リオンとブレイブ   作:駿州山県

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選抜試験と言う名の決闘


6話

 

「次っ」

 

テントの中からトマスを殴ったやつの声が聞こえる。

俺はその声がする方に向かった。

 

「そこで止まって、名前を言え。

 少しのアピールならしていいぞ」

 

テントの中には先ほどの男、そしてそれ以外に二人ほどいた。

トマスを殴った男は足を組んで、偉そうな態度だ。トマスを殴ったことについて少しも悪いとも思っていないのがわかる態度だった。

 

「リオン、町人だ。

 モンスターの退治もしてる」

 

俺は自己アピールを最低限のもので済ませた。

 

「はぁ……またか。

 全く、困るんだよな。下級のモンスターを倒したくらいで調子に乗ってる奴ばっかりだ。

 おい、もうこういうやつを省いて受付しろよ」

 

「そうは言いましても、閣下からの直接の御言葉を曲げるわけにはいきませんから……」

 

「ちっ。

 なら、もういっそ俺が全員ぶん殴って不合格にしてやるか?

 避けられる奴がいたら合格にしてやってもいいけどな」

 

そんなくだらないことを言いながら男は笑う。テント内にいる他の二人はその男の笑い声を聞いて苦笑するしかない。

 

「ああ、じゃあ俺は合格ですね」

 

そんな中俺の放った言葉でテント内は静まり返った。

先ほどの男は俺の発言に少しびっくりしてこちらを見ているし、残りの二人……おそらく文官なのだろうは、なんてことを言うんだと言わんばかりの顔をしている。

 

「ほぉ、どうやら怖いものを見たいようだな、小僧」

 

やっと俺の言葉が挑発だとわかってくれたらしくて、男が声を出した。

 

「ああ大丈夫。怖いものなんて見ることはないから。

 だって俺あんたより強いし」

 

言うことを言ったついでに、鼻で笑ってやった。

 

「どうやら怖いものが見たいんじゃなくて死にたいようだ。

 良いぜ。お前は徹底的にシメてやる。

 お前は知らないのかもしれないが、選抜試験で死んだやつは毎年後を絶たないんだ」

 

頑張って挑発し返していると言うのがわかりやすい。男の額には血管が浮き出ていて、怒りに腕をわなわなと振るわせている。

そんな挑発耐性がなくてよく騎士になんてなれたなと言ってやりたいくらいだ。

 

「じゃあ、今年は珍しく騎士の死体が出る年になるってことか」

 

「ぶっ殺してやる!」

 

「午後を楽しみにしてますよ」

 

「覚えとけ、お前は覚えたからな。

 もし午後来なかったらお前を街中探してぶっ殺してやるからな!

 家族を探し出して皆殺しにしてやる!」

 

そんなこと言わずとも行くし、もう両親はいないから家族なんていねえよと思ったけど敢えて何も言わずに俺は黙ってテントを出た。

それから数時間が経ち選抜試験の時間になった。

だが、場所に行ってみればあれほど受付時に大勢が並んでいたのに来た人は皆無だった。

 

「相棒があんだけ煽ったからな。

 皆騎士の報復を恐れて逃げ出したんだぜ、きっと」

 

先ほどまでは人が多かったので黙り込んでいたブレイブも、今はほとんど人がいないので俺と会話をする。

 

「俺って正直者だからさ。

 素直な態度しか取れないんだよね。

 いやあ、美徳だなあ」

 

「相棒が正直者なら世界のみんな聖人だぜ……」

 

近くの黒い物体が何か言ってるが俺は気にしない。

俺は他人の意見を受け止める広い器を持っているからな。

で、とうの試験官と言えばどうやら俺が来るのをご丁寧に待っていたらしい。

 

「来たな小僧。

 試験方法は俺との1対1の戦いだ。

 決着はお互いのどちらかが戦闘不能になるまでだ!」

 

決着はどちらかの戦闘不能とはよく言ってくれた。

トマスを殴ったこいつを、俺はたかだかまいったと言う言葉で許す気はなかった。

言うが早いか、男は黒い靄を体に纏った。

そして黒い重装騎士の姿を形作る。

 

「おい、ブレイブ」

 

「相棒、心配すんな。

 あれは俺様の下位の存在だ。

 昔のやつらが俺様たちを解析して作り出した、いわば劣化版だ。

 俺様と相棒が負けるような相手じゃないぜ」

 

そう言ってブレイブが薄い膜のようになって俺の周りに広がり、俺に纏わりつく。

 

「「魔装?!」」

 

俺がブレイブを纏い、黒い騎士になったことに驚いたのは目の前の騎士だけではなかった。文官二人もだ。

どうやら彼らは、ブレイブではないその劣化版の存在のことを魔装と呼んでいるようだ。

 

「なんで騎士でもない一般人ごときが魔装を使えるんだっ!」

 

しかしそのうち目の前の騎士だけが特別驚いている。

どうやら騎士だけが特別に持っているのが魔装だと言うことだ。

だからこいつは俺に対し圧倒的強者の目線から話しかけていた。

俺も同じ魔装持ちであれば目の前の騎士の優位性は薄れる。後は俺と騎士の技術の差だけが問題だが。

数度の軽い打ち合いを得て、ブレイブが相対的な実力差を判断した。

 

「相棒。どうやらこいつ大したことないぜ。

 親の七光りか何かで騎士とやらになったんじゃないか?

 とは言え俺様も欠片をまだ集めきってない。

 間違っても負けることはないが、圧倒的実力差で勝つのは無理だな」

 

「ならどうする?

 地道に削っていくか? それで勝てるか?」

 

「それでも楽勝だが、こういう案はどうだ……?」

 

ブレイブが俺だけに聞こえる小さな声で告げる。

 

「ああ、それは面白いな。

 だが俺の身を危なくするなよ? 絶対だぞ!」

 

「わかってる。

 せっかく見つけた相棒だ。

 また百年近く遺跡にい続けるなんてごめんだからな!」

 

二人しかわからない合図で行動を開始する。

 

「お前、親の七光りなんだってな!

 どうりで騎士の割に性格も悪いはずだ。

 知ってるか? 騎士団内では、親の七光りの役立たずってお前のことを呼んでるんだぜ」

 

俺は戦いながら目の前の騎士に向けてそう声を掛けた。

この内容は半分以上は俺は知らないことだ。だが当たらずとも遠からず。

どうやら真実が混じっていたようで相手の騎士は目に見えて怒りを露わにした。

 

「なんでそれをぉ……。

 絶対に許さねえ!」

 

騎士の姿を覆っていた黒い鎧から触手のような物が出る。

来た!

 

「相棒、もっとだ。もっと煽るんだ」

 

「この街も不幸だよね。

 こんな似非騎士が試験官として来るなんてさ。

 そう言えば、せっかく騎士様が来るって言うのにこの街は迎え入れる準備も何もしなかったよね。

 やっぱり騎士じゃないやつなんか迎え入れる準備も必要なかったってことなのかな。

 笑っちゃうよね!」

 

「ヴァァァァァァァッ!」

 

なんと沸点の低いやつだろう。おかげで煽りやすい。

そしてそのおかげで俺とブレイブの立てた作戦がうまくいった。

その作戦と言うのは、騎士の理性を失わせて魔装のコントロールを損なわせることだ。

ブレイブの劣化版はそのコントロールに実力以外にも理性も求められる。

理性的ではない場合、魔装に心を乗っ取られて化け物と化すそうだ。

本能的にしか動かない化け物の魔装になったなら、硬い鎧を維持しているわけでもないので勝負は一瞬。

実際に騎士の鎧から出ていた触手はその動きを激しくさせ、どんどん鎧や剣の形を維持しなくなっていた。

そして人型に触手が下手ような特殊なモンスターの姿をしだした。

 

「相棒、今だっ」

 

チャンスとばかりに俺はブレイブと協力して剣を全力で横薙ぎに払う。

先ほどまでなら鎧を削る程度に収まっていただろうその剣撃は、騎士の鎧を切り裂いた。

 

「次っ」

 

そのまま連続で攻撃を続ける。

切り裂かれた部分は元の姿をとどめることができずに、そのまま霧散していく。

そして何度か切り裂いた後、残ったのは生身の騎士とこいつを黒い騎士たらしめていた魔装のコアだった。

 

「こいつは俺様がもらっていくぜ」

 

俺から離れたブレイブが、触手を魔装のコアに伸ばすとそれを掴んで自身の中に取り込んだ。

 

「大丈夫なのか?

 さっきまで暴走していたやつだぞ」

 

「大丈夫だ相棒。

 こいつも劣化版とは言え俺様の仲間の成れの果てみたいなもんだ。

 俺様が吸収して効率よく使わせてもらう」

 

そして俺たちの対決は終わり、倒れた騎士に文官二人が近寄ってきた。

騎士はどうやら生きてはいるようだが、意識はないようだ。

 

「魔装が暴走したら心まで持っていかれるからな、多分こいつ廃人だろうぜ。

 気にすることはないぜ相棒、こいつが未熟過ぎただけだ。

 理性的な実力者が魔装を使っていれば、あんなことで魔装が暴走することなんてなかっただろうからな」

 

どんなに悪いやつでも人を廃人にしてしまった。

確かにこの作戦を言い始めたのはブレイブだけど、それを実行に移すことを決めたのは俺だし、実際にトマスをやられた時は殺意も沸いていた。

気にしないと言う方が少し無理がある。殺人にならなかっただけマシなのかもしれないけど。

 

「いったい、何があったんだ?

 私達はどう上に報告したらいいんだ」

 

しかしそんな俺たちを置いて文官二人が困っていた。

彼らの上司に当たるだろう騎士がこんな有様なのだ。

まんま報告するなら、試験中に魔装が暴走して試験相手に魔装を破壊された。

これでは意味が通じない。

 

「その騎士は実力的にも人間的にも未熟だったんだ。

 だから、理性的になれなかったことで魔装に心を乗っ取られて暴走した。

 魔装が暴走するともう魔装を壊す以外に人間に戻す方法がない。

 だから俺が魔装を壊したってわけだ」

 

ほとんどがブレイブから聞いたことをそのまま伝えただけなんだが、文官二人は俺のことを聞いて少しだけ納得したようだった。

 

「だが、激しい罵倒があったように思えるが……」

 

と、そのまま丸め込まれてくれたらよかったのだけど、俺が騎士を散々罵倒をしたことは忘れてくれないようだ。

 

「い、いや……。あれは、ただ相手の心を乱して冷静にさせないようにしただけだし。

 本物の騎士だったら、あれくらいで心を乱したりしないし」

 

ほとんど言い訳なわけだけど、そう言うとそれもそうかと文官二人は納得してくれた。

 

「本来の試験であれば、貴殿は合格だろう。

 が、今回のことは……追って結果を連絡する」

 

どんなに騎士の性格が悪かったとしても、試験官に対してのこのような仕打ちをしては合格とはとても言い難かったのだろう。

俺だってそう思う。このようなことをする人間を騎士にしていいはずがない。

従って結果は不合格だろう。

後日連絡をくれるとあるが、俺はもう不合格で決定だと認識してその場を去ることにした。

 

「ま、そうしょげんなよ。

 また次があるさ」

 

一度人間性を知られては次回があるとも限らない。

ただ今だけは明るく慰めてくれるブレイブが有難かった。

 

 




原作同様のリオンを表現したつもりです
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