魔法科高校の〝ガチ〟劣等生   作:使命

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【──我らが主よ。かの不敬なる下等に身の程を教えよう】

【えぇ。その尊厳を、自我を、自己を、感情を、理性を、狂気を、記憶を、冒涜の限りに染めましょう】

【いいわね。折角です、少しあれで遊ぶのも悪くないでしょう?】

【提唱→ 地球人類、個体名『 服部刑部少丞範蔵 』の総てを暴き真実の下に晒す。←要求】

【阿阿阿、隠すべきだ。隠すべきだ。あの不浄極まりない愚者を今すぐ覆い隠すべきだ】

【死を!死を!腐敗を!腐敗を!舞え、踊れ!】

【─────♪(歌を。彼の死で極上の音楽を)】

【…あの魂は要らないかな。不愉快だ】

【【【誅罰を。誅罰を。誅罰を。】】】

──本当に勘弁してくれ。




Step22 実力は鮮明

 

 

 渡辺摩利

 

 この魔法大学付属第一高校における風紀委員長。かの鬼殺し渡辺綱の末裔であり、千葉家の門下生である彼女は近接戦闘において類稀なる実力を誇り、更には渡辺家随一の魔法力で中、遠距離にも隙がない。

 

 規格外の一はないが、全ての能力が満遍なく高い万能型でありこの精鋭が集る第一高校においての3巨頭──の内、十師族でないのは彼女だけ──が1人だ。

 

 

「ハハハッ、私にどう勝てと?」

 

 

 対するウェイトリー・アルハズラット。この第一高校の新入生で合格者中過去最低点を実技で叩き出した正真正銘の劣等生、花一弁も似合わぬ路端の雑草。切れる手がないわけではないが、残念ながら彼の切れる手は全てがジョーカー。切った瞬間そこで終わりだ。彼は国から追われる立場となる。それだけは何とかしなければ。

 

 ならわざと負ければいい。それが一番だ。ウェイトリーが詠唱を唱える暇もなく一瞬で距離を詰められ、そのまま一撃のもと倒れ伏す。これが正解だ。しかし

 

 

「兄上の模擬戦……! しかも相手は校内屈指の実力者か。達也、達也! 深雪もだ。しっかり見ておけよ我が兄の勇姿を!」

 

「……あぁ。見てる、ちゃんと見てるから引っ張らないでくれ」

 

 

 普段の様子からは及びもつかない程声を上げて、期待と歓喜の眼差しを向ける涼を見てその案はすぐに却下となった。

 

 

「……会長、やはり模擬戦と言っても渡辺風紀委員長相手は荷が重いのでは」

 

 

 鈴音の杞憂も最もだ。ウェイトリーの相手はただの生徒ではなく第一高校トップ3の1人である摩利。見たところ上背はあるが細身であり鍛えられた様子はなく、佇まいも達也のような実戦馴れしたようなものではない素人のものだ。

 

 

「大丈夫。それよりも私たちがするべきなのは摩利の心配よ? 危ないと思ったら貴女も魔法をすぐに行使して止めて」

 

「……渡辺委員長、十文字会頭の実力を知る貴女がそうまで言うとは。余程特異なのですか、その彼の使う()()()()()()()とは」

 

「……そうね」

 

 

 真由美がウェイトリーとの話し合いの末編み出したカバーストーリーは、物理的なカラダを持った精霊を召喚し、使役する常識外の魔法が使えるというもの。だが真由美は知っている。ウェイトリーが召喚し使役するものは、全て人類の常識と認識の外に住まう埒外の存在だということを。

 

 無論、使役魔法しか扱えないわけではないが、他の外宇宙魔法は国に把握されている。使ったことがもし見つかればその瞬間、彼は一般生徒から指名手配犯──既に半ばそうなのだが──に早変わりだ。

 

 

「……はぁ、まあやるしかないか。それでは風紀委員長殿、胸をお借りします」

 

「あぁ。……真由美にかっこいいところは見せてやらせないぞ?」

 

 

 悪戯げに笑う彼女の言葉に苦笑で返答し、表情を変える。今回ばかりは負けられない。少々大人気ないが、許してもらいたい。此方の打つ手は限られているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也にとって、軍属"非公認戦略級魔法師の大黒竜也"個人に下した防衛省の命令である『約櫃(アーク)』──ウェイトリー・アルハズラット──の監視は最優先事項の1つだ。

 

 そしてその目的において今回の模擬戦は『約櫃』の力を測るのに非常に都合がいい。流石にこの場で大っぴらに特級違法魔法である外宇宙魔法を使うとは思えないが、それでも彼の言う、『物質的な実体を持つ精霊を召喚する魔法』を見るチャンスだ。

 

 仮に普通の現代魔法を使用するのでも良し。もし摩利と拮抗する実力を有するようならば、現代魔法と外宇宙魔法を高度なレベルで扱う危険人物として警戒度を引き上げなければならないだろう。

 

 自身の魔法──にして異能──であるイデアに直接アクセスして高次元情報体から事象を観測する"精霊の眼"すら用いて注意深く観察しているが、ウェイトリーに魔法の使用の兆候は見られない。

 

 

「……!」

 

 

 だが、達也の幼少期から鍛えられた肉体の聴覚がその変化を聞き逃さなかった。ウェイトリーの口元が微かに動き、何かを呟いている。それも最大限に警戒をしていた達也、もしくは摩利しか分からないほどに。

 

 

「……」

 

 

 摩利も訝しげにウェイトリーを見ているが、何を呟いているかまでは分からない。──ただ、うっすらと聞こえるその声は底冷えするような冷たさを感じる呻き声にも似たものだ。

 

 

「それじゃあ、準備はいいわね?」

 

 

 両者がコクリと頷き了承の意を示すと、真由美が片腕を上げる。部屋全体に緊張した空気が流れ一同が固唾を呑んで見守る。そして──

 

 

「始め!」

 

 

 開始の言葉と共に手が振り下ろされた瞬間、自己加速術式により一陣の風と化した摩利がウェイトリーの視界から消え去る。魔法によりタイムラグもなく一瞬で背後に回ったその体捌きは達也からしても見事と言う他ない。ウェイトリーもこうなることが分かっていたのか、然程慌てた様子もなく身構えている。

 

 だが摩利の速度に追いつけず無防備な背中が晒され、その背中に摩利が迫る。狙いは首筋──意識を狩りとるつもりか。意外にも早い決着となったかと思われた瞬間だ。

 

 

「……■■■(我が子よ)

 

 

 摩利が繰り出した手刀は、突如現れたソレによってウェイトリーを捉えることなく受け止められた。

 

 姿を見せたソレは、メイド服に身を包んだ少女だ。しかしソレは目に見えて()()だった。

 

 その瞳と長髪は、爛々と煌めくルビーのように美しく真紅に輝き、その肢体は触れることも躊躇するような精巧さと児童性愛を彷彿とさせる危なげな色香を撒く人形のよう。そしてその整った顔はまるで神々が造形したかのように、人智を超えた美を纏っている。

 

 だが彼らの目からして確かに異常なのは、頭から生えた触手のような角、背から伸びる細い何かを無数に束ねたような翼、摩利の手刀を受け止めた爬虫類のような鱗を持った尻尾。──その少女は例えるなら人型の龍そのものであった。

 

 

「……どういうことだ?」

 

 

 ポツリと漏らした達也の独り言は幸い、誰にも聞かれなかったらしい。しかしつい言葉が漏れ出てしまったのもしょうがないことだろう。何故なら彼の眼には、突如としてエイドスに"穴が開き"、先程までこの空間に居なかったはずの存在が現れたのだから。

 

 

「遅れてしまい申し訳ありません。我が主よ」

 

「いいや大丈夫だとも、イェブ。もしかして、また私の呼びかけに関してナグと喧嘩でもしたかい?」

 

「…………いえ、そんなことは」

 

 

 たっぷりと間をおいて否定したことから事実だろう。彼女──? ら姉妹──? が喧嘩するのはよくあることだ。何方がウェイトリーの茶を注ぐかとか、何方が荷物を受け取るだとか、そんなことで計8回は地球が滅ぶか否かの喧嘩が起きている。まあ全てタウィル司教が制止した後、粛清したのだが。

 

 

「ッ! 成程、これが物質的な精霊か! さしずめサラマンダーかファイアードレイクか?」

 

「……不快。わたしをそんな蜥蜴風情と一緒くたにしないで」

 

 

 言葉通り顔を僅かに顰めたイェブはそのまま手刀を掴んでいた尻尾を何処にそんな力があるのか摩利ごと振り上げると、しなりを効かせ摩利を壁に向かって投げ飛ばした。

 

 

「──ッ!?」

 

 

 しかし摩利は空中で器用に体の向きを整えた後、壁を蹴って床に着地した。対人との戦闘でまず起こりえないだろう事態にすぐさま対応してみせるのは、流石は3巨頭か。

 

 

「……驚いたな。一見細く見えるが想像以上に怪力か。おまえの言っていたのはこいつか? 真由──」

 

「う、ウェイトリーくん、貴方何を考えているの!? よりにもよって彼女を……!」

 

「会長、落ち着いてください」

 

 

 そう真由美に話を振ろうとし、真由美本人の悲鳴にも似た大声で遮られることになる。しかもその声は、既知の恐れと本能的な畏れの両方を感じさせるように震えている。

 

 摩利から見ても真由美は校内どころか国内屈指の実力者だ。十師族が一、七草家の長女として相応しい気品と風格、実力を持つと自信を持って言える。それがどうだ、こんな姿見たこともない。

 

 

「……どうやら相当にヤバいらしいな。あんなに怯えたあいつを見るのは初めてだ」

 

 

 あまりにも酷く怯えた友の様子を見て摩利の言葉に最大限の警戒が滲む。というか一体何をしたらこんなに怯えさせることがあるのか。美しさこそ確かに人の域を超越しているが、その体躯は小学生高学年程度だ。

 

 

「そうか、この子らへの恐れは克服できてなかったか……。いや何、彼女は私の召喚できる子の中でもとりわけ……まあなんと言うか、遠慮を知らないのでね。少々こちらのいざこざに巻き込んでしまって……」

 

「……まあ事情は深くは聞かないよ」

 

 

 こちらに気を使ったのか、深入りはせず苦笑するに留める摩利。そしてその表情をすっ、と正すと体勢を低くし──その嫋かさからさながら豹を思わせる──構えを取った。

 

 

「だが手加減はしないぞ? それにそんな余裕もないしな」

 

「お気遣いありがとうございます。──ではイェブ、オーダーだ。……勝利しなさい」

 

「御意に」

 

 

 イェブが胸に手を当て立礼した直後、バンッ! という強い衝撃音が響く。それは摩利が加速術式を用いた最大限の踏み込みの音であり、彼女は先程よりも尚迅く弾丸のようなスピードで目まぐるしく動き回る。

 

 

「速い!」

 

「あぁ。あの赤き松……いや、精霊に見切られないようにしているのだろう。……しかしだな兄上」

 

 ──人間相手に旧支配者最強格を呼び出すのはどういう了見なのだ。

 

 深雪の驚きの声に返答しながらも涼は呆れたように顔を手で覆った。

 

 4柱の旧支配者の因子を混ぜ合わせた擬似神格である涼は、今の人の体と、権能の行使が可能な"神体"を持つ。4柱、それも旧支配者中位クラスの因子からナイ神父が造っただけあり、旧支配者中でも神体ならば上位に匹敵する戦闘能力を有する彼からしても格の違う最上位神格を召喚する兄への苦言は、喉元で抑えられた。

 

 動き回る摩利に対して、イェブは無感動に突っ立つだけで摩利を視認出来ているのかすら定かではない。

 

 

(着いてこれてない? いや、あれは──)

 

 

 舐められている。摩利はイェブから感じる、まるで飛び回る羽虫を見るかのような眼差しにそう判断した。不快感に顔を歪めるが、さっきも自分の技は容易に受け止められたばかりだ。だが、風紀委員長の意地として舐められているばかりでは許せない。

 

 

(先ずはその余裕を──)

 

 

 再びダンッ! と踏み込む音。今度はウェイトリーから見て正面──ではなく、敢えて先ほどと同じようにイェブの背後に回った。

 

 

(引き剝がす──!)

 

 

 選んだのは物理的な攻撃ではなく、対象に強い振動を与える振動魔法。いくら精霊といっても肉体があるならばそれに通ずる三半規管があるはず。発生の早い振動魔法で精霊の動きを封じ、その隙にウェイトリーを仕留める。瞬時に練った作戦を実行すべくCADが起動した瞬間。

 

 だらりと下げられていたイェブの尾がブれ──

 

 達也らの視界は突如として舞い上がった黒炎に遮られた。

 

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