ちなみに前回の金井さんの状況を説明しますと、あの会議の前から一ヶ月、起きてようが寝てようが永遠とナイアーラトテップが耳横で囁き続けてました。
栄えある現代の魔法の名門、魔法大付属第一高校。そしてそこに所属する生徒たちのトップであり、生徒による自治を重視されることによって、学内で非常に強い権限を持つ生徒会。
現在、司波兄妹とウェイトリー兄弟は生徒会長である真由美の昼食の誘いを受け生徒会室へと来ていた。
「──ところで達也君、私たちは何故呼ばれたんだろうね?」
「そうだな……。深雪と涼は予想出来るが、俺たちは呼ばれる理由もないはずだが」
「君、もしかしたら昨日のあの下手な誤魔化しの件かもしれないぞ」
「そうだったらおまえも巻き添えだよ、ウェイト」
自身らの妹や弟に関しては察しはつく。入試首席と次席の生徒の生徒会への勧誘だろう。涼は未だに『兄上がやるのなら』と言っているが流石に規則は規則なので無理な話だ。
それが分かっていながら何故真由美は二科生の2人を呼んだのだろうか。そんなことを話している兄2人の横で
「生徒会か。……次期生徒会長にはやはり兄上が適任だろう。そして俺は副会長……完璧だ」
「待って下さい。生徒会長はお兄様の方が適任かと思いますが? そして副会長は私です」
「何を言ってる? 我が兄はな、誰であろうと受け入れる慈悲深く寛容な御方だ。その懐の広さは組織の長として十分な才覚だ」
「それは甘さにも繋がるかと。優しさも必要ですが、生徒会長としての厳格さと威厳は必要だと思います。その点ではお兄様の方が適任です」
性懲りも無くまた口論だ。なまじ2人とも弁が立つおかげというかせいで、ペラペラと自分の兄自慢が止まらない。褒められて悪い気はしないが、2人とも兄離れが出来るのかウェイトリーは非常に不安である。
そんなところで生徒会室に到着し、機械を通して許可を取り4人が入室する。ようこそ生徒会室へ。と歓迎する真由美の傍に、3人の女子生徒が立っていた。
風紀委員長 渡辺摩利──正確には生徒会ではない。
会計 市原鈴音 真由美曰くリンちゃん。
書記 中条あずさ 真由美曰くあーちゃん。
各々で簡潔に自己紹介を済ませた後、ダイニングサーバーで料理を頼み──ウェイトリーと摩利は自前の弁当を取り出し──昼食を摂ることになった。
「しかしまあ噂に聞く花の生徒会、その評判に違わずなんとも見目麗しいレディが──いや、止めておこう。エリカ君にまた叱られてしまう」
いつも通りの様子で軽口を叩こうとしたウェイトリーだが、流石の彼も生徒会役員の前であることを配慮し口を慎んだ。というより後半の理由の方が大きいが。
「……エリカ? もしかして千葉エリカか」
「おや、お知り合いで?」
「……あぁ、まあな」
「知り合いもなにも摩利は──」
「あ、おい真由美!」
何か口を滑らそうとした真由美を顔を赤く染めながら慌てて止める摩利。しかし皆ある程度周知の事実なのか、然程気にしている様子もない。
まあおそらく彼女はエリカの家族……兄弟と親密な関係なのだろう。確か兄が2人いると聞いているのでそのどちらかか。女傑のイメージがあったが存外、実にいい乙女の顔をするものだ。
「そ、それよりだなアルハズラット。その弁当はおまえが?」
「えぇそうですね。本当は涼にも作ってあげる予定だったのですが。……ほら涼、私のをあげるからそんな顰めっ面は止めなさい」
「いやいい。今朝急ぎの用があったからと断ったのは俺だからな。しかしまあ自動配膳機の飯は不味……美味くないな」
「そうだな……ナイ神父に作ってもら」
「いらない。絶対にだ」
器用な彼のことだ。きっと三ツ星も顔負けするほどの美食を提供するだろうが、如何せん何が入ってるか分かったものじゃない。特に涼に対しては。『実は新しい神格の因子があるので取り込んでください』とか言われてもおかしくないし、涼にそれを断る力はない。
「ですが弁当に関しては貴女もでしょう風紀委員長殿」
「まあな。……意外か?」
「いえいえ。手を見れば多少は分かります。それに料理というものはその人の性格が顕著に出るものです。それを見れば貴女は繊細で思慮深い素晴らしい女性だと分かりますとも」
微笑みながら淡々と褒めるウェイトリーに気恥ずかしくなったのか、目を逸らしながら手を隠す摩利を見て揶揄うように口に手を当て──瞳にどこか暗い光を灯しながら──笑う真由美。その実力と風紀委員長という肩書きもあって彼女のそういう面は見られにくいのだろう。女性を褒めるときはそういう一面こそだ。
「……なるほど、真由美が気に入るのも分かるな。相当のタラシのようだ」
「言ったでしょう? ──ウェイトリーくんは凄いのよ」
言葉の節に何処かゾッとするような寒気を感じたものの、気の所為だと一蹴する。そんな雑談もあり食事を終え、本題に入る。
その本題とは、予想通り深雪と涼の生徒会への勧誘だった。曰く生徒会は任期中自由に役員を任免できるらしく、それで入試成績の優秀な2人に白羽の矢が立ったらしい。
「説明した通り司波深雪さん、刈谷さん。私は貴方がたの生徒会入会を希望します」
「……」
しかし、こうやって公に自分の家族の能力が認められるというのは何とも誇らしいものだ。好きにしなさい、と涼に言い1人で感傷に浸るウェイトリー。2人は少し黙った後──全く同時に口を開いた。
「会長は、兄の成績をご存知でしょうか?」
「会長は、兄の成績をご存知でしょうか?」
「……ん?」
綺麗に揃った言葉に驚いた様子の2人を面食らった顔で見る兄2人。そんな兄たちの様子に真由美が気づく事なく話は再開された。
「えぇ、達也くんは平均96点で筆記2位。ウェイトリーくんは平均98点の1位で2人とも断トツの成績ですね」
「有能な人材を引き入れたいというのであれば、私より兄の方が相応しいと思います」
「おい、深ゆ……」
「俺も同意見だ。それにデスクワークでは実技よりも知識や判断力が必要な筈。どうかご一考願えないでしょうか」
世にも珍しい涼が人に何かをお願いする場面を見れたのは驚きだが、それよりも達也にとって重大なのは深雪のほうだ。
過ぎた身内贔屓は反感の元だ。まさか自分がここまで妹に悪影響を及ぼしていたというのか。動揺しながら達也が向かいのウェイトリーを見てみれば……
『……Oh my god』
天を仰ぎ母国語が出てる始末だ。生徒会のルールは教えた筈だろう、とブツブツと英語で呟いている。
「……残念ですがそうはいきません」
ここで会計である鈴音が口を開く。これは学校そのもののルールであり、これを変えたければ生徒全員による生徒総会の末、在校生の3分の2の賛成票数が必要であり、事実上不可能であると。というかウェイトリーは既に言った。
「現行の体制が正しいとは思わないけど……ごめんなさい」
「……いえ、分をわきまえぬ差し出口をお許しください」
「…………申し訳ない。出過ぎた真似を」
「では深雪さんは書記として、刈谷さんは監査として生徒会に参加していただきます」
「はい、精一杯務めさせていただきます」
「……承りました」
取り敢えず何とか事態は収まってくれたようだ。ホッとしてウェイトリーは背もたれに体を預ける。ヒヤヒヤさせられたが、まあ弟がこれだけ自身のことを評価してくれるのは嬉しいことだ。しかし罰としてナイ神父とタウィル司教の時空間操作による特訓コースを受けてもらおう。
「それでは解散して──」
「あ、ちょっといいか?」
もう完全に退室しようとした雰囲気のウェイトリーたちを手を挙げ止めたのは風紀委員長の摩利だ。
「風紀委員の推薦枠が2人決まっていないんだ。本当は1-Aの森崎が入る予定だったんだが、入試早々問題を起こす奴にはちょっとな……」
「それはまだ人選中。入学して1週間も経ってないのよ?」
「さっきの話、"生徒会役員は一科生から選ばれる"だったよな。つまり」
───風紀委員は、二科生を選んでも規定違反にならない。
『ッ!?』
「ナイスよ摩利! そうよ風紀委員なら問題ないわ!」
「……なるほど、ハハッ! 達也君、どうやら君に仕事が──」
「生徒会は、司波達也くんと
「─────はい?」
どうしてその名前が出るのか? 実技が悪いから二科生なのだ。達也に関してはあの涼が実力を認めていることから問題ないだろう。だがウェイトリーについては次元が違う。
彼は正真正銘の劣等生なのだ。現代魔法も碌に使えない、文字通りそこらに生えた花無しの
これには達也も納得いっていないようで、自分の実技の成績が芳しくないという理由で反対している。実際、風紀委員の仕事とは魔法の無断使用を行う生徒への注意、場合によっては鎮圧や捕縛もある。ぼろ雑巾になるのが関の山だ。
「風紀委員長、彼の言う通りだ。私の実技はそれはそれは酷いもので、一科生が私に本気で襲ってきたとき見るも凄惨で悍ましい肉塊になることに……」
「だとしても起動式を読み取れるということは、魔法の使用を未然に防ぐことが出来るんだ。そしてアルハズラット、おまえには起動式を破壊する魔法があるんだろう? うってつけの人材だ」
「……ルーン魔法に関しましては風紀委員のCADに配布する形を取りますので……。私に実力は」
「構わんよ。それに力比べなら私がいる」
そう言うと摩利は部屋の時計を見ると態とらしく席を立った。
「お、そろそろ昼休みが終わるな」
「話は終わってませんが」
「では続きは放課後にここで」
「待ってくれ真由美さん。貴女はせめて話を!」
結局、ウェイトリーと達也の言葉は一切耳に貸されず生徒会室を去ることになった。そして一方の妹と弟は、午後の授業で非常にご満悦であったらしい。