ダンジョンでFE風花雪月無双   作:門番

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第1話 プロローグ

 

 力を振り絞って剣を握りこむ。

 

 光と闇の衝突に、皆を巻き込ませてはいけない。

 たとえ、この身を捧げてでも。

 

 彼は傭兵であるが、策略家ではない。何度時を戻したとしても、全身全霊で己のやることを貫き通すだけだ。人の身から遠ざかっていることもあり、己の死に恐怖することはなく、その先に視えるのは彼女たちが切り拓く未来だけだ。

 

「べレト!」

 

 何度も剣を交え、今は肩を並べて戦っている傭兵の声だ。

 表情がほとんど変わらない彼は笑みを浮かべた。

 

 

 光と闇の魔法がぶつかり合う前に、(べレト)は飛び込んだ。

 

「これで終わらせる!」

 

 その剣は、確かに天を裂いた。

 

 

 

****

 

 

『双翼の英雄べレト=アイスナー』

 その名は歴史書によって、最後の皇帝エーデルガルトと共に語り継がれている。その経歴は謎に包まれているが、皇帝直属の軍において重用されていたことは確かであり、もう1人の英雄と共に数々の戦記で武功を立てている。

 しかし戦争終結以降は消息を絶っており、最後の戦いで名誉ある戦死をしたという説が有力である。

 

 

 

****

 

 オラリオ最大規模といえる治療院は慌ただしかった。

 

 多くの重傷者が運び込まれており、エリクサー含む回復薬の在庫も切迫している。いつもはお金稼ぎにがめつい主神も、オラリオ及び神々の危機として、まるでちゃんとした神のように、珍しく真剣な表情でテキパキと眷属に指示を出していた。

 

 そして、全身血まみれで倒れていたらしい青年は、いまだ13歳の少女に治療が委ねられた。といっても、彼女は恩恵(ファルナ)を刻んだ時点で治癒魔法を会得しており、医療系ファミリアにおいて将来有望な人材といえる。

 

「ひどい。ここまで痛めつけるなんて……」

 

 治療院の仕事に真面目な彼女は、闇派閥(イヴィルス)に怒りを憶えながら、彼女は治癒魔法を使ってある程度の傷を塞いだのち、慣れた手つきで包帯を巻いていく。いまだLV.1で少女ということもあってその魔力量も体力も少なく、治療した彼女自身に疲れが見えていた。

 

「……此処は何処だ?」

 

「! もう目覚めましたか。」

 

 その瞳の蒼色は、少女のものとよく似ていた。

 まっすぐな視線にほんの少し少女はたじろいだ。

 

 べレトは包帯に包まれた身体の調子を確認しつつ、周囲の確認をする。

 

 常に纏っていた黒い鎧は残骸となり、羽織っていた士官学校の制服はもうボロ布だ。愛用の『鉄の剣』はまだ使えるが、もう1つの剣は役目を終えたのか刀身の半分から折れてしまっている。そして、ここは治療院の1室のようだが、見覚えはない。ここは帝都なのだろうか。

 

「不思議な感覚だ」

「……安静にしていただけますか?」

 

 少女が低い声でそう釘をさす。恩恵を刻んだため一般人よりは強いが、しかしいまだ非力な少女だ。彫刻のように鍛え上げられている彼を抑えつけるためにはまだステータスが足りない。べレトはおそらく『痛み』に顔の表情を歪めながらも、寝台から降りて、包帯の上からボロ布を羽織った。

 

「ほう。恩恵無しが、もう起きれるのか」

 

「……あんたは?」

 

 白い髪で白い髭、しかし若々しく豪傑さも感じさせる老人からは、かつて身近に感じていた女神に似た雰囲気を感じる。清潔な『ビショップ』の服を着ているが、高価そうな指輪がその清廉さを台無しにしている。

 

「こちらはディアンケヒト様で、私たちのファミリアの主神です」

 

 丁寧な所作で紹介してくれている銀髪の少女は『プリースト』のようだし、ファミリアというのは傭兵団のようなものだとべレトは理解した。その団長が神そのものであるのだというし、『この世界』は自分がいた世界より神秘に溢れているようだ。

 

 異世界に来るのは久々だし、今回は帰る術もない。

 

 それに、あの世界でやることはやりきった。人の手にはあまる戦いは十分こなしたため、後の変革や政治は彼女たちに任せればいい。傭兵稼業なんていつしんでもおかしくないものだし、老いてきた父も平和な世界で穏やかに余生を過ごすことだろう。

 

「べレト、異世界フォドラの傭兵だ。この恩は仕事で返そう」

 

「嘘はついとらんな。その禁忌を犯した剣の存在についても聞いておきたいが……」

 

 人は、神に嘘はつけない。べレトの事態の飲み込みの早さと、人の身ですでに美しいアミッドに現を抜かさずまず主神に感謝する姿に、ディアンケヒトは髭をさすった。これだから『下界は面白い』と感じた。傭兵と名乗ったことも嘘ではないし、恩恵が無い状態でも実力がありそうだ。最近のファミリアの出費を取り戻すことに大いに役立つことだろう。

 

「ふむ。ちょうどよいな」

「ディアンケヒト様……?」

 

 いまだ少女のアミッドは、2人の男性のやり取りについていけず、口を挟まず状況を見守っていた。

 

「ガハハハ、お前さんは永久雇用させてやってもいいぞ。大サービスじゃ! はよう背を向けよ!」

「……あまり時間はないぞ」

 

 こやつをもし戦闘系ファミリアに取られたのなら、即戦力であることや将来性を見ても、それこそ大赤字になりうる。義理堅い性格からして『改宗(コンパ―ジョン)』なんてしないだろう。どの神も喉から手が出るほどの『個体』だ。

 

 たとえ、闇派閥が重要拠点であるこの治療院を壊すべく、武器を構え始めていることには早急に対処すべきとはいえ、すぐにでも眷属にしておきたい存在だ。

 

「ブワッハッハッ! 予想通りじゃ!」

 

 背中に己の血で恩恵を刻みつつ、やはりこやつはまるで造られたかのように『器』として最適すぎる。読み取れる神聖文字から、すでに魔法もスキルも発現しているのにランクアップまでも可能だ。そして、人の身でありながら『神の力(アルカナム)』の残痕すら感じ取れる。

 

「さあ、儂に喧嘩を売っているやつらを1人残らず倒してしまえ!」

「了解した」

 

 剣を握りこみ、黒い上着をたなびかせて窓から飛び出した。

 アミッドは咎めようとするが、もう追い付けない場所だ。

 

「闇派閥があんなに!?」

「ようやく気付いたか。おぬしもまだまだじゃのう」

 

 といっても、戦闘系ファミリアではないため、このファミリアの平均レベルは2にも満たない。ダンジョンの中層以降に出向いたことがない者が多い。そのため、今回の有事には他のファミリアの戦力に期待するしかなく、治した怪我人に治療費の返済の意味を込めて戦わせ、このファミリアを主神なりに守ろうとしていた。

 

 慌てて戦闘に出向いてくれる冒険者を見て、此度の戦は勝てると見込んだ。

 

「しかしもう少し、時期が早ければ良かったのだがな」

 

 誰が好き好んで、かわいい眷属たちを危険にさらすだろうか。医療系ファミリアということもあって真面目な眷属が多く、救護班としてダンジョンに向かった者さえいる。外的要因とはいえ、死傷者でどのファミリアも世代交代を余儀なくされているし、場合によってはファミリアの崩壊さえ招いているのがこの『暗黒期』だ。

 

「私に、できることは……」

 

 『神の力』が制限されている神たちは無力さを感じていた。

 アミッドや、あやつに任せるしかない。

 

 

 

「身体が重いな……」

 

 灰色の空の中、切り伏せた血を振るい落としたべレトは、後付けで力を得たとはいえ、全盛期には程遠いことを感じていた。そしてそれ以上に、痛みと即死の危険性を感じとっていた。ソティスの力はほとんど失われてしまって『あれ』は使えないようだし、一網打尽にできる『遺産』も使用不可な状態だ。

 

 肩で息をするというのもいまだ慣れない。

 

「『癒しの滴、光の涙、永遠の聖域』」

 

 詩が聞こえた。

 少女の真剣な眼差しが視界に入る。

 

 輝く魔法円を見て、戦況を把握した。

 目算で4Mほどか。ならば。

 

「剣技『火薙ぎ』!」

 

 剣に纏わせた炎は竜巻となり、敵を膠着させる。

 詠唱なしで魔法を行使して同時に剣技も行う技術。

 

「私が癒す! 『ディア・フラーテル』!」

 

 少しでも多くの戦士たちに届くように、アミッドが魔力をつぎ込んで発生させた魔法円の限界距離だ。べレトが魔法の発動に間に合うように一度後退し、再び最前衛に戻っていく技量とスピードに、術者であるアミッドは舌を巻く。

 

 羽織った上着がたなびく背中はとても大きく見えた。

 倒れ伏した冒険者たちは癒され、勇気を与えられ、再び立ち上がる。

 

 

「俺につづけ!」

 

 無表情のまま同胞を斬っていく姿に、闇派閥では『灰色の悪魔』として警戒された。

 

 

―――これは、異界の傭兵が戦場の聖女(デア・セイント)の隣に立つ『眷属の物語(ファミリア・ミィス)』 

 

 

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