「騎士リオン、助かった」
全てが終わった後、トレヴァーさんが俺をわざわざ訪ねてきてくれた。
中級騎士の中では俺よりナンバリングが上位だと言うのに頭を下げてくれる。
とても出来た人だ。
「いえ、騎士トレヴァー。
俺は帝国の騎士として、あなたのような才能ある騎士を失いたくなかっただけです」
「ふふ、さすが皇帝陛下が価値を認めた者だ。
とは言っても私自身は、騎士リオンが上級騎士を抑えられるとは思っていなかったよ」
「何しろ俺は将来帝国騎士の序列一位になる者ですからね。
たかだか上級騎士相手に負けていたら一位になることなんてできないじゃないですか。
そんなことより騎士トレヴァーも中級騎士になんて留まらないでください。
あなたほどの騎士が中級騎士止まりでいるのは他の帝国騎士が困りますし、帝国としての損失だ」
「私より若く、まだ新米に騎士にそんなことを言われるとは思ってもみなかったな。
ではそう思うなら、騎士リオンが序列一位になったら私を推薦してくれ。
私はその時をずっと待っていることにするよ」
「わかりました。
楽しみにしておいてください」
騎士トレヴァーとの話し合いはそれで終わった。騎士トレヴァーは帝国騎士の模範たるべき騎士だと思う。
前回の上級騎士と言い、選抜試験の時の騎士と言いやはり帝国騎士のレベルが落ちてきているのではないかと思う。
そのようなことをベッドの上で考えていた。
その日の夜、俺の部屋にあのメイドが訪れた。ドアがノックされたので入室を許可すると
「皇帝陛下からの言伝があります。
今回の討伐は見事だった。暴走していたとは言え上級騎士と言う上位の者との戦いを制したのも見事である。
すぐには昇進させられないが、君のことを何人かに紹介したいので茶会の招待状を送る。決して断らないように。
とのことです」
「こちらから質問することは可能ですか?」
「私が話せることならば」
「なら聴きますが、帝国の上級騎士は理性的ではない人間でもなれるのですか?
とてもじゃないですが騎士として尊敬されるような人物ではありませんでしたが」
「……はっきり言うとわかりません。
ですが、皇帝陛下と言えど全てのことが決められるできるわけではありません。
軍部には軍部の思惑があります。
陛下があなたを騎士にしたのは、陛下が騎士の素行問題について嘆いたからではないかと、私は思っています。
あなたの肩には陛下だけではなく多くの者の期待が乗っていることだけは忘れないでください」
もうこれ以上のことを話すつもりがないことを体現するかのように、それ以上メイドは何も言わずに俺の部屋を去った。
翌日、朝食のタイミングで俺に手紙が届く。皇帝の印がついているので、皇族から……間違いなく皇帝陛下からの手紙だとわかる。
それだけで騎士の周りの者はざわつく。それもそうだ。騎士一人のためにわざわざ皇帝が手紙を書くなど普通はあってはならない。
内容は茶会の話だった。
騎士に茶会ってどうなんだと思うが……先日メイドとの話の中でもあったように、どうやら皇帝陛下は軍部とは仲がよろしくない様子。
もしかすると俺を騎士として上に昇りつめさせるのは、軍部の掌握の話もあってのことなのかもしれない。
俺には娘の留学に付き合う守護騎士になれと言っておきながら、それ以外にも2手3手も他の手を打っていようとは、なかなか侮れないやつだと思った。
俺はいつものメイドに案内され、儀礼用の服で茶会に足を運ぶ。
茶会の場所は、帝都の王城にあるテラスだった。
今回は何かあったときのためにブレイブにも隠れてついてきてもらっているのだが、早速ブレイブから念話が届く。
「ちっ。どいつもこいつも相棒を睨んでいやがる……。
この間俺様たちが倒した上級騎士の逆恨みか?」
皇帝が直属茶会を開いているのだから、そのボディガードとして当然上級騎士が駆り出される。
今回護衛に回っている上級騎士は3名だが、その3名全員が顔は正面を向いてまま明らかに俺の方を見て来ていた。
俺もそれに気づいていたが、皇帝陛下の御前で何かすることなんてできないのをわかっていたので、敢えてスルーしている。
だがブレイブはそれにイライラしているようだ。どうもブレイブのイラつく原因としては、魔装の自身との優劣関係にある気がしている。
ブレイブを伴っている俺がまだ上級騎士ではないと言うことが、ブレイブ自身の価値も下げてみられていると受け取っているようだ。
それに関してははやく上級騎士になってやりたいところだが、そう簡単にチャンスなんて本来まわってくるものではない。
皇帝陛下がわざと機会を作ってくれているのだが、それでも怪しい行動をとれば即座に逮捕に至ってしまいかねない。
俺はそのことについては一旦さしおいて、今回の茶会に臨むことにした。
本日の朝食後、俺はいつものメイドから茶会のマナーについて付け焼刃をほどこされていた。
中級騎士は貴族と見られるので、茶会の最低限のマナーは必要となるそうだ。
逆にそのマナーがなってなければ、上級騎士としてやっていけないのではないかと言うクレームを受けることもあるそう。
面倒すぎてたまらないがこればっかりは仕方ない。
鬼教官のようになったメイドから数時間に渡りマナーを仕込まれ、ようやく最低レベルの及第点をもらえたところで茶会と相成ったわけだ。
あんな厳しい目に遭うのなら訓練をしていた方がましだと思った。多くの騎士もきっとそうであろうと思う。
「来たか騎士リオン。
今回は御前に紹介しておきたい者達がいてな。
お前を更なる上の騎士に推薦したいと言う、宮廷貴族の者達だ。
主に政務を司っておる」
まず皇帝陛下よりそう話があり、紹介してもらった数名と名詞代わりに挨拶を交わす。
「1つ騎士リオンに聞きたいことがあるのですが良いですかな?」
挨拶が全て終わると、そのうちの一人。髪の毛の多くが白髪になった男性の宮廷貴族が言った。
「構わん。好きに話すとよい」
皇帝の御前であるのだから、皇帝を無視して勝手に会話を広げるわけにはいかないのだろう。
面倒な所作だと思いつつ、皇帝が許可をしたのでその宮廷貴族は俺のほうに向きなおる。
「先日、騎士リオンは上級騎士と戦って倒したと言う話が帝都では広まっています。
その上級騎士は自らの欲求に抗えず、魔装と一体化し暴走したとのことで、騎士リオンは味方殺しの罪からは無事逃れられていますね。
私が聞きたいのは、正直騎士リオンは上級騎士と相対したとき勝てる実力があるのか、を本人にお聞きたしたく」
どうやら今の茶会にいる宮廷貴族ほぼ全員が、俺を上級騎士とすることで軍務の弱体化……自分たちの派閥への取り込みを行いたいと思っているのだろう。
実際の上級騎士がいる場で敢えて聞き、たきつける意味もあるのだと思う。
その上で俺は話す。
「正直に申し上げます。
今現在は暴走した上級騎士であれば、二人を同時に相手にしたとしても全く問題ありません。
将来的な話で言えば、私は冷静な上級騎士を2名、いや……3名までであれば同時に相手にしても勝てると申し上げましょう」
これは先日ブレイブと話をした内容に基づいた内容だ。
実際にはブレイブは6から7人の上級騎士を相手にしても勝てると言ったのだが、あまりに強すぎる味方と言うのは一部の人間にとっては枷でしかない場合があり、蹴落とされる可能性もある。
よって俺は敢えて実力を下げて話す。
まあそれでも十分すぎる程の影響を宮廷貴族、そして上級騎士に与えることはできたと思う。
「なんだと……そんなことが可能だと言うのか。
仮にも帝国臣民から選抜された優秀な上級騎士だぞ?」
しかし、味方側であるはずの貴族の一人がうろたえる。
先ほど言ったことにもある、強すぎる味方は枷になる可能性があると思われているのかもしれない。
「とは言う物の、結局私がどれだけ言ってもそれは事実には成りえません。
もし上級騎士だけの選抜模擬戦があるとすれば、そこで初めて事実となります。
しかしそんなことはできるのでしょうか」
ここでわざとチラと皇帝陛下を見る。
自分で言った言葉を自分で否定することで、一旦俺はそこまで恐ろしい存在ではないと言うことを宮廷貴族に伝えつつ、上級騎士に対しては試合の場があれば証明できるんだぞと言うあおりを加える。
「それは面白い提案だ。
帝国国民には上級騎士の強さを改めて知ってもらい、その強さによりこれからも無事帝国が守られることを証明できるだろう。
そして上級騎士たちには悪いが最大の娯楽にもなりえるであろう。
本来ならば戦うことのない上級騎士たちが、最強の存在を決めるために戦うのだ。
どうだ、興味はあるか?」
皇帝陛下が自身の後ろに護衛についている上級騎士の一人に声をかける。
「私にはなんとも」
だが上級騎士はなんとも受け取れない言葉で濁した。
本来の返し方はこれで正しいのだろう。皇帝陛下に自身の言をわざわざ伝えるなどというのは失礼以外のなんでもない。
だが、それにより軍部派閥が煽られても何も返さなかったと言う結果になるのは間違いない。
間違いなく皇帝陛下もそれを狙ってやってそうな気がするが、軍部派閥がどう出るかが楽しみになってきた。
とはいうものの、面倒なので暗殺と言う手段だけは取らないで欲しいなと思った。
ちょっと旅行に行くので、19日更新ができるかどうかはわかりませんが、旅行から帰ってきたらまたしっかり更新しますゆえに。