ダンジョンでFE風花雪月無双   作:門番

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第2話

 

 今日も多くの冒険者が『豊饒の女主人』に来ていた。

 冒険者になったばかりのベル=クラネルもその1人だ。

 

 男性冒険者はさらに顔を赤くして、女性冒険者はちらちらと視線を向けながらうっとりとした表情を浮かべ、ともかくいつもより酒場がうるさくなかった。

 

 初めて訪れた酒場で縮こまって、キョロキョロしたベルは、みんなの視線の先に、男女ペアがいることに気づいた。

 

 優雅にゆったりとパスタを食べる銀髪の女性は、彼の意中のアイズ・ヴァレンシュタイン程の美しさを誇っている。ウェーブがかかっていて色も違うが、腰まで届く綺麗な長い髪を見て、ベルは顔が熱くなるのを感じた。

 

 そして、その対面にはどんどん料理を胃に収めていく美青年がいた。黒みがかった青の髪が落ち着いた夜空を思わせる。10人前を超えるような料理の数々をペースを崩さず食べており、幻聴で『うまい!うまい!』と聞こえてきそうだ。

 

 それぞれ黒の鎧、黒のバトルドレスを身に纏った2人も冒険の帰りなのだろうが、まさしく釣り合っている美男美女ヒューマンのカップルだ。あの雰囲気ではだれも声をかけられないんだろう。

 

 ベルは、僕もあれくらいかっこよかったらなと、脳裏に浮かんだアイズさんに少しでも振り向いてもらえるのだろうかと、肩をさらに落とした。

 

「ベルさん、嫌な時は美味しいものを食べて元気を出しましょう!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 銀色の髪をセミロングにしているシル・フローヴァが、注文したパスタとサラダを机に手際よく並べてくれた。その励ましに、落ち込んでばかりいられないと奮起して、感謝を述べて冒険でペコペコだったことにようやく気づいた。

 

 食べ始めたところで、シルはこっちを向いて手を挙げる青年のオーダーを取りにいったようだ。

 

(まだ食べるの!?)

 

 あれくらい食べないと、英雄のように強くなれないのだろうか。青年の横には2本の剣が立て掛けられており、鞘のない1本に至っては見たこともない材質だし、かなり高いレベルの冒険者なのだろう。

 

「いやー、相変わらずよく食べる方ですね」

 

 ベルに聞かせるように、戻ってきたシルはそうつぶやいた。

 

「えっと、あの人たちは?」

「ディアンケト・ファミリアの団長とその補佐の方です。かなり有名な人たちですよ」

 

 医療系としては最大の派閥だと聞いたことがある。戦闘系ファミリアを重視してファミリアを探していたため、その時は選択肢として除外したが、あんなに強そうな人たちが団長たちだなんて思わなかった。

 

 もっと詳しく聞きたそうなベルに、シルは微笑んだ。

 

「団長は彼女、戦場の聖女(デア・セイント)と呼ばれるアミッド・テアサナーレさんです。オラリオ最高の治療師でありながらLv.4、並みの冒険者よりも強いと聞いています」

 

 いまだLv.1のベルは、ごくりと息をのんだ。

 レベルがすべてとは言わないが、それでもだ。

 

「そして彼のほうが、今は2人しかいないLv.8、灰色の悪魔べレト・アイスナーさん」

「れ、レベル8 !?」

 

 彼のアドバイザーであるエイナ・チュールから、アイズがLv.6ということを聞いていたが、それ以上の存在に驚愕する。オラリオ最強の冒険者の1人が目の前にいることは奇跡かのように思えた。

 

「同じくLv.8の猛者オッタルとはライバルという噂です。でも深層でたまたま会うと、パーティーを組んでダンジョンに潜っているとも聞きますね」

 

「たった、3人で……?」

 

 ベルからも『憧れ』で見つめられても気にせず、べレトの食事はいまだ続いていた。アミッドはナプキンで口元を拭きながら、なぜかこちらをジト目で見てきたため、慌ててベルは視線を少し落とした。

 

「2人で冒険者の救護活動を行っていることもあって、ファンもかなり多いと聞きます。それにあの時にも……おっと」

 

 もっといろいろ聞いてみたいが、外が騒がしくなり、シルは入り口へ向かっていった。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 またまた美男美女が多数いる集団が入店してきた。

 

 その中に意中の相手がいることに目ざとく反応したベルは、机に突っ伏すかのように息を潜めた。まさしくロキ・ファミリアの幹部たちであり、そこに所属する有名人の多さに、ほかの冒険者たちはまた感嘆の表情を見せていた。

 

「今日は宴や、飲めぇ!」

 

 主神であるロキの音頭に、乾杯を交わし合っている。

 

 個の力ならば、ようやく食べ終えていまだ腹8分目の表情を浮かべているべレトのほうが上だが、集団で伸びていっている彼ら彼女らは、かつての2大ファミリアに届くくらい成長していくことだろう。

 

 祖父譲りのハーレム願望を含めて、冒険者仲間がいることにも『憧れ』を持つベルは、高い目標だと感じた。

 

 金髪の小人族、緑髪のエルフ、髭のドワーフの3人が、べレトやアミッドに話しかけた。

 

「やぁ、先日は助かったよ。2人のおかげで皆無事に帰還できた」

「あの階層の被害は大きく、疲弊していたからな」

 

「はい。どういたしまして」

 

 強者の領域には同じロキ・ファミリアメンバーでも萎縮するようだ。団長とお酒を飲みたいアマゾネスや、ハイエルフ様を囲いたいエルフたちは早く戻ってきてほしいと、様子をうかがっている。

 

「そうだった。報酬はディアンケト様に捧げよ」

「ごほん。お気になさらず」

 

 ふと思い出したかのように告げるべレトを制して、アミッドは冷静にロキ・ファミリアメンバーを見渡した。

 

「治療院に来なければならない方も、どうやらいないようで何よりです。ただ、お酒は飲みすぎですが」

「おいおい、そう固いことをいうな」

 

 ずっと年下の女性の忠告は気にせず、ドワーフは酒を流し込んだ。

 種族的に酒に強い彼以外も、遠征帰りで羽目をはずしすぎているらしい。

 

「そうだアイズ、今日起こったあの5階層の話を聞かせてやれよ! あの逃がしたミノタウロス!!」

「それって、17階層で遭遇したやつ?」

 

 特に酔った狼人が騒いでいる。あまり気分が優れない様子のアイズの代わりに、アマゾネスの女性が質問した。それでもアイズに聞かせるべく、話が支離滅裂ながらも、上機嫌に話をつづけていった。

 

 アミッドは5階層にイレギュラーが起こった事実に顔をしかめ、べレトは顎に手を当ててそのイレギュラーについて考え込む。偶然にも、彼らが解決してくれたようだが、冒険者に成り立ての者が多い階層だから、大きな被害が出てもおかしくない。

 

 ロキ・ファミリアの幹部はやれやれと、場を鎮めるかと若手たちのところへ戻っていった。

 

「雑魚に、アイズ・ヴァレンシュタインは釣り合わねぇ」

 

 そのとき、入り口で騒音が鳴った。

 一瞬静寂が訪れるが、また酒場は騒がしくなる。

 

 幹部たちを巻き込んで、宴会を続けようとするくらいだ。

 

 

「あの子……」

 

 小さくなっていく背中や白い髪を、アイズの瞳は捉えた。

 

 『食い逃げ』すらも笑いの種にしており、男性冒険者は『捕まえてやろうか』と女性店員に声をかけている。といっても、店主含めて多くの店員が不満そうな表情を隠せていない。心配そうにどこかへ向かっていく背中を見つめた。

 

 その中で、1人は口許が緩んでいた。

 

「……だいたいわかった」

 

 そうつぶやいたべレトは1人の女性を一瞥して、アミッドと共に立ち上がった。

 

 ミノタウロスの残党がいたらいけないし、何よりもあの少年が走って向かった先はダンジョンだ。

 

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