスパートの家系であり、《剣の魔法師》という二つ名を持つ。そんな家の彼女から言わせて貰えば、確かにウェイトリーの立ち振る舞いは素人そのものであり自分の速度であれば二秒で打倒しかねない程だと。そこに関しては達也や涼の方が遥かに強者の気質を感じられる。

 

 

「でもなんか、それだけじゃない気がするのよね……」

 

 

 なのに自身の勘は、この男と『絶対に敵対するな』と強く警鐘を鳴らしている。身体能力も、魔法力も、戦闘技術も全てが素人レベル。だがこの男には恐ろしい何かがある。否、()()。そう感じてやまないのだと。

 

 

「ふむ……」

 

 

 さて、こういう武人の勘というものか。ウェイトリーは大いにそれを嘗めていたようだ。別に魔法に関しては答えられないわけではない。真由美との話し合いの末、用意した答えは確かにある。流石に"実は現代魔法と全く別系統で、科学を超えた神秘を用いる外宇宙魔法を使えます。"などと言うつもりはない。

 

 そこではなくウェイトリーと敵対するという行為の愚かさを感覚で分かったことだ。ウェイトリーには全ての外なる神の守護と加護が約束されている。もしウェイトリーを本気で殺そうとするならば、旧神を束ね、旧支配者を従え、幾千万の名もなき外神の守護を突破し、大地母神の干渉を跳ね返し、遊びを捨てた這い寄る混沌を打倒し、全にして一たる副王を越え、この世全てを夢見る魔王の意思の先に至る必要がある。言うまでもなく不可能だ。

 

 多少の叡智を持つサバトでさえ分からないそれを直感で理解したことに多分の感心を含んだ拍手を送る。

 

 

「お見事だよエリカ君、勘というものも案外侮れんようだ。褒美に君の代金は私の奢りにしてあげよう」

 

「よっしゃ!」

 

「あ、おい狡いぞ!」

 

「はは、レオも何か私を負かしてみたら私の財布の紐も緩むかもしれないぞ?」

 

 

 それは兎も角。話が逸れそうだったので説明に入るウェイトリー。彼からすれば説明ではなく正確にはカバーストーリーを話すだけなのだが。

 

 

「私の得意魔法……といってもこれしか碌に使えないのだが、それはSB魔法に分類される"であろう"ものだ」

 

「あろう……てことはやっぱり特殊なのか?」

 

「あぁそうだね。雫君、SB魔法の定義は知っているね?」

 

「当然。……精霊や使い魔なんかの非物質存在を媒介に発動する魔法のことでしょ。分類的には精霊魔法が多いはず。ウェイトのはもしかして精霊魔法?」

 

 

 いい考察だね。と言ってウェイトリーは胸元から手帳──近年においてほぼ絶滅した紙の──を取り出し、ページを1枚破ると取り出したペンでスラスラと文字を書き込み始めた。

 

 

「凄ぇ、紙の手帳かよ。俺初めて見たわ」

 

「便利になるのは良いことだが、紙にも良さはあるさ。……さて、精霊とは自然現象から発生した情報体だ。基本的には目に見えないし、触れられない、精霊を用いる魔法師にしか知覚出来ないという性質があるね」

 

「はい。そうですね」

 

 

 そう。そして彼の魔法はそこが異常なのだと手帳に書いた自身の魔法の特徴を見せながら語る。

 

 

「私が召喚し、使役……というより力を貸してくれる精霊はね、幾つかの種類は目に見えるんだ。はっきりと何らかの形を持って」

 

「……ちょっと待って下さい。精霊は非物質的存在のはずです。そんなことが有り得るはずが……」

 

「だからこそ異常なのよ、美月」

 

「流石は深雪君だ。理解が早くて助かる」

 

 

 言っては何だがかなり信憑性の低い眉唾物の話だとはウェイトリー自身も思っている。しかしウェイトリーの扱う魔法、外宇宙魔法を体良く偽るにはこれしかないのだ。

 

 これに関しては深雪には兄である達也という規格外が身近にいるということが大きい。常識外への一定の理解があるのだろう。

 

 まあ実際外宇宙魔法は元を辿ればその起源は神格の権能に基づく。精霊──というには些か存在格の差が激しいが、旧支配者連中は四元素の性質を持ってるので、案外似たものと言える。

 

 

「しかもその精霊たちの召喚には詠唱も必要だと来た。効果も未知数だし試験じゃ使えなかったんだよ」

 

「成程、古式魔法か。それはウェイトの家に代々伝わってきたものか?」

 

「いいや。母も父も魔法師だったらしいが全く使える系統が違う。母が得意だったのは収束・発散系だ。父は私が産まれる前に死んだから分からないが母の話を聞く限り違うと思う」

 

 

 その言葉を最後に、皆悩んでるのか黙り込んでしまう。確かに今の話は今までの常例を覆す内容ばかりだ。ウェイトリーが問題なく現代魔法を扱えれば良かったのだが、生憎彼の魔法力は西城以下だ。簡素な魔法式の初級なら何とかなるがそれ以上は無理だ。

 

 

「……ま、今度見せてあげるから今は悩むのもいいだろう。ささっ、雑談に花を咲かせようじゃないか」

 

「──それもそうか。ならウェイト、1つ聞きたいことがある」

 

「……なんだい?」

 

 

 そう言って達也は真剣な表情でウェイトリーを見る。聡明な彼のことだ、何か今の話から穴でも見つけたかと内心冷や汗をかく。数多の言い訳を考えながら続きを促すと達也は表情を変えずに言った。

 

 

「七草会長とはどういう関係だ?」

 

「そうだよ、皆気になってたんだ。やけに親しいし……もしかしておまえ会長の」

 

「違う、友達だよ。ただのね」

 

「……本当ですか? ですがあれは……」

 

「ならば私と彼女の出会いから話そう。あれは私が道に迷う彼女に声をかけたことから……」

 

「──十師族相手にナンパ?!」

 

「違う、ただの親切だ。続けるよ?」

 

 

 弁解は、もう暫くは続きそうだ。

 

 

 

 

 

 














「──以上が大黒特尉より送られた報告です。何か質問は」


 防衛省某室。何重にも張られた防音魔法、認識阻害魔法による結界で守られたそこで、国家防衛を任されし6人の要人たちが集っていた。たった今プロジェクターを用い今回の定期報告内容を説明したのは、国内保安部長である西田という男だ。


「ふむ。魔法の開発技術にそれを支える知識量、そして起動式を暗記するほどの頭脳か。ますます殺すのは惜しい」

「バカを言うな。それ程の才、逆に今の魔法社会を壊しかねん。やはり即刻抹殺すべきだ」


 国防省の1部組織は近年活発化している、未知なる魔法──通称外宇宙魔法──を扱い犯罪行為を行うサバトの対応に追われていた。

 そして目下、彼らが最も警戒している対象はサバト──ではなく、それらが追い求め探す『魔導書』ネクロノミコンを所持する1人の青年だった。


「…素性はともかく、『約櫃/アーク』は一般人です。それを我々が、国防が殺すなどと」

「一般人だろうと善人だろうと、国に災いを齎す可用性のあるものを生かしておけるか!我々には1億2000万の国民を守る義務がある!」

「彼もまた1人の国民です!貴方は守るべき国民の命を奪おうと言うのか!」

「あぁそうだとも!『約櫃』1人の命で国に安寧が訪れるのならば躊躇などない!」


 本来ならこれはそれこそ国防長官などのトップを交えて行う議論だ。しかし肝心の彼らが足並み揃えて『約櫃』の件に関して"不干渉"を命じている。だがそれで放っておいて良いほどやわな問題じゃない。だからこそこうやって動けるものたちが秘密裏に集まっているのだ。

 そして現在、対象の処遇に関して関係者内で3つの派閥が生まれている。

 1つは【抹殺派】
 1つは『保護派』
 1つは《中立派》

 先程抹殺派の意見に反対の声を上げたのは、保護派の筆頭である魔法犯罪対策本部長の警視長。そして国防陸軍所属・独立魔装大隊の隊長である風間少佐だ。


「皆さん落ち着いてください。我々の目的は『約櫃』自身ではなく、ネクロノミコンでしょう。彼の生死に関しては今話すことではない」


 論争が伯熱し本題とは違う話に逸れそうになっていたのを冷静に止めたのは中立派の西田だ。彼自身、国防省総出の捜査も上に妨害された身だ。気持ちは分かるがだからこそ焦ってはいけない。


「我々の目的は、渦中の根幹であるネクロノミコンを国家の手に納めること。彼自身に関しては…まあ私は大黒特尉の言葉を信じ、前途多望な若者の命を奪う真似は出来る限りしたくはないですが」

「貴様…!」


部屋全体が剣呑な空気に包まれる。こうなるのも仕方は無い。彼らが背負っているのは国民の命であり、1歩どころか半歩の間違いすら許されない。話し合いが進まず、硬着していると今まで黙りこくっていた男が口を開いた。


「──二兎追うものは一兎も得ず。ここは何方かに集中しなければなるまい?でなければ我々は大きな惨劇に招待されることになる」


 抹殺派筆頭、国防海軍所属である金井少佐。普段は同じ抹殺派の男と口煩く騒ぐのだが、今日は珍しく静かに意見を出した。


「抹殺派筆頭である貴方がそれを言うのか、金井少佐!」

「しかし事実だ。対応を誤れば、全てが台無しになるのだ。人も、国も。あれらへの接触は慎重にいかねばならないだろう。役者と舞台のキャスティングは特に綿密にだ」


 金井はひどく理知的な態度だ。普段からこうであればいいのだが──何故か、違和感を覚える。


「金井少佐?」

「何かね西田さん。私は忙しいんだ。彼の立つステージに相応しい場所が見つからないんだ。惨劇とは言っても劇は劇だ。ロサンゼルスか、ニューヨークか。きっと何よりも美しい花が咲く。あれはアンドロメダ座だ」


 ──おかしい、おかしいのだ。その様子は、態度は、何処までも正常だ。なのに彼の言動は徐々に徐々に支離滅裂になっていく。

ガリガリと頬をかく音がやけに響く。ガリガリ、ガリガリ


「金井少佐?金井少佐!」

「煩いぞ風間少佐!君には分からないのか!あの海底に沈んだ都市の美しさが!非ユークリッド幾何学的な形で地底へと向かって聳え立つあの暗黒の星が!」


ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ


「ッ!魔法を張ったのではないのか!」

「も、問題なく発動しています!それに突破された痕跡も!」

「それはまるで最新鋭の古代文明が創り上げた至高なる汚物!!あぁ、まるでぇ!まるで!」


ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ


「取り押さえます!皆さん離れて…っぐ!力が強い…!」

「──違う、違う違う違う違う違う違う違あぅ!!私はそんなことを言おうとは…、だまれだまれぇ!!わたしのよこデsゃベルなぁぁぁぁぁあ」


ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ


「にゃる、しゅたん!にゃる、しゅがたん!暗黒のファラオ万歳!!■■■■■■■■万歳っ!!」

「ッ!まっ…!!」


──そして金井は何かの賛美を謳った後、風間の妨害を人外染みた力で振り解き、懐に入れていた拳銃で口内から脊髄を撃ち抜き自害した。その目は狂気に濡れていて──何かから解放された様に歓喜に満ちていた。


「……」


突如起こった事態に、彼らはただ立ち尽くすことしか出来なかった。










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