魔法科高校の〝ガチ〟劣等生   作:使命

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Step9 刈谷涼の独白.III

 

 

 教会に引き取られた涼は、ただひたすらに与えられた剣を降り続ける日々を送った。身を焦がすような憎悪と復讐心と、神父たちへの恐怖を紛らわすように誰とも関わろうとせず、一心不乱に鍛錬に打ち込んだ。

 

 しかし、そんな中でもウェイトリーは涼に優しく接し続けた。

 

 

『頑張ってるね。少し休まないかい?』

 

『お茶をしようと思ってね。君もどうだい』

 

『お腹空いただろう? ほら、一緒に食べよう』

 

 

 涼は最初はそれを拒絶し続けた。

 

 

『必要ない』

 

『興味ない』

 

『いらん。勝手に食ってろ』

 

 

 ウェイトリーの誘いも労りも無視し、否定し、ときには罵倒して跳ね除けた。産まれて初めて受ける温かい感情が怖かったから。身の内で燻る憎悪と復讐の炎が消えてしまいそうだから。

 

 要らぬ世話焼きと気遣いをしてくる不愉快な少年。あの怪物2人を従え、忠愛を受ける得体の知れないナニカ。そして脳裏に焼き付いて離れない、あのときの美しい輝き。

 

 拒否しようとも、あの美しさが忘れられずに涼はウェイトリーに対して完全な拒絶を出来ないでいた。

 

 

「相変わらずだね君は」

 

 

 そんなある日だった。何時ものように世話を焼きに水とタオルを持ってウェイトリーが涼の下に来た。端正な顔を親愛の笑みで綻ばせながら近くの椅子に腰かけるその姿は、一枚の絵画のように映えている。

 

 

「……」

 

「日頃からの鍛錬は身を助けるが、しすぎも毒だ。一休憩入れないかい? いい紅茶があるんだ」

 

「……いらん」

 

 

 そう短く切り捨て剣を振り続ける涼を見てそっと肩を竦めるウェイトリー。暫しの間、静寂の中ヒュン! と剣が空を切る音が響く。

 

 

「そういえば聞いてなかったことがあったね」

 

 

 ふと気付いた様子でウェイトリーは呟く。涼はそれに構わず剣を振り続け、こちらを見ようともしない。それを気にせずにウェイトリーは尋ねる。

 

 

「……なぜ君は復讐を望む? しかも魔法ではなく、この時代に剣術なんてもので」

 

 

 振るわれる剣が止まり、だらりと下げられる。いつもは気だるそうに向けられるウェイトリーへの視線が忌々し気に歪められ、憎悪が滾っている。

 

 

「──なぜ復讐するかだと。決まっている、奴らが俺にしてきた仕打ちへの償いをさせるためだ」

 

 

 剣を握る力が強まる。青白い炎のようなサイオンが体から噴き出し、辺りの空気を凍てつかせる。

 

 旧支配者の因子を用いて再構成された肉体のサイオン量は無尽蔵だ。凡そ人から発せられるにはあまりにも強大で悍ましい威圧感の前に、ウェイトリーは自身の枝毛を発見した。

 

 

「産み落とし、躾と称し痛め付けた挙句に奴らは【忌み子】【失敗作】と言って俺を捨てた」

 

「……」

 

「あのとき耐えていていたあの痛みは、苦しみは、無意味だと嘲笑うような罵倒と侮辱の後にだ」

 

 

 室内にも関わらず、風が吹く。北風が吹き荒れる。涼の心情を表すように、冷たく、荒々しく。常人なら卒倒しかねないサイオンの奔流の中、涼は譫言のように呟く。

 

 

「あぁ、あぁ、怨めしい、怨めしい。憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い……!」

 

 

 強烈な復讐心の籠った呪詛が放たれる。言葉に魔力が宿る。一言一言にサイオンの重みが加わることで物理的な影響さえも及ぼし、ウェイトリーの座る椅子と机がミシリと軋む音がする。

 

 

「奴らは魔法師を求めた。ならば俺は魔法(最新鋭の技術)(前時代の遺産)で打ち砕こう」

 

「奴らは傀儡を求めた。ならば俺は奴らの野心も思惑も叩き壊そう」

 

「否定する。俺は俺の持ちうる、掴み取る全てで奴らを否定するんだ! おまえたちが産んだ過ちは、こうしておまえたちに災禍を齎すことを教えてやるんだ!」

 

 

 涼は嗤う。操り人形として造り、育て上げたと思っていた廃棄物が、怪物となって自身らに牙を剥く瞬間の彼らの無様を想像して。

 

 

「それが! それこそが俺の唯一の望みだ!」

 

 

 そう高らかに謳う涼。

 

 その昂りに──

 

 その陶酔に──

 

 

「……それで?」

 

 

 ──水を差すように、余りにも冷淡な返事が返される。

 

 

「───は?」

 

「それに何の意味がある? あぁ、別に復讐そのものに関しては否定しないさ。あれは良い物だ。生産性は皆無だが、爽快で、痛快で、後悔はするが気は晴れる」

 

 

 いつもの朗らかで親しげな笑みはそこにはない。 只々無機質で無関心な無表情だ。

 

 

「……」

 

「しかしまあ復讐の内容がアレだな。彼らのやる事なす事への反抗と逆張りでの否定とはねぇ。幼稚というかみみっちいというか……」

 

「……ッ! ……ッ!!」

 

 

 ウェイトリーの言葉に侮蔑や嘲りは感じられない。淡々と自身の感性に基づいた──さながら素人の創作作品へのレビューのように──評価を下すのみだ。

 

 

「囚われすぎだよ少年。自覚してるか分からないが、皮肉なことに君の行動原理は全て君のにっくき刈谷家に依存しているんだ」

 

 

 だがその言葉は涼の怒りを買うには十分すぎるものだ。信念を否定し、行動を否定し、憎悪を否定する。産まれてそう長くない涼からすれば、人生そのものを否定されているといっても過言ではない。

 

 

「君の目指す到達点は無意味なものだ。達成した後のことも含めてね。その辺りは考えているのかい? 君の計画はおそらく刈谷家の人間の虐殺とかだろうけど、完遂した後国家レベルの犯罪者への国の対応とかをもっと綿密に……」

 

 

 ──そしてそれ以上言葉が紡がれることはなかった。涼の殺意の籠った視線を受けた瞬間、()()()()身体が石のように動かなくなる。

 

 目にも止まらぬ速度でウェイトリーに肉薄し、首を掴み椅子と机を吹き飛ばしながら壁へと叩き付ける。

 

 

「ガッ……! ……ァ!」

 

「おまえに……」

 

 

 何処からか視線を感じる。上から、横から、下から、空間全てから得体の知れないもの達からの視線を。だが涼はそれに構わずに首を握る力を強める。

 

 

「おまえに何が分かる!! 与えられ、施され、授かってきたおまえたちのような普通の奴らになにが!!」

 

 

 掌から蒼白い炎が滲み出し、ウェイトリーの身体を凍りつかせていく。苦悶に喘ぐその姿に心が揺さぶられるような感覚がする。

 

 

「愛されたんだろう!? 笑みを向けられたんだろう!? 生を授かったそのとき、祝福されたのだろう!? 俺に、俺に与えられなかった全てを受け取ったのだろう!」

 

「ぐっ……!」

 

「そんな、そんなおまえに何が……!」

 

 

 怨めしい。恨めしい。それは刈谷家だけではなく……肉親からの無償の愛を受け、育った同年代たちもだ。

 

 どうして彼らは与えられ、どうして自分は棄てられる。家族と共に笑い合うその姿が心底羨ましくて仕方がない。

 

 最早その羨望は嫉妬と化し、溢れんばかりの憎しみが首をもたげ、他者を喰らわんとする。

 

 

「なぜおまえは俺の復讐を否定する! 復讐などいけないと偽善を宣うつもりか? 反吐が出る!」

 

 

 これは正当な権利の筈だ。然るべき行いの筈だ。でなければ、でなければ

 

 ──この怒りと憎しみは何処に向ければいいのだ。

 

 

「ゲホッ、あー……別に特別な理由は無いんだがね。ただ単に私は君にそんな道を進んで欲しくないからなんだ」

 

「だから何故だ!?」

 

 

 見ず知らずの人間のやる事なす事など無視すればいい。末路など嗤えばいい。しかしウェイトリーは涼に関わり続ける。日々拒絶しているのにもだ。

 

 

「冷た……何故って、家族だから以外にないだろう?」

 

「……は?」

 

 

 想像もしていなかった言葉に思わず唖然とする。力が弛み、音を立てながらウェイトリーは地面に落ちる。喉と後頭部をしきりに摩りながらウェイトリーは続ける。

 

 

「大事な弟が復讐の道に走るなど看過出来ない。それだけだよ」

 

「……家族? 弟?」

 

「あのとき言っただろう。『今日から家族だ』と。あの言葉に一片たりとも偽りは無いとも。君が何処の生まれだろうと、ナイ神父に何か施されようとも、人間である筈の肉体はガワだけだろうとも、君は私の弟だ」

 

 

 よろめき、フラフラと立ち上がりながら涼を優しく抱き締める。凍りつかずに無事だった片手で頭を愛しむように撫でる。

 

 

「……俺はおまえを拒絶した。沢山傷つけたッ……! なのに……!」

 

「なに、弟のヤンチャを受け止めるのも兄の務めというものさ。兄とは、余裕を持ってドッシリと構えるのだよ」

 

 

 ウェイトリーも前世では兄がいた。大した才能もない凡夫ではあったが、器の大きさと度量は本物であった。

 

 今世で兄になる者として、あの誇りある兄弟を真似……とまではいかなくても、一つの指針にするべきだ。

 

 

「確かに私は与えられてきた者だ。授かり、受け継ぐ者だ。──だからこそ、与えられなかった君に私は全てを与えたい。愛を、学びを、ありふれた日常を」

 

「ッッ……!」

 

 

 握られていた剣が音を立てて落ちる。凍てついた空気が溶かされていく。吹き荒れる北風は、春風のように優しく温かい微風になる。放たれた呪詛は喉をヒクつかせた嗚咽に。射殺す視線は涙で見えなくなる。

 

 

「お、俺は……俺は!」

 

「もう一度言おう。涼、我が愛しき弟よ」

 

 

 美しい。涙でろくに見えないのに、顔なんて見えないのに、自身を抱き締めるウェイトリーの姿がこの上なく美しい。

 

 あのときのように、美しい輝きに目が眩む。彼の一声一声に心酔する。言葉に魔力が宿っているように涼の心を揺さぶり続ける。

 

 

「──私たちは、家族だ」

 

「……あぁ、うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ここに、産まれかけた復讐に囚われた怪物は討伐された。今はただ兄の胸で泣き叫ぶ少年の姿だ。

 

 暫くの間──泣くことすら許されなかった日々の分まで──泣き続けた後、涼は落ちていた剣を拾った。

 

 

「……復讐はまだ続けるつもりかい?」

 

「いや、その必要はない。今はそんなことに気を割いてる暇はない」

 

 

 居場所を見つけた。守るべきものを見つけた。だから強くならなければならない。復讐などに現を抜かす時間は無意味だ。

 

 

「兄上、俺は貴方に救われた。居場所をもらった。だから貴方を守りたい。……貴方は優しすぎて色んな人に付け狙われそうだからな」

 

「ハハハ。良く言われるよ」

 

 

 涼は剣を地面に突き立て、膝を折り片手を胸に当て礼をする。それはさながら騎士のような──否、正しく騎士の姿だ。

 

 

「俺は貴方の剣になる。復讐の為じゃない、貴方を守るために剣を振るう。……許してくれるか?」

 

「最近の子は随分とお洒落だねぇ。……君が望むならそうすればいい」

 

 

 ウェイトリーが手を差し伸べる。その手を取りベーゼを捧げる。

 

 

「よろしく頼むよ。私の騎士(ナイト)様?」

 

「あぁ、我が(ロード)

 

 

 美少年が2人、手を取り合い忠誠の儀を行う。現実離れした叙事詩のような光景がそこにはある。

 

 その様子を神父と司教が穏やかに──ウェイトリーだけを──見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──というわけだ。どうだ、分かったか俺の兄の偉大さが」

 

「……所々聞き逃せない単語があったが……いいお兄さんだな。俺も見習いたい」

 

「そうだろうそうだろう」

 

 

 混ぜ物──おそらくは違法な人体改造──、名家であったという刈谷家の汚点、表立った場合には国政にすら影響を与えかねない情報があった今回の話。不明な点も多々あるが、何より不可解なのが神父と司教だ。

 

 彼らがどういう存在なのか、教会を含め調べなければならない。

 

 

「そういえばその刈谷家はどうなったんだ。おまえのことだ、例え復讐心を克服したとしてもその所業を許すことはしない筈だ」

 

「あぁ、そのことか。実は刈谷家は勝手に滅んだ。俺も知らぬ間にな」

 

 

 やはり因果応報という言葉は的を得てるらしい。と涼は笑いながらコーヒーを口に運ぶ。

 

 禁忌である人造魔法師の製造によって産まれた涼と達也は存外に似ているらしい。守るべき大切なものを手に入れたのも含めて。

 

 

「む、こんな時間か。達也、昼飯を食べに行こう。早朝からの作戦だ、腹が減った」

 

「あぁ分かった。……お兄さんのところに帰らなくてもいいのか?」

 

「もうガキじゃない、揶揄うな。それにおそらくだが兄上は──散歩中だろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休日の穏やかな昼頃。昼食は既に済ませたか、今から食べるかぐらいの時間帯。

 

 人通りも少ない住宅街の路上に歩くのは、金髪碧眼の美青年。身長は180後半、スラリと伸びた足でゆったりと歩を進めている。

 

 異国人だからなのか、はたまた運動不足なのか真っ白な肌はシミ一つなく、その顔の造形は1枚の絵画のように美しい。

 

 名をウェイトリー・アルハズラット。魔法師を目指す中学生にして、埒外の魔法を行使する外宇宙魔法師。外なる者共の創造主の片割れ。

 

 そんな彼は現在──

 

 

「もし、そこのレディ?」

 

「? あら」

 

 ──道行く女性へと、ナンパを勤しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.何故ここでオリキャラを?

A.深雪は原作者様の趣味と願望によって生まれた。つまり二次創作だからこそ趣味に走るべきやとなった

オリキャラ嫌いの方は許して
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