「お、来たか。4人ともご苦労さま」
放課後、ウェイトリーたちは生徒会室へと訪れた。達也とウェイトリーは無論、風紀委員入りを断るつもりだ。そんな腹積もりで入った生徒会室に、見慣れぬ顔がいた。
麗しい女子生徒ばかりの部屋に紅一点ならぬ黒一点。何処かで見たことがあるようなないような男子生徒だ。
「……ッ!」
その生徒は何やら心底気に食わんと達也と──特に──ウェイトリーを睨んだ後、2人を無視しその後ろの人物たちへと足を進めた。
「司波深雪さん、刈谷涼さん。生徒会へようこそ。副会長の服部形部です」
温和そうに、理知的な様子で
「……貴様、前々から兄上に対する礼儀を」
「──ん? あれ、やっぱり会ったことあるのかな。涼、止めなさい。彼の方が目上だろう」
涼は基本的に無関心かつ冷徹な性格だ。だが自身の兄へ侮辱だけは絶対に忘れない執念深さもある。そしてその対象はもれなく赫い斬撃によって塵に還る。達也曰く"独立魔装大隊殲滅速度1位"。とにかく彼は手が早い。どちらの意味でも。
そんな弟を止められるのはこの場では達也か兄のみだ。
「……チッ」
「……まあ取り敢えず彼らのことは生徒会に任せて我々も移動しよう。風紀委員会本部はこちらから繋がっているんだ。ちょっと変わった作りだろ?」
「──お待ちください、渡辺先輩」
何やら剣呑な空気を察しとっとと移動してしまおうと考えた摩利の行動は、残念ながらその空気を作り出した当人に妨げられた。
「なんだ? 服部刑部少丞範蔵副会長」
「フルネームは止めてください、服部刑部です!」
「では服部半蔵君」
「歴史上の人物と一緒にしないで下さい!」
「服部半蔵……? おぉっ、あの忍者の!」
「違うと言っている!」
違う話題を持ち出しやや緩くなりかけた空気を、1つ咳払いをして戻し服部は再度口を開いた。
「ともかく。渡辺先輩、私はその1年生2人の風紀委員入りを反対します」
「おかしなことを言う。司波達也君とウェイトリー・アルハズラット君を風紀委員に推薦したのは生徒会長である真由美だぞ。口頭でも指名の効力は変わらないはずだ」
「本人らが受諾していないと聞いています」
「だとしても決定権は達也君らにあって生徒会の決定は既に為されている。君に決定権があるわけではない」
まあ彼の言いたいことは1つだろう。二科生が一科生を処罰する対象に回るのが気に入らない、ということだ。というかこれはチャンスではないのか? 今ならば、『生徒会内で反対が出たので』といった理由でスムーズに断れるかもしれない。
「過去、
「それは禁止用語だぞ服部副会長。風紀委員会による摘発対象だ。委員長である私の前で堂々と使用するとはいい度胸だな」
「取り繕っても仕方ないでしょう。それとも全校生徒の三分の一以上を摘発するつもりですか? 一科生と二科生の枠組みは学校が認めた区別であり、それを根拠付けるだけの実力差があります。有事には一科生を実力で取り締まる必要がある役職だ。実力の劣る二科生には務まらない」
言い分自体は成程確かに正しい。風紀委員の仕事には生徒による魔法を用いた暴動を鎮圧する役目もある。それを魔法力が明確に劣る二科生にやらせるなど信じられない。
服部の言葉にうんうん、とウェイトリーは力強く頷いている。
「実力といっても色々あってな。力づくでの鎮圧なら私で充分だ。だが彼らには展開中の起動式から魔法を読み取れる目と頭脳がある」
「……まさか。基礎単一工程の起動式ですらアルファベット3万文字以上の情報量になる。それを展開中に読み取れるなんて出来るわけがない 」
流石にこれには不満よりも驚きが勝るようだが、にわかには信じ難いといった様子。実際に達也はそれを可能にする"眼"があるし、ウェイトリーは起動式の一部暗記という力技によって可能にしている。
「それにな、一科生のみで構成された委員が二科生を取り締まる。これが一科生と二科生の溝を深める原因となっている。私の風紀委員では差別の助長はあってはならない」
「……だとしても、魔法力に劣る二科生に風紀委員は無理です。会長、やはり私は……」
尚も反対しようとする副会長。だが、それを──兄への愚弄を許さない、先程まで黙って聞いていた妹が遮った。
「僭越ながら、兄の実技成績が芳しくないのは評価方法が合っていないからです。実戦なら兄は誰にも負けません!」
「──司波さん。魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に見なければなりません。身内であれ身贔屓をするのは魔法師を志す以上やめるべきでしょう 」
困ったように微笑みながら、あくまでも深雪に諭すような口調で認識を改めようとしない服部に──ついに涼の堪忍袋の緒が切れた。
ゴウッ! という音と共に室内に突如冷たい烈風が……北風が巻き起こる。その発生源は言うまでもなく涼だ。涼の苛立ちに呼応し、風を歩むものの権能の一部が気象現象を超えた超常を起こす。
「これは……! まさか魔法?」
「嘘……! CADもなしで、なんて干渉力!?」
鈴音とあずさの驚愕の声も聞かず、涼は忌々しそうに服部を睨みながら苛立ちのまま口を開いた。
「いいだろう。ならば服部とやら、これより達也か我が兄、何方かと模擬戦を行ってみろ。実力が信じられないのならその身でしかと受けるがいい。……いいな? 達也、兄上」
「──あぁ、ならば俺が行こう。別に風紀委員に入りたい訳ではないが……深雪の目が曇ってないことを証明しなければならないからな」
「うん。そうだね。私はパスだ。後涼、そろそろ抑えなさい。誉ある生徒会室がズタズタになりかねん」
意外なことに、今まで静観していた此度の件の原因の一端が了承した。経緯を見ていた服部は怒りも顕に声を荒げた。
「ッ、思い上がるなよッ補欠の分際で! いいだろう。身の程を教えてやろう!!」
「……それでは、両者合意ということで、生徒会権限で2人の模擬戦を正式に許可します。場所は第3演出室、時間は30分後で」
こうして達也と服部の模擬戦が決まった。
──さて、ウェイトリーが迅速に取り掛からねばならない問題は自身の後ろから、前から、横から、上から、下から、凡ゆるこの空間の外から此方を覗いている外神たちの機嫌を宥めることだ。誅罰を、誅罰を、と騒ぐ彼らをどう止めたものか。
今この時、宇宙の命運はウェイトリーに託された。
◇
結論から言えば、模擬戦は達也の圧勝だった。開始直後、ウェイトリーの目にも止まらぬ速度で達也が服部の背後に回り、3つのサイオン波を合成させた波動で服部にサイオン酔いを引き起こし気絶させ勝利を掴んだ。
「頭部に傷は……なし、意識は……戻って来たか。涼、申し訳ないがバケツと新聞紙、後クラッカーかジンジャーエールを。嘔吐が酷いようなら保険医を呼んでくれ。オンダンセトロンなどの処方が必要になる 」
「承った」
「……いや、その必要は無い。アルハズラット、おまえは医学の知識が?」
「……えぇ。かじり程度ですが」
昔取った杵柄ならぬ前世取った杵柄だ。既に忘れていると思っていたが、意外に知識は憶えているものだ。服部は自分の足で立ち上がると、真由美たちと話をしていた深雪に謝罪を行い、達也には直接的な謝罪は無かったもののその実力は認めたようだ。
「……よし! 見事な試合だった。そろそろここで」
「そうねぇ……こうも達也くんが実力者だったら、"実技が苦手"なんて言葉、信用出来ないわよね? ウェイトリーくん」
いい雰囲気になったところで自然に解散しようとしたウェイトリーの思惑は、真由美によって砕かれる。しかも悪い方向に。
「……いやいやいや、達也君が例外なだけで私は本当に十把一絡げの雑魚で……」
「……だがまあ、風紀委員に入るに当たって実力を図るのは当然だと思わないか? ウェイト」
あろう事か同志であった達也さえウェイトリーを裏切ってきた。──というのも、達也にとっては"未知なる魔法師"であるウェイトリーの実力を調べるという打算の上だが。
不味い。この流れは非常に不味い。想定される相手もそうだが、模擬戦をするという行為自体も。
「……し、しかしだ。服部副会長はダウンしたし私の模擬戦相手は……」
「問題ない」
そして、ウェイトリーにとってこの場において最悪の──悪魔の声が響く。その源は……渡辺摩利風紀委員長だ。男勝りだが優しげな、いつもの様子の声がこの瞬間だけは死刑宣告としてウェイトリーの首に鎌をかけた。
「──おまえの相手は私がしよう。アルハズラット」
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※ウェイトリーの「一声」!
※外神は沈静化した!
※魔王は眠っている!