「相棒! 早く行こうぜ!」
朝からブレイブがうるさい。
今日欠片を一緒に集めに行く約束をしていたからか、テンションが高い。
「まだ早いって……陽も上ったばかりじゃないか。
いったい何時に起こすんだよ」
陽が昇ったばかりの時間だ。街の人間だってまだ誰も起きちゃいない。
「だって今日集めに行くって約束しただろ。
他の奴に取られたらどうすんだ!」
「大丈夫だって……お前の普段の姿、触手みたいなの生えてて気持ち悪いし……おやすみ」
「おい! 寝るな相棒! リオン! おいっ。俺様は気持ち悪くないぞ」
端から見たらただの漫才に見えるかもしれない。
だが俺は睡眠時間を稼ぐので精一杯だった。
「結局昼過ぎちまったじゃねえか。
相棒は寝坊助すぎるんだよ」
あの後結局数時間寝たせいでブレイブが拗ねていた。
ブレイブは俺の肩辺りに浮かんでいる。あの時飛んできた黒く大きい球がブレイブの普段の姿で、球に見えたが実際は細かい触手のような物が生えていて、常にウネウネと動いている。
その見た目のせいで今だに鎧として纏うことにまだあまり慣れられない。
だが見た目とは裏腹にブレイブはすごい。鎧として纏うと剣に盾も自身の体から出してくれる。ブレイブの体はとても硬く、ほとんどのモンスターはブレイブの作った剣で切り裂くことが可能だ。
最初に纏った時から俺の体はブレイブにどんどん馴染んでいて、すでに帝国内の騎士になることができるほど強いと言っても過言ではない。
帝国と言うのはヴォルデノワ神聖魔法帝国の略称だ。
帝国の情報は俺が前世にプレイしていた乙女ゲーに一部しか出ていなかったせいで、この世界が乙女ゲーの世界だと気づいたのが大分遅かった。
前世の記憶を持っているのに、ただの街人として生きて行かざるを得なかった十数年を返して欲しい。
「で、今日はどこに行くんだ?
欠片の場所がわかるんだろ」
「ああ。今日は町の外にあるとある場所に行く。
そこに少し大きめの欠片が放置されてるんだ。
待機状態で取りに行けない時はもどかしかったぜ!」
ブレイブは登録者がいないと最初にいた兵器工場に強制的に戻るようになっているらしい。
そこから勝手に出かけることはできず、毎日毎日欠片の場所をただ覚えて登録者を待つだけの寂しい毎日だったらしい。
街から出たのでブレイブを纏う。
流石に町中で纏うわけにはいかない。リオンがおかしくなっちゃったよなんて噂になるのはお断りだ。
ブレイブを纏うと移動する速度が一気に上がる。俺は滑るようにしてブレイブが指示する場所へ向かった。
「ここだ! どうやら俺様の欠片が暴走しちまってるみたいだな」
ブレイブが指示した場所はただの山の中だったが、とても荒れていた。
荒れていると言っても自然的に荒れたわけじゃない。明らかに戦いの後があったような、そういう人工的な荒れ方だ。
「この辺りの自然のためにも早く欠片を吸収しちまおうぜ」
鎧になったブレイブが俺の体を軽く動かそうとして向かう先を指示してくれた。
向かった先には人型の黒い靄がいた。人型の体の周りから触手が生えているので間違いなくブレイブの欠片だとわかる。
「なんだあれは……気持ち悪いぞ」
「あちゃー。どうやら人間を取り込んだみたいだな。
可哀そうだがあの人間は殺さないといけないな。つってももう知能はないみたいだし、人間としての存在も危ういから問題ないか」
「お前の欠片のしでかしたことだろ?
責任を持つって考えはないのかよ」
「本体から分かれた欠片は、俺様の意志とは全く別に行動するんだよ。
俺様にはどうしようもできないな」
自分は悪くないと言い張るブレイブ。
俺の鎧だがこんな奴に手を貸して大丈夫なのか? と本気で思う時がある。
「相棒は俺様を責任ないって言うけど、相棒だって責任って言葉嫌いだろ?」
「うるさい。それとこれとは話が別だ」
ブレイブの責任と俺の責任を一緒にしないで欲しい。確かに俺は責任って言葉が嫌いだけど。
「ふーん。まあいいや。
相棒、一撃で仕留めるぜ!」
ブレイブの体で出来た剣を右手に持ち、力を込めて地面を蹴る。
地面が爆発したかのように爆ぜ、俺はスピードに乗ったまま剣を振るう。
倒した、そう思ったが剣は空しく空を斬ってしまった。
「どうやらただの欠片じゃないみたいだ。
複数の欠片が集まってる」
「一気に複数手に入るのはお得だが、倒せるのか?」
「さっきは避けられたが、俺様と相棒の敵じゃねーよ」
俺はブレイブの補助もあって、高度なフェイントで相手に隙を曝け出させてから今度こそ一撃で倒した。
真っ二つに叩き斬ると、人間としての姿は煙が消えるようにしてなくなった。
そしてその場所にはブレイブの欠片らしき物だけが残った。
「♪~」
俺の体から分離して元の姿になったブレイブが、包むようにして欠片を取り込む。
自分の体から離れた欠片がまた自分の体に戻ったのでブレイブは嬉しそうだ。
軽い運動をしたような心地よさ。毎日と言うわけにはいかないがたまにはこういうのもいいな、とそう思えた。